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ういうい、出張なのだ。

 もう一回だけ円編。二話編成にするつもりでしたが、一話に収めました。

 狭い室内に。

 くぐもった声が漏れる。


「ん・・・・・・んんんっ、んーーー」


口にはガムテープ。

 椅子に縛られるは、若い女。

 


 その前には人影。


「ふふふ~ん♪」


 黒い影は、鼻歌交じりにいくつかの花を選別していた。


「これがいい、あ、これも、これも」


 一頻り、花を選び終えると。

 

 今度は、電動ドリルを手にした。


 女の髪を掴む。

 

 回転する先端は。

 

 じょじょに頭部へと。

 


 モーター音と共鳴するように、女から悲鳴が上がる。されど、口は塞がれており。


「大丈夫、浅いから、大丈夫、浅いから・・・・・・」


 いくつも開けられた穴に、一本一本、花を刺していく。


「あぁ、綺麗・・・・・・」


 人影は、完成された生け花を、色々な角度から見回す。


 女の頭からは血が滴り、涙が、鼻水が、顔を濡らす。


 女の前に立つ人物が、しばらく女を眺めていると。

 唐突に、机からナイフを取り出した。


「ん、ヴぅ、んーーーっ」


 それを見て、女がさらに怯えだす。


「X、n乗、プラス、Y、n乗、イコール、Z、n乗。オイラーが3、ソフィが5。じゃあ、フェルマーはなんでしょう~?」


 影は質問しながら、女の口に貼られたテープを強引に剥がした。


「あ、はあっ、も、もう許しってっ! おね、がいっ! 帰してぁあ!」


「X、n乗、プラス、Y、n乗、イコール、Z、n乗。オイラーが3、ソフィが5。じゃあ、フェルマーはなんでしょうー?」


 女の命乞いなど、完全に無視して、影は同じ事を聞いた。


「・・・・・・お願いっ! お願い、しますっ! もう、もう・・・・・・」


 女にしてみればそれどころではない。

 ただただ、懇願していた。


「・・・・・・は~い。時間切れでーす。答えはーーーーーーーー」


 人影は、女の後ろに回ると、髪を強く引っ張る。


「死(4)でしたぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 勢いよく、首に、ナイフが。

 

 通り過ぎた。

 


 ういうい、円なのだ。


 今日は、あれだ。


「ま、円さんっ! え、えっと、レッドドットっ! あ、あれだ、です、なんか、管轄外の場所だ、ですが、なんか、んっと、難解な、事件が起きたので、見てきて、くれ、さいっ!」


 と、まぁレンレンの真似で言えばこんな事なのだ。


「・・・・・・お姉ちゃん、なにそれ」


「レンレンなのだ」


「え? ・・・・・・全然似てないけど」

 

レッドドットが無表情なのだ。

 むぅ、やっぱり、姉御のようにはいかないのか。



 それはおいおい練習を重ねるとして。


 今、私達は、地元を離れ、別の街に来てるのだ。


 すでに現場に到着。

 周囲を囲む警官達より先に境界線を越える。


「レッドドット、こっからは一直線に歩くのだ。犯人の足跡があるかもだ」

「うん」


 河川敷に奇妙な死体はあったのだ。

 手足は縛られ、確認するかぎり、右の耳が切り取られ・・・・・・。

 頭には、穴が開けられ、そこに萎れた花が、いくつもさされている。

 まるで生け花のように。

 そして、口には、トランプのカードが一枚入れられていた。


 遺体を確認して、レンレンに連絡を入れる。


「あ、レンレン、今、見てるのだ。トランプがある、だから、あれだ、例のヤツだ」


「そうですか、私の予想では、今回のカードはハートの2ですが、どうでしょう」


 もう一度、カードを見直す。


「うむ、そうなのだ。ハートの2で、遺体は女」


 すでに、23枚のカードが回収されている。

 つまり、この時点で、23体の死体が上がってるのだ。


 地元の警察では手に負えず、本部に要請。

 この案件は、レンレンが請け負うことに。


「円さん、トランプって何枚でしたっけ?」


「んと、ジョーカー2枚入れれば、54枚なのだ」


 レンレンが何を言いたいかわかる。私も薄々、感じていたのだ。


「54、そして、死体からは体の一部が取られています。これって何かに似てますねぇ」 

 

