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あのね、光を照らすの。(学園潜入編2)

 ほいほい、葵だよ。

 

 今、私と円ちゃんは、お嬢様学校に潜入中なの。  


 ここまでまるで道ばたの石のように。

 片隅の、ほの暗い、底の底。

 出来るだけ目立たないように、認識されないよう。

 されど、原石は突然輝きを放つ。

 唐突に。

 目が眩むほどの。


 眠れる森の中、それでも私はただ寝そべっていたわけではない。


 この学園は大きく三つの派閥で分かれていた。

紅椿、蒼椿、白椿と呼ばれる三人の生徒の元、大抵どこかに属してる。


 紅椿が私達に道を譲ったという話はもう学園中に轟いているだろう。

 となると、他の派閥がなんらかのアクションを起こしてくると思うの。


「円ちゃん、くれぐれも私の指示以外の行動は取っちゃ駄目だよ。色々ストレス溜まるだろうけど我慢してね」


 私達は学年が違うから、つねに一緒にはいられないの。円ちゃんは危なっかしい部分があるから少し心配だよ。


「ういうい、大丈夫、大丈夫、ナイフもないし、私は、あれだ、つねに冷静な、感じだ」


円ちゃんはそう言うけど、やっぱり気になるなぁ。この前も死にそうになったばかりだよぉ。


 現状、少しずつ私達を慕ってくれる生徒は増えてきたけど、まだまだ全然足りない。

 味方が増えれば円ちゃんの盾に出来るんだけど。


 

 私の予感はよく当たるの。

それは昼休みに入ってしばらくした頃。


 私は円ちゃんと合流すべく、一年の教室に足を向けていた。

 その途中、私が落とした、いや取り込んでいた女生徒が血相をかえて駆けてきた。


「あ、葵さま、大変ですっ、円さまが、円さまが、白椿さまにっ」


 はぁ、巻き込まれちゃったかな。でも、遅かれ速かれこうなるとは思っていたよ。

 

 私は、そこへ向かいながら制服からスマホを取り出した。

 


 円ちゃんの教室の近く、廊下に人集りが出来ていた。

悲鳴と怒号のようなものが響いている。


「ちょっと、ごめんよぉ~」


 人混みをかき分け中心に入ると、そこには円ちゃんと。

 鼻血を垂れ流し、へたり込む白椿の姿。

 

「白椿さまっ! 白椿さまっ、ああ、大丈夫ですかっ、あああ、早く、医務の先生をっ」

「あんた、なにしてんのよっ! 白椿さまの顔にっ! 許さないからっ! 絶対っ!」


 取り巻きが騒いでるねぇ。

 状況から見るに、円ちゃん、手を出しちゃったのかな。

 とうの、円ちゃんはオロオロしている。


「どうしたのかなぁ~?」


 私が来た事で、円ちゃんは一瞬ほっとした顔を見せたが、すぐにばつが悪そうに眉を垂らした。


「あ、姉御、さま、ち、違うのだ、あっちが急に来て、私にわーわー、言ってきて、私がガン無視してたら、あの白いのが、私に手を上げて、だから、反射的に、カウンターがっ」


 なるほどね、紅椿の一件で、注目されてきた私達への牽制かな。まずは私の妹である円ちゃんにちょっかい出してきたんだね。

円ちゃんが狼狽えているのは、白椿がどうとかじゃない。私の言いつけを守れなかったから怒られると思ってるんだ。


「・・・・・・よくも、私の顔に・・・・・こんなに血がでて、退学よっ! すぐに追い出してやるっ! いや、そんなんじゃ気が済まないわっ! お父様に言いつけてやる、私に手をだしてただで済むと思うなよっ! お前らの家庭無茶苦茶にしてやるっ!」


 涙目で、鼻を押さえたハンカチを赤く染めながら、白椿は私達をこれでもかと睨んでいた。

 そうやって、自分の気にくわない生徒を排除してきたんだね。


 でも、それ、私達には一切通用しないよぉ。


「うふふ、どうぞ、どうぞだよぉ。ほら、電話してみたら、お父様ぁ~って。本当にそんな事できるのかな、やってみせてよぉ」


 白椿は、一瞬だけ驚愕した、けどすぐ強気な表情に戻す。


「はぁっ! なにできないと思ってるのっ!? 私のお父様は九條財閥の総帥よっ、あんたらなんて社会的に抹殺してやるんだからっ!」


「うん、だから、ほら、やってみてよ、すぐ電話して、ほらほら」


 私が煽ると、白椿は顔を真っ赤にさせて携帯を手にした。


「いいわ、後悔しなさい、土下座しても絶対許さないからっ!」


 睨んだまま、電話をかけ始めた。


「あ、お父様、遙です、実は、わたしく、暴力を振るわれまして、はい、相手は謝りもせず・・・・・・え、はい、そうです、金髪で眼帯の・・・・・・え、でも、どうしてですかっ!、私を殴ったんですよっ! お父様、なんでですかっ! あ、そんなっ」


