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なんか、映画をみるみたい。

 なんかまた普通に先輩から電話がきた。

 なんでも、レッドドットこと、白頭巾ちゃんの事で頼みがあるみたい。


「ちょっと先輩、なんで僕なんですか」


「いやなに、私も忙しい身でな、そんな柄でもないし。それにあいつはお前を気に入ってる、適任だ」


「だからって、なんで僕がっ!」


「いや、別にいいんだけど、あいつが悲しんでイライラするだけだし。でもそうなると死人がでるかもしれんな」


 て、訳でしぶしぶ僕は彼女と合流すべく駅前に。


「今日は、休みなのにっ! ゴロゴロしようかと思ったのにっ!」


 ブツブツ言いながら電車を降りて改札へ。

 レッドドットはまだ子供とはいえ葵ちゃん並の凶悪殺人鬼だ。やりかねない。

 前もこんな事あったな。くそー、先輩とはいえ今は犯罪者なのに、なんで僕が。


 土曜の午後、人は多かったけど、それでも一際目立つ。柱にもられて僕を待っていたのは一人の少女。

 今日は晴天で、雨が降る気配はない、だけど白いレインコートを着ているその女の子は、僕に気づくと顔を上げた。


「・・・・・・お姉ちゃん。ひさしぶり・・・・・・」

「ん、そうだね。元気だったかな」


 殺人鬼が元気じゃ駄目なんだろうけど、この子はまだ幼い。交差する視線の鋭さはとても11歳のそれとは異なってるけど、淀んだ中にもまだ光はある。


「うん。・・・・・・今日は・・・・・・よろしく・・・・・・ね」

「よろしく」


 こうして、僕と、最年少レベルブレイカー、レッドドットは並んである場所に向かった。


 目的地は映画館。

 一階が受付で、お目当ての劇場は三階か。


 今日僕が呼ばれたのは、このため。

 なんでもレッドドットがどうしても見たい映画があったんだって。


 別に彼女一人でも見に行けただろうけど、如何せん、この子は不安定だ。正直、葵ちゃんや円といった同じ殺人鬼の中でも一番暴走しやすく質が悪い。

 そこで、僕が引率者のお目付役って訳。なにか知らないけど、僕はこの子に気に入られてるからちゃんと言う事を聞くと思われてるんだね。


「・・・・・・早く。早く」

「あ、うん、わかったよ」


 手を引かれてスクリーンへ。すごくそわそわしてるのが分かる。よっぽど楽しみにしてたんだね。

 座席はすでに予約してあったけど、全てが埋まっている。最前列ですら人が座ってる。あそこ首痛くなるのに。そういえば、一階も人が多かったな。かなり話題の映画なのだろうか。


 ラヴァープリズン。通称ラヴァプリというらしい。まぁアニメ映画なんだけど、観客は年齢、性別問わずバラバラだった。


 なんでも、このアニメの世界では、罪人は拷問されるのではなく海外のように刑務所へ拘留されるみたい。で、受刑者が少なくなって、潰れる寸前の刑務所を受刑者である主人公達がプリズンアイドルになってそれを阻止する的な、色々突っこみどころ満載のお話だった。

 前情報無しでみたけど、ちゃんと楽しめたよ。ライブシーンはなかなか良かった。


 そんなこんなで見終わった僕達だったんだけど。


「あ、雛ちゃんだった」

「ん、なにそれ」


 レッドドットが封筒を開けて中身を確認している。これ、入場前にみんなに配ってたやつだね。


「入場特典のシリアルコード。スマホのゲームで使えるの、輪廻ちゃんが良かったんだけど」


「ふ~ん、じゃあ僕のもあげるよ、はい」


「あ・・・・・・ありがと」


 白頭巾ちゃんは嬉しそうに、僕の渡した封筒も開けた。


「こっちは空ちゃんだ。無期組もいいんだけど、終身組が欲しかった・・・・・・」


「ランダムなんだね。白頭巾ちゃんのお目当てじゃなかったのか」


「うん、私、輪廻ちゃんと花梨ちゃんが好きだから・・・・・・」


 たしか全部で9人いたからね、自分が好きなキャラが出るとは限らない。

 今回は残念だったと、これで満足するしか・・・・・・。

 と思っていたら、僕達の前に男性二人が近寄ってきた。


「あ、あの~。もし良かったら僕達と交換しませんか?」

「え? シリアルコード?」


「ええ、そちらなに持ってます?」


「・・・・・・雛ちゃんと、空ちゃん。私は、輪廻ちゃんと花梨ちゃんが欲しい」


「お、雛ちゃんありますか。じゃあ僕の輪廻ちゃん花梨ちゃんと交換しましょう」


「え、持ってるの?」


「ええ、僕は雛ちゃんが好きなのでよろしければ」


「うん、するする。交換する」


 僕は黙って見てたけど、どうやら取引はうまくいくみたい。

 白頭巾ちゃんも喜んでるみたいだし、良かったね。


「じゃあ、ありがとうございました」

「あ、ありがとう」


 無事、交換し終わったみたい。男達はそそくさとこの場を去った。


「わー、手に入った。嬉しい」


「良かったね。欲しいのが手に入って」


「うん、さっそく使ってみる・・・・・・」


 よほど嬉しかったのだろう、白頭巾ちゃんは微笑みながら、取り出したスマホを操作しゲームを起動した。先輩、この子に携帯持たせてるのか、まぁ居場所も分かるし当たり前かな。


