うん、やっぱりうちはおかしい。
あ~めが降っても皆殺し~♪
か~ぜがふいても皆殺し~♪
や~りが降っても皆殺し~♪
円ちゃんが変な歌を歌っている。
「なにかな、その歌は」
「ん、あれだ、皆殺しの歌だ。替え歌的なやつだ」
「へぇ、そうのかぁ。それはそうと、私達の出番、今回これだけみたいだよ」
「え、まぢ? え、皆殺しは?」
「う~ん、それは今回別の人がやるみたい」
私は沙羅。国家保安委員、第五総局、情報機関ガラティア所属、そこの暗部チーム、レオティップスのリーダー。
通称レオテのメンバーは数十人。その中でも主に実行役は私を含めて五人。
前回の任務、子供のお使いと侮っていた。まさか貴重なメンバーの一人を失う事となるとは。
「ま、命はいつ無くなってもおかしくない。この仕事をやる時からそれは分かっていたこと」
言い聞かせるように呟く。仕事に私情は挟まない。その件の話は上が収めたみたいだし。
突入5時間前。
潜入メンバーを集めてのミィーテング。
「今回の任務は、最重要特級指定の逃亡犯。通称血深泥殺人鬼、ヴィセライーターの確保」
私はそう告げると、メンバー達がざわついた。
「え、あの史上最高レベルの殺人鬼ですか!? たしかレベルは・・・・・・」
「32だったはず。人をさらっては料理の材料にしてた異常者」
「あれですよね、忽然と姿を消して今まで消息不明だったはず。一体、今になってどうして居場所が?」
流石にみんな知っていたか。その筋の人間なら、この食人カリバはツチノコみたいな存在。
「深緑深層のマーダーマーダーからのリークだ。うちのボスが取引で得た」
この深緑深層もまた謎多き人物。どこかの地下に籠もってるとは聞いているが。噂では若い女性とのこと、だがそれはあり得ない。深緑深層の情報量、そのパイプの数を見れば、とても数年で築けるものではない。いや、もしかして誰かから引き継いだ可能性もあるか。
「細かい事はどうでもいい。私達はこのヴィセライーターを捕らえれば良い。そして、今回の対象はデッドアライブ。見つけ次第射殺してもいい」
史上最高だがなんだか知らんが、所詮はいかれただけの一般人。日々訓練をこなし、数々の任務で経験を積んできた我らレオティップスには簡単な仕事だ。
突入、5分前。
「配置は完了した。突入部隊は私の合図でミッション開始!」
そこは住宅街の一角。しかし、その豪邸まではいかない裕福そうな邸宅の周囲には一切家が建ってない。まるでその家を避けるように、路地の数本先まで周りは更地だった。
不自然きわまりない。妙な静けさも相まってなんだか不気味でされある。
サポート系の黒いワンボックスカー数台で逃げ場を塞ぐ。繋がる路地を封鎖。
これで、ヴィセライーターは袋の鼠。この時点で、任務は完遂したようなもの。
「あの家には対象の他にもう一人、娘と思われる人物がいる。これは保護。間違っても撃つなよ」
インカムで指示を送る。
事前の情報だと、さらに息子もいるようだが、早朝この家を出て行くのを確認。
今、あの家にはヴィセライーターとその娘の二人。
子供の前で、親を殺すかもしれないのは、少し気が引けるが、まぁこれも運命。
しかし、ヴィセライーターは家庭の中ではどんな振る舞いなのだろう。あれだけの異常者だ、子育てなんてまともにできるのか。うまく隠しているのかもしれないが、もし本性をさらけ出しているのなら、それに育てられた子供達は一体どのように。
突入、5秒前。
直接の実働部隊は私を含めた四人。他は狙撃、監視、通信など体勢は万全。
装備は全員がMP5を持ち、太股にはグロック17、一般人相手には過剰装備もいいところ。 玄関からは私ともう一人。残りは庭に回ってリビングの窓からが一人、裏からよじ登り二階からも潜入。
万一逃しても狙撃手を配置してる、この家を出た瞬間、奴の体がサーチライトで真っ赤に染まる。
「よし、突入っ」
玄関のドアノブをゆっくり降ろす。ドアを蹴破るような事はしない。
ここは住宅街、できれば静かに終わらせたい。
抵抗なく掴まってくれれば発砲もする事もないのだが。
「あらあら、いらっしゃ~い」
扉を開けた先、目の前、そこに立っていたのは・・・・・・。
瞬間、背を壁につけ、中を覗きこもうとしていたメンバーが。
崩れた。
頭ではなにが起こったかまだ理解していない。
それでも、体が引き金を勝手に握る。
その人物目掛けて発砲。数秒間、弾が放たれ続ける。一分で800発、だから今ので一体何発出たことか。
しかし、その人物は右へ左へ、煙のように揺らめきながら奥へと消えた。
「くっ」
地に落ちた仲間を見る。首がぱっくり開いている。溢れるように血がとめどなく流れている。 まだ思考は纏まらない、纏めさせてくれない。
「あきゃああああああああああああああ」
耳のイヤホンから悲鳴が。
「どうしたっ!?」
返事はない。別の場所から突入した者の声だった。
どうする、このまま一人で行くか。それとも一旦体勢を立て直すか。
いや、すでに仲間が中にいる。状況も知りたい。
私はまだ霧がかかった頭のままで、中へ踏み込んだ。
