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なんか、後輩を研修するみたい。二日目

午前中、最初の仕事が始まった。


「さて、今日は覚せい剤取締法違反のレベル4からだね」


 しかも、これ黒紙だ。ましろちゃんにとってはいい経験になりそう。


「これはレベル4だから、二級のましろちゃんでは執行できない。でも一級になればやる仕事だ。これましろちゃんならどうするかな?」

「・・・・・・そうですね」


 ましろちゃんは深く考え込んでしまった。


「ちなみにこれ黒紙だね。黒紙の事はわかる?」

「あ、黒紙でしたか。はい、勿論知ってます。黒紙は私達拷問士の真骨頂。対象者から情報を引き出す裏作業です」


 うんうん、黒紙は一級以上の拷問士にしかこないから、わからなくても不思議じゃないけどましろちゃんはちゃんと勉強してるね。


「大正解、それで今回はこの末端の売人から上を辿っていく」

「となると、いつも以上に執行には細心の注意をはらわなければですね」

「そうだね。難しいとは思うけど、やってみようか」


 拷問てのは拷じて問うと書く。英語にするとそんな意味ははないけど、本来そっちのイメージが強い。ここでは自白等には使わないけど、たまにこうして執行ついでに情報を吐かせる場合もある。無理矢理引き出した情報は信憑性が曖昧だから滅多に依頼は来ないけどね。


 椅子に固定された男の猿ぐつわを外す。目隠しはそのままで口だけを自由にさせた。


「さてさて、執行を始める前に聞いとくよ。君はどこから薬を仕入れてるのかな?」


 この時点で喋るはずもないけど、もし話したら少しだけ執行時間が短くなる。どっちにしても手加減はしないけどね。


「知らねぇよっ! いいからさっさとやれっ!」


 まぁ、そう言うよね。大概、売人は外国人か自分自身が中毒者の場合が多い。で、こいつは後者、使い捨ての駒にすぎない。


「そう、じゃあ話したくなったら言って」


 僕は鉈を手にして用意を始めた。


「僕、ちまちまやるの好きじゃないんだけどなぁ」


〈お仕置き中〉


「うがややあがあうあぐあっ!」


 悲痛が木霊する。〈お仕置き中〉


「ひあやあはががあかああかっ!」


 その都度、男からは同じようなトーンで腹の底からの悲鳴が上がる。


「指って手足含めて20本、関節から数えると48カ所ある。・・・・・・つまり48回これを続けられる。あ、後46回ね」


 僕はその場にいる2人に聞こえるようにいった。これは執行であり、拷問であり、ましろちゃんの研修でもあるのだ。


「切りにくいのはハサミを使おう。でも鉈のようにすぱっとはいかないから手間取っちゃうんだよねぇ」


 僕がぼそっと男の耳に呟く。そしてまた鉈を振り上げると男が慌てて口を開いた。


「わかったっ! 喋るっ! だからやめてくれっ! 俺は変な外人から買ってそれを転売してたんだっ! 外人の顔はよく覚えてねぇっ、本当だっ!」


 男の言葉に、僕は無言で〈お仕置き中〉


「ひゃうあうあああああかあっ!!」


 〈お仕置き中〉


「君ねぇ、そんな常套句で誤魔化そうなんて馬鹿なのかい? 押収された量はそんな手段で手に入る量ではなかったよ。君の上はルートと直接繋がってそうだね」


 薬中の口が堅いのは、もし口を割ると自分にもう薬が回ってこなくなるからだ。中毒者にとっては報復よりもそちらを怖れる。麻薬による快楽とそれが切れたときの苦痛、それらを上回るほどの絶望を僕は与えなくてはならない。


「全部切り終えたら(うんたらかんたら)。両腕がそれじゃあ薬を打つのも一苦労だね」


 実際やってもいいんだけど、入れた瞬間、あまりの熱さに抵抗されて僕にかかる危険があるからお勧めはしない。ましろちゃんには後で教えておこう。


 結局、男は次のあれであっさり吐いた。今回は4回か、まぁもった方かもね。


「いやぁ、やっと本当っぽいこと言ってくれたね。ありがとう、ちゃんと裏は取るけど僕は君の証言を信じるよ」


 男の涙が目隠しからにじみ出て顔をぬらす。口からは涎と荒い息。それでも多少ほっとしてるように見える。もしかして勘違いされちゃったかな。


「さて、じゃあ続きしようか」

「・・・・・・え?」


 男はこれで終わりだと思ったのだろう。冗談じゃない、レベル4はこんなもんじゃ済まない。こいつは自分が何人の人生を狂わせたと思ってるんだか。


「こっからが本番だよ。さっきほど優しくないから気を引き締めてくれ」


 僕はリョナ子棒に持ち替える。ましろちゃんに見えるように男の喉を指さした。


「頸部は呼吸、循環器系、中枢神経等が密集してるから、いわゆる人の急所と呼ばれる部分の一つだ」


 僕はましろちゃんに向かってそう言うと、リョナ子棒で男の喉をある程度力を抜いた状態で叩いた。


「・・・・・・っふぐっ!」


 派手な声は上がらない。でも痛みは大きいはず。


「こんな感じで軽くやっても激痛と瞬間的な呼吸中断が起きる。だからここをやるときは気をつけてね。頸静脈や頸動脈のダメージは脳に衝撃が伝わり、襟足付近だと呼吸中枢の延髄に届く。影響は想像以上だと思うから、こういうのは感覚で掴んでいってもらいたい」


 執行をしつつ、ましろちゃんの研修も忘れない。


「はいっ! 勉強になりますっ!」


 ましろちゃんはメモをとりながら真剣に聞いている。

 この罪人はもう吐いたから顔への拷問もできる、上から順に教えていこうかな。  

 

 こうして二日目の研修も無事に進んでいった。

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