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なんか、助けを求められたみたい。

 朝、今日の執行に向けて準備を整えていると、内線がかかってきた。

 別に珍しい事でもないから普通にとったの。

 そしたら、僕に繋いで欲しいと外部から電話が来たとの事。


 基本的に携帯番号を教える事はない、知ってるのは家族くらいかな。だから僕と連絡を取りたい場合はこうやって執行局の窓口を通さなきゃ駄目なの。

 しかし、一体誰だろう。外部からかけてくるのは葵ちゃん位なもんだけど。でも、違うみたい。


「もしもし、お電話代わりました」


 警戒しながらも繋いでもらった。


「あ、リョナ子さんですか・・・・・・私・・・・・・巴です」


 聞き覚えのある声、そして名前を告げられて思い出した。


 声の主は以前、僕が執行を行った少女だった。


「あぁ、巴ちゃんか。久しぶりだね、どう、元気にやってる?」

「お久しぶりです・・・・・・あの・・・・・・その・・・・・・ですね・・・・・・」


 彼女は性的虐待を日常的に行っていた義父、そしてそれを知ってて放置していた母親を滅多刺しの末殺したんだ。だから、ここで僕の執行を受けた。事情が事情だっただけに、レベル三程度で済んだけど、僕はなんだか彼女の今後が気になってなにかあったら連絡してよって、そう言ったんだ。

 て、事はだ。つまり、なにかあったんだろう。


「ん? どうしたの、たしか施設から新しい学校に通い直してるはずだよね。なにか困った事でもあったかな?」 


 僕がストレートにそう聞くと、受話器から啜り泣く声が漏れ出した。


「・・・・・・うぅ・・・・・・リョナ子・・・・・・さん・・・・・・」

「ん、言ってごらん。僕で良ければ力になるよ」


 優しくそう語りかけると、泣き声がよりいっそう大きくなった。


「・・・・・・助けて・・・・・・助けて下さい・・・・・・」


 細く、弱い、けどちゃんと巴ちゃんの声が聞こえた。


「うん、わかった。じゃあ、電話じゃなんだし、時間作るから後で会おうか」

「あ、ありがとうございます・・・・・・ありがとう・・・・・・ございます」


 そう、巴ちゃんは何度もお礼を言っていた。



 その日に巴ちゃんに会った。早めに仕事を切り上げて、夕方には合流できたの。

 適当なファミレスに入って話を聞くことになった。


「う~ん、顔色悪いねぇ、ちゃんと食べてる?」


 久しぶりに会った彼女は、整った顔はそのままだったけど、顔は少し窶れて青白いかった。


「・・・・・・あまり、食欲がなくて・・・・・・」


 そういう彼女は、来た時から俯きがちだ。

 空気が重い。でもさ、長引かせて意味はないから、早速色々聞かせてもらおう。


「で、話しにくい内容かどうかは分からないけど、相談したい事があってここに来たんだろう? どうぞ、話してくれ、僕の聞く準備はすでにできてる」


 カップのコーヒーを口にして静かに待つ。やがて、彼女の口からぽつりぽつりと言葉が出始めた。



 一時間ほどして巴ちゃんと別れた。彼女が今お世話になってる施設に門限があるみたい。そんなに一緒に居られなかったけど、ちゃんと内容は把握できた。


 彼女は途中で転入して今の学校にいる。

 まだ精神も不安定だったから、中々友達もできなかったみたい。

 でも、そんな彼女に積極的に話しかけてきてくれる子がいたんだって。二人はじょじょに打ち解けて仲良くなっていった。その子はクラスでも大人しい方で、物静かな巴ちゃんになにか同じ匂いを感じとったんだろうね。


