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あのね、ストーキングされるの。

 葵回と見せかけた蓮華回。

 こんにちは、葵です。

 なんてねっ!


 今日は、蓮華ちゃんの所に来てるの。

 深い深い地下へエレベーターで潜っていく。

 指令は主に電話連絡だからここに態々来る必要はないのだけど、今日は相談もあったの。


「あらあら、ドールコレクターじゃないですか。呼びもしないのに貴方がここに来るのは珍しいですね」


 仕切りのないワンフロアの真ん中で、エメラルドの髪を揺らしてながら私を出迎えてくれたのが蓮華ちゃん。

 ここは何度きても落ち着かないなぁ。こんなに広いのにあるのは蓮華ちゃんの座る机と、端っこのベットだけだもんね。


「うん、蓮華ちゃん忙しいとは思ったけど、今日は相談があるんだよぉ」


 こうしてる間にも蓮華ちゃんの手は止まらない。キーボードをカタカタ叩いてる。


「まぁ、忙しいっちゃ忙しいですね。なんたって、シストさんや妹さんを監視してまた殺人鬼と接触してないかつねに注意しておかなければなりません。あの兄弟、いや姉妹ですか、どっちにしてもまた私達にちょっかい出してくるのは目に見えてます」


 うふふ、私としてはすぐにでも現れてくれてもいいんだけど。

 この前は殺し損なっちゃった。あのシストくん、なかなか良かったよ。あれは傍に置いておきたいかも。勿論死体でだけどね。


「で、相談とはなんでしょう? 私に出来ることならなんでも協力はしますが・・・・・・」


 蓮華ちゃんの声ではっとする。あぁ、いけない。想像してたよ。シストくんを解体して組み上げる行程を。


「あ、うん。えっとね、最近誰かに付きまとわれてるんだよぉ。男の人なんだけど、見た感じ完全に素人でね。これ、もしかしてシストくん絡みの可能性もあるかなって」


 ここ一週間くらいかな。つねに視線を感じるの。バレバレなんだけど殺気とかはないんだよねぇ。


「・・・・・・う~ん。貴方に尾行ですか。シストさんがそんな事するとは思えませんね。ドールコレクターの素性は知ってるはずですし、今更探ることもないでしょう。そもそもつけるなら素人なんて使いませんよ」


「だよね。じゃあ、あれなんなんだろ」


 蓮華ちゃんは顎に手を置き、少しだけ考えたのち、私の顔をまじまじと見たの。


「ふむ、それもしかしてただのストーカーじゃないですかね? 貴方、見た目はいいですし。本当は手も足も目玉も歯も半分なくて、体中傷だらけだなんて、ぱっと見分かりませんしね」


 えー、やっぱりそうなのかなぁ。

 そうなるとますます困ったよぉ。


「よりによって、最悪の殺人鬼ドールコレクターに目をつけましたか。相手の方は見る目があるのか無いのか」


 これがシストくん絡みだったら、好き勝手できたのにね。さすがに一般人には手を出せないよ。蓮華ちゃんが関わってれば、どさくさで殺せるけど、今回そうでもないし。


「ストーカーは五種類に分類されるんですよ。拒絶型、憎悪型、親密希求型、無資格型。そしてもう一つは略奪型なんですが、これはまた少し違ってくるので、最初の四つで大体分類されます」


 蓮華ちゃんが語り出した。ここに一人でいる事が多い蓮華ちゃんは話相手が来ると、こうやってよく饒舌になるの。私は黙って聞いておくことにしたよ。


「拒絶型は、元恋人や元配偶者が多いです。このタイプは過剰依存で自意識が高いので、別れたくないといった感情や、自分のプライドが傷つけられたといった事が憎悪に変わり攻撃的になります」


「ふむふむ」


「憎悪型は、普段ストレスや不満を溜めやすい人が多いですね。クレーマーだったりもします。ちょっとした事で怒りを爆発させ、その相手に嫌がらせをするタイプです。自分の身を曝さずにじわじわ攻撃してくるんですよ。例外があるなら隣人トラブルやクレーマーですかね。これは恋愛が絡まない事があるのでストーカー法を適用できない場合もあります」 


「ふむふむ」


「親密希求型。これは相手に強い恋愛感情を感じています。一緒になりたい、恋人になりたいといった欲求により、付きまといや待ち伏せといった行動をとります。このタイプの厄介な所はこっちが拒絶しても全く動じないことですね。もう付きまとわないでって言ったとしても、都合のいいように変換するんですよ。本当は自分の事を好きなのに、なんらかの理由によってそれが出来ないのだろうとか、わざと拒絶してこっちの気を引こうとしてる、などと曲解します。妄想性の精神疾患か統合失調症が疑われ、スターストーカーといった有名人に対するストーカーはこのタイプに多いです」


「ほうほう」


「最後に無資格型ですが、これは自己中心的な人が多いですね。自分は相手と付き合う権利がある、付き合うべきだ、などと思い込みます。相手の立場にたって物事を考えられないので、その行動は一方的になります。中でもサイコパス的だったりすると、見返りのない場合、暴力などの行動をとることもあります」 


