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あのね、ゲームをするの。(対殺し屋編・葵の四)

 いつもの場所でランチをとる。

 そろそろ接触してきてもいい頃なのに、その気配がない。

 ハイレンズの名を語って、好き勝手やってるのに一向に釣れないね。


「あ、姉御、もぐもぐ、これから、くちゃくちゃ、どうする、どうしたらいい??」


 対面には必死に料理を口に詰め込む円ちゃん。とにかく食べ方が汚い。


「円ちゃん、喋るか食べるかどちらかにしなよぉ、育ちが知れるよぉ」


 まぁ私達は殺人鬼だからまともな生き方などしてきたはずもなく。


 蜘蛛の巣にかからないなら、それはそれで今まで通りマッチポンプを続けるだけだよ。その間ずっと殺して回れるからね。

 拠点のいくつかは潰したから、今日は残りを巡ってみようかな。


 なにもないなら・・・・・・、そう思ってたけど予定変更。どうやら動いたみたい。

 食事を終え、立ち上がる。

 

自然に笑みが零れた、いけない、いけない、つい顔に出ちゃったよ。


「円ちゃん、次の場所が決まったよ、その前にちょっと買い物していこうか」

「ふげ、そうなの? わかった、どこへでもっ!」


 デザートの皿を舌で舐めながら円ちゃんも立ち上がった。食べ方は汚いけど、皿はピカピカだね。


「あれと、あれもいるね。後は、そうだね、用意しとこうか・・・・・・」


 お会計を済ませる、レシートは二つ。

 その一つにメモを残した。



 準備が整えると、ハイレンズの拠点に出向く。

 と言っても主に下っ端が利用する場所だね。

 解体が進んでない、元ボーリング場が溜まり場になってる。


 辺りはもう真っ暗、でも月が出ていて私達を朧気に照らしていた。


「ん、円ちゃんはここで待ってて、10分経ったら中に来て。それまでは荷物見ててね」

「姉御、独りで行くの? 私は? 私は居なくても、いいのかっ、姉御がいうならいいよね」


 円ちゃんには両手いっぱいに荷物を持たせていたから、ここで少し休んでいてもらおう。


「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


 こうして私は単身、建物の中へと足を踏み入れた。

 手提げバックを一つだけ抱えて。


 明かりはない、ゴミなどが散乱する一階には気配がなかった。

 でも、確実にここにいるはず。てことは二階かな。

 動いてないエスカレーターを上り奥へと進む。

 

 通路の先に光りが見えた。

 二階部分がボーリング場だから、あそこから入れば連なるレーンがあるはず。

 以前は賑わってたみたいだけど、複合施設におされボーリングだけではやっていけなくなったんだって。

 

 広い空間が私を迎える。

 いくつかの照明が付いてて、辛うじて中の様子は見て取れた。


「いらっしゃーいっ!」


 ボールの出てくる所に腰掛ける人影。

 私に声をかけてきたのは、坊主頭の男だった。大柄ではないけどかなり鍛えてるみたい、服の上からでもそれはわかった。

他に6人の男達が、彼を囲んでいた。


 位置的にあいつが頭だね。

 目の周辺が黒くて、目付きがかなり悪い、睨んでいるわけではないのに私を見る眼光は鋭かった。明らかに他の者とは雰囲気が違う。いくつもの修羅場を潜ってきた自信と誇りに満ちている。


 7人だけじゃなかった。私の退路を塞ぐように後ろに三人、物陰から出てきたの。

 ま、気づいてたけどね、これで10人、他にはいなそう。


「お前か、うちの名前で散々遊んでくれてんのは・・・・・・」


 坊主頭が立ち上がった。置いてあったナイフを持ち上げた。

 かなり長い。ナイフというより刀剣に近いね。

 本来山などで草や低木を切り開いて進路を確保するための刃物だよ。

 そのロングブレードを男は私に向けた。


「お嬢ちゃん、悪ふざけが過ぎたなぁ、とりあえず楽には死ねないからな。ここにいる全員に無茶苦茶にされた後に、そうだなぁ、このナイフで切り刻んで最後につっこんでやるかぁ」


