なんか、桜の色みたい。
足音の、響きと共に桜散り咲き~。
てわけで、はい、リョナ子です。
最近は着る服の枚数も減り、花粉症のない僕にはとてもいい季節が訪れようとしています。
ドク枝さんは、毒マスクをつけてるわりには花粉症で、マスクの下がえらい事になってた。 発症はダムのようで決壊した途端になるからね、僕も油断はできない、来年にはなる可能性もあるし。
さて、今回の罪人は。
外とは雰囲気ががらりと変わる。
コンクリートに覆われた室内は冷たく。やはりここは外界とは隔絶されているような錯覚におちいる。
対象は三人。
全て、別件だけど罪状とレベルは皆同じだった。だからこその同時執行。
季節に関係無く熱いコーヒーを喉に流し込みながら書類を確認。
「ふむほむ、全員詐欺罪でレベル3か」
コーヒーのカップを机に置いて、扉の方に顔を向けた。
なんとなく来る気配がわかった。
「罪人、入ります」
思った通り、今回の執行対象者が職員により運ばれてきた。
「どうぞ~」
手足を拘束され男女三人が中に入ってくる。
「両手を挙げるようにそのまま立たせて固定して・・・・・・」
右から初老の男、若い男、中年の女、それぞれ配置する。
準備が終わり、この場には僕とこの三人になった。
「さてと、まずは・・・・・・」
初老の男に目を移した。頭には毛がない。元からないのか剃ってるのか。
なんにせよそれには理由があった。
「貴方は見た目にはわかりづらいけど外国人だね。僧侶を装い観光客からお布施と称して金をだまし取ったと・・・・・・」
平和のためとか、災害にあった人のためとか色々言ってたみたい。短期滞在ビザでこの国に入ってこの手口で荒稼ぎしてたのか。
はぁ、別の国に来てまで悪い事して欲しくないなぁ。ターゲットは主に外国人観光客だったみたいだし、こんな事でうちの国の評判を落とさないでもらいたい。
偽僧侶はこの人だけではない、結構組織的に動いてるらしい。今回は件数も多く、リーダー的な役割をしていたから結構加算されてるね。
「で、こっちは・・・・・・」
真ん中の若い男を見る。
目隠しをされているけど、端正な顔立ちをしているのがわかる。
「ははぁ、この人は結婚詐欺か」
結婚するそぶりを見せて、借金があるからとか、親が病気で治療費がなどと言葉巧みに女性を欺して金をせびる。ある程度手にしたら霧のように消えてしまう。
被害者は多数。恋は盲目とはよく言ったもので、これも中々見破るのは難しい。
「最後は・・・・・・」
左端の中年女性に視線を向けた。
三人の中で最も背が低いけど、体重は一番ありそう。
「難病の子供のためと嘘をつき、募金を募ったのか。会見まで開いたんだね。そりゃバレるよ」
女には借金があり、それで返済するつもりだった。集まったお金は億を超えたとか。
「そっちの偽僧侶もそうだけど、僕は人の善意を利用するってのがとても気に入らない」
今度は全員を視界に入れて、うでを組んだ。
さて、どう執行してやろう。
数秒の思考の先、結論を導く。
「人を欺く奴らには丁度いいか」
僕はメスを取り出した。
拘束されていた台を調節、縛られていた両手の縄を引き上げて三人の体が少し浮くようにセットし直す。
「な、なにをするつもりだ・・・・・・」
「え、え、ちょっと・・・・・・」
「ヤメルアール、ストップ、ヘルプアール」
いよいよ始まると感じて、三者三様怯えはじめた。
僕は無言で三人のくるぶしにメスを入れた。
切られた肌から血が滴る。それは玉になり、地面にポタポタと音を立てる。
「聞こえるかな、君達の足から落ちる血の音が・・・・・・」
僕がそういうと囚人達が自然と耳を澄ます。静寂の中、室内に響く小さな音。
「人は血液の三分の一失うと死ぬよね。てことはだよ、このまま流れ続けたら・・・・・・」
