おや、うん、これで任務完了です。(対凶悪立てこもり犯罪者集団編・其の四)
こんにちは、蓮華です。
今、私達によるリョナ子さん救出作戦はすでに最終局面を迎えつつあります。
シストさんより監視室に今回の首謀者はいなかったと、そう伝えてもらいました。
頭の中で組み立てます。少しずつ集まってくるピースを組み上げていく。
「ドールコレクター、円さん、もう分かりました。ここからは殲滅戦です。貴方達は手分けして残りの犯罪者を行動不能にしてください」
私の指示に二人の顔がゆっくり微笑みに変わっていきます。
「うふふ、蓮華ちゃんも頑張ってね。タイミングを逃すと後々面倒だよ」
「なんか、わからんが、わかったのだっ!」
ドールコレクターは私がこれからすることを理解してますね。
円さんはそのまま勢いで敵を倒してください。
「では、昆虫採集部、これより最後の大掃除に入ります」
私はこのまま動かず、ドールコレクターが右に、円さんは左にそれぞれ走り出しました。
ポケットから端末を取り出し、すぐに別の機関へと連絡。
気づくのがもう少し遅かったら間に合わなかったでしょう。
でも、シストさん達のお陰で時間を短縮できました。
後は、待つだけですね。
これはどうも、シストです。
僕達は監視室を制圧。
このまま僕がここから皆に指示を送る予定です。
ターゲットの居場所が手に取るようにわかります。
神の目を得た僕は、四人の殺人鬼に情報を提供していきます。
正直、敵であるドールコレクターや切り裂き円とやり取りするのは気が引けますが、それを差し引いてもリョナ子さんを助ける事の方が大事なのです。
それはここにいる全員が同じ気持ちで。
「タシイ、その先の部屋に、獣姦の九天がいる。そいつは無機物以外なんでも性対象だ、一応気をつけて」
「は~い、まかせてっ、おにねー様! 折り畳んであげるよっ」
「目黒さん、階段を上がったところに、歓楽街の絞殺魔が潜んでる。不意打ちで一気に片をつけよう」
「了解っ、まずは鼻先に一穴、そのまま、段々下に・・・・・・」
「ドールコレクターは、二つ先の食堂に三人います。どうしましょう?」
「うふふ、それは勝率低いねぇ、スルーするよぉ」
「円さん、角を曲がったとこに二人います、ですが単独では危険かもしれません」
「はぁ? 誰に言ってるのだっ! 関係ないのだっ、100人相手でも私はやるのだっ!」
う~ん、切り裂き円だけは扱いづらいなぁ。この子が素直に耳を貸すのは、ドールコレクターとリョナ子さん位でしょうね。
仕方ない、これも含めて僕の仕事か。
僕は殺人鬼連合のリーダー。
確実に扱えるのは同じ殺人鬼連合のメンバーだけ。
「タシイ、目黒さん、君達には少し細かく指示をする。これもリョナ子さんのためだと思って我慢して欲しい」
さて、この勝手に動く駒達をうまく制御しながら王手をかけようか。
お、蓮華です。
待っていた連絡が来たようですね。
「はい、蓮華です。あ、うまくいきましたか。では、こちらの顔を相手に見えるようにお願いします」
通話をテレビモードに切り替えます。
私には相手が、相手には私がみえている。
「お久しぶりです、17番、いえ、スティールプロフェッサー。あと一歩でしたねぇ、残念です」
画面には黒服達に両肩を押さえつけ膝をつく男の姿が。
後ろにはうっすら水面が見えます。
小さくいくつかの船も。
「深緑深層ぉぉぉぉぉっ! くそっ、くそがっ! 後少しでぇぇぇっ!」
白髪の長髪、細すぎる体、彼はスティールプロフェッサー。外患未遂罪でレベルブレイカーに認定、あの地下に拘留されておりました。
「ふふ、お怒りもごもっともです。あちらにいかれては私でも手が出せませんでしたもの」
先導者はこの男。あの執行局で立てこもりです、行動を起こすには内部の協力は大前提。
あのまま、執行局にいても周囲は完全に取り囲まれています、逃げるのはもはや不可能。
なら、どうするか、他の犯罪者を囮に自分は早々に執行局を出る。
つまり、私達が入った時点で、もうこの男はあそこにはいなかったのです。
職員の数も把握しております。二人ほどいなくなっていました。彼を逃がす役ですね、多分、そこに一緒にいて掴まってることでしょう。