 睨み付けていた視線が落ちる。白椿は力が抜けたように項垂れた、手からスマホがするりと床に落ちる。


 ここにつく前に蓮華ちゃんに先手をうってもらったからね。

 蓮華ちゃんは様々な情報をカードとして保有している。その一枚を使ってもらったの。


「あれ、どうしたのかな? お父様はなんて言ってたの、私達を無茶苦茶にするから安心しなさいって? ほら、黙ってないで、なんかいってごらんよぉ~」


 私は膝をおって、白椿の目の前にしゃがんだ。

 

 そして、長く艶やかな髪を乱暴に掴むと、俯いていた顔を無理矢理上げて目線を合わせた。


「よく聞いてねぇ。円ちゃんは私の、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、大切な妹なんだよぉ。今度なんかしようとしたら・・・・・・無茶苦茶になるのは貴方だよぉ。お前は籠にいるから安全なんだ、そこから出たらどうなるか、その全身から感じ取るんだねぇ」


 振り払うように掴んでいた髪を離すと立ち上がる。

 本当ならこんなもんで済むのは奇跡なんだよ。もし、場所が場所なら、この白椿、もう人の形はしてないよ。


「あ、姉御、さま、ごめん、なのだ・・・・・・」


 しゅんと落ち込む円ちゃんの頭を優しく撫でる。


「うんうん、いいんだよぉ。これはしょうがないよぉ、あっちが悪い、円ちゃんは一切悪くない。怪我はないかな、まぁ怪我させてたらもう任務なんてどうにでもよくなるけど・・・・・・」


 床に落ちた白椿の携帯を踏みつけながら、私達はその場を後にする。

 そういえばお昼休みだよ、今日はなにを食べようかな。ここの学食なかなか美味しいの。  


 翌日。


 すーはーすーはー。しかし、ここはいい香りで充満してるね。

 身麗しい生徒が沢山。まさに秘密の花園だよ。

 でも、それは外面だけ、内面は人として例外なく醜い部分がいくらでもある。


「無派閥の子達に、アプローチをかけるよ。みんなついてきてねぇ」


 私と円ちゃんは、何人かの葵派生徒を引き連れて別の教室へ。

 行動は私達二人で充分なんだけど、こういう集団は見た目に分かりやすい。


 クラス単位の枠組みでも、派閥はある。クラスでは同じ派閥同士でグループができているから、どこにも入ってないと迫害の対象になる。


「あ、いたいた、あの子だね」


 そういう子の情報を集める。

 その子は、クラスから孤立していた。

 ここは蒼椿グループのナンバー2がいるからそこの派閥グループが強い。

その子は、無所属でそもそも派閥に入ることも拒否され、ウザい、死ね、臭い、などわざと聞こえるように罵声を浴びさせられ、なにかのグループを作るときも当然仲間外れ、根も無い噂を流されたり、存在そのものを否定されていた。


 私は彼女の席まで来ると、にっこり微笑む。


「スカウトに来たよぉ、君、私のグループに来ないかなぁ?」


 突然の申し出に当然呆然とする少女。でも、少し強引にいくよ。

 顔を近づけ、耳元に、息を吹きかけるように、囁く。


「悪いようにはしないよぉ。貴方の存在、私がしっかり示してあげる」


 顔を離し、もう一度、瞳を合わせる。


「頷いて、その瞬間、君は私達が守るよぉ」


 ごく自然に、彼女は小さく首を縦に振った。


「うふふ、受け入れてくれて。嬉しいよぉ。・・・・・・円ちゃん」


 契約は終えた、今度は円ちゃんに声をかける。


「教室にいる子全員皆殺し、いつものように切り刻んで」


「お、お、お、まぢ、まぢ、まぢでいいの!? 姉御、大丈夫? いいの?」


 しばらく人を殺してなかったからねぇ、自分では気づかない内にどんどんその黒いモノは溜まっていく。


「うくく、やったっ。どいつに、しよう、誰から殺そう、姉御が良いっていった、あいつかな、鉛筆でまず耳の中につっこんだら、それを引き抜いて、今度は目だ・・・・・・、そしたら・・・・・・」


 円ちゃんが教室中を見渡して、標的を選ぶ、目が完全に狩る者に。どのように殺すか考えながら、口角をあげて。


「あ、あいつもいい、あいつは指を全部折って、爪も剥がして、歯を折って・・・・・・」


 ジリジリと獲物に近づこうとする円ちゃんのタイを掴む。


「なんて、嘘だよぉ。そんな事しちゃ駄目」


「えー、嘘なのか、なんだっ! せっかく、久しぶりに、皆殺しにっ!」


 頬を膨らませプンスカ怒る円ちゃん。途中で止めたけど、分かったよね。

 全員が円ちゃんを見て、嫌でも感じたはず。

 みんな顔がひきつってるもんね、温室で育った子達には刺激が強かったかな。


「この子は、私が貰うよ。今後、この子になにかしたら私達が相手だよ。よく覚えておいてねぇ」

 

これでよしと。無所属を取り込んだら、今度は各派閥に属している者を引き抜いていく。絶対に動かない層はあるけど、それでも6割、7割が理想かな。


 さぁ、どんどん染めるよぉ。


 この学園。


 葵色に。

 

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