なんか葵ちゃんが出てきたみたい。
本日、局長から電話が来た。嫌な予感しかしない。
予想通り、葵ちゃん絡みの件だった。
今回、葵ちゃんは逃走中のある殺人鬼を追っているらしい。
異常者には異常者を。葵ちゃんは取引でこちら側にいるけどあくまで犯罪者だ。
僕は二つの理由で葵ちゃんと同行する事を命じられる。
一つ、葵ちゃんが僕の言うことなら素直に従うから。ようはお目付役だね。
二つ、この犯人、すでに証拠が固まり有罪確定。執行レベルも推定で決まっていた。逮捕寸前での逃走、この場合自殺される可能性が高いし、一般人に危害を与える危険性もある。
葵ちゃんには別所からデッドアライブの指示を受けているけど、うちの局長はそれを嫌う。楽に死なれては困るというわけ。それは僕も同じ考え、ちゃんと報いは受けてもらいたい。
だからこその出張拷問。できるなら無傷で捕まえたいけど、それが無理ならその場でやるしかない。僕は鑑定士じゃなくて拷問士なんだけど仕方ない。
時間は10時。待ち合わせ場所の駅前で、僕が着くとすでに葵ちゃんが立っていた。
僕の姿を見ると、片目が輝く。
「リョナ子ちゃ~んっ!」
嬉しそうに手を振る葵ちゃん。何故かこの子は僕の事を気に入っているみたい。僕は大嫌いなんだけどね。
肩までまっすぐ伸びる金髪。でもそれは地毛ではない、だって本物は僕が全部抜いたからね。
片方の目には眼帯。でも別に中二病をこじらしているわけではない。だってそれを外せば何もない、僕がくり抜いたから。
でもそれらは葵ちゃんが好むフリフリの衣服にはよく合っていた。
レベルブレイカー、執行レベル限界の7をもってしても償えない罪を犯した人物を、僕らはそう呼ぶ。
葵ちゃんは元々レベルにすれば25認定。
とんでもない凶悪犯罪者だ。
ではその場合執行はどうなるか。それは至極単純、レベル5相当の罰をを何回かに分けて与えてやればいい。
葵ちゃんはすでに僕から2回執行を受けている。
それでもまだ足りない。レベル7で収まるまで減刑しなければならない、そこで葵ちゃんは国のお仕事を手伝ってるって訳。
勿論、GPSは埋め込んでその行動は監視、制限されてるけどね。
葵ちゃんは僕に殺されることを望んでいる。だからそれはもう日々、真面目に頑張ってるみたいだね。
しっぽを振った子犬のように近づいてくると、僕の腕に手を絡ませる葵ちゃん。
「久しぶりっ! 会いたかった、すごくっ!」
「・・・・・・ちょっと離れて。馴れ合うつもりはないよ」
僕はギロリと睨む。さっきも言ったけど、僕は葵ちゃんが大嫌いだからこういう態度はすごく迷惑だ。
「あぁ・・・・・・その冷たい目・・・・・・好き」
でも逆効果だったみたい。葵ちゃんはうっとり僕の顔を見つめている。
とても理解できないね。僕は葵ちゃんの体のほぼ半分を痛めつけて削除したというのに。
見た目は一見普通の女の子だけど、実際、片手は義手で、片足も義足だ。臓器も生存に問題ないものは抜き取った。これ以上やるとレベル7を執行できないギリギリまでやったつもり。
なのに、この子の心理がわからない。
「ねぇ。僕はその内、君にさらなる痛みを与えて、最終的に死に至らしめるっていうのに、どうして僕を慕うの?」
葵ちゃんが僕の質問に、口角を上げ不気味な笑みを見せた。
「・・・・・・ふふふ、最初の執行覚えてる? リョナ子ちゃんはまず私の眼球をくり抜いた。全く躊躇なく、まるでプリンでも食べるかのようにスプーンですくい取った。顔色一つ変えず、なんの感慨もなく、ただひたすら私の体に痛みを与えていった。私、何度も何度も絶頂したわ。並の殺人鬼なんて目じゃない、初めて感じた、この子は私より上位の存在だって。私、リョナ子ちゃんの事尊敬してるのよ」
葵ちゃんはその時の事を思い出しているのだろうか、途中から息が乱れ身をよじり始めた。
「やめてくれ。殺人鬼に褒められたくないよ」
調子が狂う、さっさと仕事を済ませよう。
「葵ちゃん、とりあえず早く対象者を捕まえるよ。自殺しちゃうかもしれない」
僕がそう言うと、葵ちゃんははっきり否定した。
「それはないよ、こいつ悪魔崇拝者のシリアルキラーだもん。数字に拘ってる。いままで5人殺していて、そして今日が6月6日。つまりそういう事だよ」
悪魔崇拝者が好む数字は666。てことはこの犯人は今日中に一人殺すつもりなのか。
「時間がないのは同じみたいだ。葵ちゃん、居場所に目星はついてるの?」
葵ちゃんはすぐに頷いた。
「殺せば次が最後の犠牲者、てことは儀式的な事を行うはず。私がこいつならそこで殺る。てなるとレイラインだと思う。所属していた団体はもう調べたから、そこで特別とされてる所にいけばいい」
そこはさすがだと思ってしまった。シリアルキラーはシリアルキラーをよく理解してる。
「なら時間がない、すでに生け贄を手に入れた可能性もあるし、急ごうか」
僕がそういうと、葵ちゃんが目的の方向に顔を向けた。
「じゃあ、その前に一つ。リョナ子ちゃんは絶対私の後ろにいてね。犯人は生け贄には拘ってない。その場にいけば別に私達でも標的になるよ」
僕は喉を鳴らした。その忠告を素直に聞き入れようと思う。
レベルブレイカーで、シリアルキラーサイコパスの葵ちゃん。
あぁ、とても不愉快だ。今はこの憎むべき犯罪者がとても頼もしく思えてしまう。
僕は先に動いた葵ちゃんの後を無言で追いかけた。