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なんか、また本物が来たみたい。(対殺人鬼連合 リョナ子サイド4)

 誘い込んだはずだったんだけど、逆に追い込まれたの。

 それが今の僕達。


 殺人カップル、そしてナイトウォーカー。

 僕達は少し相手を甘くみていたのかもしれない。


 建設途中の鉄筋剥き出しの骨組み、それを横に僕達は対峙していた。


 金糸雀は言う、早く手錠を外せと、じゃなきゃ僕達は皆殺しにされると。


 僕の判断は早かった。

 今まで散々見てきたから。

 葵ちゃんを筆頭に、同レベルブレイカーの切り裂き円や、レッドドットといった本物の殺人鬼達を。 

 殺人カップルはまだいいとして、後ろのナイトウォーカーはその葵ちゃん達と比べても遜色がない、と思う。

 見られるだけで死を意識させられる、その過程もなんとなく想像できちゃう。


 ゆっくり金糸雀に近づく、奴らから目を離さないように、何があってもすぐ動けるように、僕は震える手を押さえながら手錠に鍵をさした。


 小気味よい音を共に、金糸雀へ自由が与えられる。


 同時に、お千代印の斧バックも手渡した。


 こっちのカードは切った。

 正直、金糸雀を完全に信用したわけではない。

 勿論、裏切る可能性だってある。でも何もしなければ確実に殺されてしまう。


「はぁ、これでなんとか殺り合えマース」


 金糸雀が手を振ると、持ち手になっていた斧の柄が外れ真っ直ぐに伸びた。


 そうだ、こっちだって狂った殺人鬼がいるんだ。

 そもそも、金糸雀がここに奴らを誘導したんだよ、なにか考えがあるはず。


「金糸雀、なにか作戦でもあるんだよね?」


 小声で囁く。僕は実質戦力外、数ではこちらが不利。


「勿論ありマース。まず、リョナコは・・・・・・」

「・・・・・・ふむふむ」


 金糸雀の作戦はこうだ。

 まず、僕が一目散にこの場から逃げる。

 それを、一番厄介なナイトウォーカーが追いかけてくる。

 その間、数の上では同等となった金糸雀と殺菜ちゃんが殺人カップルをいち早く倒す。

 敷地外に出て、ぐるりと路地を一周回った僕がまたここに戻ってくる。

 そして、その後ナイトウォーカーを金糸雀と殺菜ちゃんの二人がかりで叩く。

 これで、僕達の勝利だ。

 

「完璧な作戦デース」


 金糸雀は自信たっぷりにそう言った。


「穴だらけだよっ! なんでナイトウォーカーが追いかけてくるのが前提なんだっ! それに僕の足は遅い、仮に逃げても三秒で捕まるよっ! 八つ裂きだよっ!」


「成せば成るデス!」

「成らないよっ!」


 そうこうしている内に、相手が動いた。

 殺人鬼達は刃物を取り出し、ジリジリと近づいてくる。

 そうだよね、変身するまで待ってくれる怪人じゃないんだ、そんな義理はない。


「いいから、逃げるデス! どっちにしてもリョナコは邪魔デス!」

「癪だけどそれはこの屑と同意見っす。リョナっちは逃げた方がいい」


 二人はしっしっと手で僕をはらった。

 事実とはいえ、なんか悔しいな。


 いくら役に立たないとはいえ、このままただ二人を置いて逃げるわけにはいかないんだよね。

 でも、足手まといになるのも理解している。

 だから、例え八つ裂きにされたとしても、ここは金糸雀の案に乗ってみようと思う。


「おい、ナイトウォーカー。君は僕をダルマにするとか言ったね。その言葉そっくり君に返そう。執行は僕がやってあげる。その時、お前の四肢を切断する。特級の味を存分に味わうがいい」


 ピアスだらけの顔、目が据わってて、はっきり言って目を合わせたくはない。

 でも、交差させる、一直線にぶつかり合う。


 飲まれるものか。

 僕は、今までお前のような奴の挑戦的な瞳を、散々怯えに変えてきたんだ。

 気迫だけなら負けるはずはない。

 だって、僕は特級拷問士なんだ。

 犯罪者、殺人鬼に、劣るものか。


「・・・・・・いいね、お前。うん、この中で断然いい」


 二つに分かれたスプリットタンで口を舐めづりながらナイトウォーカーはそう告げた。

 どうやら興味を持ってくれたみたい。


 さて、後は何秒持つかだね。


「金糸雀、殺菜ちゃん、後は任せたっ!」


 背中を見せ、僕はその場から離れる。

 普段使わない筋肉を呼び出し、必死に駆けた。


 フェンスを抜け、路地に出る。

 後は、とにかく前だけを向いて走った。


 ちゃんとナイトウォーカーは付いてきてるだろうか。

 

 そんな疑問も、すぐに消えた。

 振り向かなくてもわかる。死の波が押し寄せてくるのが。

 凄まじい殺気が背中に刺さる。

 これは来てるね。

 捕まったら、どうなるだろう。


 人体改造をやりたがってたな。

 割礼でもされるのか、色々ピアスでもつけられるのか。

 縫われるのか、切られるのか、注入されるのか。

 なにもかもごめんだよ。


 曲がり角に入り、僕は驚愕した。

 

 それは行き止まりだったから。

 都市開発でここら辺は建設してる場所が多い。

 そこら中がフェンスで覆われていた。

 そして、僕の眼前にも高い壁、そして隙間はない。


 なにが一周だよ。そもそも出来ないじゃないか。


 恐る恐る、後ろを振り返る。   


 予想に反せず、舌をチョロチョロ出しながら僕をじっと見ている人がそこにはいました。


 あ、死んだかも。

  

