あのね、海外遠征なの。後編
車を走らせる。町中に入ったの。
前方、また一人発見。
窓から外へ、円ちゃんの握るナイフが。
通り過ぎる。
そして通行人の首から血飛沫が上がった。
バックミラーを覗くと、人影が崩れるようにバタリと倒れこむ。
「きゃほ~っ」
「いえ~いっ」
目についた者は全員標的。
悪そうな奴らも大体標的。
ベイベー、ベイベー。
この時の私達は変なテンションになっていたの。
何人か殺しながら町の中心に入っていく。
そんな時かな、急に車の調子が悪くなった。
「あら、なんかレスポンスがいまいち・・・・・・」
途中、結構無茶な運転してたからなぁ。
しょうがない、目的の売春宿まではまだあるけどここからは歩こうか。
「円ちゃん、もうこの車駄目みたい」
「ん、そうなのか、じゃあこっから歩きか?」
しかし、この姿は目立つよね。
異国人で、二人ともドレスみたいな格好。
後々の事を考えると結構問題だよ。
「でも、ま、いっか」
着替えもないしね。見られてもいいよ。
その代わり・・・・・・。
「円ちゃん、ここから先、私達の目に入った者は必ず殺さなければならない」
出来るだけ遭遇を回避するよう努めるけれど。
「お、あれか、なんだっけ、サーチなんとか・・・・・・」
「そうだね・・・・・・見敵必殺・・・・・・」
にやつきながら、静かに呟く。
「サーチアンドデストロイ」
闇夜に消えるその言葉。
私は円ちゃんと、そして自身に命令を下す。
昼間なら裏の顔スイッチをいれて歩けばいいけれど、夜は逆に気配を出さない。
直感で決める。危なそうな道は選ばず。
それでも、当たるときは当たるの。
声をかけられたら・・・・・・。
目が合ったら・・・・・・。
それじゃもう遅いの。
瞬時に周囲の状況を把握。
思考は二択。
殺せるか、殺せないか。
あちらがこちらの存在に気づく前に。
一人なら良し、二人組でもまぁ良し。
後ろからそっと近づき。
髪を掴むと、顎を引き上げる。
そして、喉をかっ切る。
これでお終い。
「姉度、死体はこのままでいいのか?」
「うん、基本放置でいいよぉ。警察も組織の犯行と見ればほとんど調べないから」
なんて楽なんだろう。素晴らしいね。
自国じゃこうはいかない。
それでも少し小細工はしとかなきゃね。
私達はナイフを多用してるし、そこは不自然。
ちゃんと敵対組織がやったように見せなきゃ。
「円ちゃん、次は少し生かしとくね。色々詳しい事聞きたいし」
「ういうい」
ある程度は下調べしてきたけど、現地でしか得られない情報もある。
私達が通ったことでできた凸凹の土をならすように、出来るだけ綺麗に真っ平らにしておこう。
結構歩いたかな。
ようやく目的地についたの。
ヘルナンデス姉妹が経営していた売春宿。
外からじゃよくわからないね。観光客というより地元の人が利用してたっぽい。
そういう場所柄か、ここらは外灯があって少しだけ明るい。
裏手に回ると、話し声が聞こえた。
息を殺して近づいてみる。
「ペラペラペ~ラ(この女はもう駄目だな、孕んじっまってるし)」
「ペラペラペ~ロ(もう使い物にならねぇ、どうせ殺すなら賭けをしようぜ)」
男が二人。その傍にはぐったりしてる女がいるね。お腹が大きい、妊婦さんかな。
「ペラペラペペロンチ~ノ(じゃあ俺は男にするぜ)」
「ペラペラペラドンナ~(そうか、じゃあ俺は女だ)」
なにか会話をしていたと思ったら、男の一人が唐突に(酷い事してます)。
女はもう衰弱しきっていて悲鳴も上げない。それでもその目からは涙が流れでていた。
男は(考えられない事をしてます)。
「ペラペ~ランっ(よし、男だっ)」
「ペラ~ニョッ(なんだよ、ハズレだぜ)」
肩を落とす男がポケットからお札を数枚取り出す。
はは~ん。(あれをこーしたんだねぇ)。
ふ~ん、なるほどなるほど。
「円ちゃん、まずは浅めに喉を裂いて、そしたら足ね」