 そんな学校で初めてできた友達がある日を境に虐められるようになった。

 理由は分からない。そのクラスを仕切ってる女子がいて、その子に目を付けられたみたい。


 そういうカーストってあるからね。それで、その友達はクラスから孤立する事になったの。いや、巴ちゃんだけは彼女の味方だった。でも、それって自分も虐められる側になるって事を意味する。案の定、範囲は巴ちゃんにも及ぶようになった。無視されるならまだマシだった、靴はなくなり、鞄の中身や机の中の物を捨てられたり、悪戯されたり、傷つく言葉もいっぱい投げつけられた。誹謗中傷、汚物扱い、暴力行為、その他数え切れない程の仕打ちを受けていた。  

 

 そして、ついにその友達は自ら命を絶った。


 絶望した巴ちゃんも、後を追おうと思った。でも、それじゃあ駄目だって、それじゅあ負けちゃうって思い直したの。そうだよね、やられたままで、悔しい思いのまま逃げるような真似は、それこそ我慢できないよね。


 厄介なのは、そのリーダーは巴ちゃんの経歴を知ったという事。まだ、取り巻きにも話してないようだけど、それをネタに脅してきたみたい。殺人者ってばらされたくなかったら、私の言う事をなんでも聞く奴隷になれって感じ。学校に行かなきゃいいんだろうけど、もし噂が広まったら施設にも迷惑がかかってしまう。今の居場所は巴ちゃんにとってあそこだけ。途方にくれた時に、僕の言葉を思い出してくれたの。


「君はもっと誰かに頼る事を覚えた方がいい。なにか困った事があったらここに連絡してよ。僕でよければいつでも相談にのるから」

  

 あの時、僕が言った言葉。

 うん、頼ってくれて僕も嬉しいよ。だから、全力で助けようと思う。



 しかし、どうしたものか。

 逃げる事は別に悪い事じゃないと思う。辛いなら学校なんて行かなくても別にいいんだ。道は色々あるからね。でも、その全てが塞がったように感じて絶望しちゃう子もいるのもたしか。自分だけで抱え込んで、誰にも助けを求めずにそして・・・・・・。


 今回は、逃げても駄目だってことが問題だ。巴ちゃんは施設に迷惑がかかるのを怖れているし、友達を死に追いやった奴らになにもしないまま逃げるのも嫌なんだ。

 白頭巾ちゃんに話したら、クラス、担任ごと皆殺しにしちゃいそうな話だけど、そうもいかないよね。


 でも、僕も穏便にとかって嫌いなんだよね。

 だって僕の仕事は目には目を、だから。

 僕は僕のやり方で片を付けようと思う。



 とりあえず、その問題の女子と、その取り巻きを徹底的に調べた。

 もちろん、プロに任せたよ。こういうときは本当に頼りになるよ。


「取り巻きは四人だねぇ、女子二人に男子二人、この一週間追ったけど、飲酒、喫煙、万引き、恐喝、傷害、その他やりたい放題。でも、問題にならない」


 葵ちゃんがにっこり微笑む。僕が疑問に思い、答えを求めているのを焦らして楽しんでいる。


「なんでかな? 五秒以内に言わないと、もう葵ちゃんからの電話とらないからね」


「うふふ、言うよぉ。うんとね、このリーダーの子。御劔優江だけど、お父さんが代議士なんだ。だから大抵の事はもみ消しちゃう。そして優江自身は至って良い子に見せてる。家でも学校でも品行方正、決して自分では直接手を出さない。うふふ、本当に良い子だね」


「なるほどね、父親の傘に隠れて好き勝手やってる訳か。じゃあ、まずその傘を取り払おうか」

「そういうと思って、こっちも調べといたよ。つついたら出るわ出るわだよ。不正の数々、公表すれば失脚は必至だね」

「さすがだね。じゃあ、丸裸になった所で、そいつらに会いにいこうか」

 


