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なんか、色々動き出してきたみたい。(先輩編)


 その日、いつも通りに出勤してきた僕は、コーヒーカップ片手に新聞を読んでいた。

 記事に一通り目を通していくと、気になるものを見つけた。


「あらぁ、これやっぱり無罪になったんだ・・・・・・」


 そこにはある事件の容疑者が証拠不十分で釈放されたって掲載されていた。


 強盗殺人で一家惨殺っていう酷い事件だったけど、容疑者はすぐに逮捕された。でも、状況証拠も少なく犯人と特定するのは無理だったみたい。期間最大まで勾留したけど、結局自白による直接証拠を得られず間接証拠も揃わぬまま釈放ってわけだ。


「僕が見ても、こいつだと思うんだけどなぁ」


 この国は冤罪等の問題で検察側が弱いから仕方が無い。裁判の途中で推定無罪になる確率はとても高いのだ。


「ここに連れてくれば僕が吐かせてやるのに・・・・・・ともいかないよね」


 僕的には自白等の直接証拠で有罪判決の方が危ういと思ってる。よく状況証拠だけで死刑になったケースは問題視されるけど、自白だけの直接証拠のみで死刑の方が冤罪を招きやすい気がするのだけど、難しい問題だね。


 なんともすっきりしない気分になってしまった。でもすぐに今日の仕事が始まる。残りのコーヒーを一気に飲み干すと、僕は気分を切り替えて準備に移った。

 

 その数日後、その容疑者が無残な姿で殺害されたって事件を知った。

 そして間を開けないうちに、僕の元へ葵ちゃんからの電話がかかって来る事となる。


「あ、リョナ子ちゃん? 声を聞くの久しぶりだね。4320132秒ぶりに聞けたよ。嬉しいよ、すごくっ!」

「・・・・・・いいから用件はなに? よほどの事がないかぎり僕には連絡しないでって言ってたよね」 


 僕は葵ちゃんの番号を知ってるけど、僕のは葵ちゃんに教えてない。だから僕と連絡を取りたい場合は執行局を通して、この部屋の内線に繋げてもらうしかない。正直、葵ちゃんの事だからもうどこからか仕入れて知ってるは思うけどね。


「うんとね、前にね、一家を皆殺しにした強盗殺人の容疑者が証拠不十分で釈放されたの知ってる?」

「例のその後、殺害されたってやつでしょ? ついさっき見たけど。それがどうしたの?」


 わざわざ、何故そんな事を聞くために連絡してきたのか。僕は一切関わってない事件だけにそれが不思議だった。


「それそれ・・・・・・でね、その容疑者だけど」

「うん」

「殺したのってリョナ子ちゃん?」

「・・・・・・・・・・・・はい?」



 容疑者の男は、ある空き屋の一室で死体で発見された。


 椅子に縛り付けられ、身動きが取れない状態だったのですぐに他殺とわかった。


 その遺体が異質だったのは、上半身の(規制中)までが露出していた事。その他にも多数、拷問を受けた後が確認された。


 葵ちゃんはあまりの美しさにてっきり僕がやったのではないかと思ったみたい。葵ちゃんは頭はいいけど馬鹿だからそれは仕方ないとはいえ、僕はその事がとても気になった。


 すぐに現場の写真を送ってもらい観察する。


「・・・・・・・・・・・・これは」


 焼かれ、切られ、刺され、抜かれ、折られ、考えつくかぎりの苦痛を強いられてる。それらは肉が残ってる部分で判別できたけど、上半身が剥がされる前はどうなったのかこの写真だけではわからない。検死の結果も後で見てみるけど、これはレベルにすれば6相当。


 猟奇殺人犯でもここまで痛めつけられるのかどうか。


 直前まで生かされてたとすれば、この国でそれができるのは特級拷問士のみに限定される。


「現役がやったとは思えない・・・・・・となると」


 僕の頭に一人の人物が浮かぶ。でも、まさか、そんなはずは。必死に振り払う。でも考えれば考えるほどあの人の姿が脳裏を過ぎる。


 これ、まだ続くかもしれない。なぜだか僕には確信できた。



 一週間後、次の犠牲者が出た。被害者は数日前に執行を終えたばかりの元犯罪者だった。

 仲間と共にバイクでひったくりを繰り返していたのはまだ16歳の少年。


 その日の標的は、路地を歩くお婆さん、いつものように後ろからバックを取ろうとした所、手にしっかりかけていたため上手く取れずにお婆さんを転倒させてしまう。


 その後数メートル引き摺ったのち無理矢理バックを奪って逃走。お婆さんはその時の打ち所が悪く、病院に搬送されるも死亡が確認された。近くに住む孫に会いに行く途中の出来事だったみたい。


 この少年、未成年ということで執行レベルは3。数回の物理的執行で即時解放された。これが成人なら5にはなってた事だろう。


 僕が執行したわけではないけど、法が定めたこととはいえ、量刑が軽すぎるとつい思ってしまう事例だった。


 僕はすぐに呼び出され現場を視察した。今回も拷問された形跡があったのだ。警察も前回の事件と関連があるものとし、現役拷問士への見解を求めた。僕はその要請を受け、この場に立つ。


 事件現場は、元ガソリンスタンドだった場所。取り壊されずに荒れてはいたがほぼそのままの状態で残っていた。事務所があった建物は少年達の溜まり場だったと推測される。


「・・・・・・前よりは酷くない。レベルにして5ってとこだね」

「やっぱり、これ拷問士のしわざかな?」


 隣には葵ちゃん。猟奇殺人者の可能性も残っているため、そちらの方面での協力となった。


「こいつはそうかも。でも、周りの死体は拷問されてない。されてるのは例の少年だけだ・・・・・・」


 少年の死体の傍には他に三つの遺体。仲間だろうか、一人の体は綺麗なものだったけど頭部がなかった。他の二人にはいくつかの刺し傷。しかし、不可解なのは三人共片足ずつ手錠で繋がれており、手には血のついたナイフが握られていたって事。


「うん、こっちは違うねー。一緒にいたから巻き込まれたのかな。だとしたらここには当初、四人いたって事だよね。となると一人で殺れるかな~、私なら出来るけどっ!」


 たしかに僕の想像通りの犯人なら不可能に近い。拷問士は拷問に特化してるだけで殺人は本領ではない。この三人は殺人が専門の者がやったと考えるのが妥当なのか。


「・・・・・・つまり、この犯人は二人。一人は拷問士、そしてもう一人が殺人鬼って事かもしれない。二人は協力してるのか・・・・・・」


 もしそうなら利害が一致してるって事になる。これは明らかに罪が軽い者や裁判で逃げる事ができた犯罪者に対する独自の断罪。


「葵ちゃん・・・・・・実は僕には犯人に心当たりがある。そっちはなにか思い当たらない?」


 僕の質問に、葵ちゃんはすぐに答えた。


「状況から思い浮かぶ殺人鬼を1人知ってるよ。白いレインコートを着る、通称レッドドット。白頭巾ちゃんなんても呼ばれてる。なんでレッドドットかというと、本当は白いレインコートを着てるんだけどすぐに返り血で赤い水玉がついて模様みたいに見えるからみたい」


 僕もその名は聞いた事がある。世間でもかなり有名だ。


「・・・・・・白頭巾ちゃんて、たしか・・・・・・」

「うん、あまりの幼さゆえ罪にとえずに無罪となった、弱冠11歳のレベルブレイカーだよ」

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