あのね、余所者がきたみたいなの。
こんこん、葵だよ。
最近は、結構忙しいの。
一人で行動することも多い。
お金はこんなものでいいかなぁ。
充分な額はあるけど、あの子は結構お金使いが荒いからちょっと心配。
引き継ぎも終わった。
今まで私のだったものは、全部あの子へ。
残る気がかりは。
殺人鬼連合。
もうここで潰しちゃってもいいんだけど。
彼女達は円ちゃんを二度助けている。
二度あることは三度ある。
でも三度目の正直の可能性も。
殺人鬼連合が。
円ちゃんにとって。この先。
益になるか。
害になるのか。
見定めようかな。
生かすも殺すもテストの結果しだいだよぉ。
どう試そうか、そう考えていたら。
いいタイミングで蓮華ちゃんから連絡が入った。
マーダーブリゲードとかいう殺人集団がやってきて、殺人鬼連合とぶつかったみたい。
「うふふ、これはいいね。ようこそだよぉ、ちょっと利用させてもらうね」
早々にあっちのボスに会ってこよう。
数時間後。
ある高級ホテルの地下駐車場。
「どうも、どうも~、私が葵だよぉ」
私の前には、薄紅の髪がとても目立つ女。白いウシャーンカをかぶり同色の春コートで身を包む。隣にはスーツをビシっと着こなした渋いおじ様。
姿は見えないけど、周りに何人かいるね。車の中に身を隠してる者も。
「はじめまして、アリア・アクアマリンと申します。ドールコレクターの名は我々もよく耳にしておりましたのよ。で、その貴方がわざわざ私達に接触したのはどんなご用件でしょう?」
「うんうん、それなんだけど、耳に挟んだんだよぉ。アリアちゃん、シストくんのとこと喧嘩するんでしょ? 私もあそこと敵対関係にあってねぇ。この際、協力しようかなと」
私に会った時点で、詳細は調べているはず。
敵同士なのは本当。
さて、急な申し出を彼女はどう答えるか。
「・・・・・・私達は仲間を求めています。それは願ってもない申し出ですが・・・・・・」
信用は元々ないに等しい。
人格破綻者を纏めてきたってならアリアちゃんにはそんなものは関係ない。
あるとしたら。
「貴方が仲間になることで、私達にどれほどのメリットがあるのでしょうか? しょせん、貴方はいち少女です。殺人鬼連合、実際少人数と侮っていましたが、今は難敵と認識を改めております。すでに仲間の数人がやられてるんですよ。とにかく底がまだ見えない」
「ならばこそだよぉ。私達はそれと戦ってたんだから。貴方達よりずっと知ってる」
中々受け入れないね。ちゃんと一人で来たし、そっちと接触できただけでも判断材料になると思ったのに。
「・・・・・・貴方を信用してないわけじゃないんですよ。ですが、無能な仲間は敵よりも厄介ですので」
あぁ、そうかぁ。私が実際一人で来たから逆にそう思われちゃったか。
場所の指定もそっちだし、ここは完全アウェイだもんね。
彼女には私が無謀な死にたがりに映ったのかな。
「つまり、私が無能だってことかなぁ?」
うふふ、この子は駄目だ。駄目だ駄目だ。
分かってない、理解できてない。もっと覗かなきゃ。
奥まで、底まで、深淵まで。
よそ行きの服を脱ぎはらって。
折角、刺激しないように気を遣ってたのにぃ。
皮を、肉を、切り取る、ナイフをすっと差し込んで。
隠れていた中身があふれ出す。
「そんなに、私の評価が知りたいってなら」
薄く笑って、深く根付いて、大きく咲いて。
「今からここにいる全員を殺して見せようか?」
その場全体を優しく包み込む。
アリアちゃんが息を飲んだ。
隣のおじ様が構えた。
周囲の仲間も一斉に目覚める。
「私には夢があるの。それまでは決して死ねない。だから、何があっても、どんな事が起きても、私は生きなければならない。そんな私がさぁ、一人で、なにも考えず、こんなところに、来るのかなぁぁぁ??」
返事には気をつけて。
別にここで皆殺しにしてもいいんだよ。
どうせ、貴方達は殺すからね。
それが今か、後かってだけだよぉ。
さぁ、乗るか、それとも撥ね除けるか。
「・・・・・・分かりました。どうやら私はまた見誤っていたみたいですね。どうぞよろしくお願いします」
うふふ、そっちを選択したね。
どちらも不正解だけど。
少しだけ伸びた。
こうして、私はアリアちゃんと固く握手を交わしたの。
殺人鬼連合の情報元は、おもに犯罪者クラブから。あそこの役員はシスト君とタシイちゃんのお父様だからね。
直接、私から情報を流すとボロがでるから、間接的にあそこを経由しよう。
後は蓮華ちゃんか。シストくんと協力するみたいだから、私は自然とこっちに席を置こう。昆虫採集部として動いているように見せなくては。
それにより、殺人鬼連合、蓮華ちゃん、どちらの動きも分かる。
