なんか、あのね、冬が訪れた、みたい、なの。
リョナ子回と見せかけた、葵円回。
あー、寒い。
まだ完全に冬の訪れは来ていない。
だから、例年より暖かい日もあれば、今日のように本番並の寒さも。
マフラーをかけ職場に向かう。
吐いた白い息で眼鏡が曇った。
通勤通学時間なので、行き交う人も多い。
そんな中、前から結構なスピードでこちらに向かってくる自転車が一台。
学生はスマホを見ながら、さらにイヤフォンまでしている。
だからこちらにはまるで気づいてない。
「え、ちょっと・・・・・・」
まるで狙ってきてるかのように、僕へと直進してくる。
そして・・・・・・衝突。
するかと思われたが、どんくさい僕なりになんとか避けてみた。
でも、少し擦った衝撃で体勢は崩れ、お尻から地面に倒れてしまったよ。
学生はここでやっと僕の存在に気づいた。
少し前で自転車をとめ、尻餅をつく僕に視線を送る。
「ちょっとっ! 危ないじゃないかっ!」
大声で抗議するも、学生はイヤフォンをつけていたので聞こえていないよう。
わずかに首を傾げると、何事もなかったようにその場から走り去った。
あの子は、自分のせいだと分かってないのかも。
ただ僕が転んだから見たのか。
いくら僕でも何も無いところでいきなり転ばないよ。
お尻が痛い。アスファルトに思いっきりぶつけたからなぁ。
これ、僕でギリギリだったんだ。お年寄りなら直撃してたよ。
視覚と聴覚を塞いで乗ってるのと同じだ。周りも自分も危険になるというのに、もう少し色々自覚してもらいたいものだよ。
僕はお尻を擦りながら再び歩き出した。
時を同じくして、かぎりなく近い場所。
偶然にも二人の殺人鬼が路上を歩いていた。
ひゃー、寒いね。
朝は余計にそう感じるよぉ。
夜から今まで円ちゃんとゲームをやってたの。
お腹が減ったから近くのコンビニで肉まんを買ってまた帰る所。
途中で我慢できずに、レジ袋から肉まんを取り出す。
半分に割ると、片方を円ちゃんに手渡した。
「肉まん美味しいねっ!」
「うんうん、こんなうまい物、多分あまりないっ!」
中身から匂いを運ぶ湯気が立ちこめる。
私と円ちゃんは夢中で頬張った。
「姉御、あといくつで完成だ、あと何周すれば、いい?」
「そうだねぇ、倍書使って・・・・・・」
私達は話しながら歩いていると、緩い坂道にさしかかる。
勾配はないけど、とにかく長い坂なの。
丁度、上って中央付近に来た所だったかな。
自転車に乗った学生がすごい勢いで下って来たのは。
片手でスマホを操作しつつ、ついでにイヤフォンもしている。
歩道を走ってきたから、私達に向かってどんどん近づいてくる。
こっちに気づいてないのかなぁ。
このままだと、ぶつかっちゃうよ。
相手はこちらを見ていない。
そうこうしているうちに、自転車は私達のすぐ前まで迫っていたの。
私と円ちゃんは左右に分かれるように、さっと自転車を避けた。
私達の真ん中を割るように自転車は通り過ぎていった。
危ないなぁ。ぶつかってたら怪我どころじゃ済まないよぉ。
走り去る自転車を振り返って見ていた。
すると、乗っていた学生が急に大声を出す。
「あああああああ、わっわあああわあわ」
急にハンドル操作が不安定に、右に左にぶれ蛇行し始めたの。
スピードはそのままに自転車はフラフラと車道を横切りながら。
ついに、坂の終点まで下ると、その場の電柱に激しい音と共に衝突した。
サドルから放りだされ、学生は宙に舞った。
地面に叩き付けられると、その場に倒れる、体がピクピクしてたよ。
「ねぇ、大丈夫かな~? 救急車呼ぶー? あ、イヤフォンしてるから聞こえないか」
「うくく、姉御、姉御、どっちにしろここからじゃ、聞こえない、届かない」
そっか、じゃあ、いいかな。
早く帰って続きをしなきゃだしね。
「姉御、なんで、レジ袋、あいつの顔に張り付いてる? つけたのか、前を見えなくしたのか!?」
「うふふ、さぁ、知らないよぉ。避ける時たまたま顔についちゃったんじゃないかなぁ」
どっちにしろ、いつかは事故ってたよ。それが早いか遅いかだけ。
巻き込んだのがレジ袋だけで良かったね。
6時間後。ある拷問士の仕事場。
ここもそろそろ我慢できない寒さになってきた。