「あれ・・・・・・あれあれ」

「ん? どうしたの」


 携帯を弄っていた白頭巾ちゃんが困惑している。僕がその画面を覗き込むとゲーム上で文字が浮かんでいた。


 このシリアルはすでに使用されています、と。


「あれ、なんで。まだ使ってないのに・・・・・・」


「・・・・・・打ち込み間違ってない? ちゃんと正確に入れた?」


 白頭巾ちゃんはこくこくと頷く。僕も確認したけど間違ってないみたい。


「と、なると・・・・・・」


 すでに、使用済みのコードを渡して、白頭巾ちゃんのコードを奪ったんだ。


「ああああああああああ」


 白頭巾ちゃんがその場にふさぎ込んだ。頭を抱えてショックを受けている。


「あの、屑共。こんな小さな女の子を欺すなんて・・・・・・」


 なんて事だ、システムに疎かったとはいえ僕が付いていながら。

 僕もしゃがみ込んで白頭巾ちゃんを包み込むように抱きしめた。


「大丈夫、かならず僕が取り返してあげる。あいつら許さない」


 フードの中の頭を優しく撫でると、僕は立ち上がった。


 携帯を出すと、すぐにある人物に連絡した。


「・・・・・・あ、蓮華ちゃん。ごめん、お願いがあるんだ」


「あら、リョナ子さん、珍しいですね。なんでしょう。なんでもお申し付けください」


「人を捕まえたい。特徴は・・・・・・。場所は○○シネマ周辺」


「は~い、お任せを。そこら辺の監視カメラをチェックして見ましょう。そしてあの二人どちらか向かわせます。リョナ子さんの名前使いますが、よろしいですか?」


「うん、勿論。なにがなんでも捕まえたいからね」


「わかりました。また連絡しますねぇ」


 手は打った。僕は白頭巾ちゃんの手を引き、外へ。


 数分後、すぐに折り返し連絡がきた。


「拘束しました。場所を送信しますので。近くにいたのはドールコレクターでしたので、彼女に任せましたよ」


「ありがとう、蓮華ちゃん。このお礼は今度するよ」


「いえいえ~、お気になさらず、いつでも頼ってくださいねぇ。ではまた~」


 僕は蓮華ちゃんの電話を切ると急いで現場に向かった。


 ビルの隙間、裏路地に運ばれた二人の男性。手は結束バンドで後ろで縛られていた。倒され、床を這いずる醜い姿で。


「リョナ子ちゃ~ん、こっちこっち~」

「葵ちゃん。・・・・・・迷惑かけたね」


 また貸しを作っちゃったなぁ。でも、今回は仕方ない。僕も怒ってるんだ。


「あああああああああ」


 その、瞬間だった。ナイフを取り出した白頭巾ちゃんが、男達目掛けて走る。


「あっ!」


 しまった。大人しかったから油断していた。この子がこういう子だったのを忘れてた。

 やばいと、思ったけど、前に彼女が居てくれて助かった。

 甲高い音がぶつかって、白頭巾ちゃんの動きが止まる。


「駄目だよぉ。せっかくリョナ子ちゃんが尽力してくれたのに、無駄にする気かな?」


「お姉ちゃん、どいて。そいつら殺せない」


 押し合ってる二人を通り過ぎ、僕は男達の元へ。

 地面に転がってる男達の顔面目掛けて蹴りつける。


「うげぇっ」

「ああんあっ」


 鼻血を撒き散らす、男の前にしゃがみ込んで口を開いた。


「ねぇ、詐欺罪は立派な犯罪だ。この場で執行してやってもいいんだよ」


 できるだけ小さく、できるだけ重く。見下げる男達の目が怯えを見せる。


「す、すいません。返します。許してくださいっ!」

「本当に、ごめんなさい。他に持ってるのも差し上げますのでっ!」


 少し、考える。返してもらうのは勿論だけど、他もってのがひっかかる。


「それ、自分のって確証あるの? 今回が初めてとは思えないなぁ。余罪があるならその全員に返さなきゃね。だから、洗いざらい自白してもらうよ」


 取引というのは、信用の上で成り立つ。

 こういう輩がいるから、世の中上手く回らないんだ。

 ゲーム理論じゃないけど、お互いを思いやればこの世界はもう少しましになるかもしれない。


「はい、取り返したよ。後でお詫びに輪廻ちゃんや花梨ちゃんのコードも渡すってさ。なんか、明日から出るまで映画見続けるって」


 葵ちゃんとやり合ってた白頭巾ちゃんの動きが止まった。ナイフをしまうと、僕の手からシリアルコードを受け取る。なんとか落ち着いてくれたみたい。


「・・・・・・お姉ちゃん。ありがとう」


「葵ちゃんにもだよ。捕まえてくれたのは葵ちゃんなんだから」


「・・・・・・ありがとう、ドールのお姉ちゃん。殺そうとしてごめんなさい」


「うふふ、お礼は無用だよぉ。私はリョナ子ちゃんのためにやっただけで、白頭巾ちゃんのためにやった訳じゃないもん」


 何はともあれ一件落着、でいいかな。


 その夜、先輩から電話がきた。


「リョナ子、なんだかすごいお世話になったみたいだな。レッドドットも喜んでたぞ」


「いえいえ、見過ごせなかっただけですよ」


「それにしても、お前は凄いな。あの深層深緑とドールコレクターを瞬時に動かせるんだからな。普通局長クラスでもあの二人を簡単には動かせんぞ。それも電話一本だ、いやはや恐れ入る」


「別に、借りただけですよ。借りっぱなしは嫌なので、ちゃんと二人には返すつもりですしね」

 

 折角の休みは、色々な事があった。

 でも、いいかな。

 映画、面白かったし。

 久々に血がでないお話。あ、鼻血出てましたね。

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