おや、これは今までになかった事ですね。(対殺人鬼連合 蓮華サイド2)
こんにちは、蓮華です。
複数の殺人鬼達に喧嘩を売られた私達は、奴らを迎え撃つべく、手がかりを求めてある場所に向かいました。
久しぶりの日差し。
普段地下に籠もってるのでこうやって日中外に出るのは久しぶりです。
時計を確認、11時ちょっと過ぎです。太陽も真上近くにあります。
目的地は私の仕事場からも結構近いので、すぐに着きました。
一見、普通の雑貨屋さん。
でも、地下は拷問士御用達のお店になってます。
私は、拷問士ではないので入った事はないのですが、店主のお千代さんとは昔から顔なじみではあるのです。ある事件がきっかけで。
早速店内に足を踏み込みました。
店員が二人。レジと棚だしをしてますね。お客は三人ほど。
「ふむ、ネームプレートが普通ですね。あの店員達は一般の方です」
お千代さんに会うには、特定の店員にその日その日で変わる暗証番号を聞き出さないといけません。
でも、困りました、今日は見当たりません。
となると、別の方法で声をかけますか。
私達三人は奥にある暖簾を潜り、下へと続く階段を降りました。
分厚い扉が迎えてくれます。本来ならここで電子ロックに番号を打ち込むのですが。
「こんこん、お千代さん、お久しぶりです、蓮華です」
強めにノックします。果たして音は届くでしょうか。
「・・・・・・合い言葉を言いな・・・・・・行くよ」
しばらくして扉の向こうから、お千代さんの声が聞こえました。
これに受け答えが出来れば戸を開けてくれるはずです。
お千代さん、私の順で交互に合い言葉を交わしていきます。
「若々しい、フェイスだよっ!」 「フェイスだよっ!」
「お若い、お綺麗っ!?」 「オチーヨサン!」
「千代さん、優しいー?」 「やいゆえよ!」
「・・・・・・合格だ。ちょっと待ってな」
どうやらうまく出来たようです。お千代さんから許しがでました。
「なんだ、これ・・・・・・」
「蓮華ちゃん達、変だよ」
何も知らない二人はびっくりしたでしょうが、こうやらないとお千代さんは出てくれないのです。この他にも違ったバリエーションもあり、毎回組み合わせが違ってきます。
扉が開いて、お千代さんが顔を出しました。
その瞬間、私はお千代さんの胸に飛び込みます。
「お千代さーん!」
「おっとと、たく、蓮華は相変わらずだね、よしよし」
顔をグリグリ胸に押しつけてきつく抱擁をかわします。
お千代さんは私の頭を優しく撫でてくれました。
「あぁ、お千代さん、お千代さん」
私はお千代さんが大好きなのでもういっぱい甘えます。
なんたって、今の私があるのはこの人のお陰なのですから。
「レンレンが、なんかいつもと、違う、別人だ」
「普段、クールなのにね」
違った一面を見て、ドールコレクター達も驚いているようですが、もう抑えられません。
私がこうなるのも仕方が無い事なのです。一応説明しておきましょう。
「少女腹裂き事件て知ってます? 昔、起きた連続事件なのですがね。実は私、あの被害者の一人でして、間髪助けられて一命は取り留めました。それでですね、その時の犯人を執行したのがこのお千代さんなのですっ!」
私が拷問士のファンになるきっかけを作った方です。
尊敬してもしきれません。
「ふん、本当にゲスな奴だった。たしかレベルは7だったか、グチャグチャにしてやったよ」
あぁ、格好いいです。素敵です。
「私、一言お礼を言いたく言いたくて、すぐに誰が拷問士だったのか必死に調べたのですよ」
「あれには呆れたわさ、国家機密の情報をどうやって調べたのか、この子はすぐに私の前に現れたんだよ。あの時はまだ中学生くらいだったね。末恐ろしい子だと思ったものさ」
「あらゆる手段を講じました。一日でも一秒でも早く会いたかったもので」
初めて出会えた時の感動は今でも忘れられません。
「まぁいいさわ。昔話をいうために来たわけでもないだろ? 蓮華も今は忙しい身だ。なにか用があってきたんだろ?」
「あぁ、そうでした。実は今、ある殺人鬼達を捕まえるべく奔走してるんですよ。その過程でここに行き当たったわけです」
私がそう言うと、お千代さんの顔が険しくなりました。
「・・・・・・楠葉の件か。まさか、よりによって楠葉がね・・・・・・」
どうやらお千代さんの耳にも入ってるみたいです。これは話が早い。
「はい、単刀直入に言います。どこからか拷問士の情報が漏れました。私は、ここの店員を疑っています。今日はおられませんか?」
お千代さんの顔が今度は曇りました。私としてもこんな事を言いたくはないのですが、今の所一番可能性が高いのです。
「・・・・・・たしかに、ここの特定の店員は拷問士と顔なじみも多い。だが、採用する時点で洗い浚い素性は調べる。さらに、使用期間で危険性のなく信用における人物だと見極めたのちに、拷問士と私の窓口を任せるんだ。だから悪いが見当違いだよ」
