なんか、奥が深いみたい。
こんにちは、リョナ子です。
今日は寝不足。
昨晩、蓮華ちゃんに麻雀の面子が足りないからと呼び出され、夜中までやってたからね。
僕はマ〇オさんじゃないんだよなぁ。
しかし、あの三人相手だともう散々な結果だった。
円はいきなり天和(最初に配られた時点で揃ってる)で上がるし、それも役にはならなかったけど九連宝燈(なかなか出ないので揃ったら死ぬと言われる)だったり。
葵ちゃんはさも当然とイカサマするし。
蓮華ちゃんは完全なデジタル打ちでなにもかも記憶するから普通に強い。
天和使いとイカサマ使いと瞬間記憶能力保持者を相手にどうやって勝てと言うのだ。
僕はともかく他の三人は目が光ったり、後ろになにか出てきたりと凄まじい激戦を繰り広げていたけど、それはまた別のお話。
さぁ~て気持ちを切り替えて仕事仕事。
今日の午前中はレベル5が一件あったね。
いつものように書類を確認する。
罪人は45歳女性か、何々、息子の交際相手であった女子学生を殺害。死体が発見された直後に自首してきたと。
自首してきたとはいえレベルは変わらず、しかし余計な苦しみは不要かな。
よし、となれば速やかに執行しますか。
その時の僕は、すぐにこの執行は終わるって思ってたんだ。
だが、少々、ややこしい事になった。
「罪人、入ります」
「どうぞ~」
招き入れる。職員に連れ添われ一人の女性が中へと。
俯いて、なにもかも覚悟しているように、ただただ女は静かだった。
「さぁ、こちらへ」
椅子に固定すべく女を誘う。
そこで女は顔を上げた。
「・・・・・・ん?」
目が合って、そこで生じる違和感。
それは直感というべきもの、数多くの執行をこなしてきた特級だからこそ気づくような。
前もあったね、こんなこと。
「・・・・・・貴方、本当に殺しました?」
僕の問いかけに女の目が一瞬曇った。
「・・・・・・ちょっと、待ってくださいね~」
もう一度、書類の隅々に目を通す。
「司法解剖の結果、死後一週間前後か・・・・・・」
しかし、彼女の動機もいまいち不明瞭だね。遺体の写真も見てみる。腐敗がかなり酷い。死体には蠅や蛆が群がっていた。
僕の直感がこの者の犯行ではないと告げている。
その結論が正しいのなら、過程が間違ってるということ。
女が犯人ではなく、それでなお罪を被る理由。
僕は一つしか思いつかない。
この時点で証拠は自白のみか。
僕はもっと事件を紐解くために関係者に連絡をとった。
それにより書類では分からなかった事がいくつか判明した。
その前に僕の考えはこうだ、犯人は別にいてこの女が身代わりになってる。
そしてその相手は、息子しか考えられない。
だが、それはただの推測にすぎず、僕の勘という曖昧すぎるものだ。
実際、司法解剖の通り、遺体が死後10日前後なら、息子には確固たるアリバイがあった。部活の合宿中で犯行は不可能。これも女の自供に信憑性を与えてる要因の一つ。
でも、僕は今日まで数え切れない程の罪人と対面してきた。その僕がおかしいと感じた。だから、僕は自分を信じる事にしたんだ。
何かないか、見過ごしてはいないか。
さらに書類をよく見る。
一度見た箇所も何度でも。
遺体の写真を見ていたとき、頭を何かが過ぎった。
「・・・・・・蠅や蛆」
そういえばここの拷問士達はある分野においては詳しい知識を持ってる者も多い。
僕が見ても分からないものでも、もしかしたら。
すぐに受話器を取った。そしてある部屋番号の内線に繋いだ。
程なく、僕が呼んだ拷問士が、部屋のドアを叩く。
「あ、すいません、お忙しいとこ」
「いや、構わんよ」
入ってきたのは、特級拷問士、蟲盛さん。
彼女は虫を拷問に使用するほど、その分野に精通している。
「いきなりで申し訳ないのですが、この写真見ていただけます?」
書類を手渡す。蟲盛さんのモノクルが光った。
「ふむ、これはなかなか・・・・・・」
見てもらっている最中に、僕の考えを伝えた。
蟲盛さんは、今だこの場で拘束されている罪人に目を移した。
「・・・・・・なるほど。リョナ氏の言う事もありがち・・・・・・」
蟲盛さんは今度は僕の顔を見た。
「時にリョナ氏。この事件の第一発見者は誰だね?」
