なんか、研究するみたい。
研究会。
それは、年に数回拷問士達が集まって色々意見を出す場。
「うう、もうそんな時期か・・・・・・どうしよう、なにも考えてないや」
内容は至ってシンプル、なんか新しい拷問方法を考案してみんなの前で発表するの。
そうは言ってもだよ、僕の執行方法は自分の見た目のように地味なものだし。今更画期的な方法を年に何回も出せって無茶ぶりにもほどがあるよ。
「こういう時は本屋にでも行くか・・・・・・」
この日は休みだったので、昼ちょい前までたっぷり眠ったし、午後から行動を起こすことにした。
なにか参考になるかもしれない。そんな軽い気持ちだった。
気温は低いけど、まだ風がないだけかなりマシだね。
いっぱい着込んできたからそこまで寒さは感じない。
改札を抜け東口を出ると、意外な人物に声をかけられた。
「お、リョナ子さんではないですか、奇遇ですね」
「・・・・・・あ、シストくん」
相変わらずなんかキラキラしてる。そして少年? なのにとんでもないエロスを感じる。
あれ、今日は一人じゃなさそう。
隣には・・・・・・。
ゾッ・・・・・・。
顔を見て、一気に呼吸が止まりそうになった。
全身の血が逆流したような、すべて抜かれたような。
なんだ、この人。
シストくんの近くにいたのは、二人の女性。
一人はシストくんと同じようにキラキラしている凄い美少女。
顔がとても似ているからすぐに血縁者だとわかった。
で、問題なのはもう一人の方。
「あら~、なになに、シストのお友達かしらぁ~」
ニコニコしてるけど、内面は真逆だ。
とんでもない悪意を僕に向けている。
こんな人混みの中でさえ、殺されるのではないかと思ってしまうほど。
「ねぇ、おにねー様ぁ、この人だ~れ・・・・・・」
ツインテールの美少女の方はあからさまに敵意むき出しな眼差しを向けてくる。
こっちはこっちでおっかないなぁ。この年頃の子が出すようなものではない。
一呼吸置いた。
誰だか知らないけど、いきなり強烈な不意打ちをくらって少々面をくらってしまった。
でも、こっちも最初から身構えていたなら多分、平常心を保てたはず。
どれだけの悪意を受けようが、僕は負けない。
じゃなきゃ、あんな仕事やってられないよ。
「はじめまして、リョナ子といいます。シストくんとは以前のんびきならない状況で知り合いましてね、それ以来、たまにこうして遭遇するのですよ」
二人の顔をしっかり見て、視線を合わせる。
押しのけるように、そう挨拶を交わした。
「・・・・・・へぇ。そう、貴方が・・・・・・例の。ふふふ、いいわ、たしかに、うんうん、そうなのね~」
「・・・・・・ふ~ん。この人がおにねー様や目黒ちゃんが言ってた・・・・・・」
ちょっとだけ突き刺さる棘が弱まった気がした。
でも、油断はできないぞ。シストくんの正体は知っている、ということはこの人達も殺人連合の関係者かもしれない。ただでさえこんな黒い塊のような人達は、高レベル執行でも中々お目にかかれない。
と身構えていたのだけど。
三〇分後。
成り行きで僕はシスト君達と行動を共にする事になって。
「え、本が好きなんですねっ! あ、じゃあ、今度私にもお勧め教えてくださいよー」
「私は料理が得意なのよ、今度お招きするからぜひご飯食べましょうぉ~」
左右を挟まれて、僕はこの二人にめっちゃくっつかれていた。
「えっと、タシイちゃんだっけ。実は今日も本屋に行こうかと思ってたんだ」
僕の腕に手を回して、タシイちゃんは顔を寄せてくる。
「わぁ、じゃあ、丁度いいじゃないですか、私も一緒に行きますー」
「あらあら、じゃあ、料理本のコーナーも覗いてみない? 言ってくれればおばさん、何でも作ってあげるわぁー」
なんだ、これ、えらい気に入られてしまった。
最初の悪意がどこへやら、今はもう好意しか感じない。
「はは、リョナ子さんは殺人・・・・・・いや、ちょっと変わってる人達に好かれる体質なんですね、やっぱり僕とリョナ子さんはよく似ています」
シストくんは呑気に笑っているけど、この状況はちょっと困るなぁ。おばさんとタシイちゃんが寄り添ってくるからとても動きづらい。
「もう、今日、うちに泊まりにきなさい、そうよ、それがいいわっ」
「ママ、それは良い考えね、リョナ子さん私の部屋で一緒に寝ましょうっ!」
二人は薬でもやってるのかっていうほど、フンガフンガしてる。
「いや、明日は仕事なので・・・・・・」
やんわり断りろうとしたところで。
緩みまくっていた二人の表情が反転した。
また、僕の背筋が凍りつきそうになる。
僕が拒否したからかと思ったけど、二人は別の方を見ていた。
「・・・・・・あ~あ、これ多分人形遊びね。監視でもしてるのかしらぁ~」
「ちぃっ、せっかくいい気分だったのに・・・・・・」
眉間に顔中の皺が集まったかのように一点を睨んでる。
