そうね、立ち上がりましょう。(対殺人凶団、序)
殺せ。
殺せ、殺せ。
殺せ、殺せ、殺せ。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
手始めにあの町から。
あそこには、執行局があり、多くのレベルブレイカーもいる。
私達の聖地に相応しい。
定めた場所より少し離れた地。
そこの女子校の空き教室。
いつもの場所。
「・・・・・・というわけでさ、いいかしら?」
私こと、腐乱死巣子は一緒にいた同士に問いかける。
真っ青な髪の毛先を指でくるくる弄りながら。
青は好きよ、空も海も同じ色。
「うん、いいんじゃないかな、うん、いいと思うよ、うんうん」
同士の名は地田ルマ。耳に掛かるか掛からないかほどの短い髪、長身ですらっとしたライン、なぜ男に生まれてこなかったと、いつも思う。そしてすぐに考え直す。
そもそも私達は人に生まれた事自体が間違いだった。
人は醜悪で浅ましく、卑賤で身勝手で残虐で。
「なんで、この世にあのようなモノが存在しているのだろう」
毎日、毎日、毎日、毎日、いつでも、いかなる時でもわき起こる自問自答。
動物を、自然を、星を、自分達がまるで頂点にいるかのように振る舞い、壊し、奪い。
今すぐに淘汰されなくてはならない種族。
このままでは人間によって全てが失われてしまう。
「だから、私達のような者が必要なんだよ、うんうん」
同じ人間でも私達は違う、人をとことん憎み、嫌悪し、排除したいと考える。
その思考にいたる事こそが、私達の使命。
神がそう与えた。
私達は、災害を望む。
私達は、事件や事故を望む。
私達は人が死ぬ事を望む。
賛同者はそれなりに増えた。
そろそろ第一歩を踏み出す段階に来た。
「週末にでも一斉に指示を出そうと思っているの。全員で乗り込みましょう。ポイントを稼ぐチャンスだわ」
「そうだね。うん、そうしよう。あそこは天使が住まう場所だ」
自分自身の命が5ポイント。
若い男女はさらに上乗せ。
医療、福祉系に携わる人間は倍々。
政治家、警察もプラス要素。
例外は私達が天使と呼ぶ、大量殺人を犯したレベルブレイカー。天使達はいっぱい人を殺してくれる。
そして拷問士。それも特級レベル。あれも天使と呼ぶに相応しい。これも人をいっぱい殺してくれる。
この者達も私達と同じ使命を受けた者に違いない。そう造られたのだ。
「ルマ、すぐに準備をして頂戴。聖戦の始まりよ。あぁ、会える。やっと会えるのね、天使達に。なんて挨拶すればいいかしら」
「うんうん、わかったよ、死巣子。いや、教祖様と呼ぶべきかな」
殺せば殺すほど。
ポイントを得れば得るほど。
その魂は、次のステージで救済され祝福を受ける。
私達は、殺人教団。
同じ人として生まれながら使命を受けた者達。
人を殺す事で認められ、救われる。
「待ってて、私の天使達。一緒にこの世を浄化しましょう」
◇
その数日後の昼下がり。
某聖地、名も無き某同士。
教祖様がついに指示を出された。
もうこの世は腐りきってる。
この日を今か今かと待ちわびていた。
「あはは、まさか、こんな少女が、爆弾巻き付けてるなんて誰も思わないよね」
降り立った町の片隅で笑う。
きっかけは些細な事。
必死に努力して、努力して幼い頃からずっと頑張ってきた。
高校最後の試合。私はあっさりレギュラーから外された。後から入ってきた後輩がその枠を奪ったのだ。今まで私の努力はなんだったのだろう。誰よりも練習してきた、誰よりも前向きだった。それなのに、それなのに。
支えが消えると、私はなにもかも無気力に。
白黒の世界。
でもそこに差しのばされた手。
絶望、諦め、そういった負の感情を抱いた者が自然に訪れる。
