あのね、誕生日なの。
今回の話は、ここから読んでもさっぱりだと思います。
どうも、どうもー、葵だよ。
一週間前の、殺人鬼連合とマーダーブリゲードとの抗争に首を突っこんで。
今はようやく落ち着いてきた所。
四月二七日。
今日はなんと。
私の誕生日なんだよぉ。
この世に生を受けた大切な日。
そして。
朝から蓮華ちゃんの所へ。
エレベーターを下って下り。
最下層のフロアの扉が開いた。
「おや、ドールコレクターじゃないですか」
「あ、姉御・・・・・・」
円ちゃんも来てたみたいだね。
でも、いつもと様子が少しおかしいの。
「・・・・・・あ、姉御、あ、あれだ、なんだ、それだ」
なんか円ちゃん、蓮華ちゃんの後ろでモジモジしている。
「ん、なにかな?」
私が訪ねると、意を決したのか。
円ちゃんが前に出て。
小さな紙袋を差し出す。
「お、これは?」
「こ、これは、あれだ。今日、姉御の誕生日、って聞いたから、その、選んだのだ。だけど、私は、こういうのよく分からなくて、だから、いらないなら、捨てても・・・・・・」
おー、誕生日プレゼントってやつか。
うふふ、初めてもらったよぉ。
「どれどれ、開けていいかな?」
早速開封してみた。
円ちゃんは、その様子をドキドキしながら見守っていた。
中身は。
四つ葉のクローバーがあしらわれたヘアピン。
葉の色は黒。私の好きな色。
「わぁ、可愛い。ありがとうだよぉ」
純粋に嬉しいと思った。
初めて。
大切な人からもらった物。
「き、気に入ってもらえたら、う、嬉しいのだ」
私の反応にほっとして、円ちゃんは照れくさそうに笑った。
「さっそく、つけてみるね」
髪に挟む。
自分からは見えないけど。
「に、似合ってるのだ」
円ちゃんはそう言ってくれた。
「ちなみに私からは何もありませんよ」
蓮華ちゃんがキーボードをカタカタしながらそう言った。
「うふふ、別に期待してないよぉ」
そう返すと、蓮華ちゃんの手が止まり。
「今日で貴方は18歳ですね。・・・・・・で、どうするつもりです?」
顔はモニターで見えなかったけど。
声のする方にはっきり告げた。
「勿論、予定通りだよぉ。もう、大丈夫。すぐに。そう明日にでも」
「・・・・・・そうですか、分かりました。手配しておきますね」
ついにこの日が来た。
これまで。
殺して、殺して、殺して、殺して。
それでも、生かされていたのは。
私が18歳未満だったから。
国際条約に加盟しているこの国では18歳以下の死刑は不可能。
でも、今日、この日からは違うの。
私を殺せる。
レベルはとっくに下がってる。
だから、すぐにでも会いにいこうと思う。
翌日。
普段通りに外へ出た。
少し違うのは、昨日貰ったヘアピンをつけた事だけかな。
向かうのは執行局。
空は青々としている。
お迎えの車がすでに待機。それに乗り込む。
窓から街の様子を眺めながら、車は程なく執行局に。
どこでかぎつけたのか、マスコミが門の前でごった返していた。
一般人も多数いるね。
私にも多少支持してくれた人がいたみたい。
車を降り、私は一人中に入った。
付き添いも監視もない。
全て、私の要望通り。
少し進んで、開けた場所。
そこで待っていたのは。
「あらら、駄目じゃない。蓮華ちゃん、それは要望と違うよぉ」
蓮華ちゃんと。
俯く円ちゃんだった。
「私も迷ったんですけどね。後で恨まれるのも嫌ですし」
「あ、姉御・・・・・・」
涙を浮かべて、こっちも見る円ちゃん。
あ~あ、会わないつもりだったのに・・・・・・。
「う、嘘なのだ? いつもの、あれだ、私をからかう、冗談なのだ、姉御はいつもそうだ、最後には笑って・・・・・・嘘だよぉって」
「・・・・・・・・・・・・」
私は答えない。
そのまま、歩き出した。
「姉御、なんで、何も言ってくれない、ほら、帰る、のだ、一緒に、戻るのだ、また二人でどこかいくの、だ」
無言のまま、二人の前を通り過ぎる。
「あ、姉御ぉぉ、なんだ、行くな、止まって」
でも、歩みは止めない。
「ひ、一人にしないで、お願いだから・・・・・・まだ、私は・・・・・・」
円ちゃんがついに駆け出し、私の背中にしがみついた。
「い、行かせ、ないのだ、どうしても、なら、私も、一緒に・・・・・・」
「・・・・・・円ちゃんは、もう大丈夫だよぉ。私が全部教えたから」
足は止まっていたの。
「無理だっ! 私は、姉御がいないと、なにも出来ない、もっと助けてっ! ずっと、ずっと」
振り向くつもりはなかったのに。
でも、最後に伝えなきゃ、か。
円ちゃんの方を向いて。
私は抱き寄せた。
目は真っ赤、涙と鼻水で酷い顔だね。
最初は優しく、じょじょに強く。
「・・・・・・私はね、ずっと一人だったの。貴方に出会うまでは。本当に少しの間だったけど、こんな私にも家族が出来た。楽しくて、嬉しくて、どんどん私じゃ無くなって」
知らなかった事がどんどん分かって。
無かった物がどんどん増えて。
「ありがとう、大好きだよ。貴方の事、この世で一番愛しています」
「姉御・・・・・・姉御ぉ、姉御ぉぉぉ」
本当は後で蓮華ちゃんから渡してもらうつもりだったけど。
私は小さなノートを取り出し、円ちゃんに手渡す。
「私の全てを書いておいたの。なにか迷ったり、悩んだら、これを見るといい。想定される事は書き記しておいたから」
再び背を向けて。
「蓮華ちゃん、リョナ子ちゃんと、円ちゃんをよろしくね」
ずっと黙り込んでいた蓮華ちゃんが力強く頷いた。
「お任せください。貴方の大事なものは私が責任をもって守りましょう。・・・・・・約束しますよ」
蓮華ちゃんの目に強い意志が浮かんでいる。
うんうん、彼女なら安心だよ。
そして蓮華ちゃんが、最後に声をかけてくれた。
「さようなら、私の好敵手。結局、貴方には最後まで勝てませんでしたね」
「うふふ、それはお互い様だよぉ、バイバイ、蓮華ちゃん。深緑深層のマーダーマーダー」
挨拶は済んだ。
この先のゲートを潜れば、あの人が待っている。
「姉御ぉ、姉御ぉ、嫌だ、嫌だぁ、行かないでぇっ、置いていかないでっぇぇぇ」
力が抜けて、床に膝をつく円ちゃん。
手だけは伸ばして。
されどその手が届く事はなく。
「姉御ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
もう振り向いてはいけない。
もう声をかけてもいけない。
別れも告げない。
いつか、また会いたいから。
その悲鳴にも似た、私の名を呼ぶ声。
しばらく聞こえていた。
ゲートを潜り、廊下を歩く。
すでに私は二回その場に行っている。
特級がいるフロアを真っ直ぐ進む。
一歩一歩近づく。
あの人の元へ。
自分の足で。
自分の意志で。
ついに、その扉の前に辿り着いた。
ノックして。
ドアノブを捻る。
「うふふ、久しぶり、リョナ子ちゃん」
その人は、黒い白衣を身に纏い。
「久しぶり、葵ちゃん」
私を出迎えてくれた。
次は殺人鬼連合 対 マーダーブリゲード編を挟む予定です。