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なんか、挑戦するみたい。後編

 後編に全て収めるため、かなり色々はしょってますがご了承ください。

 試験まで時間がない。

 僕はこの日の仕事を終えると、ましろちゃんをつれて早速葵ちゃん達に会いにいった。


 葵ちゃん達は蓮華ちゃんの仕事場にいるみたい。

 僕達はいつものようにエレベーターで深く潜っていく。

 すでに、ましろちゃんにはレベルブレイカーに会わせると伝えてある。

 顔を強ばらせ、相当緊張してるご様子。


「リョ、リョナ子さん、一体、どんな人達なのでしょう、私、少し怖いのですが・・・・・・」

「そうだねぇ、とにかく規格外な異常者だよ」


 そういうと、ましろちゃんはよりいっそう身構えたようだった。


 エレベーターの扉が開く。

 ワンフロアの全てが蓮華ちゃんの部屋。

 そこには三人の人影が。


「あ、来た来た、やっほー、リョナ子ちゃん」

「こ、これはこれは、ちゃんリョナさん、お久しぶりり」


 扉近くには葵ちゃん達が。

 蓮華ちゃんは相変わらずモニターと睨めっこだった。ちらりと画面横から顔を出すと、にっこり微笑んで手を振ってくれた。けどすぐに元に戻す。


「今日はありがとう。電話で大体の事情は伝えたと思うけど、これが僕の直属後輩のましろちゃんだ」


 二人にましろちゃんを紹介する。


「どうも、どうもー、葵だよっ」

「わ、私は円だ、よろろ、しくー」


「あ、今葉ましろと申します、よろしくお願いいたします」


 ましろちゃんは頭を下げたのち、僕に小声で囁いた。


「リョナ子さん、えっと、この人達が本当に、あのレベルブレイカーなのでしょうか・・・・・・」 


 拍子抜けしたみたいだね。それは仕方が無い。

 葵ちゃんは可愛らしいゴスロリ姿で、ニコニコしてるし。

 円も眠そうな顔で、腑抜けている。

 一見すれば、二人とも年相応のただの少女にしか見えない。

 

 どれ、それでは、少し内なる闇を垣間見て貰おうかな。


「このましろちゃんと僕はとても仲がいいんだ。泊まりにもよく来るし、お風呂は勿論、寝るのも一緒。僕達はいつもべったりさ」


 僕がそう葵ちゃんに告げると、この場が一変した。


「・・・・・・へぇ・・・・・・そうなんだ」


 葵ちゃんの微笑みが消えた。

 同時に、円の半開きの瞳も鋭くなる。


「・・・・・・それは駄目だね。それはおかしいね。それはどうにかしなきゃだよ」

「・・・・・・ちゃんリョナさんは姉御の、だ、そういう事は姉御しか、許されない」


 二人の視線がましろちゃんに突き刺さる。

 殺気と憎悪と敵対心が混じる真っ黒なモノ。


「ききゃうああっぁぁぁぁ」


 ましろちゃんが驚き、声を上げると僕にしがみつく。

 背中に隠れ体をガクガクさせていた。


「はは、なんて嘘だよ。僕とましろちゃんは仲はいいけど、そんな事はしないさ」


 すぐに訂正する。二人が我を忘れて飛び込んできたら僕ではどうしようもないもんね。


「もう、なんだ~、びっくりさせないでよぉ」

「うくく、危なかった、もう少しで、滅多刺しにする、とこだ」


 再び、二人に笑顔が戻った。

 いつの間にか手に持っていたナイフを二人はさっと、しまった。

 

「少しは理解したかな? これがレベルブレイカーだよ」


 僕は自分の背で小動物のように震えているましろちゃんに声をかけた。

 でも、真っ青な顔で返事はない。

 少し、やりすぎたかな。いやいや、実際レベルブレイカーと向き合うんだからこれを受け流せるようにならなきゃね。


「特級なら今のは耐えられる。でも、真っ正面から同じくらいの気迫でぶつかれるのは現役の特級でもあまりいないよ。この二人はレベルブレイカーの中でも常軌を逸しているからね。僕の先輩クラスじゃないと無理かな。ちなみにお千代さんなら、ぶつかるどころか跳ね返えして逆に飲み込む」 