行き着いた先はなにげないサイト。いたって普通の。
コンテンツをいくつか眺めていると、メールが届いた。
その主は言った。貴方は選ばれたと。いや、見つけ出しただったか。
ある手順を正確に踏むと、そうなるらしい。だが私のようなただの一教団員には理解する事はできないし、する必要もない。
私を拒絶した人間が嫌い。
私を拒絶した世界が憎い。
思い通りにいかないのは、周りの人間のせい。
今はとにかくポイントを稼がなければ。
目の前、丁度二人組の少女が通り過ぎた。
仲よさそうに、談笑しながら。
イライラする。その友情もどうせ幻想だ。なにかの拍子であっけなく崩れ去るものだ。
あの子達、年齢的に子は宿せそう、なら一人10ポイント。自分も含めて25ポイント。
本当はもっと稼ぎたいけど、もう限界。早くこの腐敗した世界から抜けだしたい。
ああああ、あいつらにしよう。二人仲良く道連れだ。今ならその友情も永遠。
背後から近づいて抱きつく。そして起爆、それで終わり。
三つの体はグチャグチャに飛び散る。周囲は肉片と血が散乱する。
距離をつめる。相手は気づいてない。
いくよ、いくよ、いくよぉぉぉぉ。
私は一気に踏み込・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あれ。
おかしい。
起爆しない。
それどころかその起動するためのスマホが。
あれあれあれ、手首が、いやどこだ、痛い、とにかく痛い、痛い、いだい。いいだいい。
景色が回る。視界には空。
その青い空が、外側から塗りつぶされていくように赤く染まっていく。
「なんだ、こいつ。あっ、なんか巻き付いてるぞ、これ爆弾だ、そうじゃないか!?」
「ん~、そうだねぇ。これ蓮華ちゃんが言ってた例のあれだよぉ」
朦朧とする意識の中、耳に声が吸い込まれる。
「うくく、じゃあ偶然私達を標的にしたのか、馬鹿なやつ、お馬鹿さんだ」
「うふふ、しょうがないよぉ。だって・・・・・・」
それはまるで私を迎えに来た天使の声。
「まさか、私達のような少女が殺人鬼だなんて誰も思わないもん」
・・・・・・やはり天使・・・・・・。
「じゃあこいつはこの後、なにしてもレンレンには怒られない、のだ」
「だねぇ、他の仲間にもわかるように、色々しておこうか」
ああああ、この魂、天使様によって。
それならこの結果は捨てたものでは・・・・・・。
「残りが何人いるかしらんが、あれだ、好きなだけ殺せるパティーンだ、これはいい、ラッキーだ」
「うふふ、そうだねぇ、この子達治安を乱すテロリストだもんね」
言動で、気づかされる。
こいつらは違う。偽物だ。
教祖さまはいっておられた。
天使の中には、本来の使命から反し国家という諸悪の集合体のために動くモノがいると。
教祖様が堕天使と呼び警戒していた裏切り者。
目をつけたのも偶然じゃなかった。
だけど、それは間違いで・・・・・・。
私の魂が。
穢れて、堕ちていく。
あぁ、切り刻まれる。
生きたまま。
まだ意識は。
消えない。
◇
時間は巻き戻る。
キュルキュルキュルキュル。
某日某時間。
電車がホームに入ってきて。
10両編成の扉が開き、その全てからぞろぞろと降りる、様々な制服を着た少女達。
私達は最後にゆっくり立ち上がった。
「まずは天使を探しましょう。きっと私達を導いてくれるはずだわ」
「うんうん、そうしよう。でも、簡単に見つけられるものかな」
ルマの疑問も最もだけれども。
心配はないわ。
特別な存在は特別な存在と惹かれ合う。
瞳が合えばわかるはず。
私達は殺人教団。
選ばれしモノ。
次の敵は、色々極限までこじらした者達です。あ、これも普通にリョナ子の執行話を挟んでやってく予定です。




