そうね、この世は偽物だらけよ。(対殺人凶団、急)
死巣子よ。天使を見つけたの。
それも二人も。
私は我慢できずに足早に駆け寄ったわ。
ああぁ天使様、天使様、私達の、私の天使様。
「天使さまっ!」
緊張しながらも声をかけた。
「あぁ?」
「ん~?」
天使達はこちらに振り向いたの。私の声が届いた。
ツインテールで制服から曝されるはずの素肌は手も足も包帯だらけ。きっと服の中もでしょうね。
一見、上品そうなただの美少女なのだけど、雰囲気がそこらの女子とは違う。なんて説明すればいいかしら、あれね、夜中の墓場を徘徊してそうな、なんだか余計難しくなったかも。
もう一人は、少し長めのショートボブっていえばいいのかな。でも、顔の半分はそこだけ伸ばしたかのような長い前髪で隠されている。確認できる左目は周囲が真っ黒。こっちも凡庸な少女なんかではないわ、あれね、夜中の病院を徘徊してそうな、やっぱりこっちもうまく説明できない。とにかく普通じゃない。
「・・・・・・目黒ちゃんの知り合い?」
「いや、学生だしタシイの方じゃないの?」
二人は私達をさっと流すように見ると、今度は顔を見合わせた。
「知らないなぁ、ねぇ、貴方達、どっかで会いましたっけ?」
「お店のお客さんかな?」
天使様はできるだけ柔らかに振る舞おうとしてるわ、とても優しい方々。
気を遣って下さっているのね。
「いえ、私達は天使様を探しておりました」
二人は眉を潜める。おかしいわね、理解していない。天使様でも私達の意図を読むのは不可能なのかしら。それともわざとかも。
「天使?」
「どういう事かな?」
そうか、試されているのだわ。私が本当に使途たりうるか。
「失礼いたしました。そうですね、おいそれと言えるはずもありませんか、ならば、別の名称でお尋ねします。貴方様方はあれでしょう、殺人鬼、それも相当人を殺しまくった、ですよね?」
私がそう口にした瞬間、二人の態度が一変した。
「あぁ? 本当になんだ、お前ら」
「アタシ達にぃ、なんか用ぉ?」
優しい眼差しは、急激に温度を下げ、鋭さが一気に増す、まるで刃物のよう。
口調も変わり、体勢も、威嚇しながらいつでも喉元に噛みつけるように。
私達にはよく分からないけど、殺気というものが凄まじい風のように体にぶつかってるはずだわ、もう一度いうけど、その風圧みたいなのは私達は感じられないの。だってこの体はもう死んでるようなものだから。
「誤魔化されませんよ、天使様達はこの喧噪の中、全く興味を示さず、脇目も振らずにただ歩いていました。人間共がキョロキョロ、ソワソワ、アタフタ、と混乱する最中、天使様達だけがまるでこの世と隔絶されているかのような振る舞いを見せていた、間違いありません」
あちこちから煙りや炎が上がり、悲鳴やサイレンが響く中、彼女達だけが我関さずの姿勢。
「さぁ、導いてください、天使様、私達を、何でもいたします」
天使達は、首を傾げたまま、またお互い顔を見合わせ。
視線を交差させ、意志を交換、そして口を開かれました。
「・・・・・・じゃあ、とりあえず場所変えるわ」
「そうだね、ここで立ち話もなんだし・・・・・・」
あああ、やっと導いてくださる気になったのですね。
こうして、私達は天使様の指示の元、裏路地へと。
◇
あいあい、葵だよ。
今私達は、少女爆弾を探しています。
人混みを注意深く観察していると、別の者を見つけたの。
「わぁお、円ちゃん、見て見て」
「ん・・・・・・あっ! あいつらっ! バール女と、あれだ、眼球を集めてる女だっ!」
変なタイミングで遭遇したね。広範囲を見渡せるように高い場所に来たのが幸いだったよ。あっちが先に気づいてたら、後ろからいきなり刺されかねない。
「九相図がたしかこの街の病院に入院してたんだっけ、てことは退院したのか。・・・・・・お!?」
「ありゃ、姉御、あれって」
円ちゃんも分かったみたい。九相図と眼球アルバムに近づく二つの影。
「うふふ、円ちゃん、これは奇遇だねぇ」
「うんうん、これ、纏めて殺せないか? 姉御ならいけるか?」
円ちゃんは九相図にやられた傷が疼くのか、とても興奮している。
まさか裏で繋がってたのか。会話は聞こえないから四人の表情を深く読み取る。
「・・・・・・どうやらグルではなさそうだね」
「でも、あれだ、あいつら一緒にどっか行ったぞ」
一応、蓮華ちゃんに連絡した後、追いかけてみようかな。
◇
死巣子よ。私とルマは、天使様の言われるまま人気のない広場まで来たの。
なんか建設中の場所みたい、休日だからか誰もいないけど。
「ここでいいか」
「うん、そうだね」
広場の中央まで来た時だったわ。天使様が口を開いた。
そして、振り向きざま。
「っがぎゃっ!」
隣にいたルマが吹っ飛んだの。
ツインテールの天使さまの手にはバールが。
そうか、それでルマの頭部を殴りつけたのね。
あっという間の出来事で理解が中々追いつかない。
「あぁ、ここなら殺れるわ」
「おいおい、タシイ、目の付近は気をつけてよぉ」
え、なに、いきなり、一言も話す間もなく、一切の躊躇も無しに。
「どういう事ですっ! 天使様、説明をっ!」
大嫌いだけど、ルマは大切な同士よ。それを、この天使は。
