表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/167

あのね、下拵えは大事なの。(対殺し屋編・葵の二)

  時系列を考えて妹の切り離された頭部を冷凍保存する。

 身体は用済みなので、細かくあれして燃えるゴミと一緒に捨てる。


 後は、機関のお偉いさんにも協力してもらおう。

 誰でもいい、上官の一人を捕まえてこようと思うの。

 


 自宅前、車を降りたところで拘束した。刃物を見せたら萎縮して全く抵抗しなかったよ。


 山奥の廃墟、とうに潰れたペンション跡に連れて行き、男を椅子に縛り付けた。

 場所を特定されないように、周りを白い紙を敷き詰めて覆う。

 ビデオを男の前にセットして、準備は完了。


 チェーンソーのエンジンをかけた、大きな音が反響する。この音五月蝿くて好きじゃない。

 でも、できるだけ派手にいきたいの。インパクトは大事だよね。

 男は、これからなにをされるのか察したのか、顔を戦慄させた。目を大きく開いて、何か喚いてるけど、生憎なにも聞こえないの。全部かき消されちゃう。

 画面に映り込まないように、高速で回転する刃先だけを突き出す。

 男の頭上へ近づけていく。

 

 そして〈葵ちゃん活躍中〉 

 返り血と返り(あれ)を浴びながら、私はキャッキャッと喚いた。口には出さない、心で叫ぶ。

 

 これで機関も動き出す。

 そして私は自由になれる。

 解き放たれた私がどうなるか、もう自分でも分からない。

 ただ、本能と欲望を丸出しに行動するだろう。

 スタートはきった、ここからが本番だよ。



 全てを巻き込むといっても、リョナ子ちゃんに危害が及んではいけない。

 私が標的になれば、ハイレンズは徹底的に周辺を調査するはず。


 一般人のリョナ子ちゃんを巻き込むとは考えづらいけど、用心に超したことはない。

私は忙しくなるから、実行役でもある妹を護衛につけよう。腕は確かだし、それなりに信用もあるから任せてもいいよね。


 となると、戦闘役が足りないかな。流石に私一人で殺し屋集団と渡り合うには手が足りない。基本的に他の妹達は裏方役が多いから、荒事でかり出せるのは実質、後一人。


 駒、駒、変わりの駒。別に死んでもよくて、それなりに使える者がいいなぁ。

 

 記憶を辿る、心当たりを探っていく。そしてたどり着く。


「あぁ、一人いいのがいるねぇ」


 ちゃんと狂ってて、殺しに一切の躊躇がない、一線級の殺人鬼。


 思い当たった時に、丁度私の携帯が震えた。

 大体時間通りだね、送ったディスクはちゃんと見てくれたみたい。



 携帯を耳に当てながら、留置場を歩いて行く。


「うん、それが条件だよ、それくらいじゃないと太刀打ち出来ない。殺されたいなら別だよぅ、いかに先手を取るかが重要だから。もう、すでに来てるからこっちは解放するね。後は、さっきの条件を上で話合ってね。もう選択の余地はないだろうけど、体裁は欲しいもんね」


 リョナ子ちゃん達、拷問士の執行を一時的に待つための施設。

 凶悪犯ほど奥に、そして厳重に隔離されてる。

 いくつもの鉄格子を抜けて、私は最深部で足を止めた。


 白い拘束具で全身の機能を制約。

 目も口も、手も足も全部塞がれてる。

 点滴だけで食事も与えられない、排泄も垂れ流し。

 中央に一本立っているポールに固定され、身動きが一切取れない状態。

 懐かしいね、私もちょっと前までこれされてたよ。


 数人の警備員が、ビクビクしながら監獄の鍵を開けた。

 私だけが中に入る。

 こんななにもできない相手に、男達は籠の外から皆銃を構えて狙いをつけていた。

 いくらなんでも警戒しすぎだよ。

 まぁ、この手の輩は、一瞬でも隙があったら、殺しにかかるけどね。ありがち間違ってない対応だよ。


「離れてて、これ外すよ」


 私は、ベルトを一つずつ、上から取り外していく。

 幾重にも、キツく肉に食い込んでいた物を解き放つ。

 目隠し、ギャグを最後に取り払った。


 警備員達の体が強ばっているのがわかる。いつ拳銃を撃ってもおかしくないほど、緊迫していた。危なかしいなぁ。それを背にしている私も気が気じゃないよ。


  

ずっと視界を塞がれていたからまだ目が慣れてない、瞳は虚ろで視力が回復してなかったみたい。

 だからかな、自由にした瞬間、少女は私に襲いかかってきたの。


「うがぁぁっぁぁぁっぁぁっ!!」


 口を大きく開け、喉元に噛みつくように飛びかかってきた。

 まるで狂犬、私はさっと、身を躱すと、足をかけて相手のバランスを崩した。


 地面に倒れた女の顔面を、つま先で思いっきり蹴り上げる。

 鼻から血が噴き出した。コンクリートの床、その凹凸に血が染みこんでいく。


「駄目だよぅ、ちゃんと誰だか確認しなきゃ、じゃなきゃ死んじゃうよ」


 今度はお腹を蹴る、柔らかい腹部に靴が食い込んでいく、それを四、五回、そして咳き込み寝転がる少女の体を足で転がし仰向けにした。胸を片足で踏みつける。


「げがはさっっ、ごひゃおっ! ぎゅあが・・・・・・あ、あ、あ、これは、げぼ、これは、ド、ドールコレクターでしたか、あは、これは、これは失礼をばぁあ、ぶがぇ」


 目が慣れてきたみたい、女は私が誰だかここでやっとわかった。

 しゃがんで顔を覗き込む。髪を掴んで頭を持ち上げると、これでもかというほど目と目を近づける。


「久しぶりぃ、喜んで、少しの間だけここから出してあげるね。でも、自由ではないよ、私の言う事だけ聞かなきゃだよ。分かったら、頷いて」


 刷り込むように、練り込むように、私は彼女にそう告げた。

 止まらない鼻血を流しながら、少女はゆっくり、しっかりと頷いた。


「良い子だね、じゃあ、これからよろしくね、円ちゃん」


 私がそう言うと、ギザギザの歯を見せながら、円ちゃんはへらへらと笑っていた。


 レベルブレイカー、切り裂き円をゲットだよ。

 これで戦闘態勢は整った。後は、機関の決定を待つだけだね。

 話合っても、もう決定は揺るがないのにとんだ茶番だね、どうも偉い人は会議が好きみたい。


 それまで、リョナ子ちゃん会ってこようかな。

 しばらく顔を見られないからね。

 彼女の顔を見れば、彼女と語れれば、私はもっと頑張れる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