 男が得意げに刀身を振り回し始めた。

 この人は、間違いなくハイレンズの幹部の一人だ。

 ボスである蛇苺以外は顔がわれてるから、私は顔を見た瞬間分かった。


 この男、軍人崩れだけど、戦闘能力はとても高い。サシでやったらどうかな、私負けちゃうかも。

 一般人相手ならプロレスラーにだって簡単に勝てるだろうけど、今回はそうはいかない。

 私は特に力が強いわけでもないし、格闘技に長けてるわけでもない。

 そんな私が、優位に立てる理由は、ただ一つ。

 殺す事に特化しているからだよ。一切の躊躇も戸惑いもなくナイフを振るえるの。

 普通の人が持ち合わせている理性や倫理といったストッパーがないから、つねにリミッターが外れてぱなし。


 それは円ちゃんも同じ、そして、この男もそうなんだ。

 となると、身体能力が高いあちらが圧倒的有利。

 さらに、他にも手下が9人いて全部で10人。

 さすがにこれじゃ勝ち目はないよね。


 そう、10人が相手だったらね。


「お前ら、逃がすなよぉ、入り口ちゃんと抑えておけよぉー」


 男がそう言うと、他の者達が銃を構えた。


 坊主幹部が腰を落として、今か今かと私に飛びかかろうとしている。

 私は、特に動かない。ただ静かに立っていた。

 別に諦めたわけではない、闘うつもりもない。

 

