なんか、揉めるみたい。(対殺人鬼連合 リョナ子サイド6)
蓮華ちゃんから連絡が来た。
要約すると、こうだ。
今回関わっていた殺人鬼の大半は捕らえた。
しかし、首謀者および眼球アルバムだけは闇に消えてしまった。
「でもご安心ください。やつらの活動は私達三人が責任をもって抑えます。そして必ずリョナ子さんの前に差し出しますので。もう少しだけお時間を頂きたいのです」
蓮華ちゃんが最後にそう言っていた。
詳しくは話してくれなかったけど。
蓮華ちゃん達には、相手が誰なのかはっきりしているのだろう。
それでも捕らえられなかったというなら、なにか問題があるはず。
今回の首謀者達も一筋縄ではいかないって事だね。
あっちはもう蓮華ちゃん達に任せるしかないね。
真っ向から蓮華ちゃんや葵ちゃんを敵に回してやり合ってる奴らだ。
僕じゃ太刀打ちできないよ。
とりあえず、こちらが倒した殺人カップル、ナイトウォーカーも蓮華ちゃんに任せた。
あちらが抑えた吸血殺人鬼と首切りと一緒に預かってもらう。
そして、ここからが僕の戦いになる。
夕刻、僕達は執行局に戻った。
朝と同じ地下に向かう。
事前に連絡はしておいたので、もう皆集まってることだろう。
赤い絨毯に円卓のテーブル。
僕達が扉を開けると、他の特級拷問士達がすでに席についていた。
「おう、お前達、よくやった。まさかこんなに早く捕まえてくるとはな」
開口一番に、そう発したのは楠葉さん亡き今、筆頭代理となってる天城さんだった。
茶色い紙袋をかぶってて表情は見えないけど、声はとても弾んでいる。
「首謀者はまだみたいだが、上出来だ。捕まえた奴らから吐かせればいい。私達の責め具に耐えられるわけがない。すぐに口を割るだろう」
これで、楠葉さんの仇が取れる。そう皆思ってる事だろう。
ここにいるのは全て特級拷問士だ。誰もがうまくやるだろう。
殺さず、生かさず、できるだけ長く、苦痛を与え続ける。
僕も同じ特級だからね、想像は容易い。
僕も楠葉さんが殺されて悔しい。
やった奴らには楠葉さんが受けた仕打ち以上の地獄を見せてやりたい。
でもね、やっぱりこういうやり方は違うんじゃないかなって。
「で、捕まえたやつらはどうした。今すぐにでも切り刻んでやろう。殴って切って剥がして抜いて、全員肉片に変えてやる」
天城さん、他全員の視線が僕達に集まる。
とても、怖い。
特級拷問士達が殺気まみれでこちらを見ている。
どうなるかわかってしまう分、この集団は余計に恐ろしい。
それでも、ちゃんと言わなきゃだよ。
小さく息を吐く。
今度は大きく肺に空気を取り込んで。
そして、僕は声を上げた。
「それなんですが、僕はやはりちゃんと正規の手順で執行をした方がいいと思います。確かに僕だって楠葉さんを殺した奴らは許せない。でもだからといって、こんなやり方で復讐するのは間違ってるような気がします・・・・・・」
僕はそういうと、室内はしんと静まりかえった。
この静寂が胸を締め付ける。
「・・・・・・・・・・・・あ?」
それを破ったのは天城さんの重く低い声。
すぐに、怒声が続いた。
「なにいってんだぁあ、ごらぁぁぁぁ! てめぇ、ここまできて、止めるってのか、あぁ!? あれだけお世話になった楠葉さんの仇を捕まえたんだぞっ! 最初からそうするって決めてたんだろうがぁぁぁあ」
部屋全体に響く声。
あぁ、嫌だ。ナイトウォーカーに睨まれた時より怖いよ。
でも、引くわけにはいかない。
「気持ちはわかります。とはいえ、僕達は国家特級拷問士です。僕達がルールを破ればそれは楠葉さんを殺した殺人鬼達と同じになっちゃう。僕達は僕達が出来る範囲で相手を裁かなきゃいけない」
