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なんか、先輩にいいように使われたみたい。

 なんか普通に先輩から電話が来た。


 なんでも、レッドドットこと、白頭巾ちゃんが朝から出かけて連絡がつかないらしい。

 行き先に心当たりがあるとの事だったけど、なんで僕に連絡してきたのだろう。


「ちょっと先輩、僕にどうしろというんですか」

「いや、なに、私も色々忙しくてな。悪いけど向かえに行ってやってくれ」


「はぁ? 何言ってるんですか、なんで僕が」

「いや、別にいいんだけど、あいつ朝刊を熱心に読んでたからな。死人がでるかもしれん」


 て、訳でしぶしぶ僕は今走っている。


「今日は、休みなのにっ! ゴロゴロしようかと思ったのにっ!」


 ブツブツ言いながらも足は止めない。

 レッドドットはまだ子供とはいえ葵ちゃん並の凶悪殺人鬼だ。野放しにはできない。


 彼女が熱心に読んでいた記事内容とは。


 その事件はある中学校で起きた。以前から暴行を受けるなどの虐めにあっていた生徒がいた。それを見かねたクラスメートの女子生徒が庇い止めようとした。

 しかし、そのせいで、虐めの対象が女子生徒に移ることになる。女子生徒はその虐めていた生徒から暴行を受け、全治三週間の怪我を負ってしまったのだ。さらに驚くべきは担任がその場にいてそれを目撃してたと言う事。この教師は軽い注意だけですませ、自分は我関さずだったみたい。


 レッドドットも虐めにあっていて、クラスメートと教師を皆殺しにしたんだ。なにか思うところがあったのだろう。

 この少年達は軽い処分で済んでいる。教師に関してはお咎めなし。

 先輩は勿論、レッドドットの位置が分かるようにはしている。だからいる場所はわかっている。

 最初に指定された場所についた僕は自分の運動神経の無さを嘆いた。


「遅かったか・・・・・・」


 すでに警察や救急車が来て、辺りは騒然となっていた。

 大勢の野次馬達がその周辺に集まっている。

 その一人に声をかけ状況を確認した。


「すいません、これなにがあったの?」

「あぁ、なんでも少年三人が刺されたらしいよ。背中からいきなりだったってさ、喧嘩みたいだね」


「・・・・・・死んだのかな?」

「いや、三人とも背中や足を数カ所刺されたみたいだけど、意識もあるし、喚く元気があったから大丈夫じゃないかな」


「・・・・・・そう」


 なんて幸運な子達だ。レッドドットに遭遇して生かされてるなんて。となると、レッドドットにとってもう一人の方が罪深いと考えているんだ。断罪のレベルが一緒になると考えてそれを避けたのなら、次は確実に殺すはず。


 先輩からの次の連絡で、現在のレッドドットの場所が判明した。

 これは僕も予想していた通り。

 教師の自宅だった。


 一般的なアパートの二階。203号室がその教師の自宅。ドアは閉まっているけどここにいるのは確実だった。僕の心臓が激しく動悸している。それはここまで走ってきたってのもあるけど、これから殺人鬼と対峙しなきゃならない事での方が大きいかも。


 やっぱり、葵ちゃんを連れてくれば良かったかな。でも、いつもいつも葵ちゃんに頼るわけにもいかない。貸しを作る事はなるべく避けなくちゃ。


 軽くノックしようとして思いとどまる。隙間を除くと鍵がかかっていた。まぁ当たり前だよね。そこで僕は髪の毛からヘヤピンを二本抜くと、先端を曲げた。見たところこの鍵は古いやつだから、なんとかなりそう。片方でテンションを加え、もう片方で当たりを引いていく。 