 う~ん、ましろちゃん荒い息を吐くだけで反応がない。

 いきなりこの二人に会わせるのは失敗だったかな。


「リョ、リョナ子さん・・・・・・お手洗い、お手洗いに・・・・・・」


 あ。これは可哀想な事をしたかも。


「うん、行っておいで。別のフロアになるけど・・・・・・」


 腰を抜かし、ましろちゃんはふらつきながらエレベーターに向かった。


「ま、今はあんなだけど、本番まで彼女を預かってほしい。君達に慣れれば他のレベルブレイカーには負けないだろう。つねに憎悪を向けて接してやって」


「私達と暮らすって事かな? 別にいいけど、壊れてもしらないよぉ」

「ボロボロになっても、ちゃんリョナさん、怒らないでね、だよ」


「それくらいやらなきゃ試験には通らないよ。あ、でも、手を出したら駄目だよ。その時はありえないほど怒るからね。一生口きかないから」


 こうして、釘をさしつつ、ましろちゃんを二人に預ける事にした。

 さて、これで手は全てうった。後は当日を待つだけ。


 二週間後、いよいよ試験当日。


 機関が運営してる体育館でそれは行われた。

 壁も天井も全面真っ白、その中央にましろちゃんはいた。


 試験を受けるのは5人。

 一級で執行を何年もやってる経験豊かな拷問士三人。

 そして、今回推薦枠で挑むのは、ましろちゃんと。

 二週間前に僕の前に姿を見せた沙凶。


 僕は殺菜ちゃんとドク枝さんと一緒に二階からその様子を見守る。

 二級や一級に混じり、他の特級拷問士の姿も見られる。ほぼ全員がこの試験に注目していた。


 手足だけを固定させられ並ぶのは、5人のレベルブレイカー。

 目隠しもされてない、口も自由だ。

 これは相手からの相当な妨害が予想される。


 ましろちゃんの顔を見た。

 とても落ち着いている。あの日から今日まで一度も会っていなかった。

 本番前、久しぶりに見たましろちゃんは、目が据わっててまるで別人のようだった。

 オドオドした感じも抜け、柔らかかった雰囲気も消えた。


 がんばれ、ましろちゃん。今の君ならレベルブレイカーに対抗できる。


 間もなく、試験開始のアナウンスが流れた。

 会場にブザーが鳴り響く。


 各者、まず一斉に書類を手にとった。

 

 最初は、相手の罪状を確認。そしてレベルブレイカーのレベルを見て、それによってどれくらいの割合で執行するか決める。第一次執行なのでやり過ぎても少なすぎてもいけない。規定上もっとも適した範囲内で収めなくてはならない。この加減が難しい。

 

 僕も手元の資料に目を通した。試験内容と同じものだ。

 これによると、ましろちゃんの執行対象は、レベルにして14。女子学生を幾人も仲間と共に車で拉致して暴行、最後は無残に殺して遺棄していた。


 ましろちゃんは素早く書類から道具に持ち替える。

 僕のくれたましろ棒で相手を殴りつけた。

 

 他の拷問士も執行に移る。

 自分で組み立てた順番で、痛みを与えていく。


 しかし、しばらく経って、拷問士の一人が執行の手を止めた。

 執行対象になにか言われている。それにより、目が虚ろになり、ついには膝から崩れてしまった。

 飲まれたか。

 僕は端にいるましろちゃんの近くにいたから、他のレベルブレイカーが何を言ったかは聞き取れないけど、大体想像はつく。


 時間は過ぎ、他の拷問士も次々と脱落していく。

 自分を抱きかかえるようにその場に崩れた。


 残りは、ましろちゃんと沙凶のみ。


「必ず、ここから抜け出して、お前とその家族、友人、全てを殺す。絶対だ。切り刻み、目を抉り、腸を引き出し・・・・・・」


 ましろちゃんが担当しているレベルブレイカーがぶつぶつ言ってるけど、ましろちゃんは顔色一つ変えずに執行を続けている。よし、葵ちゃん効果は絶大だ。あの程度の闇なら振り払える強さがある。


 沙凶の方も同じような悪意を一身に受けてるはずだけど。


「きゃははっはあ、死ね死ね死ね死ねっ!」


 こちらはこちらで嬉々として執行を行っている。

 このままだと、二人とも完遂までいけそうだ。

 

 僕の見立てだと、そろそろ執行範囲は近い。もう手を止めてもいいかも。


 そう思った矢先だった。


 レベルブレイカー達は、別の言葉を吐き出した。


「あぁ、もう一度犯しまくりたい、最後の女は良かった。泣き叫ぶから大人しくなるまで何度も殴ってやった。一晩中仲間と犯しつくした。最初はお母さん、お母さんて助けを叫んでたけど、途中で反応が無くなったから、首を絞めたり、タバコを押しつけたり・・・・・・」