「ふざけんなぁぁっ! なに綺麗事いってんだっ! 国家だろうが企業だろうが、どこでもルールなんて破ってんだよっ! むしろそういう上のほうが率先してねじ曲げてるんだろがっ! 都合が悪ければ変えればいいんだよっ! 別に悪い事じゃねぇ、どこの国、どこの組織でもそうやって修正しながらうまく回してるんだっ! 決まった正義なんてどこにもねぇ、あるのは自分の中だけだっ!」
「そんなの知ってますよ。この世の中、光があれば必ず闇がある。でも、自分から闇に飛び込むことはないでしょう」
「話にならねぇっ! これはここにいる拷問士で決めた事だっ! そこまでいうならもう一度決をとろうかっ!? 殺菜っ! 金糸雀っ! お前らもリョナ子につくのかっ!?」
天城さんは、僕の後ろで黙っていた殺菜ちゃんと金糸雀に問いかける。
「・・・・・・そうっすね。私はリョナっちにつくっす。たしかに楠葉さんを殺した奴らは無茶苦茶にしてやりたいっす。でも、それは別に通常の執行でもできるっすからね。それなら本来のルール通りにやりたいもんすよ」
「・・・・・・ワタシもリョナコに賛成デス。最初は相手を殺すことしか考えてなかったデス。でも、リョナコの話を聞いて・・・・・・クズハならどうするかって思ったデス。きっとクズハだったらこんな事しない・・・・・・デス」
あぁ、僕の味方についてくれてくれた。
とても心強い。でも、他の拷問士はどうだろうか。
「はっ、お前らは馬鹿かっ!? 正規の執行を待ってたらいつになるかわからねぇぞっ! この殺人鬼達は余罪がありすぎるっ! それらを全部調べて裁判まで持ち込んで執行できるまで一体どれだけの時間がかかると思ってるんだっ! それまで楠葉さんの無念を晴らさずに我慢できるっていうのかっ!?」
天城さんがそういうと数名の拷問士からも、そうだそうだと声が上がった。
「余罪があるならなおさらですよ。楠葉さん以外にも殺された人がいる以上、その人達の分の無念も僕らは晴らさなければならないっ!」
「与えるのは最上級の絶望だっ! 特級拷問士のフルコースだぞっ! 結局同じ事だろうがっ! むしろ正規以上の執行になる、ならなんの問題もないだろうがっ!」
お互い引かない。
このままじゃ結論はでない。
「もういい、多数決だ。当初の考え通り、あの誰よりも優しかった楠葉さんの目を抉り、腕を切り、腹を滅多刺しにしながら陵辱した犯人達に今すぐ報復したい奴、手を上げろっ!」
赤城さんがそう言うと、すぐに数人の拷問士から手が上がった。
1、2・・・・・・5、最終的に天城さんも加えて7人。
「それじゃ、リョナ子のいう通り、このままダラダラいつ終わるか分からない裁判を待って、おまけに証拠不十分で減刑される可能性がある正規の執行を行ったほうがいいと思うやつは手あげな」
この場にいる特級拷問士は12人。
すでに答えは出ている、なのに天城さんは決を続けた。
「・・・・・・はい」
僕をはじめ、殺菜ちゃん、金糸雀。そしてドク枝さんと他数人が上げてくれた。
でも、6人。つまり、僕の考えは通らなかったのだ。
「はは、決まったな。時間を無駄にしただけだ。そもそもお前らはここでは下っ端の分際だ。私達目上の者に意見してんじゃねぇよ」
天城さんは今になっては一番の古株だからね。
派閥じゃないけど、彼女の取り巻きもいる。
次の筆頭は間違いなく天城さんになるだろうし、ここで逆らうのは後々面倒ではあるってみんな思ってるだろう。
でも、ちゃんと口を出してくれる人もいた。
「お言葉ですが、私達は特級拷問士という同じ土台にたってる者達です。そこにはもう先輩も後輩もありませんよ。ここからは腕がものを言う。そうなれば、リョナ子も殺菜も一流ですので問題はないのでは」
