なんか、面白かったみたい。
ここのところ暑いんだか、寒いんだか。
今日は長袖でいいかな、いや午後から暑くなるかも。
なんて、毎朝考えながら身支度を整える。
最近の出来事。
特級拷問士が謎の失踪をとげた。
それも二人も。
他にも一級の子がいなくなり。
仕事上の影響もあったけど。
それ以上に、この出来事は他の拷問士達に不安を与えた。
なにか事件に巻き込まれたのではないか。
国家機密で守られている自分達が。
それを凌ぐ大きな力が働いて。
自分達以上に恨みをかう職業もなかなか珍しい。
皆口には出さないが、答えのない問いを頭に描いていた。
失踪した人物が人物だ。事件以外にも色々想像をかき立てられる。
僕はというと、蓮華ちゃんにそれとなく聞いてはみたけど、あちらもよくわからないという解答。それが本当でも嘘でも、彼女がそう言った以上、僕ではたどり着けない領域と理解する。
色々考えちゃうけど、それは門を潜るまで。
ここを越えれば、もう職場。
執行をするのに、余計な思いは邪魔になるだけ。
ただでさえ忙しくなったのだ。
僕はプロとして、きっちり切り替えていかなければならない。
部屋に入ると、すぐに書類を確認。今日の執行内容を頭に入れる。
「まずは・・・・・・レベル3の同時執行。罪人は未成年四人か」
組み立てる。罪状、その内容を見てどう執行するか考える。
「罪人、入ります」
コーヒーを飲む暇もないまま、職員が執行対象者を連れて来た。
その声に慌てて黒ニャンのお面をつけた。
忙しそうなのは、どこも一緒か。誰も彼もがピリピリしていて。
雰囲気で察する。
やれやれ、今日も残業かな。
「全員、仰向けに寝かして拘束。四人を並べるようにお願いします」
職員に指示をし、僕はその間に執行の準備をせわしく始めた。
とはいっても大がかりな道具は今回使用しない。
体を四本のベルトでベットに固定。
身動きを取れなくする。
顔にはなにもしていない。なので四人の表情は見て取れる。
薄暗い室内。ここで何人もの命を絶ってきた。
まさに外の世界とは隔離された別の空間。
血の匂いがこびり付いているかも、死罪を受けた者の怨念が渦巻いているかも。
いつもここにいる僕にはなにも感じないけど、この四人はどうだろうね。
強がってる者、怯えた顔を見せるもの、いずれにしろ平常心ではいられないだろう。
「ふむ、釣り人に声をかけて海に突き落としたのか。その様を動画で撮影。それを数件。ほうほう、末恐ろしい子達だねぇ」
まだ幼い四人は、中学生くらいか。
見た目で判断してはいけないんだろうけど、ぱっと見素行がいいようには見えない。
頭が悪いのは、ここに縛られている時点で明白だけれども。
「なんでこんな事したんだろうねぇ」
問いかけのような、独り言のような、そんな呟き。
一番端の子にお面越しに目を向ける。
「・・・・・・あ、慌ててるのが、面白くて、必死にばしゃばしゃ藻掻いてて・・・・・・」
書類によると、この少年達はターゲットを絞ってたみたいだね。
高齢者だと死ぬかもしれない、若いと抵抗されると。
逆にそれが殺意がなかったって事になるのかな。
「これ、悪戯じゃ済まないよ。殺人未遂だ。というか未遂ってのは殺人と同じ。たまたま死ななかっただけ」
もし、足が悪かったら。落ちた拍子にどこか怪我をしていたら。
パニックになったり、なにか持病でも持っていたりしたら。
子供でも水中で暴れられると助けるのは困難だ。
もし、突き落とされた人が溺れた場合、例え四人がかりでもうまく救出できたか疑問だね。怖くなって逃げ出す可能性もある。
「どうも死という概念が薄れている気がするよ」
それに対する恐怖というものもね。
「じゃあ、始めようか」
僕はタオルを濡らすと、男の子達の顔に被せていく。
まずは全員にやり個人差をはかる。
限界を見極める。
呼吸ができない少年達は、しばらくすると指先をばたつかせる。
僅かな可動域で必死に藻掻く。
「ふむ、こんなものか」
動きを見て、取り外す。すると、少年は狂ったように呼吸を始めた。
「は、はぁぁあは! はははあぁぁっ! はっぁ、はぁあぁ、はああぁぁぁ」
胸を激しく上下させ、酸素を一生懸命取り込んでいる。
でも、すぐにまたタオルを被せた。
「ん~んんんんっ・・・・・・・」
解放と遮断を繰り返す。
死を。その恐怖を、身をもって脳に刻み込んでいく。
「どうだい、苦しいかな? 怖いかな? これ遊び半分でやられたらたまったものじゃないよね。でも、君達のやった事はこういう事だよ」
幼い脳に、しっかり教え込まなきゃ。
痛み、苦しみ、本来避けるべきものだけど。
想像できない者は他人にもそれを平気でやるだろう。
口で言ってもわからないなら、行為で示そう。
「これを何回も繰り返そう。小動物でさえ反復すれば覚えるんだ、君らでも分かってくれると信じているよ」
絶えず動きを見ながら、執行を続ける。
「あ、もしかしたらタオルを取るのが少し遅れてしまうかもしれない。それにより手遅れになったらごめんよ。でも、殺す気はなかったんだし、たまたまの判断ミスだから許してほしい」
脅しをかける。特級の僕がそんなミスをする事はないけども、効果は高まると思う。
そろそろ仕上げかな。
被害者は落ちた時に腰を痛め、全治2週間の怪我を負った。
その分が残っている。
顔全体を覆っていたタオル。
目元だけを捲ってやる。血走った8個の目。
僕はリョナ子棒を取り出すと、鼻先に突き出す。
「折らない程度に加減はするつもりだよ」
振り上げる。
そして・・・・・・。
〈躾け中〉、この執行は終わりとなった。
「君達の名や顔は世間では公表されない。でも僕はしっかり覚えてたよ。今度僕の前に来たら・・・・・・さすがに想像つくかな」
こういう罪人は枚挙にいとまがない。
それでも、一つ一つやっていかないと。
またすぐに次の罪人は運ばれてくる。
コーヒーを飲む時間は、はたして。
今日はあるだろうか。
2年目に突入しました。この先どれだけ続けるかわかりませんが、これからも何卒よろしくお願いいたします。




