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なんか、三つが交わりだしたみたい。(対殺し屋編・其の四)

 屋上すぐ下の階に降りる。

 そこの一室、5LDKの広い部屋へ男を運び込む。

 なにもないリビングの床に拘束したまま男を寝かせた。


 この時点で、僕の考えは決まっていた。

 悩んだのは一瞬の事。


「さて、リョナ子さんには尋問してもらうわけですが、あれですね、道具がありません。私は他にナイフくらいしか持ち合わせていませんが・・・・・・」


 僕は芋虫に成り下がったハイレンズの殺し屋を見下ろした。


「必要ないよ。悪いけど、蓮華ちゃんは外に出ててくれないかな」


 僕は、国家に認められ、そして合法的に執行できる拷問士。さらにその中で一握りしかいない特級なんだ。だから・・・・・・。


「・・・・・・分かりました。特級の拷問を見学できないのは残念ですが、それはまた今度の機会ということで。私はドアの前にいますので、なにかあったら声をかけてください」


 蓮華ちゃんは名残惜しそうに部屋を出て行った。

 

 部屋に残された僕と、男。


「じゃあ、始めようか」


 僕はしゃがみ込むと、男の顔を覗き込んだ。



 五分後、僕は玄関のドアを開けた。

 腕を組んで俯いていた蓮華ちゃんが顔を上げる。


「おや、早かったですね。もう尋問は終わりましたか」


 蓮華ちゃんの問いに僕は軽く頷いて答えると、その顔が明るく開けた。


「おお、さすがリョナ子さんです。どれどれ・・・・・・」


 蓮華ちゃんが中を覗き込む。男がどんな状態になったか確認したかったのだろう。


「ん・・・・・・あれれ。特に変わりないような。あ、でも痙攣はしてますね」


 蓮華ちゃんは首を傾げた。それはそうだ、僕は肉体的には一切手を出してないからね。


「・・・・・・僕は耳元で囁いただけだよ。これからどんな拷問をするか。今まで経験した事を細かく話してやったんだ。脳を駆け巡るように、ゆっくりと、つぶさに、感触さえも伝わるように。そしたらすぐ口を割ってくれたよ。はっきりいってこの世に拷問に耐えられる精神を持つ者は一人もいない。どんな大男だって、どんな強気な人だって、すぐに泣き叫び始める。耐え抜いたまま死ぬってのはやる方が下手なだけか、フィクションの中だけだ」


 僕は蓮華ちゃんと目を合わせる。


「蓮華ちゃんは言ったね。目的があるなら手段を選んではいけないって。信念を曲げてでも実行しろって」


 蓮華ちゃんはにこりと微笑んだ。


「ええ、間違ってないと思いますが?」


 僕はそのまま瞳を交差させながら、言い放った。


「間違ってはないよ。でも僕は、信念を貫いたまま目的を達成させる、じゃなきゃ僕は僕でなくなるからね」


 蓮華ちゃんは大きな目をさらに見開き、口角を上げた。


「良いですねぇ。でも、それができる人間はとても少ないですよ、ふふふ」


 蓮華ちゃんは部屋に鍵をかけると、背中を見せ歩き出す。


「じゃあ、次の段階に進みますか。最終局面は近いです」

 


 聞きだしたのはハイレンズのボス、蛇苺の連絡先だ。

 これを蓮華ちゃんに伝えると、またタクシーに乗って別の場所へ移動を始めた。


「今度はどこへ行くの? 蛇苺と接触はしないのかな?」


 車の中で、僕はそう質問すると、蓮華ちゃんは含んだ笑みでそれに答えた。


「実は自分でもよくわかってないのですよ。大体あそこかなぁと。ドールコレクターと切り裂き円からの位置を考えての、ニアミス狙いです。蛇苺に連絡するのはその後ですねぇ」


 う~ん、また不可解な。この蓮華ちゃんも、葵ちゃん同様になに考えてるのか全くわからない。


 そうこうしている内に、車が止まった。


 来た道を戻ってきた感じ。景色もほとんど変わらない町中。

 僕達は車を降りると、その場に留まった。理由はわからないけど、蓮華ちゃんが動こうとしなかったからだ。


「ここで、少し待ちます。その後、私が蛇苺に連絡してみましょう」


 車も人通りもそこそこある歩道橋の上で、僕らは十分ほどただ立っていた。


「・・・・・・お、そろそろいいでしょう。じゃあ私、ちょっと連絡しますね」


 蓮華ちゃんは僕から少し離れて電話をかけ出した。

 雑踏の音で、話し声は聞こえないけど会話はしてるね。


 僕の聞き出した情報は正確だったのだろうか。

 あ、話は終わったみたい、蓮華ちゃんが電話をしまった。

 僕に近づいてくる。その顔は明るくて、何か収穫はあったことを物語っていた。


「ちゃんと繋がった?」

「ええ、蛇苺だと思いますよ。しかし、そうですか。やはりそういう事でしたか」


 また、思わせぶりなセリフを吐いてくる。でも、もういちいち聞かないの。どうせその内わかるから。


「ドールコレクターもこれで動かざる得ないでしょう。そろそろこのゲームも終わりですねぇ」


 なんとなく、蓮華ちゃんが根回しをしてるのは言動から察せられた。


「さぁ、蛇苺に会いに行きましょうか。場所はおあつらえ向きの港倉庫です」


 僕は息を飲んだ。蛇苺さえ抑える事が出来ればこの血深泥の報復合戦も終わりを告げる。普通の日常が戻ってくる。


 なんとしても蛇苺を捕らえなくては。



 目の前に海が広がる、潮のにおいが鼻につく。

 倉庫が立ち並ぶ港まで来た。


 待ち合わせはこの中のどれか。僕は直接話してないからどれかはわからないけど。


「リョナ子さん、何があっても心配しないでください。リョナ子さんに危害がおよぶことは一切ありませんので」


 歩きながら、蓮華ちゃんが呟いた。


 そして、目の前に影が映る。

 僕らに立ちふさがった人物は。


「どうも、この前ぶり、そっちの人は初めまして、ごめん、ちょっと大人しくしてね、ちょうだい」


 手先でナイフをくるくる回している。

 相変わらず眠そうな眼。ギザギザの歯を見せこちらを見てニタニタしている。


「切り裂き円っ!」


 なんで彼女がここに。


 そう思ったのも束の間、僕は後ろから羽交い締めにされる。

 相手が誰かわからぬまま手慣れた手つきで拘束されていく。

 口を押さえられ、手を施錠されるとその場に押さえ込まれた。


「うぐうぐぅっ!」


 必死に抵抗を試みるが、全く動けない。関節をきっちり決められている。

 すぐ隣の蓮華ちゃんは円を見据えたまま動かない。僕を助けようともしてくれなかった。


「円さん、私はどうするんです?」


 蓮華ちゃんはバックに手を入れたまま対峙している。


「う~ん、特になにも、言われてない、から殺してもいいのかも、だね、そうしよう」


 円が顎をあげた、見下ろすように蓮華ちゃんを見て舌で上唇を舐めた。


「あらら、それは困りましたね。そんな事言われたら私も殺すしかないじゃないですかぁ」


 バックを捨てた。目を細めて銃を構える。

 なに、なに、なんでこんな事になってるの。

 ていうか、僕を抑えてるのは誰だよ。

 

 あ、でもここに来てるのはわかるよ。

 一際、胸を打つ存在。

 この凶人だらけの中で、さらに強烈な個性を放つ殺人鬼が。


 この倉庫群の中、そのどれかに葵ちゃんがいる。


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