壁がコンクリートって事もあって、足の先が痛いほど冷たい。
今は昼休み。午前中の執行は終えた。
午後にはまた数件の仕事を控えている。
これは今日も残業かなぁ。
「そうだ、ハンドクリーム切れてたんだった」
拷問士にとって手は命だよ。この時期乾燥するからね。
今のうちに近くのドラックストアで買ってきちゃおうかな。
こうして、僕は仕事場を抜け、近所のお店に向かった。
今日は土曜日だから、休みの人も多いのかな。駐車場もいっぱいだ。
それでも一台分のスペースが入り口前に開いていたよ。
そこには車椅子のマークが。あぁ、足が不自由な人や障がい者のための場所だね。
そう思った瞬間、そこに白い一台の車が入った。
降りてきたのは、若いカップル。
普通に車を降りると、そのままスタスタとお店に入っていった。
無意識に溜息が出た。端っこ開いてるじゃないか。あんなに元気ならそこに駐めればいいのに。
こんな光景は別に珍しい事ではない。むしろ多いくらいじゃないかな。こういう人は自分が歩行困難にならないと分からないんだろうね。
時はここから8時間後。
殺人鬼の二人はドラックストアを訪れていた。
「いやぁ、集まったねぇ」
「姉御のビームで短縮できた、後はお風呂入って寝る、のだ」
最近、二人でお風呂に入ってるからね。シャンプーの減りが早くて切れちゃったの。
それを思い出して、私と円ちゃんはそれを買いにここに来たよ。
駐車場を横切って入り口に向かう。
すると、一台の白い車が、勢いよくたまたま開いていたであろう駐車スペースに車をいれてきたの。
近くにいた私達は危うくぶつかるとこだったよ。
降りてきたのは若いカップル。
「ち、おめぇが昼に買い忘れたから、また来なきゃなんなくなっただろうがぁ」
「しょうがねぇべ、人間なんだからよ、たまには忘れっことあんべよ」
なんか二人は痴話喧嘩しながら店の中に入ろうとする。
それを、円ちゃんが前に立って遮った。
「おい、今、危なかったぞ、姉御に当たったら、どうするつもりだった、どう責任とるつもりだっ」
「あぁ? だ、てめぇ」
「喧嘩売ってんのか、あぁ」
あーあ。円ちゃん駄目だよぉ。こんな目立つ場所で問題起こしちゃ。
「うふふ、ごめんなさい。私の連れが失礼したよぉ。気にしないで欲しいな」
私は間に入って仲裁しようとしたんだけど。
「あぁああ? 因縁つけてきたのそっちからだろうがぁ、あぁ?」
「簡単に許すわけねぇべ、土下座しろ、おらあ」
すっかりあっちに火がついちゃったみたい。
これは困ったよ。
「うんうん、じゃあ土下座するよぉ。でも、ここじゃ恥ずかしいから場所変えてもらっていいかなぁ。ついでに慰謝料も払うから、ね」
「あぁ、慰謝料だぁ? いくらだ、こら」
「数万じゃ、気が治まらねぇぞ、あ?」
「提示してくれたら、その分払うよぉ。だからそれでいいかな?」
ここまで言うと、カップルは納得したようで私達を車の後部座席に乗せた。
「てめぇ、嘘だったら殺すからな」
「ちゃんと払うまで帰らせねぇからな、おい」
「勿論だよ。嘘なんてつかないよ、うふふ」
私達を乗せた車はそのまま夜の町に消えていったの。
翌日、ある拷問士の自宅。
寒いなぁ。
ベットから出るのがつらい。でも、もう起きなきゃ。
テレビをつけニュースを見ながら、朝支度をはじめる。
歯磨きをしながら、画面を見る。
「昨夜未明、若い男女が重体で道に放置されているのを付近の住民が・・・・・・」
おやおや、ここの近くじゃないか。
「男女はどちらも両足を滅多刺しにされた状態で発見され、病院に・・・・・・」
あらあら、今日も今日とて物騒だね。
とても興味があるけど、今はゆっくりしてられない。
僕はテレビのスイッチを切ると、急いで着替えはじめた。
ここから数時間前。
ある二人の殺人鬼は車の後部座席にいた。
言葉巧みに誘導して人気がない場所へと車を走らせた。
もうここらでいいかな。
「あ、そこの角がいいね。そこでまず土下座するよぉ」
男はいう通りに角へ行くと、車を止めた。
横を向いて円ちゃんと目を合わせる。
そして、私達は後ろから、カップルの口を塞ぐと。
取り出したナイフで。
まず太股を刺したのでした。
何回も。
何回も。
何回も・・・・・・。