説明の間にも、血の落ちる音がピチャピチャと。
「あああ、やめてくれっ、俺はそんな死ぬような罰じゃないだろうっ!?」
「そ、そうよっ! 人を殺したわけでもなし、ただちょっと出来心じゃないっ!」
「ヤメルアール、ストップ、ストップ、ヘルプアールっ!」
大声で叫びだす三人。
それを僕は見えてないのを分かった上で、一差し指を鼻につけた。
「しー。静かに。ちゃんと聞くんだ。自分の血がどんどん無くなっていく音を」
後は、しばらく放置する。
パイプ椅子に腰掛けて、読みかけの本に手を伸ばした。
「やめろっ! 早く、止血してくれ、このままじゃマジでっ!」
「助けて、もう許して、まだ死にたくないのっ!」
「チャンソーチンチャンッッ、チョドロンチーっ!」
もう、五月蝿いなぁ。口を塞ぎたいけど・・・・・・。
さらに30分。
相変わらず水滴が落ちる音が耳に入る。
心なしか最初より大きく聞こえるような気がした。
「そろそろいいかな・・・・・・」
三人はこの頃には随分大人しくなっていた。
顔は青ざめ、ふるふると体を震わせている。
「どれ、目隠しを解いてあげよう」
クロニャンのお面をしっかりつけて、三人の視界を自由にしてやった。
「はぁ・・・・・・はあ、ま、まだ死んでない・・・・・・あ・・・・・・あれ」
「え、そんな・・・・・・」
「アア、オカシイアール・・・・・・コンレハ・・・・・・」
三人はすぐさま傷口に目を落とした。
でもそこは、とっくに血は止まっていて。
近くには水を含ませた布から、水が一滴一滴落ちている。
そう、三人が自分の傷口から落ちていたと思っていた音は本来こっちからのものだった。
目隠しをされた状態の三人はあたかも自分から流れ出ていると欺されていたのだ。
「これね、ブアメードの血っていうんだよ。人の思い込みって凄いんだ。プラシーボ効果って聞いた事あるよね。で、これはその反対のノーシーボ効果」
病は気からってな感じで。ものすごく効力のある特効薬といってただのビタミン剤を飲ませると体が快方に向かったりと案外その効果は馬鹿にできない。
まぁ、さすがに今回ので死ぬってのは都市伝説だけど、それなりに恐怖は感じたはずだよね。実際、三人の顔には死相が浮かんでいた。
何はともあれ、三人は事の真相を得て、ほっとした顔を見せていた。
「あれ、なに安堵してるの? まさかこれで終わりだと思った?」
残念。こっからが締めだよ。
えっ、とした表情で僕を見る三人。
「えっと、鉗子と・・・・・・ハサミどこいったかな」
わざと聞こえるように通常より大きく声に出した。
「は? ハ、ハサミって・・・・・・」
「ちょ、ちょっと、え、え、なにっ」
「ハシャミ、ダメ、アブナイアールっ」
当然三人の言動なんかは無視しながら道具を探す。
「あ、あった、あった」
右手に(蟹)。左手には手術用のものを掴む鉗子を。
「悪い口はどれかな」
〈お仕置き中〉
「ああああああああばばあああ、やああっばべっべやべべべてててて」
〈お仕置き中〉
「ああああああばあああああああああああ」
先端が零れ落ちる。(あのね、あれだよ)。
まずは一人。
そのまま、残りも同様に執行。
二人は自国民だからいいとして、改めて外国の偽僧侶を見た。
「さぁ、自国にお帰り。今日ここであったこと、ちゃんと言い伝えてね。この国で悪いことするとこういう事になるって」
喋るたび、(あのね、あーされただよ)を見せることになるだろう。
(蟹)を持った右手を振る。
刃についた血がぴゅっと地面に飛び散り。
執行完了。
どこにでも、この国にだって、善良な人と悪い人はいて。
いつも損をするのは日々普通に暮らしている人ばかり。
もし、死んだ後次の世界があるのなら、ぜひとも現世の行いが反映されることを願うよ。
退院しました。