一応、抵抗した方がいいかな。

 こういう輩は逆に喜んじゃうから無抵抗の方がいいかも。


 そんな事を考えていたら、ナイトウォーカーの後ろのまた一人新たな人影が。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 ナイトウォーカーも気配を感じ振り向いた、でも反応はない。

 僕も見た事がない、誰だ、この子。


 身長はそんなに高くない、ただ耳にもかからないほど短いショートカットの女の子は、無言でナイトウォーカーに襲いかかった。


 両手にナイフを持ち、有無を言わさず切りつける。

 

 ここから数分間、二人は刃物を振りかざしていた。


時間の感覚が鈍り、短いような長いようなそんな間。

 二人の動きが唐突に止まる。

 ナイトウォーカーの刃物が女の子の横腹に深々を突き刺さる。

 そこからは一方的だった。


 僕は動けない。

 ナイトウォーカーが少女の別箇所を滅多刺しにしていく。

 少女は、短い悲鳴と痙攣、そして口からゴボリと血を吐く。


 止めなきゃ。早く。じゃなきゃ、死んじゃう。


 歯を食いしばって、恐怖を置き去りに、僕はナイトウォーカーに飛びかかる。

 ナイフを持つ腕にしがみついた。

 でも力が足りない。

 簡単に解かれ、そして顔に強烈な痛みが襲った。


 殴られたのか、よく分からない、今僕は地ベタを這いつくばっている。

 ズキズキと頬に激痛が、でもそんな場合じゃない。

 こうしている間にも、見知らぬ少女が切り刻まれている。

 誰だか知らない、でも見捨てるわけにはいかないんだ。


 あぁ、どうして僕はこんなに無力なんだろう。

 いくら拷問の腕が凄くても、なにもできない。

 こうして無抵抗じゃない犯罪者を前にしたら、僕はただの女でしかない。


 悔しいけど、僕じゃ駄目だ。

 今、この状況でどうにかできる人なんて・・・・・・。


 真っ先に思い浮かんだよ。

 閉じる瞼の裏側に、彼女の姿が。


 いつもは会いたく無い時に顔を見せるんだ。

すぐ体を触ってくるし、聞きたくない話もするし。

 僕は拷問士で。

 君のような者に罰を与えるのが仕事なんだ。

 

 君は犯罪者で。

 凶悪で、最悪で、鬼畜で、でもいつも助けてくれる。


 あぁ、君の顔が見たい。

 いつもニコニコ、僕に微笑む、その顔が。


 だから、今日は僕が君を呼ぼう。


「ーーーーーーーーーーーっ!?」


 届くかな。僕の声。


 その後の静寂。空がとても真っ青で雲一つない。

 

 変化が起こる。

 ナイトウォーカーのナイフが止まった。

 血だらけの少女から体を離し、立ち上がる。

 そして後方へステップ、距離をとった。

 その目は、曲がり角の影に注がれる。


「あぁ~、ちょっと遅くなっちゃった」

「ちょ、姉御、どうした、なんだ、なにがあるんだ」


 声だけが聞こえた。

 まさか本当に来てくれるなんて。


 姿を見せたのは、紛れもなく僕の脳裏に浮かんだ彼女。プラスおまけ。


 彼女は、そのままこちらに近づき、血だらけで倒れていた少女の元へ寄ると、膝をついた。 


「あ・・・・・・ね、姉・・・・・・さん・・・・・・うぅ」


 虚ろな瞳の少女の髪を優しく撫でる。


「うんうん、よく頑張ったね。ちゃんとリョナ子ちゃんを守ったんだね。本当に良い子だよ」


 顔も血だらけの少女の目から涙が溢れる。


「・・・・・・姉・・・・・・さん」


 髪を撫でる手が、今度は頬へ、その手のひらに血がべったりこびり付く。


「お休みなさい。ご褒美に私が殺してあげるね」


 何かを耳元で囁いたように見えた。そしてそっと、頭を地面に戻し、改めて彼女は立ち上がる。


「また補充しなきゃじゃない、折角また作ったのに・・・・・・」


 僕はやっぱりまだまだだ。

 あんなに怖いと思えたナイトウォーカーだったけど、今は全く恐れるに足りない。

 遜色ないっていったけど、あれは嘘だね。

 

 葵ちゃんに比べれば、近くにいるのに、こいつがとても小さく見える。


「あれ? もしかしてリョナ子ちゃん怪我してるの?」


 葵ちゃんが僕の腫れた頬に気づいたみたい。


 瞬間、僕の心臓が飛び跳ねた。


「・・・・・・ねぇ。・・・・・・君なの、殴ったのは。君か、リョナ子ちゃんに傷をつけたのは。君なんだね。君か、君か、リョナ子ちゃんに、君なのか。君、君、君、君・・・・・・」


 あわわ。顔が、葵ちゃんの顔ががが。


 炎が大きく燃え上がり高く火柱を立てた、その後ゆっくりと弱まっていく。

 ここが葵ちゃんの凄いところだね。

 激情に見えて、冷静さは失わない。

 しかし、炎が消えたわけではない、ただ押し込んだだけだ。


「・・・・・・・・・・・・うふふ、私は君を何回殺せばいいのかなぁ?」


 こうなると今度は、僕が葵ちゃんを止めなくては。

 僕の声なら届くだろう、さっきみたいにね。


 この淀んだ場所で、空だけがとても青く澄み切っていた。 

 予想に反して連合編進まない。。

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