 そうなのだ。抜かれてる体の一部は、毎回異なっていた。

 まるで、パーツを集めているかのように。


「・・・・・・誰かが、姉御の真似をしてるのだ」


 口にして、心の底からゆっくり炎が広がっていくのを感じる。


「私は、このホシを、カードマスターと名称しました。ドールコレクターの模倣をする犯人、これは、その後継者である、貴方が止めてください」


 言われるまでもないのだ。

 どこのどいつだか知らないが。

 姉御の真似をするなんて絶対許せないのだ。


 

 もっと早く、レンレンが担当してれば、この女も死なずにすんだかもしれない。

 この、犯人、次の犯行の手がかりを毎回残していたのだ。


「今回は、多分、これだ、手にメモが握られているのだ」


 今までのもこんな感じでメモがあったのだ。


「・・・・・・4、単位、ケプラー3、T、って書いてある」


 どういう事なのか。

 私がそう伝えると、レンレンはすぐにピンと来たようだ。


「・・・・・・ふむ、ケプラーの第三法則でしょうかね。なら、単位は、天文単位、つまり、4天文単位の公転周期ってことでしょう。円さん、第三法則ってどんなのでしたっけ」


「ん、あれだ、惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例するってやつだ」


「そうですね、なら、これはすぐわかりますよね」


「えっと、軌道半径が地球の4倍だから、あれだ、√64になって、8年か」


「となれば、次は8かもしれません」


 前回は、一番前のタクシーに乗れって書いてあったのだ。

 レンレンはそれを見て、タクシー数と予想、二番目が1729、三番目が87539319。そんで一番目は2。


 数字は、この地区を52に分けた箇所に当てはまる。

 スペードやクローバーは男、ダイヤやハートは女。


「今回の死体は、喉を切られているのだ、これが致命傷、だ」


「てことは、スペードですね。で、男と」


 殺害方法で次のマークが分かるのだ。刃物を使えばスペード、撲殺ならクラブ、絞殺ならダイヤ、毒殺ならハート。


「これで全部わかったのだ」


 次はスペードの8。


 これで、場所と被害者の性別の予想がついたのだ。


 そうなれば、ここにはもう用はない。


 私が、立ち去ろうとすると。

 

「ちょっと、なんなの、あんた達っ!」


 警官達を突き飛ばしながら、スーツを着た女が駆け寄ってきたのだ。


「ん~、お前こそ、なんだのだ」


「私は、ここの現場指揮の富岡よっ!」


 手帳を縦に開いて私に見せる。

 階級は警部なのだ。この歳でそれだと、いわゆるキャリアってやつ、なのだ。


「上の要請かなんだか知らないけど、勝手に現場を荒らさないでもらえないっ!」


 なんか、めっちゃ怒ってるのだ。


「あぁ、それは悪かったのだ、でも、もう行くのだ」


 こういうのは関わらないほうがいい。


 私達がそっと、離れると、女は聞こえるような舌打ちしたのち、部下の女性にめちゃくちゃ当たり散らしていたのだ。



 数日後。

 大規模な捜索も空しく。

 また、死体が見つかったのだ。


「・・・・・・遅かったの、だ」


 範囲は絞ったとはいえ、かなりの広さ。

 総動員して、見つかったのが18時間後。


 死体は手足が縛られており、今度は親指が無く、口にはトランプのカード、それはスペードの8。

 

「お姉ちゃん、今度は絞殺っぽいよ」


「・・・・・・てことは次は女なのだ」

 

 前回、同様、死体の手を開いてみる。

 また、メモがあったのだ。


「レンレン、これも同じなのだ」


 死体発見と同時にレンレンに連絡した。


「なんて書いてあります?」


「C、O、2、3.0、X、10の肩に乗る23 質量、半だ」


 なにかの暗号か。

 これもレンレンにはすぐにピンときたようで。


「ふむ、数字が並んでいても惑わされちゃ駄目ですね。COは次のと合わせて、二酸化炭素の事でしょう、Xってのはかけ算かも。なら、普通に計算してください」


 てことは、あれか。

 10の23は乗ってことなのか。

 