「この子が弱点。これで確信がいったわね。でも、まぁ、今となってはどうこうする気もないけども~」
「あー、あー、あー、あー、気分が悪い。ママ、ちょっと追っ払ってこようよ。私、ちょっと耐えられないや」
二人が僕の腕を放した。
「そうねぇ、ちょっと脅かしてきましょう。リョナ子ちゃん、ごめんね、おばさん達ちょっと用が出来ちゃったの。今度埋め合わせするわぁー」
「このままじゃあっちも関係無しに無茶しそうだし。リョナ子さん、今度買い物つきあってくださいっ! あ、後お勧めの本もお願いしますっ!」
こういって、二人が去って行く。
シストくんは笑顔でその後ろ姿に手を振っていた。
「僕達だけになっちゃいましたねぇ、どうしましょう」
「う~ん、僕は元々本屋に行きたかったんだよね」
そうだよ、研究会のアイデアを探してるんだ。
ここで、僕に一つの思いが過ぎった。
「あ、それじゃあ・・・・・・」
シストくんは僕が拷問士って事を知っている。それならいっそ意見を聞こうと思ったの。
本屋ではなく近くのカフェに入った。
大好きなコーヒーを注文する。
「はぁ、なるほど、新しい拷問方法ですか、リョナ子さんも大変ですねー」
「そうなんだよ。もはや先人によって踏み固められた中で新しい方法なんて中々見つからないでしょう」
なんか、不思議な感じ。拷問士は国家機密だから仕事の話は同僚以外は基本できない。それをこうして普通の学生に話しているのだ。
「古典的なやり方では駄目でしょうね。となるとむしろ科学的な見地からってのはどうでしょう」
「あ、それならあれどうかな、こうよく重力で地面に押しつけられるような。グラビティなんちゃらみたいなのできないだろうか」
よく、漫画とかであるよね。あれでGを自由に変えられれば色々なレベルに対応できそう。
「あぁ、良いですね。でも、あれそもそも重力じゃないですよ。ただの圧力です。重力を一点に集めて押さえつけるなんて無理でしょう」
「じゃあ、罪人を何かに入れて高速で回すとか・・・・・・」
「重力より気圧を操作する方がまだ現実的そうですけどね」
「あぁ、あれだね、宇宙空間に生身で放り出されると、一瞬で血が蒸発するってやつ」
「いや、実際それでも30秒くらいは生きられるみたいですよ。血液にも圧力はかかってますので、それにマイナス270度でも凍結することはありませんしね」
案外、人の体は丈夫だね。
「気圧といえば、潜水したりするとかかるよね。あれとかどうかな」
「水圧ですか。なら滅茶苦茶長いパイプをですね、いや、それも難しいでしょう。あぁそれなら・・・・・・」
てなわけでしばらくシストくんと話こんでいたら日も暮れてきた。
「今日はありがとう、おかげでなんとかなりそうだよ」
「いえいえ、こちらこそ、楽しかったですよ。どうやらうちの母さんも妹もリョナ子さんの事を相当気に入ったみたいですので、今度遊びにきてください」
僕はシストくんのお誘いに愛想笑いで返したけど。
さっきの二人、あれ確実に殺人鬼の類いだよ、僕の勘がそう告げている。
そんな家に招かれたらどんなお持て成しされるかわからないからね、ご遠慮します。
数日後。
「で、ありまして。圧力をかけた水を、いわゆるウォーターカッターをですね、使用しまして執行を行うという案をですね、僕は提案したいと思います」
特級拷問士が集まる中で、壇上に立って発表を行う。
「水はともかく、ランニングコストがかかるのではっ!?」
「研磨剤などの後処理はっ!?」
「そもそも、それを使うメリットは!?」
凄いつっこみが飛んでくる。
「いや、ほら、水出ますからですね、血とか肉片とかを掃除しながら・・・・・・」
「それ、ただ端っこに追いやってるだけだろうっ!」
「もう普通の刃物とかでいいんじゃないかな!?」
うあがぁぁ。否定的な意見しかでない。
後は、一応蓮華ちゃんにも聞いたんだよね。あの子拷問士のファンを自称してるし。
「あ、じゃあ、もう一つありますっ! えっと、至近距離での対空機関砲による執行をですねっ!」
ちなみに僕は対空機関砲というものがどんなものだかは知らない。
「馬鹿じゃないの! そんなの使ったら隣の部屋で執行している拷問士も死ぬわっ!」
「そもそもどうやってあんなでかいの部屋に持ち込むんだっ!」
「あんなの連射したらこの執行所が崩れるわっ!」
わわ、よく分からないけどさっきよりクレームが激しいよ。
とはいえ、結局この後も皆ろくな案は出てなかったし。
結局、普通にするのが一番て事だね。
ちなみにドク枝さんは。
警棒などで打撃を与えるさい、その衝撃は抵抗によって完全に伝わらないので、第一撃目の衝撃が抵抗とぶつかった瞬間、第二撃を瞬時にいれることでその二回目の衝撃は抵抗を受けることなく完全に伝わり、すごい効果を生みますと熱弁してました。
最近大人しいので、次は葵円回にします。あと、対空機関砲は画像検索するとどんな感じか分かりやすいと思います。




