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あのね、それは幽霊のようなものなの。(前編)

  さむさむ寒いね、葵だよ。


 私達は今、近郊の町に来ているの。

 

 ちょっと前までお上品に過ごしていたからね。

 

 色々溜まりに溜まってるんだよぉ。

 あぁ、今にも破裂しそう。


 数時間前。

執行局の最下層。蓮華ちゃんの部屋。


「蓮華ちゃんただいまー! なにか仕事はないかな?」

「レンレン、今戻ったのだ、なにか殺れるのないか、あるな、頂戴」


 私達は学園潜入のミッションにある程度目処をつけた後、ここに戻ってきた。

 蓮華ちゃんは相変わらずモニターと睨めっこでこっちに顔を見せない。


「なんですか、貴方達帰るなり。まぁ仕事は溜まってますよ、ここから選んでください」


 それと同時にモニターの影から書類の山が飛んできた。


「選んだらその紙は処分してくださいねー」


 蓮華ちゃんの情報にはレベルがある。どうでも良さそうなのは普段使ってる端末に。そこそこ重要なのは回線を遮断した端末に。そして最重要機密は絶対漏れない場所に。それは蓮華ちゃんの頭の中。私もあの中までは覗けないからね、たとえ頭蓋から脳を取り出しても。今回のはデータで渡さない所を見るとそれなりのやつかな。


「・・・・・・色々あるねぇ」

「どれだ、姉御、さま、どれにする?」


 とにかく蓮華ちゃんが、よく口にする言葉が出るものにしなきゃね。

 捜索系は嫌だし、潜入系も面倒。となると。


「これにしようか。ん、場所はここじゃないんだね。蓮華ちゃんの管轄外じゃないの、これ」


 基本的に蓮華ちゃんは自分の縄張り以外は結構無関心。


「あぁ、ゴーストガンのやつですか。たしかに管轄外ですけどね、こっちにも飛び火しそうなので対象に入れてあるのですよ」


 ふ~ん。面白そうだね。でも決定するにはあれを聞かなきゃだよぉ。


「これ、条件はあったりするのかなぁ?」


「それはありません、貴方達に任せます」


 即答、そして、私も思わず笑みがこぼれる。


「うふふ、じゃあ、これにするよぉ」


 蓮華ちゃんの任せますは、好き勝手やっていいって事。


「円ちゃんさっそく行こうか。後、さまはもうつけなくていいよ」

「ういうい、わかったのだ、姉御、さま、いや姉御」 


 踵を返し、また扉へ。書類は丸めて放り投げる。後ろ向きに放たれた書類は屑籠に。内容は全部頭にコピー。


「・・・・・・あ、一つ、問題が。私の管轄外ですので、別の情報機関が・・・・・・」


 エレベーターが閉まる。ん、蓮華ちゃん最後になにか言ってた気がするけど、あれだね重要な事なら後から連絡がくるよね。


 

 そして、現在私達はその場所へ。 


「姉御、姉御、ゴーストガンてなんだ、私達はなにをすればいい? いいのだ?」


「ゴーストガンていうのは、違法に作られた銃だね。この国じゃそもそも銃は買えないけど、合法の国では普通に売ってるよね。でもそれを購入するには身分証や審査があって、銃にはシリアルナンバーが入ってる。だからそれを悪い事に使ったらすぐバレちゃう。線条痕っていう銃の指紋みたいなのはあるからね。でもゴーストガンは登録されてないから特定できないんだよ」


「ふむふむ」


「で、そのゴーストガンでも一度使うと足がつく可能性があるからバーナーってのになって使いづらくなる。東南で作られて大国に渡る間に価格の相場は上がるけど、バーナーになると一気に安くなる。でも国外をでれば再び相場は元に戻るの。大国から渡るのは大抵南米、この前私達が行った国みたいなカルテル同士が抗争してる地帯とかだね。あそこは需要もあるし」


「ふむふむ」


「で、今回、そのゴーストガンがこの国にも密輸されたみたいで、ここらをテリトリーにしているギャングもどきに出回ってる。私達の仕事はその仲介人を特定して情報だけ得ればいいの。役割事でグループが違うだろうけど、一人わかれば後は蓮華ちゃんが引き上がるよ」


「あーそういう事か、完全に理解したのだ(わかってない)」


「うんうん、さすが、ポプテ円ちゃんだよぉ」


 とりあえず、まずはギャングもどきを見つけよう。


「今回関わっているのは二つのギャングもどきチーム。一つは今いるここが縄張りのチワワってチームと、そしてそのチワワと抗争中のスカルマウスってチーム。どっちも非常に分かりやすいトレードマークがある」


 チワワの方は犬耳をつけてる。その姿はとても滑稽だけどこの街では誰も笑う事はできない。このチワワは名前のわりに中々凶悪だからね。たしかにひと目でわかるし、カラーーギャングのように同じ色の服を着るより選別しやすい。