 数分くらいで鍵が回った。これ見られてたら完全に不審者だよ。


 後はもう勢いだ。僕は意を決してドアを開け放つ。部屋はよくある1Kタイプ。僕は靴のまま奥まで突っ切る。


「そこまでだよっ」


 部屋にはレインコートを着た女の子と、ベットで手足を縛られ寝ている男性。


「・・・・・・あれ、お姉ちゃん。この前の・・・・・・」


 僕が現れたのに白頭巾は特に驚きもせず、フードの中から僕を覗いていた。


 ベットが血で染まっている。とくに足から出血している。多分、まず動きを封じるために足の健を切ったのだろう。他は今のとこ外傷が見当たらない。


「良かった。まだ殺してないね・・・・・・」


 若い男は目を見開きこちらを見ている。口は塞がれてないけど、恐怖で声が出ないのだろう。


「もう一人のお姉ちゃんは今日はいないんだ・・・・・・」


 葵ちゃんの事かな。いないと分かれば僕が危険だ。ここは嘘をつくよ。


「すぐ後から来るよ。僕が君の所に来るのに一人で来るはずないじゃない」


 さて、まっすぐ目を見てまばたきを押さえながらはっきり言ったけどどうだろ。感覚が鋭いから見抜かれるかも。


「そう。じゃあ、あんまり時間がないね。すぐ殺そうかな」


 白頭巾がナイフを振りかざした。


「待ってっ! 殺す事はないだろうっ!」


 僕がそういうと白頭巾は体をピクリと動かした。


「なに言ってるの? 教師の教える事は勉強だけじゃないよ。それができない教師なんていらない」


 駄目だ。力づくじゃ止められない。言葉で止めるしかない。


「・・・・・・正直、同感だね。今は保身に走る教師も多い。あまつさえ生徒に危害を加える者もいる」


 まずは肯定する。


「とりあえず、話を聞こう。君がここまでする理由が知りたい」


 合っていた視線を外した。これは先に視線を逸らした方が優位に立てる心理を利用する。本来逆を思われるけど、外された相手を不安にさせる効果がある。


「・・・・・・私の時もそうだった。周りは誰も助けてくれない。担任だってそう」

「誰も助けてくれなったのか、担任さえも」


 同じ事をいう事で、相手の話をちゃんと聞いてるって感じさせる。


「今回の事件は同じクラスメートが助けてくれた。でも逆に標的になった。これじゃ、これから余計助ける人がいなくなる」

「なるほど。君の考えはよくわかる。だから、とりあえずナイフをそっちに捨ててくれないかな?」


「・・・・・・嫌だよ」

「それじゃあ、せめてナイフを下ろしてくれ。落ち着いて話をしよう」


 最初の要求は断られるのを前提で言った。その後、それより小さな要求なら検討してくれやすい。

 レッドドットは少し考えたのち、ナイフを持つ腕を下げた。


「ありがとう。君にも僕と話をしてくれる意思があると考えていいね。となると別の場所がいい。喫茶店にしようか? それともファミレスがいいかな?」


 話す事を前提と決めつけ関係のない選択肢を与える。こうなると自然に選択肢の中から答えを選ぼうとしてしまう。


「どっちでもいいよ。でもこいつを殺してからね」


 さすがに引っかからなかったか。


「でも、もうすぐ葵ちゃんが来ちゃう。そうなったら話どころじゃなくなるよ」

「殺すのなんて一瞬だよ」


 ぐぅ、綱引きはあっちが断然有利だ。


「ちょっと待って。もしもだ、君がその教師を殺さなくていい条件があるとするなら、どれだろう。この男に教師をやめさせ全く別の職業につかせるか、怪我を負った女子生徒の贖罪のため毎日病院に通いその都度謝らせるか、一から聖職者としての自覚を植え付け意識をたたき込むため勉強し直すか」


「・・・・・・その中なら全部だよ」


 よし、乗ってきた。これでなんとかなる。


「そうか、じゃあ全部やらせよう。怪我をした生徒はとても正義感が強い。ここで教師が殺されたら、もしかして自分のせいで殺されたのではないかと感づいてしまうかもだよ」


「・・・・・・・・・・・・」


 レッドドットが沈黙した。葵ちゃんのような善悪の欠片もない人間なら効かないけど、この少女は僅かに良心が残ってるはず。


「・・・・・・そうだね、じゃあ、その子の怪我の分だけにしとくよ」


 そういうとレッドドットが教師の肩を勢いよくナイフで突いた。飛び散った血がレインコートにかかる。紅い斑点が白いレインコートについた。


「どうせ、あのお姉ちゃん来ないだろうけど、話は今度しようね」


 紅い水玉の女の子はそう残しそのまま僕を通り過ぎて出て行った。

 バタンとドアの閉められた音を聞いた瞬間、僕はその場にへたり込んだ。さすがに単独で接触するには危険すぎだったかな。


「とにかく、まずは救急車かな。応急処置はしとくか・・・・・・」


 僕はタオルなどで止血を始めた。


「あ、さっき言ったのちゃんと実行してよね。教師をやめて、生徒が退院するまで毎日謝罪、そしてもう一度勉強し直してきて。じゃなきゃ、今度は確実に殺されちゃうよ」


 耳元でそう囁く。一応断っておくけど、ほとんどの教師は真面目にやってるよ。熱心に生徒の事を考える教師だっていっぱいいる。でも、最近は生徒の親も五月蠅いみたいだし、変な圧力がかかってまともに出来ないのかな。この教師もそんな親とかのクレームが面倒だったのかも。触らぬ神に祟り無しってね。


「それでも、その職業を選んだのなら全力でやりな、その覚悟がないなら転職した方がいい」


 僕は自分に言い聞かせるようにそう言った。


 その夜、先輩からお礼の電話がきた。一人も死人が出てないのがよっぽど不思議だったのか僕をかなり褒めてたよ。


「レッドドットもなんかリョナ子を気に入ってたよ。今度ちゃんとお話したいって言ってたな。お前、殺人鬼に好かれやすいのか?」


「・・・・・・冗談じゃないですよ」


 こっちはせっかくの休日を潰されたっていうのに。

 また明日からお仕事が始まるよ。


 少し憂鬱ではあるけど、頑張ろう。

 僕が選んで決めた仕事だもん。

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