「なるほどぉ」


 となると、私に付きまとってる相手がストーカーだったのなら、これで分類できるね。


「この中で圧倒的に危険なのは、拒絶型です。このタイプは自分が捨てられたという憎悪が行動動機なので暴力的になることが多い。また被害者と交際した期間があるため、相手の行動や性格をある程度知っています。なにが好きでどうすれば嫌がるかわかるので他のタイプより相手に与えるダメージが多くなる。元恋人や元配偶者なので、警察も痴話喧嘩でかたづけてあまり問題視しない場合もあります。実際は最も危ないというのにです。それによって殺人に発展することも」


 私の場合、これではないね。元恋人なんていないもの。


「憎悪型は影に隠れて行動するため危険性はそこまで高くありません。匿名状態で被害者に嫌がらせするので物を壊すことはあっても直接暴力といった行動はとらないでしょう。正体がばれた後はその限りではありませんがね」


 これも私のストーカーのタイプじゃないね。

 となると、残りは二つ。


「親密希求型は恋愛感情があるので、暴力を振るうことは少ないです。しかし、このタイプは自分が拒絶されてるのは、被害者の家族や恋人が自分達の交際を反対しているからだ、などと思い込んでる場合もあるので、その矛先は妨害している(と思い込んでいる)家族や周囲に向けられます」


 私には可愛い妹達がいるからこれだと困るなぁ。まぁ素人にやられるような間抜けは私の妹の中にはいないけど。 


「最後に無資格型ですが。これはちょっと読みにくいんですよね。ただたんに恋愛下手な人かもしれませんし、発達障害の可能性もあります。でもですよ、もしこれが人格障害や病的な自己中心的パーソナリティの持ち主なら話は変わります。それだと、この中で一番危険なタイプになる可能性もあるんですよ」


 ふ~ん、色々難しいんだね。

 で、結局私のはなんなんだろ。

 現時点でははっきり分類できなそうだね。


「ま、そんなわけで相手がなにか行動してきたら連絡してくださいな。一般人なら早急な対応が必要ですけど、貴方なら大丈夫でしょう」


 蓮華ちゃんは一方的に話をして、それが終わるとまたパソコンに目を移したの。

 まぁ、いいか。シストくん絡みじゃないとわかっただけで良しとするよ。

 これでいくらか好きにやれるもんね。



 数日後、蓮華ちゃんから連絡がきたの。


 一応特徴から調べてくれたみたい。

 男には前科があった。

以前、ストーキングしていた女性宅に侵入して祖母と母親を包丁で刺し殺した。本人は不在のため無事だったけど、精神的なダメージは計り知れない。

 本来レベル6の執行刑になるはずだったのだけど、男は統合失調症で犯行時心神喪失状態だったとして不起訴処分、措置入院になったの。

 そしてつい最近、症状に改善が見られるとして一時的に退院になっていた。

 その矢先の出来事。


「てわけでですね、一応そういう前科がありますから気をつけてください」


 携帯から聞こえる蓮華ちゃんの声。

 それに対して私はこう答える。


「う~ん、もう遅いみたいだよぉ」


 ここまで何度か接触はあったの。

 でも会話にならない。

 相手は一方的に付きまとい、私の話を聞いてくれない。

 そして、ついに行動に出た。


 いい加減うんざりしていた私は裏路地に誘い込むように移動する。

 当然、この日も男は付いてきていて、思い通りに誘い込めた。


 人気の無い場所で、足を止める。

 男の姿も露わになる。

 蓮華ちゃんの通話は続けたままで、男に話しかける。


「もういい加減にしてくれないかなぁ。私にはリョナ子ちゃんていう恋人(と妄想している)相手がいるんだよぉ」


 そういうと、男は徐に包丁を取り出した。


「じゃ、じゃあ、そいつがいなきゃいいんだね。じゃあ僕が殺すよ、それならもう障害はないよね、結ばれるよね、僕達」


「うふふ、冗談でもそんな事いったら駄目だよぉ」


 本性をさらけ出したら、この男は逃げ出しちゃうからね。

 必死に感情を抑える。


「ぼ、僕は本気だ。それが駄目なら君を殺して、僕も死ぬっ! 違う世界で結ばれようっ」


 唐突に男が襲いかかってきた。


 あぁ、やっとだよ。


 やっと私に刃を向けてくれた。


「蓮華ちゃん、今の聞いた? 後は好きにするね」


 しばしの無言。そして一言残して蓮華ちゃんは電話を切ったの。


「・・・・・・はぁ、ご勝手に」


 スマホを天にむけて投げた。

 瞬時に二つのナイフを取り出す。


 そして・・・・・・。


 落ちてきたスマホを再び手の中に。


 男は喉を押さえて倒れ込んだ。

 ドクドクドクドク血があふれ出ていた。

 ヒューヒューと息を吐く。


「私じゃなかったら、また人を殺してたね。それで、また病院送りか。いいね、羨ましいよぉ。人を殺しても無罪なんだもん。精神疾患? 人を殺すのはみんなどっか狂ってるよ。それなのに特別扱いは不公平だよねぇ」


 もう男には聞こえてないと思う。

 

 かよわい女性では対処に困るねぇ。

 相手は殺しにかかってくるかもしれないのに、自分は相談するか、せいぜい防犯ブザーなどで防衛するしかない。


 やられる前にやれば楽なのにね。


 こんなんじゃ、殺人鬼にでもないかぎり大変だよぉ。

  

 

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