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なんか、マリー、みたい。

 おふざけ回。

 微睡みの中で、僕は昔の記憶を思い出す。


「リョナ子、これをやる」


 今日の仕事もそろそろ終わり。後は片付けくらい。

 僕はあの頃、まだ先輩について執行していたんだっけ。

 いつも厳しかった。少しでも遅れたりミスをすれば叱責が容赦なく飛んだ。


 そんな先輩が、この日の最後に僕へ手渡したのは、一枚の封筒。


「なんです、これ?」


 そう問いかけると、先輩は顔を背けた。


「なに、あれだ、今日はクリスマスだろう。女二人、血まみれのまま終わらすのもあまりに寂しかろう。気分だけ味わおうと思ってな」


 照れくさそうに、目をそらす先輩。

 正直、意外だった。こういう事には全く興味がなさそうなのに。

 便せんを開けると、図書券と共に一枚のクリスマスカードが入っていた。

 手書きでメッセージが書いてある。


「・・・・・・先輩」


 ただただ嬉しかった。



「ありがとうございます。でも・・・・・・これ」


「ん? なんだ」


「メリーが、マリーになってますよ。スペル間違ってます」


「え!? 嘘!? まじか」


 より一層顔を赤く染める先輩。


 先輩はいつも厳しかった。

 でも。

 いつも優しかったな。


 

 ふと、目が覚める。

 目覚ましが鳴るより少し早かった。

 

 そうか。

 

 今日は、クリスマスなのか。


 昔の夢を見たのもそのせいかもしれない。



 この日の仕事は午前中のみ。


 午後から僕は行かなくてはならない場所があった。

 蓮華ちゃんに呼ばれたんだよ。

 用件は知らないけど、僕じゃないと駄目みたい。


 蓮華ちゃんの仕事場兼住居はここから近いのですぐ着いた。

 エレベーターで深く深く潜っていく。


「あぁ、リョナ子さん。態々ご足労ありがとうございます」


 部屋に入るなり、蓮華ちゃんが椅子から立ち上がり出迎えてくれた。


「やっほー、リョナ子ちゃんっ!」


 ん、なんだ、葵ちゃんもいるのか。

 笑顔で手を振る葵ちゃんを見て、僕は一気に、嫌な予感がしてきたよ。


「蓮華ちゃんには色々助けてもらってるからね。僕に出来ることがあるならなんでも言ってくれ」


 僕がそう言うと、蓮華ちゃんはにっこり微笑んだ。


「ありがとうございます。単刀直入にいればですね。クリスマスのリベリオンをご存じですか?」


 クリスマスのリベリオン。

 たしか、イブの夜に現れては、カップルを惨殺する殺人犯だったかな。

 ここ数年そいつと思われる犯行が数件起きてる。


「名前は聞いたことがあるよ。でも詳しくは知らないかな」


「ふふ、それだけで充分です。それでですね、今年はそれを捕らえようかと思いましてね、リョナ子さんに協力してもらいたいのですよ」


 へ、僕に協力?

 一体、なにを。


「このクリスマスのリベリオンですが、標的は決まってます。無論、カップルなのですがね、それで今回囮捜査を実行しようかと思います」


 ほう、囮捜査ね。

 でも、相手は無差別に選んでるんじゃないのかな。

 そう、うまくいくのか、少々疑問だ。


「で、僕になにをしろと?」


 正直、僕ができる事なんてなさそうだけど。


「えっとですね。囮捜査っていう位ですから、こちらもカップルを装います。私とリョナ子さんで偽のカップルになって町に溶け込み奴を誘い出しましょう」


 なるほど、僕らでカップルにか。


 おかしいだろ。

 

 僕も蓮華ちゃんも女だよ。


 僕の表情を察してか、文句をつける前に蓮華ちゃんが先に口を開いた。


「あぁ、大丈夫です。男役はリョナ子さんにお任せします。リョナ子さんは胸もありませんし、肉好きもよくないので、服装と髪型を弄れば男で通せますよ」


 おい、こらぁ。


 今度こそ文句を言おうとしたのだけど、また別の人物がそれを遮る。


「ちょっと、蓮華ちゃん。それは聞き捨てならないよぉ。その役、私が適任じゃないかなぁ」


 傍にいた葵ちゃんだった。


「いえいえ、ドールコレクターは誘い出した後の後始末役です。これは私がやるべきなのですよ」


「蓮華ちゃんが、後始末すればいいよぉ。私がリョナ子ちゃんとカップルを装うよ」


「そうは言われましても、これは私の考えた案ですしね。一応、貴方は私の管理下で働いてもらってますので、指示にはちゃんと従ってもらわないと」


「そうだねぇ。とてもいい案だとは思うよ、私も従いたいのは山々なんだけど、最後だけちょっとおかしいんだよねぇ」


 葵ちゃんの声がどんどん低くなっていく。


「おやおや、殺気が漏れてますよ。そんな人にやはり任せられませんねぇ。相手に気づかれちゃいます」


「気づかれてもいいよぉ。逃げたらそいつがリベリオン、追いかけて殺せばいい」


 あぁ、息苦しい。もう少しで殺し合うよ、これ。

 僕はそう思って仲裁に入ろうとしたんだけど。


「このままじゃ、殺し合いになりますね。いいでしょう、いい機会です。どちらがこの際上かはっきりさせましょう」


「そうだねぇ。いいと思うよぉ」


 二人は本来の目的も忘れ火花を散らした。


 こうして、唐突に二人は衝突する事に。

 一番、言い分がある僕は完全に置いてけぼりだ。



 場所を別の階層にある食堂に移した。


「まずは女子力勝負ですね。てわけで料理対決です」

「うふふ、いいよぉ。やってあげるよ」


 蓮華ちゃんの一声で食堂は貸し切りに。

 二人は厨房に入ると、冷蔵庫の食材で料理を作り始めた。


 どっちも料理は下手そうなイメージだけど。

 実際、てきぱき手際よく調理している。

 流石、包丁さばきは二人とも慣れてるね。捌くのが上手い。

 そりゃそうか、葵ちゃんに関しては人間をバラバラにしてパーツに分けてたんだもんね、下手な訳がない。


「完成です」

「こっちもだよっ」


 数十分後、二人はほぼ同時に料理を完成させた。


「「お召し上がりよっ!」」


 あ、僕が試食係なのね。


二つの皿が僕の前に出させる。

 どれどれ、そういや昼食食べてなかったから丁度いいや。

 