「つまり、二酸化炭素3.0×10の23乗の質量を答えればいいのだ。二酸化炭素のモル×原子量。モルが個数÷アボガドロ定数なのだ、するってえと・・・・・・0.5だから・・・・・・それに12と16足して2かけたのが・・・・・・だから・・・・・・22か」


「そうですね、さらにメモにはそれを半分にしろって言ってます。なので11」


 絞殺だったから、ダイヤ。

 今ので数字は11。

 次は、ダイヤの11区画。


「多分これでいいとしても、探す時間がかかるのだ」


 私達が来るまでの犯行間隔はそこそこあったのだ。

 それが、前回から急激に短くなった。

 これは、あれだ。


「完全にこっちの動きがバレてるのだ」


 犯人も焦ってるのかもしれない。


「円さん、多分、私達がどんなに早く特定しても死体は出ますよ。それでもって、次の次のカードを予想しましょうか。多分、そのカードは・・・・・・」


 レンレンが呟く。


「・・・・・・てことはどっちか、なのだ」


 いつものカードマスターなら。


 ナイフが凶器であれば、死体には数え切れない程の傷跡が。

 鈍器であれば、全身に無数の打撲後が。

 絞殺であれば、何度も何度も絞められた後が。

 毒殺であれば、効果ができるだけ長いものが。


 かなり被害者を苦しめてから殺している。

 それなのに、今回は首に縄の後は一つ。

 これは遊ぶ暇もなかったって事なのだ。


「うくく、死体は増えてはいるが、この偽物、確実に追い詰められているのだ」


 メモの内容も、最初は結構手の込んだものだったのに、段々雑になってきている。

 


