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あのね、ちょっとイライラするの。(対殺し屋編・葵の五)

 これで残りは幹部二人、そしてボスの蛇苺。

 蛇苺はこっちがいくら探っても影すら見えない。

 円ちゃんと連名で犯罪者クラブの力も使ってるってのにね。


 この前は本当にしくじった、スイッチが入るともうどうでもよくなっちゃう。

 さっきまで強がってた男が、苦痛に顔を歪めながら泣き、涎まみれで叫ぶ、そんなの見せられたらもう止まるわけがないよ。

 ま、後二人いるし、今度はちゃんと聞き出そう。



 今日も同じ場所で昼ご飯、さすがに飽きてきたかも。


「姉御、違うとこがいい。ラーメン食べたい、食べる、駄目?」

「駄目だよぉ。それは夜にしよう」


 それは円ちゃんも同じみたい、でもここで食べる事には意味があるの。

 目立って自分自身を餌にするためだけど、これはハイレンズがプロだから出来ること。

 奴らが形振り構ってなかったら、ここはとっくに火の海になってる。

 車で乗り付けてマシンガンをぶっ放したり、手榴弾を投げ込むような雑な事はしない。プロ意識が高いから一般人を巻き込むことがないんだね。

 あくまで標的は私なんだ。


 テラスの席から空を見る。

 今日は天気が良くて視界がいい、さらに風もない。

 行動を起こす可能性が高いね。


「・・・・・・円ちゃん。やっぱりラーメンにしようか。でもその前にちょっと行ってもらいたい場所があるよ」

「え、ラーメン!? いく、味噌か、塩か。醤油か、豚骨っ!」


「うふふ、なんでも、何杯でも食べていいよ。でも、ちゃんと仕事ができたらね」

「わかった、やる、うーん、なにがいい、なににしよう」


 よっぽど食べたかったのかな、不満げだった顔が凄く嬉しそうにほころんだ。


 ここ数日一緒にいるけど、円ちゃんは当初の予想以上の働きを見せてくれた。

 身体能力もさることながら、頭の回転も速い。私同様に暴走はするけど、ちゃんと私の求める事を理解し、それに答えてくれる。最初は使い捨てくらいにしか思ってなかったけど、これはなかなかいい拾い物をしたよ。


 それじゃ、私は紅茶でも飲んで待ってよう、残り二人の幹部が私の前にそのうち転がってくるよ。

 その後は、このアッサムより赤いものが流れるだけだね。


 

 しっかりティータイムを楽しんだ後、私は円ちゃんと合流した。


 ビルの屋上に赴くと、やはり優秀だね、ちゃんと幹部の一人を捕らえていた。

 円ちゃんにやられたんだね、衣服は血だらけで、荒い呼吸を繰り返しながら地面に伏せている。

 その時の状況を円ちゃんに確認する、特に邪魔は入らなかったみたい。

 それ即ち、必然的にもう一方、妹に任せたほうも上手くいったって事だと思う。


 今の私は妹達とさえ連絡を完全に遮断しているからね、確信はないけどそうなった前提で今後の行動を決める。


「姉御、こいつはどうする? どうしちゃう?」


 問われて、円ちゃんに仕留められたハイレンズの幹部を見下げる。

 数カ所の刺し傷から血があふれ出てる。ほっとくと死んじゃうね。


「う~ん、スペアがあるからいらないかな。もう私達の尋問にも耐えられそうにもないしね。捨てちゃおうか」

「おぅーっ、捨てよう、ぽいぽいぽい!」


 男の手足を二人で持つ、フェイスはあったけどそんなに高くない。

 意識が朦朧としていた男をそのまま、高層ビルの頂上から投げ捨てた。

 私達はすぐに顔を突き出し数十メートル先に落下していく男の行く末を覗き込む。

 数秒の後、赤い液体を詰めた水風船が割れたように地面が染まった。

 それはここからでもよくわかる、灰色の地面に血が広がっていく。


「うくく、うくくくく、頭が割れて散らばった、うくくくく」

「まるで西瓜だね、いや柘榴かな。うふふ、下は大騒ぎだ」


 ニュースになるかな、でも自殺って事になるよ、いくら不自然な遺体だったとしても、彼はここに一人で訪れて、自身で飛び降りたってね。とても便利な力だ。どこもかしこも、今も昔も、国家権力てのは恐ろしいね、どんな事でもでっち上げられる。今まで何人の人間が理不尽にその力に飲まれてきたのか、想像すらできない。


