おや、やっぱり駄目ですね。(対殺人愛好会 蓮華の中編)
こんにちは、蓮華です。
私は今、夜も更けてきた校舎で殺人愛好会によるゲームに参加させられてしまってます。
連れの殺人鬼二人は早々に部屋を出て行きました。
私はベットに腰掛けたまま動きません。
その代わり少しだけ考えます。
自分が愛好会側ならどう動くか。どう獲物を狩るか。
5分ほど経ったでしょうか。
この部屋のドアが急に開け放たれました。
姿を見せたのは一人の少年。私を見るなり口元を緩めます。
「鍵開いてんじゃん、それも一人・・・・・・当たり・・・・・・だね」
手には包丁を持ってます。食堂から持ち出したのでしょうか。
少年はゆっくり私に近づいてきます。
呼吸は非常に荒く、目は血走ってます。これでもかと興奮してるのが分かりますね。
「ははっへ、は、そ、そんなに怯え・・・・・・」
目は合わせたまま、私は微動だにしません。
「・・・・・・てない。なんだお前・・・・・・」
少年の歩みが止まりました。近くに来て私が尋常じゃない、と彼なりに感じたのでしょう。
「えっと、貴方は、野崎進くんでしたっけ」
私が名を呼ぶと、少年はぎょっと驚愕し一歩下がりました。
「な、なんで、僕の、名前を、夕食の時は、みんな偽名で通したのに・・・・・・」
隠していた本名を言い当てられ、とても途惑ってますね。
「簡単な事です。貴方達は言いました、それなりの用意はしていると。でも、足りませんね、全然です。用意というのはせめてこのくらいしないと、駄目ですよ」
一流のシェフが、素材に拘るように、その一つ一つを把握してないと出来上がりの質は落ちます。食材に劇薬が混ざっていたら困るでしょう。
「いい名前です。貴方の親はなにをその文字に想いを篭めたのでしょうか。夢や希望に向かって欲しい、それは決して暗闇ではないはず。なのに今の貴方と来たら、足を向けているのは・・・・・・さながら絶望ですよ」
どこで道を間違えたのでしょう。どこで道が見えなくなったのでしょう。
ただ闇雲に、手探りさえもせずに、彼はどこへ向かっていたのか。
「だ、黙れぇっ!」
包丁を私に向けました。再び歩を進めます。
「うるさい、うるさいな、その口、まず、喉を裂いてやる・・・・・・その顔、気にくわない、なんだ、泣けばいいのに、叫べば良いのに、なんなんだ、お前、滅多刺しだ、イライラする、同じ顔・・・・・・」
ブツブツ言いながら、今にも踏み出しそうですね。
これじゃ、私、刺されちゃいますね。喉を裂かれちゃうみたいです。
あの鋭利な先端が何度も顔に振り下ろされそうです。
痛いでしょうね、以前、私は腹を割かれた事がありますけど、あれ位でしょうか。回数が多い分こっちが上かもです。
ま、痛いのは嫌なので、ご遠慮させて頂きます。
彼が飛び込んだの先か、私が構えたのが先か。
銃声が鳴り、それに伴い、薬莢と血が宙を舞います。
「・・・・・・ぎゃっあっ」
凶器を持つ方、そちらの肩を撃ち抜きました。
私のシグちゃんは、サイレンサーを取り付けていますので、銃声と反動を抑えられてます。それでも、それなりの音はするのですがね。別に隠密行動してるわけでもないのでどうでもいいです。
後ろに倒れた彼の足に、続けざまに二発撃ち込みます。
私はベットに腰掛けたまま、さらに二発、今度は太股に銃弾を放ちました。
完全に機動力を奪いました。彼は何が起こったかまだ頭で整理しきれてないのでしょう、ただ悲鳴を上げながら悶えています。
「今、5発撃ちました。このシグちゃん、ダブルカラムマガジンといいまして、あらかじめ一発仕込めば16発撃てるんですよ。てことはですよ、後、11発貴方の体に穴を開けられるのですねぇ」
どうしましょう、横腹でしょうか、それとももう一方の肩にしましょうか。