 数時間後、また死体が。


 今度は、今は使われていないトンネル内で発見されたのだ。


「うくく、レンレンの予想通りなのだ」


「円さん、富岡さんて人が、私に直接抗議に来るみたいです、知ってます?」


 富岡。あぁ、あの現場責任者だか、なんだかなのだ。

 いつも、後から来て、めちゃくちゃ文句いうのだ。

 先に到着していた部下にも違うだろっー、違うだろっーって大声で喚いてたのだ。


「ちょっと調べましたが、かなりの学歴ですねぇ。これは相当プライドが高いことでしょう。他人を見下してる節もあります」


 そんな感じだったのだ。


「まぁ、それはいいとして、次の答え、私の言った通りでしょうか?」


「ん、正解なのだ、メモにはイマジナリーと」


 その文字が意味するものは。


「イマジナリーナンバー、つまり虚数ですね」


 犯人の次なる標的は。


「虚数は、存在しないのだ。そうなると、カードの中でそれに該当するのは」


 二枚のカードのうち、どちらか。


「ジョーカー」


 私とレンレンが同時に呟く。


 犯人の目的の一つは、ジョーカーを表に出す事。


 この場合、二つのジョーカーは。


 私と、レンレンなのだ。



 目を瞑って。

 全身の神経を研ぎ澄ませる。


「レッドドット。こっからは気を抜くんじゃ、ないのだ」


「うん、大丈夫だよ」


 近くにいる。


 トンネルの奥から、誰かが近づいてくる。


「切り裂き円ちゃぁあああああああああああああああああああああああああぁん」


 トンネルを強風が通り過ぎたように。

 響く。

 狂気が一気に充満する。


 こちら側から僅かに差し込む光が、相手を映していく。


「会いたかったよぉ、直接問いただしたかった、なんで、君なんだぁ、私だろ、あの人の、意志を継ぐのは、私、だ、私が、相応しい、君じゃない、君じゃ駄目だ」


 私と同じ金髪で、右目が赤、左目が青、人工的なオッドアイ。


「お前が、カードマスター、か」


追い詰められた事で、私達の順番を早めたのだ。

 しかし、こいつ、どこかで。

 あぁ、富岡に怒鳴られていた部下の女なのだ。あの時は、ちゃんとスーツを着てたのだ、今は全身、真っ黒で、傘を持っている。


「あのお方にも、完成できなかった人の人形、私は造る。そして、その目玉は切り裂き、君と深緑深層から取る、予定、だから、頂戴、安心して、ちゃんと上手にはめてあげる」


 カードマスターは獲物を眼前に、ひたすら不気味に笑っていた。


「ふ~む。こいつ、なかなかのイカレ具合なの、だ」


 こちらを見据える瞳がやばいのだ。

 かなり歪みに歪んだ異常者。


 このレベル。以前の私なら、飲まれて動けなくなっていたかも。


「レッドドット、大丈夫、か?」


「うん、平気、伊達に昔からお姉ちゃん達を見てきてないよ」


 怯えてないか、少し心配したけど杞憂だったのだ。さすが、私の妹なのだ。


「ねぇえ、質問の答えがまだダヨー、聞いてるの、なんで、君かって、私の方があの方に近いでしょっ、むしろ、今なら私の方が上だ、そうだよ、お前よりっ、あの最悪の殺人鬼ドールコレクターよりもっ!」


 カードマスターの何気ない一言が。

 私の血を瞬時に沸騰させる。

 

「・・・・・・お前が、姉御、より、上?」


 全身が震える、押さえきれない、髪が逆立つような。


「あ~あ、私、知らない」


 レッドドットがそう漏らして。


 俯いていた顔が。

 射殺すように視線を。

 向けた。


 空気が一変する。

 最近は、随分、抑えていたのだ。

 姉御のように、つねに冷静で。

 なにが起こっても、ただただ微笑んで。


 そんな姉御が好きだったから。


 でも、もういい、のだ。


 私は、私だ。


 せき止められていた狂気が。

 決壊するように。


 それは、10のマイナス36乗秒後に始まり。

 10のマイナス34乗後に全て出しつくした。


 まるで、10の30乗で広がる。

 インフレーション。


「おい、カードマスター、一つ、問題なのだ、イメージしろ、線で接する国を違う色で塗るとしたとき、地図を塗るのに必要な色の最大数はいくつ、だ」


 カードマスターなら、瞬時に答えられる問題。

 しかし、問いかけるも、向かい合うカードマスターには最早なにも届いてない。


 今、まさに巨大な蛇に呑み込まれようとしている刹那。


「・・・・・・・・・・・・ぁ、あ」


 辛うじて、声を出すが。

 それもそこまでが限界。


 いつものように、ナイフを握りしめて。


「・・・・・・時間切れなのだ、答えは・・・・・・」


 その先端は、ただただ棒立ちを続けるカードマスターに。


「4(死)なのだ」


 突き刺さる。



 しばらくしてレンレンから連絡が来た。


「終わりましたか」


「大体は、済んだのだ」


 壁に凭れるカードマスタ―の前にしゃがみながら、会話をする。


「ちょっとお仕置き中なのだ」


 白い太股に、ナイフを振り下ろした。


「あああああああはがああ、あ、あ、ありりがとうございまあああああすううう」


 私が刺す度、こいつは感謝しお礼を言い出すのだ。


「円、円さまあああ、もっと、もっと、くださああああああい、何度も、何度も、おねがあああ、あああああいやあああああああ、ありがあああとおおおおうございいいいまあああすっ」


 もう少しやったら、ちゃんと当局に突き出すのだ。


 姉御の上は一人しかいない。

 姉御自身が認めた、あの人だけ。

 後は、あの人に任せよう。


「せいぜい、地獄を見てくると、いい、のだ」


 壊れたように、ひたすら悲鳴とお礼をいい続ける女を見下げて。

 レンレンとの会話は続く。


「そういえば、富岡は来たの、か?」


「いえ、それが約束の時間になっても一向に現れないんですよねぇ。なんででしょうー、ふふ、ちょっと、心配ですねぇ」


 あぁ、これはご愁傷様なのだ。

 レンレンは、こう見えて殺人鬼連合の連中より怖いのだ。 



 後日、カードマスターは、レベル17に認定され。

 とある特級拷問士によって、三度の執行を受け。

 耐えがたい苦痛と絶望の中。

 絶命した、という。

 異常者の趣向の元、殺戮を行っています。決して真似しないでください。

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