表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/167

なんか、それぞれ見えるものが違うみたい。

 途中飛ばしても問題ありません。

 数ヶ月前、ある男が民家に立てこもった。


別の事件で逃走中であった。


 この男は、住宅街の民家に押し入り、中にいた女性、そしてその子供達二人を殺害。

 

 捜索中の警官が、照明がついているにもかかわらず無反応の住宅に行き着く。不審に思い周囲を覗くと、その家の二階の窓から犯人が顔を出した。


 この時点で住人の安否は不明。

 警察は賢明な説得を試みるが、数十分後事が動いた。

 男は手に持つ包丁で自殺を図ったのだ。

 何度も自分の体を刺し、血が住宅の壁を伝う。

 その後、そこから投身、全身何カ所も骨折。

 意識不明になった所で、警官が取り囲みようやく身柄が確保された。


 暫くの間、意識不明の状態は続いたが十日後、意識が戻る。

 懸命の治療の結果、命は取り留め、男は順調に回復していった。


そして裁判の末。



 いやいや、急に寒くなってきたよ。

 なんだい、僕は寒いのは嫌いだよ。暑いのも嫌いだけど。

 飼い猫のソフィと一緒に丸くなる日々がまた今年もやってくるみたい。


 僕達は恒温動物だけど、体温を自由にコントロールできればいいのに、なんて馬鹿な事を思ったりする。寒い時はぽかぽかと、そして暑い時にはこう雪女的なひやっとした感じで。ちなみにナマケモノは哺乳類だけど変温動物だったよね。関係ないけど。


 そういえば蟲盛さんは爬虫類も結構育てていた、あれも色々温度管理してたなぁ。

 なんだっけ、特に可愛がってた、レオなんちゃらとかいう種類のトカゲだかヤモリだか。瞼があるほうがトカゲで、無いほうがヤモリ、いや逆だったかな。蟲盛さんのは特性が色々違っててよく覚えていない。

 とにかく霧吹きをしながら話しかけている姿がなんとも幸せそうだった。

 僕もソフィとじゃれている時は至福、だから気持ちはとても分かる。

 そんな僕だから、蟲盛さんも普段入れない自分の執行部屋に招いてくれるんだ。たしかに蛇などの爬虫類や虫なんかは嫌がる人が結構いるからね。


 でも好きな人にとっては悲鳴を上げられたり嫌な顔されたりしたら傷つくよ。

人の嗜好なんてそれぞれだし、認めないまでも否定する事はない。


 そういえば、関連して最近こんな事があった。

 

 あれは久しぶりにお千代さんのお店に出向いた時。

 普段店の奥にいるはずのお千代さんが店先で同じ年齢くらいの人と激しく言い争っていた。

 

「おいババアっ! それは聞き捨てならないよっ! よりによって、うちのサファイアちゃんをぉぉぉぉっ!」


「なにいってんだいっ! 最初に煽ったのそっちじゃないかっ!」


 おおおお、なんだ、なんだ、いい歳して、お互い凄い言い合いしてるよ。


「ちょっと、お千代さん、どうしたんですか!?」


 見るに見かねて仲裁に入る。あのお千代さんがこんなに怒るなんて、一体なにが。


「あ、リョナ子。聞いとくれ、このババァがっ! シャイニングのサファイアちゃんをあざといと馬鹿にするんだよっ!」


「間違ってないだろうがっ! なにが頑張りなサファイヤだっ!」


「ああっ!? 可愛いだろがぁぁ! そっちはあれだろっ! なんか○○コンとかヤ〇〇レがいるだろうがぁ!」


 くっ、よくわからないけど、別のアニメかなんかでお互い罵ってるんだ、これ。


「ちょっ、ちょっ、やめてくださいよ。もうなんなんですか」


 つかみ合いになりそうだったので、割り込む。


「そもそも、そっちはいっつも仲間内で内戦してるだろうっ! このババァっ! 拷問するぞっ!」


「それは、そっちもだろうがぁぁぁ! 新旧、ユニット、カプ、中の人、なんでもかんでもっ! 海に沈めるぞ、こらぁ!」 


「やめろっ、やめろぉっ!」


 必死で止める。とんでもない勢いだよ、なんだこの二人はそのコンテンツに親でも殺されたのか。


 そして、CDの売り上げガー、円盤の売り上げガー、ライブの会場ガー、と終わりが見えないまま。僕がもう一つの方を見て聞いてどっちが上か判断することになったの。とんだとばっちりだよ。


