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あのね、もう限界なの。(対殺し屋編・葵の一)

葵ちゃん視点の番外編です。

  例えば、水を注いだビーカーの下に火を点したアルコールランプを滑らす。


 最初はぷつぷつと水疱が上がる程度。

 しかし、それはやがて大きく激しく水面を揺らすんだよ。


 今の私はそんな状態。

 捕まってから、今まで誰も殺してない。

 最悪の殺人鬼、ドールコレクターと呼ばれる私がだよ。

 おかしいよね、殺人鬼は人を殺すからこそ殺人鬼なのに。


 最近では人を見る度、強い殺人衝動がわき起こる。

 血管が浮き出る首を裂き、胸に突き刺し、切り刻みたくなる。


 でも、そんなことをしたら、折角今まで頑張って来た事が全部無駄になっちゃう。

 私の目的は、リョナ子ちゃんに執行してもらうこと、ただ一つ。

 繊細な技と豪快な手並み、相反する静と動を巧みに使い分ける。無慈悲に、まるで粘土細工をこねるように。並の殺し屋や殺人鬼では足下に及ばない殺しのテクニック。


 初めて執行してもらったときは、全身が歓喜に沸いた。

 初めて私を超える者に出会った。


 いくつもの命を散らしてきた私だけど、自身の生は一つだけ。

 どうせ、死ぬなら、彼女の手で終わらせてもらいたい。

 それが私のこの世で最後の願い。


 機関からあてがわれた部屋で目を覚ます。

 ベットと冷蔵庫、少しの生活必需品があるくらい。ただただ白い部屋。

 他にあるとしたら、トイレやお風呂場にまで設置してある監視カメラくらいかな。


「・・・・・・・・・・・・」


 上半身を起こした。


 手の感覚を確かめるように、軽く握る。

 夢の中で何人殺しただろう。明晰夢、色も感触も確かに感じた。

 過去、私がした事が再現されていたのか、それでも夢は夢。

 血を浴びながら愉悦に浸っていたのは、現実の私ではない。

 

 あぁ、もう限界だよぅ。


 でも、今、罪を犯せば問答無用で殺処分されるかもしれない。


 この国の制度、拷問士によるレベル別執行。

 私は、あまりに人を殺しすぎてレベルブレイカー、いわゆる規定外になってるの。最高刑であるレベル7でも償えない罪。それを国家に協力することでレベルを下げている最中。折角コツコツと犬の真似事でリョナ子ちゃんが待つ執行室に近づいてきているのに、また逆戻りはごめんだよ。


 あぁ、でも本当限界。


 思う存分楽しみたい。パーティーを始めたい。

 でも、そんな事をすれば・・・・・・。リョナ子ちゃんも怒っちゃうよね。


 じゃあ、どうしよう。


 あぁ、そうか、公認にすればいいんだ。今は、鎖でグルグル巻きにされてるけど、それを取り払えばいい。国家が認めれば、それは略奪や陵辱、殺戮に破壊が曖昧にされる戦時下のように振る舞える。


 うふふ、そうと決まれば早速行動だよ。

 まずは宴の準備を始めよう。



 私の行動はつねに把握されてる。部屋の入室から、現在位置まで見張られてるの。

 これらをかいくぐるのは不可能。

 体に埋め込まれているであろう探知機の場所は大体想像がつく。数度の執行のさい、リョナ子ちゃんが意図的に避けていた部分が何カ所かあった。多分、そこら辺の肉を抉ればそれらしいものが出てくるはずだね。


 ま、そんな事しなくても、監視してる者を懐柔すればいいかな。方法はいくらでもある、弱みを握るも、ハニートラップをかけるも、それこそ脅してもいい。陥れるのは簡単だよ。

 