唐突な質問。だけど、それは書類に示してあったね。たしか近所に住む老人だった。
「早朝、日課の散歩をしていたご老人ですね。そこにも書いてあるはずですが」
僕がそういうと蟲盛さんは不敵に笑った。
「違うな。一番最初に死体を発見したのは虫だ。奴らは見逃さない。恐るべき早さで死体を発見して卵を産み付ける」
蟲盛さんのモノクロがまたも光を放つ。
「野外に放置された死体には、気温などの条件さえ整っていれば死後10分以内にハエがやってきて卵を産み、さらに卵から孵った蛆は死体を食べて成長する。死後数日ともなれば、おびただしい数の蛆が体内で集塊を形成しながら死体の組織を食べる。すると、そのウジを捕食する虫たちもやってきて死体にとりつくだろう。もっと時間がたてば、死体は乾燥して固くなり、蛆はもう死体を食べることができなくなり、すると今度は、乾燥して固くなった組織を食べる虫がやってきて死体に群がる。そのころには、蛆は死体から去って蛹や成虫になっているはずだな」
ほほ~、流石自分の専門分野になると饒舌になるのはみんな同じか。
でも、そうなると。
「もしかして、アリバイが・・・・・・崩せる?」
「どうだろうね、蛆は私が見ても種類までの判別は困難だ。しかし、他の虫などもよく調べれば犯行時間を割り出せるかもしれない」
死体にいた虫の成長の過程を、気温などを考慮して分析すれば腐乱微候だけで推測するより正確に割り出せると、蟲盛さんは言う。
「お願いしますっ!」
「まぁ、やってみよう」
こうして、この執行、蟲盛さんが預かる事で一時中断となった。
それからしばらくして。
蟲盛さんの調査の結果。遺体は死後2週間程度という見解に至った。
それにより、息子のアリバイは崩れ、捜査はやり直しになる。
程なく、息子が犯行を自供。死体が発見された事で不安になり母親に相談したのがきっかけだったという。母親は息子の身代わりに出頭。証拠も乏しく司法解剖のズレも生じてとんとん拍子で僕の場所まで来た。
さらに時は経ち再び、彼女が僕の部屋を訪れた。
今度はレベルを大幅に下げ、犯人隠避、証拠隠滅の罪でレベル1。親族だからという特例は適用されなかった。
「やぁ、また会いましたね。もう少しで僕は貴方の命を取るところでしたよ」
僕が皮肉めいた言動を発すると、女は目をそらして呟いた。
「・・・・・・余計な事を・・・・・・あのまま執行してくれれば、息子は普通の生活を・・・・・・」
彼女の言葉に、抑えていた感情が少し漏れた。
「・・・・・・僕達はね。刑法とはいえ好きで人を殺めてるんじゃないんですよ。それが法のため、秩序のため、善良なる国民のためと、自分に言い聞かせながら、心を削って、やってるんです。貴方の行為はね、そんな僕達執行人の心を踏みにじる冒涜ですよ」
危うく過剰な罰を与えるところだった。刑法の枠に収まってなければ、僕達の行為は別の意味に成り下がる。
「それに、色んな意見があるでしょうが、この国では未成年が殺人を犯しても一度なら更生というチャンスが与えられる。自ら死を選ぼうとするほど貴方は子供を愛していたのでしょう。でも、やり方を間違えた。貴方の息子は入ってはならない部屋に入り進んでいった。親なら無理矢理その部屋から息子を引き戻し、本来正しい道へと誘導しなきゃならなかったんだ。それを貴方はあろう事か息子が入っていったドアに鍵をかけた。子供がしでかした事は親の責任でもある、だけどこれって違うんじゃないかな」
親は子供ができたら、なにがなんでもその子を守らなければならない。僕はそれが親となった者の義務でもあり責任でもあると思ってる。でも、今回のやり方は子供を見捨てたのと同じだ。親なら一緒に罪を背負って、また道を踏み外さないようにしっかり隣で見ているべきじゃないかな。
「息子さんの執行は僕がやってあげる。しっかり性根を叩き直すつもりだ」
彼女に力強く宣言する。この後の言葉で僕の言ったことが伝わったかわかるね。
女は顔を上げて。
「・・・・・・どうか、お願いします」
涙を流しながらそう言った。
次回、以前葵円が潜入した学園の生徒が死体で発見された、その生徒は葵派閥の子で。そのニュースを見た二人のとった行動とは・・・・・・。みたいな感じでやりたいです。GW中にでも。