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なんか、元レベルブレイカーが本をだしたみたい。

  この日、僕は蓮華ちゃんに呼び出されファミレスに。

 最近、この蓮華ちゃん、あの葵ちゃんと組んで色々やってるみたい、何をしてるか考えると嫌な事しか思いつかないので極力二人の事は頭に入れないようにしてたの。


 時間が空いたから僕をご飯に誘ったらしい。

 この前かなりお世話になったから二つ返事で了承したよ。

 局長にも、たまには人といっぱい話せって言われてるし。


 駅前で合流して、ファミレスに向かった。


「あぁ、久しぶりですね、お元気でしたか?」

「うん、そちらもおかわりなく」


 蓮華ちゃんは満面の笑みを僕に見せたので、僕もはにかんだ。


「でしてね、ドールコレクターはやはり優秀で、私も助かってるんですよ」

「そうなんだ、いっぱいこき使ってあげてよ。早く僕の所に来るようにさ」


 たわいない会話をしながら路地を歩いていくと、いつも利用している本屋が目に入った。


「あ、そうだ、読みたい本あるんだった、蓮華ちゃん、ちょっと待っててもらえる?」

「あ、はい。了解しました」


 丁度、今読んでた本が終わったから新しいの欲しかったんだよね。


「いらっしゃーい。おろ、リョナ子ちゃんじゃないの」

「おじさん、ご無沙汰です」


 常連だから顔見知り、いつもお勧めの本を紹介してくれたり仲がいい。


「えっと、業火の果実と、後、なにかいい本あります?」

「そうだねぇ、お勧めはしないけど、とても売れてる本があるよ」

「へぇ、どんな本?」


 僕が興味を示しそう尋ねると、おじさんの顔が少し曇った。


「今、話題の本さ。例の元レベルブレイカーが書いた書記だね」


「あぁ、それはいらないよ。読む気もないね」

 

 僕は結局、お目当ての本を一冊だけ買った。

 

ファミレスにつき、適当に料理を注文し一息ついた。

 先ほどの事が脳裏をちらつく。

 元レベルブレイカーの書記か。


 たしか、三人を猟奇的に殺害し、他に傷害、器物破損、その他もろもろの複合刑で最高レベルを超えた人物だったかな。でも元なのは、結局裁判の果てレベル4まで下げられたからだ。


 理由は二つ、まず未成年だったこと、そして精神に異常をきしていたこと。

 僕に言わせれば、人を殺す時点で精神がまともであるわけがないんだよ。

 そして、これほどの犯罪を犯してなお、更正するとも思えない。可能性がゼロではないから殺菜ちゃんのように表だっては言わないけど。


 そいつが十年以上の時を経て、書記を出した。

 当時、僕はまだ幼かったけどその事件は今でも覚えてる。とても印象的だった。


 当然、世間は騒いでいる。被害者遺族の断りもなく出版されたし、なにより殺した内容で対価を得られる。かなり売れてるみたいだから相当の額になるだろう。

 

 あぁ、日々汗水ながして真面目に働いてるのがおかしくなるね。

 まぁ、どれだけのお金をもらっても、僕は同じ事をしようとは思わないけど。

 刑に服した、だからもう一般人と同じ、とはいかないんだよ。

 被害者は一生苦しむんだ。時が和らげた記憶がまた蘇ってしまう。

 罪が消えることはない、人が決めた定義にどれほどの贖罪があるのだろうか。

 何を考えてこいつは本を出したのだろう。

 僕には理解できない。

 