 そして、銃声が一斉に響いた。


「うあがかかはぁああ? あ? あがが??」


 銃弾は幹部の両足に撃ち込まれた。溜まらずその場で転げ込む。

 後ろにいた仲間達が引き金を引いたのだ。

 男はなにが起こったか、まだ理解してなさそうだった。


「は?! はぁあ? な、なにしてん、なにしてんだぁぁあぁ、あぁぁぁ???」


 首を捻って必死に仲間へ問いただしていた。

 そんな男の前に、私は手に持っていたバックを投げる。

 中から札束がどっさり床に零れる。


「殺人鬼は殺したいから殺す。殺し屋は金で殺す。これがこの結果だよ」


 お昼の時点で幹部が動くという情報は得ていた。

 いつものランチ時間、それが定時連絡の機会。

 私の後ろの席には、妹がいてその都度情報を私に流してくれていたの。

 それを知った私は、妹に指示を出してあらかじめこの末端どもを懐柔したってわけ。


 抱え込むのは簡単なの、だってこいつらは屑だから。情や仲間意識なんてのは金が絡むと一瞬でどこかに消え去ってしまう。

 使いぱしりには勿体ないほどの大金をばらまいた。どうせ、私のお金じゃないしね、これは必要経費。なんせ私のスポンサーは国なんだからいくらでもおとせるの。


「姉御ー、姉御ー、どこー、どこにいるー、どこらへんにいるー」


 丁度、円ちゃんが来たみたい。

 それじゃあ、ここからは私達の時間を始めよう。



 重そうな荷物を持った円ちゃんと合流すると、その耳に囁く。


 言い終わると、私達は同時に動いた。左右に散る。

 手にはナイフ、金に群がる男達の体に突き刺していく。

 殺しはしない、ただ動けない程度に弱らせるだけ。

 こいつらは坊主幹部と違って、素人に毛がはいた程度だからやるのは簡単だった。

 何人かは銃を撃ったけど、左に避ければ、あら不思議全く当たらなくなる。手だけで追うから腋が甘くなる、とんだ素人だよ。


 ものの数分でここにいた男達は全員床に伏せた。

 いつもと違うのは、まだみんな生きてるって事だけ。

 幹部だけを椅子に縛り付けた。


「円ちゃん、あれ出して」

「あいさ」


 円ちゃんが取り出したのは、(なんか打つやつ)。あれを打ち込む銃みたいな工具だね。


「さて、蛇苺の事聞くね。でも、ただ聞くのもつまらないから円ちゃんとゲームしながらにするよ」


 私は円ちゃんとジャンケンをして先行を決めた。私が負けたから円ちゃんが先だね。


「先に口を割らした方が勝ちにしよう。間隔は10秒ね」

「うん、うん、わかった、じゃあ、やる、やるのだっ!」


 (あれ)を男に向ける。円ちゃんは位置を迷っていた。


「お、おい、なにする気だ、おい、おいおい」


 最初の場所が決まったみたい。円ちゃんは右肩に機械をあてがった。

〈円活躍中〉


「あぎゃぁががっがあかかぁっぁぁ」


 同時に男は上半身を激しく揺らし、悲鳴を上げた。


「はい、じゃあ姉御、姉御の番、次、どこにしよ、どうしよ」


 〈葵活躍中〉。


「ふあがががあぁあ」


 これいいね、突き刺さったまんまだから血もそこまで流れない。


「はい、円ちゃん」


 今度は決めていたのか、円ちゃんは即座に横腹に一撃。

 同時に絹を裂く叫び。

 私達はこれを交互にやっていった。


「いう、いうからっ! いう、ぁああああがっががぎゃぁぁ」


 ピアスの穴を開けてみた。普通より大分大きいけど。


「ひぃあぁ、はいあ、いう、って言ってんだろうあがぁぁっぁぁぁはやああが」


 円ちゃんが顎に発射、何か言ってたけど途中で分からなくなっちゃった。


「くふふふふふ、顎に、なんかマーク、くふふふふふ、格好いい、くふふ」


 なにか壺に入ったみたいで、円ちゃん楽しそう。

 よーし、私も負けないぞ。


「耳の次は、鼻にピアスしようか」


 中々位置取りが難しいけど、なんとか左から右へと銀の棒が貫通した。これだけですごく間抜けな顔になった。


「おぅふ、姉御やる、私も、負けない、目、目いく、いくのだ」


 おぉっと、ここで行くのか、目に行っちゃうのかぁ。

 もうこの時、私も変なテンションになってたのは間違いない。


「いけぇぇ、どぉぉぉん、ひっはぁぁあっ!」


 〈円活躍中〉。これは男も頭を狂ったように振り回している。もはや声にもならない。


「円ちゃん、次、次、私も、もう駄目、あそこやっちゃうよ」


 取り上げるように〈葵活躍中〉。


「姉御、はい、はい、私、私の番、もっかい目いく、残りの目いくっ!」


 待ちきれない、円ちゃんも嬉々としてゲームを続ける。



 たしか、額に打った時かな、ここで、男がもう口を開けたまま動かなかった事に気づいたのは。



 つい夢中でなにも聞けなかったよ。でも楽しめたからいいかな。

 他の連中では蛇苺の事は知るよしもないだろうし、もう終わりにしよう。


「円ちゃん、そっちお願い」


 私は、ボトルの液体を周囲にばらまいていく。円ちゃんも同様の行動をとった。

 床は光を反射してキラキラに、そして鼻につく匂いが充満してきた。


「お、おい、約束、約束が違う・・・・・・お願い、やめてくれ、お願いだ、助けてくれ」


 私達の行動に、なんとなく予想できたみたい、男の一人が涙目でそう口にした。


「ん? 別に約束は破ってないよ。このお金はあげるよぉ」


 全部撒き終えると、床から札束一つを取り上げた。


「地獄の沙汰もなんとやらだよ、だから安心だね」


 ライターを取り出すと、お札に火をつけた。


「うふふ、大正の成金になったみたい」


 それをそのまま、床に投げつけた。


 瞬間、火が上がる。燃え広がっていく。炎はこの場を赤く染めていった。

 肌に熱風が当たる、まだ暖かいくらい。

 ただ瞳が痛くなるほど、煌々と照らすオレンジの炎は、次第に範囲を広げていった。


「普通はね、確実に殺してからこういう事するんだけど、別に生きてても問題ないもんね」


 生き残るとも思えないけど。

 炎の中で人影は悶え苦しむように蠢いていた。

 芋虫が9匹、焼け焦げていく。

 それを目に写した後、私達はこの場を去る。


 外に出ると、建物は二階部分から業火が上がり勢いを増していた。


「これで解体する手間が省けたんじゃないかな」

「うくく、姉御、いいことしたね、私達が、良いこと、うくく」


 今日は少しはしゃぎすぎたよ、反省しなきゃ。

 でも、まだ幹部は残ってるし、今度ちゃんとすればいいよね。


 来る時は月明かりが優しく照らしていたのに。

 今はとっても、激しい光が私達を包み込んでいた。

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