アリアちゃんにそれを流して先回りさせて。
かといって、殺人鬼連合が先に潰れちゃったら困るので戦力の指示は量る。
まぁ蓮華ちゃんには蛇苺ちゃんが。シストくんには血色がついてるからまず負ける事はないでしょう。
私は私で独自に行動。
青い車を走らせ、円ちゃんと合流する。
「おお、姉御、なんだ、この車、格好いいぞっ! ん、ドアどうやって開けるんだ」
「うふふ、それは上に開けるんだよぉ」
ぎこちない動きで右側の助手席に腰を落とす。
「低っ、なんだ、なんて、車だ、速そうだ、いいなぁ、私も、こんなの運転したい、のだ」
「速いよぉ。アヴェンタドールっていうの、名前が気に入ったの、欲しいならあげるよぉ。でも円ちゃんはちゃんと免許取ってからね」
0から100キロまで3秒もかからない。まぁ闘牛の名前で、人形とは関係ないんだけど。
雑談をかわしていると、妹達から連絡が来た。頼んだ仕事は終わったみたい。
「どこにいくんだ? レンレンがキラキラとブリ大根がどうとかいってた」
「私達はいいの。ただ遊びにいくだけだよぉ。近くにサーキット場があるから、そこなら運転させてあげる」
「お、まぢっ!? やった、のだ」
心地よいエキゾーストノートを響かせながら目的地へ。
誰もいないサーキット場へ到着。
いや、いたね。私が頼んでおいたものが置いてある。
広い路面には拘束された男達が横たわっていた。
「ん、あれ、なんだ、外人だ」
近くで車を降りる。
男達は体をくねらせ、怯えた表情でこちらを見上げていた。
「これ、あれか、ブリ大根のメンバー的、なか?」
「ん~ん、まったく知らない人達」
一応、こっちもちゃんと仕事してますアピールはしたいから、妹達に適当な外人を捕まえてきて貰ったの。
シストくんも蓮華ちゃんもまだあっちの詳細は分かってないからね。
私の予想ではマーダーブリゲードは少数。
アリアちゃん達は狩り場を奪う。散々荒らして、その罪は元々の狩人に押しつけて自分達は次の場所へ。
仲間にするなんて全部嘘。大人数の移動はとにかく目立つ。
いざこざでの戦力は現地調達かな。不法入国、不法滞在の外国人も多いし、犯罪者同士のネットワークもある。引き渡し条約がないと犯罪を犯しても自国に逃げればいいし。そうなると手が出せないからねぇ。
そろそろ蓮華ちゃんからの定時連絡が来る。
そう思ったら、さっそくポケットの中身が震えた。
「あぁ、蓮華ちゃん。こっちはねぇ、探すまでもなく、私達の前にマーダーブリゲードの仲間が現れたの。それで今捕まえたところだよぉ。これから円ちゃんと一緒に色々するの」
今のとこ、蓮華ちゃんには感づかれてはないね。
私が蓮華ちゃんの傍にいるのはこれが一番の理由。
彼女だけだよぉ。
一番危険で、一番信用ならない。
だからこそ、近くにいなきゃいけない。
ま、彼女には元から勝つ気はないし、負けなければいいだけ。
「さ、円ちゃん、タイムアタックといこうか」
男の一人を車の後ろに繋げる。
「うふふ、何秒で死ぬかなぁ」
6・5リットルV12エンジン、最高出力750HP、最大トルク690Nm、0―100Km/hをわずか2.8秒で加速する化け物マシーンだよ。
こんなのに引き摺られたら、人の体はどうなるのだろうか。
三人目でレコードが出た。顔が面白いように削れたねぇ。円ちゃんなんてコーナーでスピード出し過ぎて、後ろの男が宙を舞いながらフェンスに思いっきり激突してた。やっぱり円ちゃんは免許を取るまで運転は禁止だね。アクセルを緩ませるってことを知らない。私が隣に乗ってなかったらもう何回も死んでるよぉ。
さてさて、存分に楽しんだし。
次の段階に行きますか。
アリアちゃんに連絡して。
敵の潜伏先と偽ってシストくんに情報が伝わるように。
そして。
「円ちゃん、ちょっとシストくんの所に行ってきてくれないかなぁ」
円ちゃんに指示を送る。
そもそも殺人鬼連合と敵対する事になったのは。
蓮華ちゃんの所に私達が加わったから。
蓮華ちゃんに手足が生えて、それが脅威になった。
私がいなくなればそれは薄れるだろうけど。
円ちゃんはいずれ私を越える存在。
なので、今の評価は低ければ低いほどいい。
九相図が少し感づいている気配はあるけど、まだ自分が上だと思ってうちは大丈夫。
羽化するまでは、蓮華ちゃんの影に隠しておくの。大事に大事に。
気づいた時にはもう遅い。私の可愛い妹は、誰も手が出せない程成長しているはず。
「話はつけておくから、ちょっと掴まってこようか」
そこでテストだよぉ。
シストくん達がもし、円ちゃんを囮にしたり。
見捨てるような事があったなら。
その場で私が皆殺しにしてあげる。
この回で抗争編終わらなかったぁ-。次で決着つく予定です。。