 後は、私の制約を解く鍵も欲しい。今のままでは太刀打ち出来ないほどの対抗馬。機関が渋々でも私の首輪を外すほどの敵。


 何個か心当たりがあるから、まずは最初の一手を打つとしよう。



 私は有名な殺し屋集団であるハイレンズを利用することに決めた。

 バーで一人、酒を煽っていた幹部の一人を、妹を使って連れ出した。

 葵シスターズ、私の手足となって働いてくれる七人の妹達。その中でも一番可愛い子を使ったんだもん、殺し屋をいっても男、下半身には忠実なのだ。


 ホテルの一室に誘い出すと、そこに隠れ、待ち構えていた私のナイフが振り降ろされた。 


「こんばんわ、早速だけどちょっと九割方死んでもらうね」


 もうすでに〈葵ちゃん活躍中〉 

 久々だよ、〈葵ちゃん活躍中〉。


 抵抗されると厄介なので、続けざまに視界を奪う、横凪の刃線が男の顔に真っ直ぐ引かれた。 

 そして〈葵ちゃん活躍中〉。


 大声を出されるのも困る。倒れた男の喉目掛けて靴先で蹴り上げる。潰れるまで、これまた何度も何度も、たまに踏みつけたりもした。

 ここまでを流れるように一瞬でやり終えた。


「ハイレンズの連中が激昂するまでやるね。仲間にその無様な姿いっぱい見て貰おうね」


 これは宣戦布告だから、生半可な痛めつけ方じゃ足りないと思う。

 殺し屋ってのは本来闇の中を蠢いている、表に出すにはそれ相応にならないと。


「解放を望まれると面倒だね。シナリオが狂う。だから、殺さないまでも五体に五感辺りは不満足にするよ」 


 リョナ子ちゃんならいとも容易くやるんだろうけど、私は素人だからギリギリで生かすなんて難しい。上手く(あれ)さんになってくれればいいのだけど。



 数時間後、それなりに肉体を破壊した。一応構造を頭に入れながらやったの。そのかいあって男は痙攣してるけどちゃんと生きてる。

 カメラでその姿を激写していく。


「お姉ちゃん、それどうするの?」


 妹がその様子を眺めながら聞いてきた。詳しくは話してないから不思議に思ったんだね。


「うんとね、ハイレンズのボスのとこに届くように、パイプに乗せてばらまくよ。これで誘いに乗ってきれるといいのだけど・・・・・・」


 とりあえず駒の一つは用意できた。


 後やることは・・・・・・。


「あ、丁度いいや、そうしよう」


 私は血で染まったナイフを握り直した。

 そして、近くにいた妹の胸に深く埋めた。


「・・・・・・え・・・・・・」


 七人の妹達には役割がある。情報提供、武器や資材の調達、実行役、各所パイプ役。

 この子は情報屋で、他にもう一人その役目を担う子がいる。それに一番替えがきく部分だから、別にいいよね。


 殺し屋といっても利用するのはプロ集団、一般人を巻き込むとは考えにくい。


 私だけを標的にされても、機関はそこまで問題視しない。


 それじゃあ駄目だよね。元々私は死刑囚だし、別に死んでも構わない、所詮使い捨ての駒なんだよ。私の制約を解きつつ、さらに権限を持つには全部を巻き込まなきゃ。

 人は自分が当事者になって初めて物事を考える。

 自身に危険が及ぶ事になれば、私の対応も変えるだろう。


「ごめんね、ちょっと手伝ってもらうね。馬鹿な機関にも構図が分かりやすいようにしたいんだ」


 ナイフをきつく握った手を捻る。その瞬間、妹の口から血がゴフリと逆流した。

 

 あ、死んじゃう。あ、あ、我慢してたのに。死んじゃう、死んじゃう。


 目一杯見開く瞳は、私をじっと見ていた。

 妹は、最後の力を振り絞って私の両腕を掴んだ。指が食い込む。

 でも、それはすぐに弱弱しくこぼれ落ちた。ナイフを抜くと体も綺麗に床へ倒れる。


「うふふ、うふふふふふふ、うふふふふふふ」

 

 もうおかしくなりそう。自然に笑いが起こる。堪える事はできない。全身に電気が走り続ける。体中が性感帯になったよう。


 涎をこぼし、涙すら流れる、お帰りなさいと叫ぶ。

 これだ、これなんだよ。


 さぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁ、始めるとするね。

 

 これを皮切りに無茶苦茶になるまで殺戮を。

 

 ネジが全部外れるほど、狂おしく。


 待ってて、まだ見ぬ、私の犠牲者達。


 すぐに全身を切り刻んであげる。

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