 僕と葵ちゃんは彼女達がよく溜まっている公園に向かった。

 小さな園内に入ると、ベンチ近くに取り巻きの四人の姿。良かった、今日もいてくれた。

 堂々と喫煙してるし、座ってる周りにはゴミが散乱してる。


「ねぇ、ちょっと君らに話があるんだけど」


 僕は四人の前に立った。


「あぁ? だ? てめぇら?」

「なんか用~?」


 いきなり喧嘩腰だね。そりゃそうか、ここでは優江のお陰で怖い者無しだもんね。


「巴ちゃんの知り合いなんだけどね。単刀直入に言うよ。もう彼女に関わらないでくれないかな」


 僕が真剣な顔でそう言ったけど、彼らは大声で笑いだした。


「は? なに、あんたら、あいつの友達かなんか? へぇ、あいつにもクズミ以外にも友達いたんだ~、うけるぅ」


「なんだ、この白髪眼鏡とゴス女、さすがあいつの友達だけあって、変な女共っ!」


「あはは、あいつに助けてくれって言われたの? 馬鹿じゃね~の、これ、明日から三倍増しだわ」


「てことは今日は三回蹴ったから、明日は二十回だなっ!」


 すごい馬鹿にされてる。計算もできない馬鹿に馬鹿にされてる。


「・・・・・・実は君らの事を一週間観察されてもらったよ。飲酒、喫煙、万引き、その他にもいっぱい確認した。証拠も押さえてる。素直に僕のいうことを聞けばこれを学校に提出するのは止めよう。出せば間違いなく退学になるよ」


 僕が言い終えると、隣の葵ちゃんがスマホで動画を流してくれた。やつらの犯行現場が鮮明に写っている。


「な・・・・・・」

「・・・・・・ちょっと、なにこれ」

「ふざけんなよ」


 四人のテンションが急に下がった。

 一応、希望も込めてこれで巴ちゃんと死んだ子の墓前にでも謝ってくれれば、今回はこの後、様子見で治めようと思ってたの。

 だけど。


「あはは、なによ、これ。みんな、臆する事はないわ。こんなの学校に出した所でなにも起こらないもの」


 僕達の後ろからもう一人の人物が姿を現した。


「優江っ!」


 四人が声を上げて名を呼んだ。

 見るからに下品な四人とは違い、気品が漂ってる。お嬢様ってのを絵に描いたような美少女。腰まで流れる艶やかな黒髪。端正な顔には自信が満ちあふれている。この世のすべてが彼女の思い通りになると信じ切っている。


「その動画も不正に盗撮してるわよね。違法収集証拠排除法則で証拠にはならないし、逆に盗撮で訴えてやろうかしら」


 なるほどね、この子がお山のボス猿だね。


「飲酒も喫煙も、親の罪になるからこの子達に直接罪は無いわ。そして万引き? 代金の何十倍も払えば全部示談にできるし、他も同じよ」


 彼女がそう強気で僕達に告げると、他の四人にも士気が戻った。


「ぎゃははは、だってよ、残念だったな、クソブスがっ!」

「あ~あ、余計な事したなぁ、こりゃ明日からドブエへのうさ晴らしも五倍増しだわ」


 大声でそう叫ぶ取り巻きの声の中で、カチャリと、ふいにシャッター音が響いた。優江が僕らを携帯で撮影したのだ。


「惜しかったわねぇ。貴方達の事調べさせてもらうわね。私を敵に回したんだもん、それ相応の報いは受けてもらうから。もし働いていたら首にして、学生なら退学まで追い込んであげる。私、調べ物は得意なのよ」


 優江は愉悦そうに僕達に向かって見下した笑みを浮かべた。


「だはは、お前ら終わりだなっ! 相手が悪すぎだっ! ボロボロにされるぞっ!」

「その前に、一発殴らせろやっ! 散々馬鹿にしてくれたからな」

「やっちゃえ、やっちゃえっ!」


 男の一人がベンチから立ち上がり、僕に拳を振り上げた。


「こっちのゴス女持って帰ろうかな、顔は悪くねぇから、楽しませてもらおうぜ」


 僕に振り下ろされるはずの拳が止まった。

 そのゴス女が低い声で呟いたからだ。


「・・・・・・動くな」


 瞬間、優江を含んだ五人の表情が変わった。


「・・・・・・リョナ子ちゃん、行こう。じゃなきゃ、私外れそう」

「だね。よくわかったよ、君らがもう救いようもないって事がね。明日、もう一度ここに来るから。全員いてくれないと嫌だよ」


 僕はそう残し、葵ちゃんと共にその場を去った。



 次に向かってのは自殺した子の家。中に通された僕らがそこで母親にある提案をした。それに最初は渋い顔をしていた母親だったけど、熱心に説得すると涙を流しながら了承してくれた。