「人質を使ってうまく逃げたとしても、すぐに掴まるでしょう。でも、私すら手が届かなくなる場所がある」
スティールプロフェッサーはいわば機関員です。彼を欲する国は多数でしょう。その一つが今回協力しているのです。彼を自国へ連れだす算段だった。
執行局の職員は、よく知ってるはずです。罪を犯せばどんな罰が下るか、それでも実行したということは、安全が確保されているから。
他国に入られると、どうしようもない。あちらは確実に関与を否定するでしょうし。
「空は厳しいでしょう、なら海からしかない、最寄りの港で出向リストを確認、目星をつけました。入るよりは出るほうが簡単ですしね」
私が淡々と喋っていると、深く俯いていた男が急に笑い出しました。
「・・・・・・ふ、ふ、ふふはははは、ここまで来て失敗するわけにいくか、俺は離れた場所にいるが、執行局の人質はまだ俺の手の中だ。合図一つで一斉に死ぬぞっ」
男は精一杯に強がり、こちらに笑って見せます。
果たしてはったりか、それとも・・・・・・。
「さぁ、理解したのなら俺を離せっ、嘘じゃないぞ、深緑深層、俺はお前のつねに上をいくのだっ!」
スティールプロフェッサーは、かなり頭が切れます。私も捕まえるのは少々骨が折れました。 だから、虚言とは言い切れない。実際、人質の命はまだ彼が握ってるのかも。
ですが。
「・・・・・・なら、やれ。お前のレベルは14だ。それを実行すれば倍以上はくだらない。今ならレベル4を三回程度、それが想像を絶する罰に昇華する。尊厳も、人権も、なにもかもなくなり、果てのない痛みと苦しみの中、最後に待っているのは完全な無。絶望の中でさらに絶望してお前は散るのだ」
久々に頭にきた。こんな小物に見くびられた。
この男は勘違いをしている。
それもとんでもなく。
私は別に善人でも温厚でも正常でもない。
ありったけの想いをぶつけよう。
「・・・・・・あ、ああ・・・・・・」
どうやら誤解は解けたみたいです。
「分かったらさっさと帰ってきてください。貴方はあの穴倉がお似合いですよ」
何もなかったかのように最後に笑って、こちらの仕事は終わりました。
う~ん、シストです。
盤面は中々複雑です。中央のプロ同士の戦いはまだ続いてますね。戦闘しながらリロード、それもきれると、今度はナイフに持ち替えて、超至近距離で殺し合ってます。蛇の構えから昇り、竜の構えから駆け出し、豹の構えから荒ぶり、今は夜叉になってます。まぁ、この戦闘が得意な・・・・・・達は無視して。
「くっ、やっぱりきつかったのだ。こいつら中々やるのだっ!」
円さんが苦戦中ですね。さっき100人相手でもなんたらと強気な発言をしてましたが。
相手は男性二人、それも体格もいい。少しのダメージでは怯みませんね。
そのうちの一人が急に体勢を崩しました。
後ろには人影が。
「なんだ~、本当にお前はお姉ちゃんがいね~となんもできね~のなっ!」
煽るように姿を現れたのは、血だらけのバールを持ったタシイです。
「はっ! ブラシスコンのお前だけには言われたくないのだっ!」
僕が向かわせたんです、どっちも死ぬほど嫌でしょうけどここは協力してもらおうか。
これで2対1。ここは大丈夫でしょう、二人が喧嘩しなきゃですが。
そして、もう一方は。
「ドールコレクター、これで勝率何パーよ」
戦いを放棄していたドールコレクターの前に、目黒ちゃんが到着。
「う~ん、30パーくらいかな?」
「そうか、そうか、なら、これならっ!?」
目黒ちゃんが敵がいる室内にさっと突入。
一番近くにいた男のこめかみ目掛けて挟み込むように二本の千枚通しを差し込みます。
両サイドから針を突き刺され、男の目玉が吸い込まれるように瞼の上に。
男は床に崩れ落ちます。
これで二体二。
「う~ん、まだ50パーだね。でも・・・・・・」
ゆっくり室内に入るドールコレクター。
一瞬、画像が乱れます。
ドールコレクターが踏み出したせいでしょう。
なにをしたのか、敵の一人が倒れました。顔を必死に押さえてますね。血に染まっていくのがここからでもよく見えます。
「これで、70パーまで上がったよ」
残りは一人。女囚のようです。二人に怯え後ずさりしてます。
ですが、もう逃げ場はありません。
目黒さんの千枚通りが太股を貫き。