 ふと、対面で口元を緩ませていた蓮華ちゃんと目が合った。

 もしかしたら、このレベルブレイカーをも捕らえる蓮華ちゃんなら答えを知っているのかも。


「ねぇ、蓮華ちゃん、もし葵ちゃんに過去の犯罪を本にしてみないかって聞いたらなんていうだろうね?」


 唐突な質問に、蓮華ちゃんは数秒考えたのち口を開いた。


「う~ん、書かないのではないでしょうか、ていうかいちいち覚えてませんよ、彼女は」

「・・・・・・そうか」


「あぁ、最近話題になってるあれですか? 元レベルブレイカーが書いたって書記の事」


 察しのいい、蓮華ちゃんがなぜこんな事を聞かれたかわかったみたい。


「・・・・・・うん、さっき本屋でちょっとね。いや、僕にはどうしても理解できなくて」


「理解できなくて当然ですよ。だって作者は一般人とは違う場所にいるのですから。私は、この人が本を出した事はおかしい事じゃないと思うんですよ。これを出す事によってどうなるか、どんな影響が出るかなんてそもそも考えてないんじゃないですかね、多分自分のためだけの物ですよ。それをいうならズレてるのは出版社の方かと。こちらは一応一般の人がやってるっていうなら目的はお金以外ありませんね。話題になるのは必然です、この本を買った人は見事に踊らされましたねぇ、この国にはサムの息子法なんてありませんし、出す事自体は別に法に触れませんし」


内容はちらりと耳に挟んだけど、事件の事だけじゃなくて、それ以前の虐待行為まで書いてあるとかなんとか。


「・・・・・・葵ちゃんも、動物とか殺してたのかな?」


 あれほどの殺人鬼だ。一般的な猟奇殺人者は虐待からエスカレートしていくケースが多い。


「いや、ドールコレクターはしてないでしょう。あれって自分より弱者をいたぶって心に余裕を持たせてるんです。それは、自分をそこまで落とさないと駄目っていう事。つまり、自分は理性もなけりゃ知性もそこまでしかない小動物並って認めてるようなものですからね。ドールコレクターは、一応理性はないけど知性はあるのでそんな事しないでしょう」


 少しほっとした自分がいた。


「じゃあ、ついでに聞くけど、よく動機で、人を殺してみたかったっていうのがあるけど。葵ちゃんも最初はそうだったのかな?」


「う~ん、好奇心という概念でなら、ドールコレクターにはなかったはずです。気づいたらもう数人殺した後って感じでしょう。そんな動機をいうのは偽物ですよ、殺人鬼ではない、ただの欠陥品。ドールコレクターや切り裂き円は、エスカレートなんてしません。偽物は徐々にブレーキを緩めて、最後にアクセルを踏み込む。でも彼女達は最初からベタ踏みでスタートするんです。この違いは犯罪の内容だけじゃ区別が難しいですね」


 たしかに、そういう動機の犯人てすぐ捕まるよね。

 ようは、突発的で理性がなく精神も脆い、計画性がなく先を考えてないから頭も良くない。


「僕も、散々執行してきたけど、分かるよ。本当にやばい奴と実は大した事ない奴。自分は人とは違うと思わせたいだけの奴も多いね。大抵、そういうのは少しつつけば泣き叫ぶ」


 やっぱり、一番厄介なのは、精神は異常だけど、知能がとても高い者。先を見渡せ、見据える目を持つ者。


「しかし、なんでこの元レベルブレイカー、実名で出さないんでしょうね? もう罪も償って一般人というのなら堂々と出せばいいのに。あぁ、そうですか、分かってるんですねぇ、自分がまだ許されて無い事に、世間がそれを認めてないことに。それはとても都合が良くて卑怯な行いです」


 話している間に料理が運ばれてきた。


「僕達拷問士はね、人の感情に敏感じゃなくちゃいけない。犯罪者がどんなに苦しいか、どんな痛みを感じるか、つねに考えて執行している。でも、それは人の気持ちを考えられるって事だ。僕は被害者と被害者家族に自分を置き換えたとき、どんな感情を抱くか、想像でしかないけど考えたんだ」


 湯気が立ちこめるハンバーグにナイフを通す。肉汁があふれ出た。


「それはきっと辛いんじゃないかな」


 愛する家族、可愛い子供が、どのように殺されたか、どのように扱われたか、例え遺族は読まなくても、世間にそれが知れ渡るって事だけはわかる。


 僕はこの先読むことはないだろう、だから内容についてはどうでもいい、この書記が犯罪者の抑止力になるかもしれない、逆に影響をうけた異常者がでてくるかもしれない。

 

 でもね、僕が殺された本人だったなら、興味本位でその殺され方が書かれた書記なんかに手を伸ばして欲しくはないね。

ちなみに50話目です。

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