 今まで無表情だったましろちゃんの眉が僅かに動いた。


 あ、まずい。


「ほとんど動かなくなったその女を山に捨てて、近くにあった手頃な石で・・・・・・」


「・・・・・・黙ってください」


 もう第一次で治まるほどの執行は終わった。

 これ以上は過剰執行になる。


「これ、危ういわね」

「そうっすね。もう終了してもいいっす」


 隣のドク枝さんと殺菜ちゃんもそう呟く。

 僕も同意見だ。


「顔目掛けて、何回も石を落として、顔の形が変わるほど・・・・・・」


「黙りなさいっ!」


 ましろちゃんがましろ棒を相手の顔に向かって振り抜いた。


 あぁ。やっちゃったか。


 対して、同じような事を言われていたと思われる沙凶を見る。


「きゃはは、知るか、そんなのっ! 誰がどうなろうと構うものかっ! 私様は執行できればいいんだよっ! 塵虫を痛ぶるのが私様の仕事だっ! そこに被害者も加害者も関係ねぇっ!」


 全く動じてない。そして執行の手も止めた。

 沙凶は範囲内に収める事ができた。

 僕から見ても、見事な腕前だった。さすが天才を自称するだけはあったね。



 ここで終了のブザーが会場を包んだ。


 

 合否は即座に出る。

 審査するのは執行部の役員達。


「最後の一撃が余計だったわね」

「そうっすね。あれがなければいけたと思うんすけど」


 二人にはもう結果が分かってるみたい。

 勿論、僕も同じだ。

 今回、特級拷問士に選ばれるのは・・・・・・。


「審査結果が出ました」


 アナウンスがスピーカーから流れた。


 僕達はもう聞くまでもなかった。


「今回の特級審査、合格者は・・・・・・」


 沙凶が手を上げ、確信している。

 たしかに、君の腕は特級並だったよ。

 だけどね、特級ってはそう簡単になれるものでもないのさ。


「0名です。残念ながら今回どの候補者も特級の資格は得られませんでした」


 それを聞いた、沙凶の顔が変わった。


「はぁぁぁっぁぁ!???? なにいってんの、私様でしょっ! 完璧だったでしょっ! はぁぁぁ? はぁぁあっぁあぁ???」


 激しく喚き散らしている。

 地団駄を踏み、暴れはじめた。


「ましろちゃんは、やっぱり優しすぎたね」


「反対に、沙凶は被害者の無念をまるで感じてなかったっす」


「被害者が何をさせたか、どんなに無念だったのか。それを理解しようとしなければ完璧な執行なんてできないわ。逆に感情移入しすぎるとレベル以上の執行をしてしまうかもしれない」

 

 様々な感情をコントロールしなければとても高レベルの執行は行えない。

それは、天城さんだろうが、金糸雀だろうが、ちゃんとできてるよ。金糸雀は楠葉さんの執行を受けていなければ沙凶と全く同じ感じだったろう、推薦される事もなかったはず。

  

 とりあえず、しばらくは一級のサポートを受けて、執行していくしかないね。

 それにより、全体の底上げにもなるだろう。


 この後、ましろちゃんを連れて残念会かな。

 祝賀会のために抑えておいたお店がある。

 何年も一級で腕を磨いて、何度も挑戦しても特級の椅子に座れない人も少なくない。

 今回は、少し急かしすぎたか。次は合格するように、僕も一から教え込もうと思う。

何はともあれ、お疲れ様だよ。

 今日はゆっくりお休み、ましろちゃん。


 

 特級試験から程なく。

 会場の外は土砂降りだった。

 そこからフラフラと一人の女が出て行く。


 

 雨に打たれながら、呆然とあてもなく歩いて行く。


「はぁあぁ??、なんだ、なんで私様が受からない、はぁ?? おかしい、おかしいだろ、糞過ぎだろが・・・・・・あぁもういい。こんな糞な職辞めてやる、馬鹿しかいないのか、くそ、くそ、なんでこの私様が・・・・・・」


 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 みんな、死ね。

 どいつもこいつも死にさらせ。

 私の腕は特級だ、みんな拷問してやる。

 ぐちゃぐちゃに、めちゃくちゃに、なにもかも。

 

 心はもうそんな事でいっぱいだった。


 女は、ある店にさしかかる。


「ん~、なんだ、沙凶ちゃんじゃないか、なんだずぶ濡れで」


 そんな彼女に、店先にいた人物が声をかける。


 その者は、沙凶とは顔なじみだった。

 いつの間にか、近くの拷問士専門店まで来ていたよう。

 女は、声をかけてくれたその人物の顔を見た。


 目の周りは真っ黒で。纏う雰囲気は一般人とは異なった。

 でも、今の自分にとって、なんだかとても心が安らぐ、そんな感じを受けた。


「なんかあったのかな?」


 女は、小さく頷く。


「そうか、君の事は少し気になってたんだよ。だからね・・・・・・」


 おかっぱ頭のその者は、口元を上げながら。


「アタシでよければ相談にのるよ~」


 ニタリと、そう告げた。

 特級試験編はこれで終わりです。今年もありがとうございました。来年も何卒よろしくお願いいたします。この作品は読者様がいなければ成り立っておりません、最上の感謝を込めて。よいお年をお迎え下さい。

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