 そんで数日後。全部のCDを聞き、劇場版を含む全部の映像も見て、後ロボのも見て。結果を告げることに。


「コホン、結論、どっちも良いです。こっちのドルテイマーですけど、歌えなかった子が声を出した瞬間はめちゃくちゃ泣きました。やったっ! とね。演出が見事で、そしてその時の歌もかなり良かったです。お千代さんの方のラヴァプリは新シリーズも最後はちょっと正直あれでしたけど、キャラは可愛かったし、円盤の売り上げもいいし、次に期待が持てます」


 よし、双方良い所を出す。これでお互い握手して綺麗に仲直りだ。

 

 へへ、そっちも中々やるじゃないか、と。

 ふん、お前こそ、とね。

 前に僕とドク枝さんとでコーヒーと紅茶で争った時のようになるはず。


「あぁぁぁあ!? どっちも好きだなんて認めないよっ!」

「そうだ、そうだっ! そんなのニワカもいいとこだよっ!」


「ぇえぇ・・・・・・」


「そもそも円盤の売り上げは、イベチケのガーーー」

「そっちはゲームの課金ガーーー」


 駄目だったぁ。

 人は争うように出来ているのか。競争無くして進歩無し。

 さぁ、帰ろう。

 好きなものをとことん突き詰める傾向はいいけど、だからといって他を目の敵にするのはどうなのかなぁ。


 なんて、本当に第三者にはどうでもいい話を思い出してしまった。


 さて、執行、執行。


 えっと、あぁ、例の立てこもりの罪人か。

 僕が担当になるとはね。

 自殺を図り、ほとんど瀕死だった犯人が快方したんだね。


 レベルは6。


 両手を上に吊された罪人。


 死罪なので、顔はそのまま。

 覚悟は決まってるのか、大人しいものだ。

 でも、ふいに顔を上げ小さく呟く。


「あの・・・・・・最後に、一言、伝えて欲しい事がある・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 僕は答えない。だけど、罪人は構わず言葉を続けた。


「俺を、処置してくれた、医者に、感謝を、そして、申し訳ないと・・・・・・。折角懸命に直してくれたのに、こうやって、国に、お前に、殺されるんだ、無駄骨に、ちゃんと見てた、俺なんかのために、あんなに一生懸命・・・・・・」


 男は涙を流しだした。だけど、なに言ってるんだ、この者は。


「その医者は使命にのっとって治療したんだよ。それが仕事だ。そしてそれは無駄骨じゃない」


 僕はリョナ子棒をきつく握った。


 殺された母親はね。生前にエンディングノートを書いていたんだ。もし死んだら家族の写真を棺桶に入れてくれって、好きな音楽を流してくれと。

 でも、そのノートは証拠品として押収されていて。

 残された旦那さんは、それを見る事はできずに彼女の願いは叶わなかった。


 リョナ子棒で男の顔面を力いっぱい叩き付けた。

 

「あぎゃあっぁぁああああ」


 別の意味で男から涙が流れ、血も流れ。


「そして、罰を与える。それが僕の仕事だ。ここから先は僕がその医者から引き継ごう」


 僕もその医者には感謝しているよ。だって、あのまま死なれたら殺された家族達が報われない。お前がしたこと、一つ残らず、その快方した体に叩き込む。


 男の体には刺し傷が。これは自分自身でやった箇所。

 縫合も終え、今は完全に塞がっていた。


 メスに持ち替える。


 そして、その場所を再び開く。


「いだぁっぁぁあああああ、やめ、いだああ、せっかく、塞がっ・・・・・・あああ」 


こうして、男の体を壊していく。

 何時間も、何十時間も。

 二人きりで、ずっと。


 終わったのは深夜。終電もなくなったからこのままお泊まりだね。

 どっちにしても壁にもたれる僕にはそんな気力は残っていない。

 特級でも長時間の執行はやはり慣れるものでもない。

 自分を誤魔化すにも限界はある。


 後片付けしなきゃ、職員も呼ばなきゃ。

 でも少しだけ息をつく。

 自然と目を閉じた。

 すると、すぐに訪れる。


血だらけのリビング、凶器、死体・・・・・・。

 幼い子供達、母親、被害者。そして目の前の、ほとんど原型を留めていない男の顔が。

 僕の脳裏をフラッシュバックのように。

 現れては消え。

 現れては消え。


 現れては・・・・・・。


 はっ、危ない、危ない。必死に抗う。いつだってそう、油断すると呑み込まれる。


 はは、凄いよね。

 医者はこの男一人を助けるのにどんなに頑張った事か。

 僕は、この男一人を処罰するのにどんなに大変だったか。

 蝕んでいく精神を必死に制御して、どんどん大きくなる震えを押さえ込み。


 だけど、こいつは、簡単に、あっけなく人を三人も殺しちゃうんだから。


こんな僕でさえ、真似できそうにない。

 異世界版葵ちゃん久しぶりに更新しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