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なんかムラムラしてやったみたい。

 拷問士の朝は早い。そして夜も遅いからとにかく眠い。


 自宅で深い眠りについていた僕の耳に、劈くよう音が割り込んでくる。

 ギリギリの時間でセットされた目覚ましを、力強く叩いて止めると全身に感じる怠さを振り切ってベットから出た。


 覚醒しきってない頭で洗面台に行き歯を磨いていく。

 爆発していた頭を軽く整える、あくまで適当に。


 この仕事をしていたら仕事着である白衣は黒衣に変わったが、元々の黒髪はいつの間にか全部白になってた。感情を抑えるのは相当なストレスになっているのだろう。


 そんな訳で他の事には極力気を使わない事にしてる。じゃなきゃ身が持たない。

 化粧も軽く済ますと、冷蔵庫からブラック缶コーヒーを取り出し一気に流し込む。これで朝食はお終い。


「・・・・・・・・・・・・今日はたしかレベル4からだったかな~」


 罪状は婦女暴行。しかも標的は未成年を含む若い子ばっかり。僕達女の敵、今日のお仕事は頑張れそう。



 血で染まった大きなハサミを手に今日、最初の執行が終わった。


「は~い、お終いですよ~」


 寝台に固定されていた小太りの男は、僕の行為に気が狂ったように頭をガクガク振っていた。充血した目からは涙が溢れる。


「もうこんな事しちゃ駄目だよ~。ってできないか」


 性犯罪の場合、僕の処遇は大抵決まっている、レベル次第だけどとにかくアレをちょん切っちゃうのがてっとり早い。さらに被害者の人数によって追加措置を加える。

今回は被害者の精神的苦痛も考慮して利き腕一本先に切り落とした。


「今回、殺人までは犯してないからここまでだけど、僕に言わせれば被害者は生きているかぎりずっと苦痛で苛まれるのだから、同じ重さでもいいくらいだよ。正直、物足りないなぁ」


 これは独り言。いくら忠実に仕事をこなしてる言っても思っている事は口に出してやらなきゃ溜まる一方だからね。

 さて、今日はまだ始まったばかり、どんどん仕事が押し寄せてきますよ。



 お昼を過ぎても、ご飯をとる暇もなく次の罪人が訪れる。


「う~ん、お腹すいた。・・・・・・しょうがない、食べながらやろう、不謹慎だけど」


 僕はサンドイッチを片手に書類を確認。その間に係の人が下手人をベッドにくくりつけていた。仰向けに寝かされた男はこれから行われる処置に緊張してか荒々と呼吸をしていた。


「罪状、現住建造物等放火、レベルは4。もぐもぐ」


 数件やってるね。しかしながら全ての住人は間髪逃げ出せて無傷。さてどないしましょ。


「ま、燃やしますか」


 僕はアルコールランプをいくつか取り出し火を点した。それを男の両腕と両太ももに触れるか触れないかの位置に設置していく。服が燃えないようその付近は切り取った。


「一時間こうしておくから、後は寝てていいよぉ~」


 広範囲の火傷は命にかかわるけど、これなら大丈夫。ただひたすら熱くて苦しいだけ。


「しかし、ここのサンドイッチ美味しいな。これは当たりだわ」


 時間がないから目についた初めてのパン屋さんでそそくさと買ったけど、また利用しよう。他のパンもいけそうだ。


 自動執行は思いがけず時間が空く、僕はパイプ椅子に座り読みかけの本を手に取った。大ファンの高川先生の新作だ。すごく楽しみだったのに読んでる暇がなかったからこの時間はありがたい。

 


「あっ!」


 熱中しすぎて区切りのいい所まで読むまで気づかなかった。すでに一時間以上経過していた。


「あっちゃ~、あまりの面白さに、この部屋に充満する煙や、匂いも気にならなかったよ」


 我に返った瞬間、あまりの煙たさに目が痛くなった。ここには通気口はあるけど窓がないのでドアを開けた。煙と人の焼けた匂いを新鮮な空気と交換していく。


「さてさて、ごめんねぇ。でも誤差範囲だし許してね」


 僕はそう言ったが男の耳には入ってはいない。必死で藻掻き苦しんでいた。激痛がずっと続くから気を失う事もできない。

 僕はアルコールランプを片づけていく。男の皮膚は真っ黒に焼きただれてグチャグチャだった。


「住居が煌々と燃えるさまを見て君は何を感じてたんだろうね。常習者は大抵その光景を見るからね、君もきっと野次馬に混じって眺めていたのだろう、自分が犯した罪をその両目で。それは解放感かな? それともやってやったっていう優越感? いづれにしても一瞬で奪われる身になったらたまったものじゃない。思い出の品、大切な物、なにもかも焼き尽くされて、居場所も奪われる。今度また燃やしたい衝動に駆られたら自分に火をつけたらいいよ。特等席で見られるから」


 勿論、独り言。そもそも男は聞いてません。痛みから解放された瞬間、白目をむいて気を失ったから。


「本の続き気になるけど、仕事しなきゃ」


 帰ったら読もう、一気に読んで朝になっちゃうかも。

 寝不足の日々はまだまだ続きそうだった。

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