「・・・・・・お千代さんが、そう言うならそうなのでしょう。ですがです。どの時点で殺人鬼として開花するかはわかりません。小さな小さな芽はあった。それがゆっくり成長し、そして花開く。それはごく最近だったのかもしれません」
実際、眼球アルバムと思われる事件が頻繁に起こるようになったのはここ一年の間です。
「どっちにしても話は聞けない・・・・・・目黒は休みだ。なんでもイベントがあるとかで、しばらく休暇をとってる」
「今どこにいるかはご存じありませんか?」
もし、私の予想が正しくて、その目黒という子の正体が当たりだったのなら。
「住所は知ってる。でも教える事はできないね。一応ここの店員だ。確固たる証拠がないならそれは無理だ」
う~ん、こうなるとこれ以上情報は聞き出せそうもありませんね。
「うくく、オババ、そういうのは良いのだ。いいから、教えろ、じゃなきゃ・・・・・・」
「そうだねぇ、蓮華ちゃんの恩人なら、あんまり手荒い真似したくないよぉ」
後ろの二人が、わずかに動きました。
これはいけませんね。同時に来られたら私一人では止められません。
でも、心配はいりません。
「あぁ? なんだ、小娘!?」
お千代さんが激しく二人を睨み付けます。
その瞬間、殺気に満ちた二人が萎縮したのがはっきりわかりました。
「う、なんだ、このオババ、やばい」
「おお、凄いね。これは手を出せない」
特級の殺人鬼達でも迂闊には近づけませんよ。
なんせ、このお千代さんは、長年特級拷問士として最後まで仕事を全うされた方なのですから。
どれだけの闇を藻掻きながら泳ぎ切ったのか。
お千代さんにすれば、私やこの二人、リョナ子さんや殺菜さんという現役特級拷問士ですら文字通り小娘なのです。
「わかったら出直してきな。私も一応調べておくよ。なにか掴んだら連絡してやる」
「はい、お願いします。では、今日のところはこれで」
大きな成果は無しですが、仕方ありません。
でも、名前は分かりました。目黒さんですか、お千代さんが教えてくれない以上、こっちで調べればいいだけの話。
階段を上る私達に、お千代さんが声をかけました。
「あぁ、そうそう、蓮華が来るちょっと前に、リョナ子達が来たぞ。一人見た事のない顔がいたな。ただ買い物に来ただけかと思ったが、もしかしてこの件にかかわってるのか?」
「あら、そうなんですか。どうでしょうね、関わってるとしてもなにも起こることはありませんよ。だって、私達が動いているのですから」
色々知ってるのですが、お千代さんはとても後輩思いなので心配をかけさせたくありません。
それにはリョナ子さん達より早く、この犯人達を抹消しなくてはなりません。
外に出た私達は一旦、仕事場に戻る事にしました。
目黒さんについて色々調べなくては。
そう思い、来た道を引き返すと、突然、後ろの二人の足が止まりました。
「・・・・・・見られてる、ガン見、だ」
「あっちだねぇ」
お店を出た瞬間、視線を感じました。
二人は、そういうと、一気に駆け出します。
二人の向かう先に、怪しい人影が。慌てて裏路地に逃げました。
「あぁ、待ってくださいよ」
全く、本当に無鉄砲なお二人です。出遅れた私も、二人の背を追いかけます。
路地に入ると、怪しい人影は二つだった事が分かりました。
必死に逃走し、途中の分かれ道で二つの影は、左右に分かれました。
「うくく、私は、右、右にいくのだ」
「じゃあ、私は、左いくね」
ドールコレクターと切り裂き円も、それを追って二手に散らばります。
「ちょっと、勝手に動かないでくださいよ」
私は、どっちに行きましょう。
走りながら私はそう考えてたのですよ。
そしたらです。
上から降ってきたんですねぇ。
それも私を挟み込むように新たな人影が二つです。
ドールコレクター達が追っているのとはまた別物でしょう。
「見つけたぁ、今週の分は、お前から摂取する、さらさらの血をしてそうだ」
「いい、首してるね。白くて、血管が浮き出てて、これは斬りがいがあるね」
私の前後に現れたのは二人の少女です。
前にいるのは、金属の蛇口と電動ドリルを持った長い髪がうねりにうねってる女。
後ろは、刀でしょうか、鞘からは輝く刀身を抜き、私に向けております。ショートカットの無表情女子。
「ふむぅ、言動からさっするに、吸血殺人鬼と首切りさんとお見受けしますが?」
「灯だ。我が、天使の言いつけに応じて、お前の血を頂く」
「私はね、狂璃。とりあえず、君、色々厄介らしいからね、首と胴体さよならしてもらうね」
名前を教えてくれるということは、はなから生かすつもりはないのでしょう。
しかし、いきなり遭遇してしまうとは。
これは、もしかしたらピンチというやつなのでしょうか。