あのね、円ちゃんと一緒なの。(対殺し屋編・葵の三)
派手に暴れるよ。
鎖は千切った。
足枷は外した。
それどころか翼さえ生えたよう。
「こんばんはー」
次官の家に夜分遅くごめんなさい。
私は円ちゃんを引き連れて玄関先のチャイムを押す。
ご主人はまだ仕事で戻ってないのは確認済み。
インターフォン越しに映ったのが、女の子だとわかると、あちらも油断してドアをすんなり開けてくれた。
駄目だよぉ、姿だけで判断するのは。
強面だけど、優しい人はいるし。
正義感を振りまいてる警官だって屑はいる。
世の中のためと熱弁する政治家にもゲスはね。
そして、可憐な少女が殺人鬼だって事も往々にしてあるんだよぉ。
応対してくれた奥さんの首元を掴んだ。
そして力を込める。指が食い込むほど、爪が刺さるほど強く。
後ろから入ってきた円ちゃんが、〈円活躍中〉。
奥さんは黒目をぎゅるんと上瞼に吸い込まれて白目を剥いたよ。
手にかかる体重が一気に重くなる、だから私は放り投げるように前に倒した。
マネキンのように転がる奥さんを残し、私達は奥へと進む。鍵はちゃんとかけました。
一応、男性用の靴を履いてきたよ。よくそこら辺で売ってるやつだから、特定は難しい。
サイズはぶかぶかだけど、歩くだけなら支障はない。
物音を聞いて、リビングにいた娘さんが廊下に顔を出した。
その瞬間、額に飛んできたナイフが根元まで刺さった。
「お、円ちゃんやるねぇ」
「テレビでやって、た、で、自分でも出来ないかって思った、のだっ! 殺した奴でね、練習したん、だっ! そしたら、そしたら、何回も失敗した、うくくくくく」
「頭に林檎でも乗せたの?」
「うんうん、それやった、でね、上手くいかなくて、顔にどーんだよ、うくくくくっ!」
「じゃあ、上達したんだねぇ」
「そう、そうなの。今はもう、目とかに当てれる、まじ、すごい、私、やばいよ」
円ちゃんは褒められてかなり上機嫌だった。
後は、弟もいたよね。部屋かな。
「円ちゃんは、あの奥さんと、この娘さんの(あれをあーして)、後は適当に傷つけといて。なんならそこら辺にある物使っていいから」
「う、うん、了解、任せて、全部、埋めとくよ」
ここは円ちゃんに頼んで、私は二階へ上がる。
間取りは調べたけど、部屋の割り当てまではわからない。
広さ的にここかな。
「ビンゴだね」
二階にある部屋に入った。
ノックもせずにいきなり開けたら、少年がびっくりしてあたふたしてた。
パソコンを操作していたみたい。
「だ、誰っ!?」
驚愕してこちらを見ているのは間違いなくここの息子さんだろう。まだ幼いね。これなら大丈夫そう。
「どうも、どうも~。葵だよ」
軽く挨拶。私が名前を告げるって事はつまりそういう事。
「なに、してたのかなぁ~? お姉さんに事細かく教えてもらえないかなぁ」
私は男が嫌いだけど、少年はまた別なのだ。この位ならまだ私の範囲に収まっちゃう。
突然の見知らぬ来訪者。
右手にナイフを握ってたからだね、男の子は怯えてもう声も出さない。
近づいて、喉元にナイフを突きつけた。
「いいねぇ、肌も綺麗で、このままでいられればいいのにね、すぐに男になっちゃうもん」
開いてる方の手で、頬を撫でる。滑られていき、顎、首すじを優しく擦っていく。
「ごめんね、私の都合で理不尽にも君の道はここで途切れちゃうけど・・・・・・」
最後に色々教えてあげよう。この世に未練を残さぬよう、死んでもいいと思えるような。
Tシャツの襟元から手を入れる。そのまま上半身を撫でていく。
「・・・・・・あ」
弄ってあげると、少年は無意識に声を上げた。
この反応が面白くて、私も続けた。
〈葵ちゃん活躍中〉。
「うふふ、じゃあ(あれしようか)。お姉さんは残念、このままだけど」
私の体は半壊してるから、見せたら萎んじゃうもんね。
万歳させて、Tシャツをはぎ取った。
ここから、痛みと快感を同時に与えてくよ。
友達がうらやむような体験を経験させた後、ちゃんと殺してあげるからね。
少年の顔が天井を向いている。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
壊れたレコーダーのように同じ音を繰り返し発していた。
涙と涎と、後色々流して、少年は痙攣していた。
「せめてものお詫びだよぉ、本当は奥さんと娘ちゃんも楽しませてあげたかったけど、円ちゃんがすぐ殺しちゃっうんだもん。あっちが本領なのにさ」
もう少年の耳には届いていない。
さて、どうしよう。
未だに衰えないアレを取っちゃうかな。
これで本当に女の子みたいになれるよ。
あぁ、今度は女装させるのもありだね。別の機会があったらやってみよう。
事を終え、一階に戻ると、円ちゃんはまだ仕事をしていた。
「うわぁ」
リビングが〈円活躍中〉。
「円ちゃん、そろそろ帰るよ。もういいんじゃない?」
円ちゃんは二人の母娘から〈円活躍中〉。
「う、うん。もう少し、後少し、母親の方が大きいから、成長した場合の、娘の・・・・・・」
う~ん、ドールコレクターとしての私から見たら、全然駄目だね。
円ちゃんのは積み木を並べてる子供だよ。
「ふぅ、円ちゃん、そこは違うよぅ。これをね、こっちにした方が・・・・・・」
「おおっ! さすが、葵、の姉貴っ! そんな、発想は、ない、なかった、出てこないっ!」
褒められて私もまんざらじゃなかった。
だから、少しだけ教えてあげよう。
私達は、その後もうちょっとだけこの家に留まった。
「えっと、これがハイレンズの方にするから。こっちの方のもやらなきゃね」
同時に動いてるように見せなくちゃだよ。
でも、面倒ではない。むしろ心が躍るの。
「あ、姉御、次、この後は、どこ、どこ行く?」
「そうだねぇ、ハイレンズの末端が集まる所に行こうか。纏まってくれてるといいんだけど」
そこではなにをしよう。
そうだ、さっきのナイフ投げを円ちゃんに教えてもらおう。
私なら最初から出来そうだけどね。
それならダーツで競うのも面白いかも。
ダブルブルが鼻かな。
顔が20点、眉間がトリプル、最高得点。
うふふ、考えたらわくわくしてきた。
「よし、円ちゃん、行くよ。まだ夜は始まったばかりだっ!」
「お、おう、どこまでも、姉御と、共にっ!」
こうして私達は夜の闇に消えていくのであります。
まさか、今日で自分の人生が終わるなんて誰も思ってないだろうね。
でもね、人はいつ死ぬか分からないから。
だから、今を精一杯楽しまなくちゃ、だよ。