「これで、80パーっ!」
ドールコレクターのナイフが腕を切り裂き。
「これで90パーだねぇ」
悲鳴を上げ、女は必死に逃げようとしますが。
「ほらほら、これで93パー」
「うふふ、94パー」
どんどん体を支配されていきます。
鳥が屍肉をついばむように、画像では二人の背中しか映らなくなりました。
残党狩りも順調にいきそうです。
蓮華です。
先導者の拘束に成功。後は、殲滅を待っていよいよリョナ子さんの救出に。
「ふふふ、ですがここは抜け駆けしましょう」
私が一番に助けにいく、これで好感度は鰻登りです。
そもそも殺人鬼連合の皆さんは顔を見せるのもまずいでしょう。
となれば、後はドールコレクターと円さんを出し抜けばいいだけ。
私が現れたら、リョナ子さんは、半べそをかきながら私に抱きついてくるのです。
ふふふ、私はその髪を優しく撫でて、もう大丈夫です、と。
ふふふ、勝ったな、ふふふ。
シストです。
蓮華さんが動きました。
他のみんなが頑張ってるのに、この人は抜け駆けする気です。
ですが、僕がここを離れるわけにはいきませんし、他のみんなに伝えれば仕事を放棄してそちらに行くでしょう。それも計算の内ですかね。
「ま、貴方が行くのが一番無難でしょう」
ここは手柄は譲りましょうかね。
僕らとすればリョナ子さんが無事ならそれでいいし。
リョナ子さんの仕事部屋の前に来た蓮華さん。
ですが、なんだか様子がおかしいですね。
いつものように微笑んではいますが、なんだか青ざめています。
汗もダラダラかいてるような。
あ、スマホを取り出しましたよ。
どこかにかけてるようですね。
お、動きが止まりましたね。
顔がゆっくりカメラの方に向きました。
なにか言ってます。
ん、なになに。
「てったい」
ん、どういうこと?
蓮華です。
私は軽やかに廊下をステップ。
リョナ子さんの仕事場につきました。
軽く、ノックします。
「リョナ子さん、私です、蓮華です、助けにきましたよっ!」
そう扉越しに声をかけたのですが。
無反応です。
それに、なんだか人の気配が全くしない。
え、まさか、いやいや、そんなはずは・・・・・・。
私は冷静を装って、震えながらスマホを取り出しました。
数回のコール。その人物は電話をとりました。
「ん、んん、はい・・・・・・」
目ぼけた声。
「・・・・・・蓮華です。あ、あの、リョナ子さん、今、どこですか?」
私の声は手と同じく震えています。
「あぁ、蓮華ちゃん、どうしたの、僕は家にいるよ。今日は休みだったんだ、昨日、村岡先生の新作が発売されてさぁ、陸軍中佐殺しってやつ、あれ読んでたら朝になっちゃって、それで今、起きたとこだよ」
現在、午後の2時ですよ。
「で、なにかあったのかな?」
「今すぐテレビをつけてください。それでわかるはずです、それではまた」
通話を切りました。
シストくんが見ているであろう、カメラに顔を向けます。
「撤退っ!」
そろそろ特殊部隊の配置も完了しているでしょう。こちらの反応がないので、いつ突入してくるかもわかりません。
その後、私達は、できるだけ介入したという証拠を消し、もはや今からここからの脱出は不可能と判断、顔見知りの拷問士に助けをもとめ、部屋に匿ってもらうことに。
くたびれ儲けの骨折り損とはまさにこのこと。
まさか救出対象がいなかったなんて。
「いこう、シストくんっ!」
「待ってて下さい、リョナ子さん」
「私、まだリョナ子さんにお勧めの本聞いてないんだよね~」
「これより、私達昆虫採集部の目的は一つ。リョナ子さんの救出が目的です!」
うがぁぁ。今頃、みんな恥ずかしさで死にそうになってるはず。
誰も連絡してなかったなんて、あれですね。火事の時、野次馬が誰かは通報しているはずだろうと思って、誰もしてなかったってやつに似てますね。
ドールコレクターの護衛と称した監視も執行局までは目が届きませんから、最初から確かめてなかったのでしょう。
それでも、人質は全員生存。犯罪者達も拘束済み。
そう考えれば、まだ救いはありますかね。
リョナ子さんは私達の活力剤であり、その反面弱点でもある。
それは疑いようがなさそうです。
無理矢理纏めました。後、関係ありませんが、今日誕生日です。だからなんだというね。