そう言ってくれたのはドク枝さんだ。
僕にとって、すごく良いことを言ってくれたよ。
でも、いつも先輩面する貴方がそれをいうか。いや、ありがたいけど。
「ふん、もうなにがどうあれ、結論はでた。早く殺人犯どもをここに連れてこい。ここまできて文句はねぇよな、あぁ?」
うぅ・・・・・・僕の負けか。
今やここで一番発言力がある天城さんに対抗しても勝てないのか。
そう諦めかけた、その時。
僕の携帯が震えた。
こんな状況だから無視しようかと思ったけど。ちらりと画面を見て考えを変えた。
表示されていたのは、非通知の文字だったから。
「はい、リョナ子ですけど・・・・・・」
「おい、てめぇ、私との話は終わってねぇのに、なに電話とってんだ、あっ!?」
天城さんが激昂するが、かまわず通話を続ける。
「あ、はい。わかりました。代わります」
そして、その携帯を天城さんに手渡す。
「あ? なんだ、私に代われってか。相手は誰だ、あぁっ!?」
「でれば分かりますよ」
それだけ言うと、天城さんも黙って携帯を耳に向けた。
「もしもし? 誰だよ? え、なに・・・・・・え、あ・・・・・・」
怒り狂っていた天城さんの声が小さくなっていく。
「・・・・・・あ、ぁ、いえ、これは、ご無沙汰しております。・・・・・・いえ。そんな事は、とんでもないです。・・・・・・はい。いえいえ、そんな、まさか、滅相もありません、はい、勿論です、はい。言われた通りに、はい・・・・・・はい、了解しました、はい・・・・・・失礼します」
通話を終えた天城さんはすっかり大人しくなり、僕に携帯を戻した。
「・・・・・・リョナ子のいう通りにする。私がこちらにつくのでもう一度決を取り直す」
俯きながら、小さな声で天城さんはそういった。
他の拷問士はざわついたが、これで今度はこっちに傾くだろう。
土壇場で覆した。
僕は、もう一度電話の主と会話を再開する。
「・・・・・・先輩。なんでわかったんです。かなりいいタイミングでしたよ」
「いや、なに。楠葉がいなくなったら纏める奴がいないだろうと思ってな。リョナ子の事は私が一番知ってる、だからどうせ揉めてるだろうと思って電話してみただけだ。個人的には天城の方に賛成なんだが、可愛い後輩を庇ってやるのは先輩として当然だろう」
「・・・・・・ありがとうございます。てっきり先輩も仲が良かった楠葉さんの仇を取ろうと動いてるのかを思ってましたよ」
「いや、そのつもりだったんだけどな。お前や深緑深層が動いていたから様子を見ていただけだ。深緑深層でも手こずった相手だからな、私達もそううまくはいかなそうだ。少し時間をやることにした、あまりモタモタしてると本格的に動くからな。私だって心底怒ってるんだ、深緑深層にもそう言っとけ」
「はい、発端となった楠葉さんの仇をとるという考えは僕も同じです。だから絶対僕達が執行します。先輩より先にね」
最後に先輩は軽く笑って、電話を切った。
天城さんがブツブツ小さな声で呟いてる。
「あ、あぁ。お前、随分偉くなったなって言われた。あぁ、怒られせちゃったかな、あぁ、あの方を、私、どうしよう、あぁ」
すごい怯えている。そりゃたしかに僕の先輩は怖い人だったけど、そんなになるまでかな。 奥底では本当に優しく見守っててくれた人だったのに。
なにはともあれ、今回捕まえた殺人鬼達は正規の手順で罰を与える事になった。
この件は、蓮華ちゃんも関わっているし余罪もうまく調べてくれるだろう。
レベルブレイカーになる事は間違いない。
僕の所に来たら、全力で執行してあげる。
改めて息を吐き、瞳を閉じる。そこには楠葉さんの顔が見えた。
その顔はいつも通りに微笑んでいたんだ。
一応連合編は一段落です。