待ち伏せされていた。と言うことは外の状況をすでに知っているという事か。
女が消えた方に銃を構えながらゆっくり進む。
長い廊下、その先に階段が見え、その手前、左側にはまだ先がある。
次の足を踏む、その時、激しい音が。
体が跳ねる。心臓が飛び出しそうになった。
銃を向けた階段の上、そこから何か落ちてきたのだ。
それは、手足が本来の関節とは逆に折れ曲がった人間。
顔は血で真っ赤にそまり、見開いた瞳が、私の目とあった。
「メイっ!?」
顔が陥没や歪み、血だらけでも分かった。この折りたたまれた肉は、私の仲間だと。そしてすでに悟れるほどの損傷、すでに生きてはいまいと。
階段の上に人影が見えた。だが、瞬時に消える。
今のは誰だ、よく見えなかったがヴィセライーターか。いや、この短時間で二階に上がり、仲間を撲殺できる暇はない。となると・・・・・・。
「ふがぁああああああああああああ」
またも耳に劈くような絶叫が。
今度はステレオのように聞こえた。
左の通路からリアルに。
「いあぁぁあああ、あああああああ」
まだ悲鳴は続く。
助けなくては。最初にそう思った。
別に今回の相手は、銃を持つテロリストなどではない。ただの殺人犯。
緊張感などあるはずもなく、取るに足りない獲物だと。
そう思っていたのに。
廊下の奥、床につけられた鉄製の扉が開いていた。
中を覗くと梯子がかけられている。
地下室か。
銃を向け下を注意深く確認しながら降りていく。
壁も床もコンクリートが打ち付けられた場所に足をつける。
薄暗いが狭くはない、むしろ上より広いくらい。
ここ自体が廊下、前方には左右に扉を確認できる。
地下に部屋がいくつもあるのか。
しっかり銃を構えながら、最初のドアを開ける。
先ほどのような不意打ちを食らわなぬよう、さっと距離を取った。
部屋から流れる出るのは、冷気。
中にはさらにドアが。二重構造らしい。
次の扉を同様に開く。
今度は確実に感じる凛洌。
そこは所謂冷凍室のようで。
白い世界、中には大きな肉がいくつも吊り下げられている。
私は驚愕を禁じ得ない。
その肉は、牛や豚の形ではなかった。
完全に、人のそれ。
皮を剥がれ、内臓を取り出された肉の塊。
フックにかけられ並べられ。
それらを順に追っていくと。
私は声にならない声を上げることになる。
「っ!?」
一番奥にかけられていたのは。
これも、また。
私の・・・・・・仲間。
首の付け根から、巨大な釣り針のようなフックが突き刺さり。
項垂れるように宙に浮いていた。
液体がすぐに凍りつくような寒さの中、それでも温かい血は体から垂れ漏れる。
常識外の、想定外の光景を目の当たりにして。
完全に心がどこかに飛んでいた。
ガシャン。
後ろの扉が閉ざされる。
「なっ!」
慌ててドアに駆け寄るが。
開かない。
いくら力を込めようがビクともしない。
なんてことだ、なんてことだ。
閉じ込められた。
この極寒の中、肉の塊や死体とともに。
インカムの応答もない、完全に電波は遮断され。
銃を使って脱出を試みるも、厚い壁や扉は破壊できない。
落ち着け、外には仲間が大勢待機している。
突入から時間が経てば、行動を起こすはず。
そう望みを繋げた。
それから何時間経っただろう。
もう体は動かない。
とっくに力は無くなり、床に座り込む。
あまりの寒さに、もう意識も朦朧としている。
白い息がゆっくりと。目が閉じかける。
死というものがすぐそこまで来ていた。
「ねぇ、ママ、こいつどうすんの?」
「うふふ、この子はあれよ、このまま(あーしてこーしてあー)にしましょう」
夢か現か。僅かに聞こえる女達の声。
この後、私がどうなったのか、もうよくわからない。
〈狂乱親子活躍中〉
痛みもなにも感じず。
「凄いね、(あれがあーなって)、まだ生きてる」
「人間ってすぐ死ぬ反面、中々死なないものよね」
あ・・・・・・れ、今見えた・・・・・・赤い物は・・・・・・。
〈狂乱親子活躍中〉
あぁ、私の肉か。
こんにちは、シストです。
今日は買い物をするため駅周辺に。
お目当てのものを買い、夕方帰宅してみると。
見慣れない車が家の周りに沢山ありました。
その一つ、車内を覗くとハンドルにもたれ掛かるように倒れる男性が。頭からは血が出てますね。
ふむ、これはプロの仕業っぽい。よく分からないけど、少なくとも殺人鬼とかならこんなスマートに殺さないよね。
これはあれか、また家を探ってた人達が出てきたってことかな。
そうなると、これは瑞雀ちゃんの仕業か。いつもご苦労様だよ。
あの子、僕の仲間になってくれればいいのに。そしたら蛇苺にも対抗できるんだけど。
でも、あれは父さんの飼い犬だから、無理かな。今度ダメ元で父さんに聞いてみよう。
玄関を開けると、死体を引き摺ったように血のラインが家の中に続いていて。
「あら、シスト、お帰りなさい、ねぇねぇ、喜んでっ、今日はご馳走よっ!」
奥から、母さんが凄い笑顔で僕を迎えてくれた。
次の日からガラティアの存在は抹消されました。




