あのね、それは葉桜になるの。前編
ただ無茶苦茶するだけなので、学園潜入編を見て無くても支障ないかとは思われます。
やぁやぁ、我こそは葵だよ。
聖フィリップスラブクラフト女学院。
私達が以前、潜入捜査で通ってた学校だよ。
久しぶりにここの制服を着て門を潜る。
「く、黒椿様っ!?」「黒椿様がっ!?」「円様もご一緒よっ!」
私達の姿を見て皆声を上げる。
ざわめく中、校舎へと向かっていると、程なく三人の女生徒達が私達の前に足早と近づいてきた。
「黒椿様、お久しぶりでございます」
「もうお身体の方はよろしいので?」
「わたくし、いつ黒椿様がお戻りになるのか、いつもそればかりで・・・・・・」
私達の前に現れて跪くのは。
「久しぶりだねぇ。白椿ちゃん、紅椿ちゃん、青椿ちゃん。どう、その後学園運営に変わりはないかな?」
以前、ヨグ=ソトースになるべく争った三人。
「はい、黒椿さまが示した方針に間違いはありません。なに一つ支障なく」
「ヨグ=ソトース制度廃止に伴い、以前はなかった協調性が生まれ、お陰で皆助け合っております」
「派閥も無くなり生徒間のトラブルも一切起こっておりません、これも黒椿様が一つに纏めあげた成果かと」
うんうん、そっちは順調そうだね。
でも、私がここの戻ってきたのは学園の様子を見に来た事じゃない。
「早速だけと、ちょっと呼んでほしい生徒がいるんだよぉ」
まずは話を聞こうか。
それは三日前。
なにげなく蓮華ちゃんの所でテレビを見ていた時だった。
「昨夜未明、〇〇内の河川敷で若い女性とみられる全裸の遺体が発見され、その後の調べで遺体は・・・・・・」
名前を聞いて体が反応した。
それは一緒に見ていた円ちゃんも同じで。
「あれ、姉御、こいつってあれだ。学校にいたやつじゃないか?」
「・・・・・・そうだねぇ。顔と名前に覚えがあるよ」
たしか円ちゃんと同じ学年で、あの時私の派閥の一員でもあった。
「あ~、思い出してきたのだ、よく私にお菓子をくれた奴だっ!」
早い段階で私の派閥に加わってたねぇ。
そうかぁ、なにがあったか分からないけど死んじゃったかぁ。
本来ならこれで話は終わるんだけど。
ふと、思い出してしまった。
〈派閥のみんなは私達が守るよぉ〉
たしか、そんな事言ってたっけ。
学園内の話だし、今となってはどうでもいい約束。
そもそも私の辞書に約束なんて言葉はないし、守る義務もない。
なんだけど・・・・・・。
どうしてか心がチクチクするの。
「・・・・・・円ちゃん、その子から貰ったお菓子は美味しかったかな?」
「ん? あぁ、あれは中々だったのだっ! 高級な感じで美味かったっ」
それを聞いて気怠くも立ち上がる。
気まぐれってのは突然起こるの。
「そっかぁ。なら・・・・・・お礼しなきゃだねぇ」
「おっ!? まさか、姉御、動くかっ!? まぢかっ! ただの顔見知り程度なのにっ!?」
正直、その子の事はどうでもいい。
だけどだよ、折角私が築いた学園。
完璧に仕上げた絵、キャンパスを、部外者の誰かに傷をつけられた気分。
「一旦、学園に戻ろうかぁ。制服、まだあるよね?」
「おお、またあの学食が食える、のだっ! うんうん、多分あるっ」
まずは彼女の近しい人から話を聞こう。
こうして、私達は再び学園へと戻ってきたの。
彼女とよく一緒にいた生徒達を呼び出す。
「単刀直入に聞くよぉ。彼女に何があったか、君達ならわかるかな?」
私達に急に呼び出され、少し緊張気味だった二人。しかし、用件を告げると、ぽつりぽつりと知ってる事を話し出した。
「・・・・・・亜珠美は多分、脅されてたんです。ある日を境に様子がおかしくなった」
「言葉数も少なく、どんどん窶れていったんです・・・・・・。私達が聞いてもなにも話してくれなくて・・・・・・」
ふ~ん、脅されていた、か。
「それは誰にかな? 覚えとかあるかな?」
私が問いかけると、二人は言いにくそうに口を噤む。
「大丈夫だよぉ。別に誰かに喋ったりしないし」
心を溶かすように優しく微笑む。
すると。
「・・・・・・この学園はお金持ちのお嬢様が通ってると有名です」
「だから・・・・・・よく狙われるんです。他校生から・・・・・・特にあそこの・・・・・・」