 スカルマウスは、そのまま骸骨みたいな口だけのマスクをしている。こちらもかなり凶暴な集団。どちらも数百人のメンバーがいるとされてるね。


 分かりやすくていいね。どれ、しばらく町を巡ってみよう。


 裏路地を集中的に歩いて居ると、さっそく出くわしたよ。

 犬耳をつけた4人組の男達。


「あ~、運がないねぇ。一番最初に出会うなんて」

「そうだな、あれだ、今私達のフラストレーションは最高潮だ」


 今回の相手は銃を持ってるはず。でも別に初めてじゃないし、殺し屋でもテロリストでもないからね、今までで一番楽だよ。


「どうも、どうもー」


 後ろから声をかける。

 ここからは一瞬。


「あ?」


 男達が振り向くよりも、声を上げるよりも早く。

 瞬時に飛び出した円ちゃんのナイフが相手の喉を裂く。


 少し遅れて踏み出した私のナイフも別の男の胸に突き刺さる。

 その頃にはもう円ちゃんが残りの喉を切り裂いていた。う~ん、惚れ惚れするほど早いね。

 男達は全員その場に跪き、やがて体が崩れ地に伏せた。


「よし、今回は浅めにやったから全員生きてるよね」

「うんうん、姉御がすぐに殺すなって言ったから我慢したのだ」


 小さく呻きながら地面を這いずる男達の体をまさぐる。


「お、あった。これはコルト1911だっけ。銃を持ってるのはこいつだけだね」


 全員に行き渡ってるわけじゃないみたい。銃には詳しくないけれど、蓮華ちゃんいわく出回ってる可能性があるのは、このコルト1911と45。コンバットマスター、テックナイン、さらにAR15、AK15、AK47、M16。長物は隠すのが困難だからハンドガンが多いと思うの。蓮華ちゃんはAR15なんかは反動が少なくて使いやすいから注意して下さいって言ってた。


「この国で戦争でもする気かな? 子供の玩具にしては少々過ぎたものだねぇ」


 猿まねが好きにも程があるよぉ。尻尾は掴んだからこっから辿ろうと思う。


「円ちゃん、どれでもいいから壁の方に」

「ういうい」


 あ、その前に。


「ぎゃあっ」「はががぁ」「ああひぃあ」


 万が一連絡を取られたり逃げられないように、手と足を何カ所か刺しておく。

 

 男の一人を壁に寄り掛けるように移動させる。


「あ、あ、なんだ、お前ら、ス・・・・・・カル、マウスか、ここらには仲間が・・・・・・」


 喋ってる途中で悪いけど。


「がぁあ」


 ざらざらの壁に、もたれる男の顔を足の裏でぎゅっと押しつける。

 顔が潰れるくらいに強く踏み、固定させると。


「円ちゃん」

「ういうい」


 その顔目掛けて円ちゃんの強烈な蹴りが打ち込まれる。


「だぁばあぁ」


 大根おろしのように壁で顔が削られ、そのまま男が地面に倒れた。

 顔面の半分に肉が見えた。


「この銃はどこで手に入れたのかな?」


「ああ、いひぉぉおおお、あ、あ、ああ」


 痛みでそれどこじゃないか。こっちを見ようともしない。


「円ちゃん」

「ういうい」


 私の声で、円ちゃんは倒れている別の男の元に。

 

 そして、唐突にナイフの柄で顔を叩き始めた。

 突き刺すのと同じ要領で、力いっぱい叩き潰す。鼻が、歯が、眼球が、頬骨が、どんどん変形していく。


「やぎゃさ」「ばあばぁ」「あぁぁあ」「えばあぁ」


 めり込ませる度に悲鳴が上がる。


「早く言わないと、次は君だよぉ」


 円ちゃんは今し方潰していた仲間の一人をこの場に引き摺り、陥没した顔を男の前で見せつける。焦点が合わないほど近く。


「ああひぉ、リ、リーダー。が、どこ、からか・・・・・・」


「うん、じゃあそのリーダーどこにいるかな?」


「・・・・・・うう・・・・・・それは・・・・・・」


 この状況で報復とか、後の事を考えてるのかな、だとしたら余計な心配だよぉ。


「円ちゃん」

「ういうい」


〈円活躍中〉


「ああがっああはあっはひぶははがっがあ」


〈円活躍中〉


「ひ、ひぃい、た、溜まり場、ここから、近い、もう、やめ・・・・・・」


 ふむ、構造、大体何人くらい常駐しているか。主要メンバーはある程度事前に知ってるから・・・・・・。


「後はいいかぁ」


 3人目を使う事はなかったね。後は行為の最中でいいか。

 私が手を離すと、男はわずかに安堵したような気がした。自分は助かったのだと。


「円ちゃん、もう殺しちゃおう。獲物はまだまだいるけども、少し楽しんでこうか」


「ういうい、やったっ! いくぞぉっ!」


〈円活躍中〉


「はがややややがぁぁっぁぁぁぁぁぁっあああ」


 路地を駆け巡る絶叫。


「解体したら、その拠点行ってみようね」


 私は私で、口を割った男を見下ろす。

 さぁ、どこから切り取ろう。


 

 数十分後。


「あぁ、終わったから封鎖解除していいよぉ。うん、死体? はこのままでいいや、敵対グループのせいにしちゃおう、あ、やっぱり駄目だね。これは素人の仕業には見えない」


 妹に連絡をいれて、次のステップに進む。

 手が血だらけになっちゃった。やっぱりこの色、綺麗だね。


「今回は殺したい放題だよ。チワワもスカルマウスも・・・・・・」


「姉御、あれだ、あれだなっ!」


 ナイフを振ると新しい血が地面に飛び散った、でもこびり付いたのはそのまま。


 結局、なんでもいいんだよ。相手が殺人鬼だろうが、強盗だろうが、テロリストだろうが、ギャングもどきだろうが。


 私達はただ殺せればいいの。


 

 秘密の花園から抜けだした私達は。

 

 再び日常へと。

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