隣で仏壇の写真に向かって拝んでいたまだ幼い妹が印象的だった。まだ死という概念も理解はしていないだろう。ある日突然、大好きだったお姉ちゃんがいなくなったのだ。今でも必死にただ戻ってきてくれる事だけを願っていたみたい。

     

  

 そして翌日、同じ時間、同じ場所に僕らは来た。

 言ったとおりに、五人は健在だった。今回はとても大人しいね。誰も目を合わせようとしない。


「やぁ、全員いるじゃない」


 僕が挨拶ついでに近づくと、優江が初めに声を出した。


「・・・・・・ちょっと、あんたらなんなの。あの後、調べたわ。そっちのゴス女・・・・・・とんでもない極悪人じゃないっ! なんでそんなのが普通に野放しなのよっ! それに眼鏡っ! あんたはどんなに調べてもなにも出てこなかったわ。どの角度、どの方法で入ろうとしても一切が闇の中。あげくに変なとこから警告が届くし、わけわかんない・・・・・・」


 人間、得体の知れないものを怖れるからね、しょうがない。


「ま、世の中そういう事もあるって事さ。それでね、今日僕が君達に言いたいのは、裁判を起こすことにしたって報告。勿論、起こすのは君達が自殺に追いやった子の家族から。対象は担任を含むクラス生徒全員だ。それとは別に証拠に証言、なんとしても揃えて、それに見合った罰を全員に与えることにしたよ」


「はぁ? なにいってんの、そんなのパパが許さないんだからっ!」


 それはどうかなぁ、もう不正を纏めた資料は関係各所にすでに送りつけたし、そんな力もう無くなると思うよ。言わないけどね。


「ま、どうなるかまだ分からないけど、僕の見立てじゃ、見て見ぬ振りしていたクラスメイトの多数がレベル1、同じく我関さずの担任はレベル4かな。君らは、そうだねぇ、直接関わってるし、他にも色々余罪があるから・・・・・・同じくレベル4ってとこだね」


 レベル4は、ある意味レベル5より質が悪いよ。だって死ぬ事がないんだもん。


「じゃ、それだけ。これ以上罪を重ねない方がいいと思うよ」


 僕が踵を返すと、葵ちゃんが優江の顔をまじまじと見つめて呟いた。


「あぁ、いい目だね。高い鼻も素敵。唇もぷるぷるで・・・・・・うふふ、素材はいいね」


 優江にむかって妖艶に微笑みかけた。他の四人には何の意味かわからない、でも葵ちゃんを調べた優江にはその言葉は恐怖以外のなにものでもなかった。

 葵ちゃんなりの警告だったのかな、僕は聞かなかった事にするよ。

 さてと、この足で巴ちゃんの元へ行こうかな。報告しないとね、もう大丈夫だよって。


「うふふ、私達を敵に回しちゃったんだもん、相手が悪かったね」


 そりゃ、レベルブレイカーの殺人鬼と対峙する僕らが、一介の学生に遅れを取るわけがないよ。

 あぁ、裁判が終わって刑が確定するのはいつ頃だろう、僕の部屋に来るのは。すごく待ち遠しいよ。

 指か、耳か、歯か、どれでもいいからそれを持って自殺した子の墓前にお供えすればいい。


「・・・・・・お待ちしてますね」


 僕は、遠ざかる優江達を背に、聞こえない位の声でそう囁いた。

 


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