この距離ですから、外す事はないでしょう、でも致命傷になりそうな場所は避けなくてはなりません。頚動脈、鎖骨下動脈、腹部大動脈、大腿動脈、ここら辺は止血も難しいので特にです。あまり穴ボコにすると、ガス壊疽にもなっちゃいますし、あぁ、生け捕りって難しいですね。
「・・・・・・いだああぁああl、イダイィィィィ、たす・・・・・・たすたすたすぅ」
ゴロゴロ上半身だけを左右に転がし、開いた空洞から血が外に逃げ出してます。床が足を中心に赤く染まっていきます。
「だから言ったじゃないですか、貴方が進んでるのは絶望だって。痛み、ちゃんと感じてます? 悪い事をしたら頬を叩かれる。当たり前の事ですよ」
お仕置きを続けようとしたら、開いたままの扉に人影が見えました。
「ただ、いまま」
入ってきたのは、右手に血のついたナイフを持ち、左手で人の髪を持つ私の連れでした。
ズルズルと引き摺ってきたのでしょう、彼女が手を離すと、そのぐったりした人型は顔から床に落ちました。上着は所々大きな赤い染みを作っていました。
「う~ん、円さん、駄目じゃないですか、私は生け捕りっていいましたよぉ」
全く動きません。だからこそここまで運べたのでしょうけど。
「殺して、ないし、今は、だけど。でも、あれだ、もうすぐ、死ぬ、死んじゃう」
注意深く見てみると、たしかに僅かに呼吸はしているような、それこそ虫の息って感じですよ。
「タ、タカシィィ・・・・・・」
瀕死になった愛好会の同志を見て進くんも唖然としています。
「この子、どこにいたんです?」
「ん、あれだ、家族連れのとこ、だ。私が行ったら、もう旦那は死んでて、子供は、生きて、いやもう死んでた、マヂマヂ、で、こいつは、嫁を、(なんやかんや)。・・・・・・うくく、突きながら、突く、うくく」
自分で言っててなにか壺に入ったのか、笑いだしたまま止まりません。
でも、大体は分かりました、だからこの子、ズボンはいてないんですね。
「ドールコレクターはどうなったのでしょうか」
彼女も切り裂き円のように私の言う事など無視するでしょう。普段はちゃんと頼み事はこなしてくれるのに、こと殺人になるとこの二人聞く耳を持ってくれません。
そう考えていたら、外から声が、なにやら騒がしいです。
私は腰を上げて、窓を覗き込みます。
そこに移ったのは、定年を機に旅行中とか言ってた初老の夫婦ですか、二人が校庭を走って行きます。二人は後ろを気にしながら、お互い手を引いて駆け抜けていきます。
中央付近、オーナー達の死体がある辺りで、旦那さんの体が急によろけた、と思ったらすぐに前屈みに倒れました。
目を凝らすと、頭にボーガンの矢が刺さっていますね。地に伏せた夫を抱きかかえるようにしゃがんだ奥さんの方も、すぐに矢が飛んできたようです、最初は体に刺さり、間を置かずに今度は頭に突き刺さりました。なるほど、こうやって逃げる人を待ち構えていたわけですね。
夫婦の体が重なるように地面へと着く、それと同時に、黒い人影が校庭をさっと移動していきました。
ん、あれ暗くてはっきりしませんけど、ドールコレクターですよね。
初老夫婦を嗾けて、先に逃がした所で矢が飛んできた方向を見極めたのでしょうか。黒い影は一直線に校庭の隅へと姿を消しました。
「これで、三人ですかね・・・・・・残りは・・・・・・」
私も、そろそろ動きましょうか。
どうも、この愛好会、私の考えとはまるで異なる行動をとりますね。
じゃなきゃ、いくら殺人鬼が混ざっていたとしてももう少し対抗できたでしょうに。
「お、なんだ、動くか、レンレン自ら、珍しい、深緑深層のマーダーマーダー、ここに殺人鬼は、いない、ぞ」
溜息を一つ。
そりゃ、私だってできればこの部屋から出たくありませんよ。
でも、貴方達が好き勝手やるから、犠牲者が増えてくばっかりなのですもの。
他のお客さんを保護するとか、逃がそうといった概念がまるで皆無です。
だから、私がこのゲームさっさと終わらせます。
長い緑のグラデーション、その髪を掻き上げ、今度は私が夜の校舎に溶け込みます。