ふむふむ、たしかにここの学園はお嬢様が多い。でもそれもピンキリで、白椿ちゃんみたいな本物の財閥お嬢様からそれなりの裕福な家柄お嬢様まで様々。上はそれこそ登下校は高級車で送り迎えだけど、下は普通に電車で通ったりしてるね。
「・・・・・・大体分かったよぉ。で、よくその目をつけられてたとこって具体的にどこかな?」
この二人に聞けるのはこんなものか。
後は、別方面からも当たってみよう。
話を聞けたらもうここには用はない。
円ちゃんがどうしても学食を食べたいとごねるので、しょうがなくランチをとってから学園を出る。
「あぁ、私だよぉ。ちょっと情報が欲しいの。時間はなさそうだから早めにお願いね」
情報担当の妹へ指示。
この事件、私の予想ではもう捜査関係で犯人の目星はついてる。
ただ、確保しないのは慎重になってるだけ。
相手は未成年だから。
各方面から詳細を集める。
私は一つの面からは物事を見ない。
多角的に見て初めて真実を得られる。
すぐに集まってきた。
それこそ、遺体の写真でさえ。
顔は判別されないほど腫れ、体には切り傷、打撲の後が多数。
最初は金目的でターゲットにされたのだろう、それがどんどんエスカレート。
金が無くなれば暴行し、別の方法で用意させられて。
最終的にはストレスの捌け口かな。
「可愛い子だったのにねぇ。見る影もないよぉ」
「これ私達のような殺人鬼がやったんじゃない、ただの子供。なのに、ここまでできる、のだ」
遺体の写真をまじまじと見つめる。
犯人グループに目をつけられたのが運の尽きだったねぇ。
〈派閥のみんなは私達が守るよぉ〉
肝心の約束は守れなかったけど。
たまには・・・・・・いいかなぁ。
「近くの学校のグループみたい。とりあえず女が三人、男が二人」
この国の警察は優秀だ。掴まるのは時間の問題。
なら、動くなら今すぐ。
う~ん、しかしおかしいね。遺体の写真を見てから明らかに不快感が芽生えた。
私は他人がどうなろうが知ったことではない。
例外があるとすれば、円ちゃんとリョナ子ちゃんだけ。
それすらも理由は思いつかない。なぜ、あの二人だけなのか、なにもかも持ち合わせていなかった私には答えが見つからない。
それは今回も同じで。僅かな期間でも過ごした事で、今や自分の一部となったあの学園を汚されたという想いからか。
それとも、どうでもいい約束とはいえ私が守り切れなかった事への怒りなのか。
〈認めたくはないけど、多分楽しかったんだ。普通の女の子のように、円ちゃんと一緒に〉
なんにせよ。
とりあえず吐き気がするよぉ。
「あ~あ、最近、しっかり締めてたはずなんだけどなぁ」
落ちていく。頭から。
一歩踏み出す度、地面に甲高い音が響く。
「・・・・・・行くよぉ、円ちゃん。所在は判明してる」
歩き出した私、頭に手を添えて髪を撫でた。
見えない何かがこれ以上零れ落ちないよう。
後ろからは飛び跳ねながら円ちゃんがついてくる。
「うくく、なんか姉御怖いぞ。どこの誰か知らんが、踏んじゃいけない尾を踏んだのだ、いいぞ、いいぞっ」
瞳が濁っていく、衝動が、頭、心、溢れ、染まり、溺れそう。
最初はどの子にしようか。男か、女か。
誰でも、どこでも、見失わないよう、あぁ苦しくて、心地よい。
彼女の友人が泣きながら最後にこう呟いていた。
「・・・・・・亜珠美、ずっと、いつも言ってました。もう一度、葵様に会いたい会いたいって」
「今度円さまが来たら食べて貰おうって、色々お菓子を見てたのに・・・・・」
約束は守れなかったけど。
お菓子のお礼はしてあげる。
うちの可愛い妹がお世話になったよ。
翌日。
ある近隣の学校。
その学校には校門を抜けた場所に大きな桜の木が植えられていた。
朝、登校してきた学生がそれを見つけ周囲は騒然となる。
高い枝に吊されていたのは、ここに通う女生徒。
〈葵ちゃん達が、凄い事しております〉
顔は対象的に一切傷がなく綺麗なまま、そこだけ見れば眠っているようだったと。
散りゆく桜の花びらが彼女の死体をより一層引き立てて。
体には血が一切ついておらず、それは死体というより人形のようで。
後編すぐ更新するか、週末のどっちかです。と言ってましたがちょっとずれます。。