なんか選ばれたみたい。(対殺人鬼連合 リョナ子サイド)
この日、僕はある場所へ向かっていた。
仕事場がある施設の地下室。
エレベーターでは行けない。
普段は使われていない階段だけがそこに繋がっている。
狭く、暗い階段を下っていると僕の後ろから声がかかった。
「・・・・・・リョナ子」
その声は重苦しい。普段の彼女が出すトーンとはかなりかけ離れていたものだった。
「ドク枝さん・・・・・・」
ガスマスクはそのままに、でも衣服はいつもと異なった。
黒い喪服。
実はそれはドク枝さんだけではない、僕も同じだったんだ。
「・・・・・・大変な事になったわね・・・・・・」
「・・・・・・そうですね、本当に、なんでこんな」
語りながら下っていくと、今度は前方にまた見知った後ろ姿を見た。
「・・・・・・あ、殺菜ちゃん」
名を呼ぶと、その人物は後ろを振り返る。
一つだけ穴が開いたトートバックをかぶり、そしてこれまた黒い服を纏っていた。
「・・・・・・リョナっち」
いつもは明るい殺菜ちゃんも、今日ばかりはどんよりしている。
それはそうだ。
この日、僕達特級拷問士は招集を受けた。
それにともない、こうして続々と特級拷問士だけがある場所に集められていく。
階段を下り終わると、廊下を歩く、その先に重厚な両開きの扉が見える。
開け放つ、それなりに広い室内。敷き詰められた赤い絨毯の上に円卓のテーブルが置かれていた。
椅子は全部で一三席。つまり現役特級拷問士の数だけあった。
もうすでに埋まっている。
僕達で最後だったみたい。
でも、それでも一つだけ、上座にある一席だけが空白だった。
「これで全員だな。もう呼ばれた理由は分かってるはずだ」
空白の隣、奥にいた女性が立ち上がった。
こういう定例会はごくたまに開かれていた。
特級拷問士の引退、もしくは新たなる特級が生まれた時など、でも今日は違った。
「特級筆頭拷問士の楠葉姉さんが先日・・・・・・殺された。それも無残に・・・・・・だ」
茶色い紙袋をかぶった拷問士は全身を震わせてそう呟いた。
楠葉さんは、この中で最もベテランの拷問士だった。
誰にでも優しく、それは犯罪者でも例外ではなかった。
いつも、執行後にはその者を思って泣いていたんだ。
そんな楠葉さんだったから、他の拷問士にも好かれていて、僕も大好きだった。
先輩がいなくなったあと、僕を支えてくれたのも彼女だったし、他のみんなの面倒見もよく誰隔てることなく平等に優しくしてくれた。
周りから、啜り泣く声が聞こえる。
皆、仮面やマスクで顔を隠していたけど、表情は予想できた。
全員が悲しみ、そして怒りがこみ上げていた。
重い空気がこの部屋を取り囲み、息苦しすらある。
「眼球は抉られ、腕は切られ、腹は滅多刺しだ、暴行の後はその他にも多数っ! 恥辱のかぎりを尽くされているっ!」
机を力いっぱい叩く、周囲に音が響いた。
「私達はこれを許さない。独自に犯人を捕らえる。機関は関係ない。執行はこの場の全員で行う!」
「賛成です。これは拷問士の問題であり、私達が処理する事案と認識しました」
「楠葉姉さんの仇討ちだ。受けた仕打ちは、その何百倍にして返してやろうぜ・・・・・・」
他の拷問士達も賛同し声を上げる。
「犯人はわからない、だがおおよその見当はついてる。対象は複数・・・・・・」
紙袋の拷問士は言葉をきると、円卓の一番奥へと顔を向けた。
それは下座、つまり僕の居る方。
「リョナ子っ! 殺菜っ! 金糸雀っ! お前ら三人でそいつらここに引き釣ってこいっ! 特級のフルコースを与えてやるっ! 全員で骨も残さないほど拷問してやるんだっ!」
ええええええええええ。
突然、名前を呼ばれて途惑う。
「え、ちょっと、なんで僕・・・・・・」
「いいすっねぇ。やってやるっす。私も怒りでどうかしそうでしたから・・・・・・」
「許さないデス。クズハはみんなから嫌われていた私にも優しくしてくれたデス。報いは受けてもらいマス」
あれ、他の二人はやる気満々だ。
紙袋の拷問士は、それを聞いて、今度は全員に声をかけた。
「お前ら、特級が三人抜けるってどういう事だか分かってんだろうなっ!? その穴埋めは残りの皆で不眠不休で埋めるぞ。いいなっ!」
「おうっ!」 「はいっ!」 「勿論」 「任せろ」
全員から掛け声が上がった。
「こいつらは、私達拷問士全員を敵に回した。それがどういう事か、思い知らせてやる」
これ、もう断れない雰囲気じゃないか。
殺菜ちゃんや金糸雀は強いからいいけど、僕は小学生にも負けるよ。なんでメンバーに入ってるんだ。もっとやばい人ここにはいっぱいいるでしょうに。
「金糸雀ぁぁぁ、絶対殺すな、生きたままここに連れてきな。上にはなにも言わせねぇからよ。生きてさえいれば少しくらいは大目に見てやる、ちょっと暴れてこいや」
「ウヒヒ、任せるデース」
金糸雀を出すか、こいつは元殺人鬼という異色の経歴。
幼い頃から殺人を犯し、それを隠し、長年腕を磨いてきた。
ほとんどは立証できてないけど、その数は想像を絶するだろう。
例外なく死体には拷問の痕跡、あまりに見事の腕なので司法取引で拷問士になったんだ。
でも罪は消えてない、葵ちゃんと同じくレベルを下げてるだけ。
いずれはこの中の誰かの執行を受ける事だろう。
蒼い髪、蒼い目、どこかの国の血が入っていて陽気な性格だけど、気は許せない。
「金糸雀と一緒ってのは吐き気がするっすけど。まぁしょうが無いっす。ちょっとでも妙な動きしたらぶち殺すっすよ」
「ホワイ? コロナにそんな事できないデース。返り討ちデース。お前こそあんま調子に乗るなデース」
「あぁぁぁぁ? 犯罪者の屑がなに言ってんだぁ? 決めたわ、お前、私が執行してやんよ。早くレベル下げろや、グチャグチャにしてやっからよぉぉ」
勿論、この二人は火と油デース。犯罪者を人と思わない殺菜ちゃんと、元殺人鬼の金糸雀が仲良くできるはずもなく。いきなりこんな調子。
なんとなく、僕が選ばれた理由が分かった気がする。
僕は戦闘要員ではなく、この二人のおもり役なんだ。
他にもあるだろうけど、何も言われてないから僕の判断でやれって事かな。
まぁ、いいか。
最初こそびっくりしたけど、気持ちは同じ。
こう見えて、僕も怒ってるんだよ。
誰だか知らないけどやってくれたよね。
よりによって楠葉さんに手を下したんだから。
犯人達には同情するよ、殺したのが拷問士だと知っていたのか知らなかったのか、そんなのどうでもいい。
僕達拷問士全員を敵に回したんだ、多分、この世にいながら地獄にいける。
蓮華ちゃんサイドと交互にやっていこうかと思っている次第であります。