「さて、あっちのビルに行こうか、できるだけ無傷でいてくれたらいいんだけど」


 私の描く道筋では、妹が最後の幹部を捕らえているはず。

 円ちゃんと違って慎重な子だから上手くやってくれてるよね。


 今まで私の考えが外れた事はない、いつだって正しい。

 もし、間違う事があるなら、それは私並の人間が横槍を入れてきた場合だけ。今の舞台、それが出来るのは蛇苺くらいなもの、だからきっと大丈夫。

 ほどなく私の耳にサイレンの音が聞こえ始める。


 円ちゃんにはもう少しラーメンを我慢してもらってもう一方のビルに向かった。

 途中予想外の事が起こる。

 歩いていた私達の前に現れたのは、妹の一人。

 お互い歩みを止めずに、すれ違う。そこで妹の動きが止まった。私も同じく足を止めた。


「あれ、なんでオーちゃんがここにいるのかな。リョナ子ちゃんの護衛を任せてたはずだけど」


 背中越しに問いかける。

 ここで初めて私は知ることになる。

 本来登場しないはずの演者が紛れ込んでいるということに。


「・・・・・・うふふ。困っちゃうなぁ。リョナ子ちゃんてば、お転婆が過ぎるよぉ。そこがまたいいんだけど」


 それにしても、よりによって彼女を引っ張りだして来たか。

 たしかに、これ以上の人材を私は知らない。

 なんせ私と蛇苺の間に割って入るんだからね。

 この私、殺人鬼ドールコレクターを追い詰め、捕らえた人物。

 唯一国家に認められた犯罪者専門のハンター、深緑深層のマーダーマーダー。

 いまでも時々夢に出てくるよ。


「でもねぇ、蓮華ちゃん。そこは私の場所なんだよねぇ・・・・・・」


 予定変更、お遊びはもうお終い。

 ここからは全力でハイレンズ、蛇苺を潰そうか。

 幸いにも、リョナ子ちゃん達がすでに連絡手段を得たみたい。妹を通して私にも伝わった。


「円ちゃん・・・・・・ちょっと大きい仕事任せるよ」

「ん? なに? なんでもできるよ、やるよ」


「ちょっと大きな虫が飛んでるみたい。たたき落としてもらうと、助かっちゃう」


 つねに一定のギアが、勝手に上がり出す。


「っん、姉御、どうした、なんか、あれ、心臓が、やばい、どくどくいってる、姉御・・・・・・顔がなんか、怖い」


 あぁ、駄目だ、どうしても想像しちゃう。

 リョナ子ちゃんの隣にいる蓮華ちゃんの姿が浮かぶ。

 本当に私は変わった。

 どんな状況でもいつも冷静に心が乱れることは無かったのに、今は全身の血が沸いている。 この行き場のない感情をどこにぶつければいいのだろう。



 例のビルに到着した。途中、下層の部屋から拘束されていた幹部を一人確保する。外傷は皆無、されど何かに怯えているようだった。

 流石リョナ子ちゃん、百戦錬磨の殺し屋相手に、どうやって無傷で情報を聞き出したのだろう。私には到底できない芸当。そこに痺れて憧れるんだけど。


 上まで運ぶのが面倒。私はまず男の口だけを自由にした。


「・・・・・・お、お前っ!? くそぉぁぁ、くそっ!! くそがぁぁぁ、全部テメェのせいでぇぇぇぇっ!」


 標的対象が目の前に現れて男は態度を豹変させた。

 直後、私の靴先が男の口に勢いよく飛び込んだ。

 上下の歯が一緒に放り込まれる。足先を喉の奥まで押し込みながら、見下げる。


「言葉には気をつけてね。今の私はとても機嫌が悪いんだよぉ」


 残念だけど、こいつは重要な人質だから今殺すわけにはいかない。本当ならグチャグチャに解体してやりたいけど、なんとか堪える。


「縄を解いてあげるよ。でも妙な事したら・・・・・・わかるね?」


 これ以上進まないけど、関係無しに足を喉に食い込ませる。


「ごほぉっ、ごふぁあっ! あぅがぇっ! ううああは、ぐへあぁ、うげぇあっ!!!」


 嗚咽と涎、涙を流しながら男は小さく何度も頷いた。


「本当? ちゃんとわかった? 嘘じゃない? 誓える? 今すぐ死ぬ? 嫌だよね? 生きたいよね? 死にたくないよね? スイッチが切られるように、ブチって、なにもかも真っ暗で、その先にはなにもない暗闇で、そんな場所に、逝きたい? 巡る血も、鼓動する心臓も、思考する脳も、なにもかも、停止して・・・・・・」


 咳き込もうが、嘔吐しようが、構わない、口蓋垂や咽頭口部にブーツの頭をぶつけては僅かに離し、また押し込める。片方の足で首を踏みつけ逃げられないようにして、それを何度も繰り返した。


 そう、殺しはしない、でもその寸前までは体験してもらう。


 抵抗して、もししくじったら、これと同じ事をまたされると思い込ませる。

 私には決して逆らってはいけないと心に刻みつける。


 ついでに、目を見開いて、ありったけの殺意をぶつけ続ける。

 お前はマネキン、肉人形、私の前ではただの木偶の坊。

 顔が真っ青になってきた。頸動脈を抑えて口を塞いでるんだもん、当然だね。

 三途の川が見えたなら、そろそろ戻ってきてもらおう。

 これでちゃんと、自分の足で上に行ってくれるよね。


男を連れて、私達は屋上に立った。

 同時に今まで切っていたスマホの電源を入れた。

 足下には大きなHのマーク。

 程なく、頭上から轟音と突風が襲う。

 片手で髪を、片手でスカートを押さえながら、見上げると一台のヘリが降りてきた。


「よーし、円ちゃん、いよいよ舞台の終演は近いよ。張り切っていこうか」

「おうぃえぇえぇっ! 終わったら、ラーメン、いっぱい、食うっ!」

 

 撒き散らされる風の中、私達は最終ステージへと。

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