「はぁ? 知るか、頭湧いてんのか? さっき何でも言う事聞くって言ったよな? じゃあ死ね」
「そうそう、アンタラが誰だろうが、殺してから調べるよ」
この言動はまさに天使。だけど、行動は天使様としてはありえない、使途に手を出すなんて。
「あぁ、偽物だったのね。私としたことが、これは・・・・・・駄目ね」
滅しましょう。灰にしてあげましょう。真っ黒の、消し炭に。
◇
私こと葵は追いかけてきたの。そしたら九相図がいきなり少女をバールで殴りつけていた。
なんだか分からないけど、あの二人は蓮華ちゃんに無傷で連れてこいって言われてるし。
ちょっと、リスクがあるけど、しょうがない。
「どうも、どうも~」
四人、まぁ一人倒れているけど。そこに顔を出す。
「・・・・・・ああ?? ・・・・・・これは驚き。ようお前らぁ、よく私達の前に顔出せたなぁ、ああぁぁぁあああああ???」
「ドールコレクターァァァァッァ、アタシの目はぁぁぁあ??? どこやった、ああああ?」
もうびっくりする位お怒りなの。ちょっと引くくらいだよぉ。
「うくく、バール女、元気になったのだ、でも、あれだ、また病院に逆戻り、いや墓場、なのだ」
困ったことに円ちゃんも興奮して私より前に出て行ったの。
私としては、ちょっと考えが甘かったかも。
因縁があるとはいえ、ここまで激しく化学反応が起こるとは思わなかった。
私は遺恨とか残さないタイプだから、二人の感覚がよく理解出来なかったんだね。
そこに登場したのが、見知らぬおばさん。
通路から、大声を聞きつけたのか、こちらに駆け寄ってきた。
「あらあら、なになに、喧嘩は駄目よっ! やめなさい!」
私も当初は喧嘩を仲裁にきたおせっかいなおばさん、そう思ったんだけど。
よくよく考えれば妙な行動。僅かな違和感は、回路に電気が走るように、一瞬で答えを導いていく。
「円ちゃんっ! 離れてっ!」
思考は追いついた。少女爆弾、制服、リスト、固定観念。
あの青髪、それを印象づけるために態々あんな派手な登場をしたんだ。
爆弾は少女だけではない。
少々小太りのおばさんは円ちゃんにきつく抱きついた。
「なんだ、なんなのだ、このおばさんっ! すっごい力だ、離せ、離すのだっ!」
「絶望・・・・・・みんな殺したい・・・・・・誰にもぉ、理解できない、絶望ぉぉーー」
ブツブツ何か言ってる。余裕は無いに等しい。これ間に合うかな。
〈今すぐそこから離れろ。距離を取れ。逃げろ、一秒でも早く、できるだけ遠くに〉
どこからか脳を埋め尽くすほどの声が聞こえてくる。
逃げろ、離れろ、見殺しにしろ。
前の私なら迷わずそれに従ってたけど。
「うふふ、お断りするよぉ」
私は懸命に中央へ向かって飛び込んでいた。
「おらぁああああああああああああっ!」
その刹那、九相図のバールがおばさんの頭部を直撃する。
溜まらず大の字に倒れ込む女。
その手の平に、千枚通しが貫通、地面に撃ち込まれる。ぽろりと転がる携帯。
「絶望ってのは簡単に口にしちゃいけないぞぉ」
女を覗き込み、九相図はバールを両手で振り上げる。
「目黒ちゃん、こいつの目いるぅ?」
「ううん、いらな~い」
それを聞くなり九相図が僅かに微笑んだ。
「あぁ、今なら言っていいよ、絶望~って」
〈タシイさん活躍中〉
「ふぅ、病み上がりにはきついね。でも久々ですっきり」
全く動かなくなったのを確認すると漸く九相図が体を上げた。
「・・・・・・ねぇ」
それを見計らって、私は。
深々と頭を下げたの。
二人に向かって。
「はぁ? なんだぁぁ、やめろ、やめろ、気持ち悪っ!」
「おいおい、あのドールコレクターが頭を下げてるぞ、たしかに吐き気がする」
まぁ、実際危なかったしね。危うくまた円ちゃんを危険にさらす所だったよ。
「円ちゃんを助けてくれてありがとうだよぉ」
「あ、姉御、なんでこんな奴らに、姉御が・・・・・・」
円ちゃんもびっくりしてる、でもねプライドとか自尊心とかはたしかに必要だけど、それは頑なに持とうとするほど大事なものじゃない。天秤が傾けばどうでもいいもの。
「・・・・・・お礼に今回は見逃してあげるよぉ、でもまた敵対するなら・・・・・・その時は殺すね」
顔を上げて、にっこり笑顔を見せる。
「はっ、てめぇはそれでいいんだよっ、おい、切り裂きぃ、お前は私が粉々にするんだ、それまで死ぬなよ、ただの一般人に殺されそうになるとか・・・・・・だっさ」
「アタシらは帰るよ、タシイの退院祝いがあるから。あ、ドールコレクター、お前、アタシの目返せよ、次ちゃんと持って来い」
こうして二人は去って行く。
青髪は混乱にしょうじて連れをつれてどっかに逃げたよ。他の仲間も近くにいたんだね。
ま、こっちも見逃してあげたんだけど。
だって、さっき連絡した時知ったから。
「あ、おにねー様、なんか私達絡まれちゃってー。うん、そうなの、だからね、うん、お願い」
九相図も去りながら電話をかけてた。
あっちもなにか考えがあるみたい。
となると、私達の仕事は・・・・・・。
最後に残るあれだけかな。
次は他の拷問士を絡めたリョナ子話か、このままさくっと凶団編終わらせちゃうかのどっちかです。