 まず蓮華ちゃんの方から。


 ぱくり。


「んんんん~~~~~~~~~~~」


 口にいれた瞬間、僕の衣服が弾け飛んだ。ようなイメージ。

 滑らかでありながら、こくがあって、ああだこうだで、すごく美味しい。


「なんだ、この口当たりは・・・・・・そうかっ! 白ごまを使ってるんだっ! それが鶏肉特有のあれがそれで、こうなのかっ!」


「あはっ、どうやらお口にあったようですね」


「文句無しの10点だよっ」


 蓮華ちゃん、やるなぁ。

 僕の反応を見て、蓮華ちゃんも鼻を高く勝ち誇っている。


 お次は、葵ちゃんの方だけど、この後では厳しいかもね。


 箸を伸ばす。


 ぱくり。


「んんんん~~~~~~~~~~~」


 口に放り込んだ瞬間、僕は宙を舞った。ようなイメージ。

 肉汁が飛び出る、これほどのうまみを凝縮してうんぬん、すごく美味しい。


「なんなんだ、このまろやかさは・・・・・・そうか、蜂蜜が入ってるんだっ! それが甘みとあれがあーなって、すごい効果を生み出してるんだっ!」


「うふふ、気に入ってもらえたかなぁ」


「これも、非の打ち所がない。10点だよっ」


 どちらも、素晴らしい出来栄えだった。甲乙付けが足しだよ。


「おや、それでは勝負が付きませんね」

「私の方が、絶対美味しかったはずだよぉ」 


 僕の採点に、二人は納得してなかった。


「それじゃ、お互いの料理を食べ比べてみましょう。それならどちらが本当に上か思い知るはずです」

「そうだねぇ。私の方を食べたらわかると思うしねぇ」


 蓮華ちゃんと葵ちゃんはお互いの料理を試食した。


 二人が口に含んだ瞬間、二人は全裸になって宙を舞った。天使と悪魔がダンスで共演している。ようなイメージが見えた。


「ぐぬぬ、これは互角でしょうかね」

「そ、そうだね。蓮華ちゃん、なかなかやるね・・・・・・」


 こうして、料理対決は引き分けに終わった。


 その後、数種の競技で争ったが、どれも勝負は付かなかった。


 それで、二人が知識対決なるものをやってる時に、僕の携帯に電話がかかってきた。

 相手は・・・・・・殺菜ちゃんか。


「もしもし、どうしたの?」


「あ、リョナっちっすか。えっとっすね、この後、拷問士のみんなでパーティーやろうかって話になってるんすけど、リョナっちもどうかなって思って」


「あぁ・・・・・・」


 耳に当てたまま、横目で蓮華ちゃん達を見る。


「時間における一秒とは!?」

「セシウム133の原子の基底状態における、二つの超微細構造準位に対する放射周期の、91億9263万1770倍の継続時間っ!」

「今度はこっちだよぉ、公認された110の元素以外の残り8種類を・・・・・・」


 これは勝負つきそうにないね。


「うん、予定なくなったから、そっちに混ざらしてもらおうかな。どこで合流する?」


 待ち合わせを決めて通話を終えた。


「じゃあ、僕はこれで失礼します。もし、勝負がついたら後で連絡してよ。抜け出すから」


 声をかけたけど、返事はない。二人は勝負に夢中だった。


 今日、はっきりわかったよ。

 この二人は、性格以外は完璧なんだね。それだけが残念だよ。



 翌日、蓮華ちゃんから連絡があった。


「昨日は申し訳ありませんでした。呼び出したあげく放置するなんて」


「いや、それは、いいんだけど、結局、クリスマスのリベリオンは野放しにしちゃったね」


 それだけが気がかりだったけど、朝、ニュースを見たかぎりそれらしい事件はなかった。今年は出なかったのかな。


「それがですね、クリスマスのリベリオンと思われる人物が死体で発見されたのですよ」


「え、そうなの?」


「はい、断言できるような遺留品も出ました。そして、その死体なんですがね、激しく拷問された後に、モミの木に突き刺されていたんですよ」


 ひぇー、一体どういう事だろう。

 ん、拷問されてた・・・・・・?


「上半身は裸で、胸元にはナイフの傷でマリークリスマスって刻まれてました」


 あ、わかっちゃったよ。クリスマスのリベリオンを惨殺した犯人が。


「周辺の監視カメラにも写ってませんし、証拠になるようなものはなにも残されてませんでした。それだけに、このスペルの違いが気になりますね。マリーだと、結婚するになりますから、もしかして、なにか他の意味があるのでしょうか」


 蓮華ちゃん、それは考えすぎだよ。


「多分、その犯人、少し抜けてただけさ。他は完璧なのに、まるで君達のよう」


 今日は、その人に合わせよう。

 

 マリークリスマスってね。

 マリークリスマス!

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