「ういうい、すぐには殺さないパティーンだ、わかったのだ」
物陰から一気に飛び出す、男達が気づくのはもう喉にナイフが通った後。
喉を押さえながら倒れる男達。
目も口も大きく開いて、必死に呼吸をしようとしていた。
「うふふ、円ちゃん、私達も同じ事してみよう」
「ういうい、なにかあるかもだ」
男達のお腹は肥満からだね、服の上からはっきり分かるほど、ぽっこり膨らんでいる。
〈葵&円活躍中〉
「姉御、別になにもなかった。(うくく)が出てきただけだ」
「うふふ、そりゃ、そうだよね」
詰まっていたものが外に出てきただけ。
わかりきった結果だったけど、なんとなくやってみたくなったの。
それでも男達の生命力は凄くてしぶとく生きている。
男達の服をまさぐると色々道具が出てきた。
自分用というより女達に使うやつかな。
えっと、たしかこれをスプーンで炙って液状に。
量はどうでもいいかな。
これを(医療器具)の中身に移してっと。
最後に夢を見させてあげよう。
「うふふ、二度と覚めないけど」
〈葵ちゃん活躍中〉
一体どんな夢を見ているのだろうか。
男達の体は激しく痙攣をおこした後、全く動かなくなった。
「さて、中に入るよ」
「中ではどうすればいい? 女とかどうする?」
さっきのを見る限り、売春婦達は人として扱われてないよね。
まるで家畜かなにか。
そうなれば。
「みんな殺していいよぉ」
「ん? 女もか? レンレンには助けろって言われたんじゃないのか?」
もうみんな薬漬けだよ。病気も持ってるだろう。
見えている世界が違う。
ここから抜けだしても、未来はない。
路頭に迷うか、またこういう場所に戻るか。
選択肢のない、この後の人生。
それなら、いっそ。
私達は裏手から静かに中に入る。
微かな音を立てながら、ドアが閉められた。
轟々と燃えさかる建物。
売春宿だったそこは中にいくつもの死体を内包したまま炎に包まれていく。
「姉御、全員殺したけどこれで良かったのか?」
歩き離れながら、先ほどの記憶を脳に映す。
個室で飼われた女性達の目は虚ろで。体のいたる所に火傷や暴力のあざ。
痩せ干せて、腕には注射器の跡が。
もう生きているのか死んでいるのか。
「彼女達は今回ハズレを引いたんだよ。次は当たりだといいね」
殺す事で救済する。
もう終わらせてあげるの。
優しい両親、裕福な家庭、なに不自由のない生活。
今度はそんな星の元に生まれてくる事を願っているよ。
帰国した私達に待っていたものは。
「ちょっと貴方達っ、これどういう事ですかっ! なんか現地のカルテル同士の抗争が激化してますよっ、死者も鰻登りです! 関係ない一般市民も多数巻き込まれる大惨事ですっ、なんです、貴方達が行ってからですよっ!」
蓮華ちゃんのお説教だったの。
敵対組織の仕業に見せかけてかなり殺しまくったからねぇ。
今頃報復合戦だろうね。
あちら的には、まさか異国の少女二人が関わってるとは夢にも思っていないはず。
「私達、知らないよぉ。たまたまだよぉ」
「う、うん、そうだ、私達は通行人を殺したり、喉や腹を割いたりしてないぞ、工作で銃とかなんて使ってない、あれは駄目だ、音とか、やっぱナイフがいい、のだ」
「・・・・・・ちょっと個別に尋問した方がよさそうですね。特に円さんを重点的に・・・・・・」
まずい、それじゃ色々バレちゃう。
「円ちゃん、逃げてっ! ここは私がなんとかするよぉ!」
「わ、わかったのだっ!」
「あっ! ちょっとお待ちなさいっ!」
そんなこんなで私達の小旅行は幕を閉じたのだけれど。
たしかにあそこの治安は最悪で。
でもどこにだって闇はある。
環境が人を悪魔に変える事も。
でも私達とは違う。
白から黒へ、黒から黒へはまるで別物。
Born to be a killer
殺すために生まれてきた。
そんな私達だから。
あんな地獄のような場所でさえ。
馴染むことはない。
リョナ子出さないと。。




