あのね、海外遠征なの。中編
ペラペラペラペ~ラ、アオイ~ダヨ。
てなわけで私と円ちゃんは今海外に来ています。
ここは治安が悪い事で有名でね、もし私達が普通の女の子でこれが観光とかだったのなら。
もう早くも行方不明になってるかなぁ。身ぐるみ剥がされ激しく暴行された後殺されてその辺に捨てられそう。下着とか木の枝に飾られてたりして。
幸いにも私達はまだ無事だけど。
辺りはすっかり闇に包まれて、ここからはどうなるかわからない。
さて、自国では規格外の殺人鬼として認定されてる私達が。
ここではどういう扱いになるのか、少し気になるねぇ。
閑散としている路地。
奪ったタクシーで走り出す。
これから5秒後に円ちゃんは。
〈え? え? え? なに、まぢ、え、やめっ、うそ、え、姉御、やめろ、は、なに、いって〉
と言う。
アクセルを思いっきり踏み込む。
車はどんどん加速する。
そこで私は一言。
「円ちゃん、掴まってっ! 突っこむよっ!」
前方はT字路、建物があって行き止まり。
このままでは衝突する。
「え? え? え? なに、まぢ、え、やめっ、うそ、え、姉御、やめろ、は、なに、いって」
うふふ、本当に言ったよ。
ぶつかる瞬間、私は行きたい方向とは逆にハンドルを切る。
スキール音がこれでもかと響きだし、タイヤを滑らせながら270度ターンすると、車を曲げて直角にそのまま行きたかった方へと車を向け走り去る。
「なんて、嘘だよぉ~」
「なっ、まぢびびった、のだっ、もうっ、姉御ぉっ!」
「うふふ、ごめんよぉ~」
なんとなくカーチェイス的な雰囲気を出さなきゃ行けない気がしたんだよぉ。
この車自体古くてパワーもないから少し扱いづらいけど、その分無茶できるよ。いつ壊れてもいいもんね。
和気藹々と目的地に向かっていると。
窓の外を眺めていた円ちゃんが声を上げた。
「あ、姉御、姉御っ、橋の下になんかあるぞっ! なんだ、あれ」
「ん~?」
少し奥、ここから見上げる位置に橋が見えた。
その下には。
「あぁ、何人か吊されてるねぇ。多分見せしめじゃないかなぁ」
四人くらいロープで縛られ吊されてるね。ここからでも服が血で染まってるのが分かる。
「ほへ~、やるなぁ~、ここの人達、なかなかやりおるのだ」
円ちゃんは通り過ぎるまでずっと感心しながら見ていたよ。
またしばらく走っていると。
「あ、姉御、姉御、止まってっ、今、道路の脇になんか、あった、あったのだ!」
外灯のない、真っ暗な道を通ってたのになにか見つけたみたい。
車をバックして、言われた付近まで戻る。
たしかになにかあるねぇ。
そこにヘッドライトを当てて車から降りる。
「あ、死体だった。ん、(うくく)がないぞ」
上着のほぼ全部が血が染みこんでいる。まぁ(うふふ)がないなら当たり前か。
これ、女だね。近くには袋が一つ。そしてメーセッジの書かれた紙が。
「なになに、次はお前の所に行く、晩ご飯の材料は置いておくぞ、か」
「ね、姉御、この袋、気になるぞ、開けていいかっ!?」
「う~ん、いいけど、どう考えても中身はあれだよ」
円ちゃんがワクワクしながら中身を確認。
「あ、(うくく)だった」
だよねぇ。
円ちゃんが(こーする、のだ)。
思ったより外傷がないね。死体の(あのね、あれがあーなったの)。
なにか言いたげな、でもわかるはずもなく。
「まぁ、麻薬カルテルがらみのなにかだろうねぇ」
「ん、カクテルがどうした? 未成年はお酒は駄目だ、飲めないのだっ」
ふむ、まずはここらの社会情勢やそこにいたるまでの歴史を教えないと駄目だね。
「円ちゃん、とりあえず行きながら色々教えるよぉ、さ、車に戻って」
「ん、わかったのだ」
円ちゃんは(うくく)を放り投げると車に乗った。
「まずは麻薬とはという所から始めようか」
「う、うん。よろしくなのだ」
こうして私は円ちゃんと話ながら車を走らせていく。
そうして。
「・・・・・・てなわけで、ここも麻薬民主主義国家と呼ばれるようになり、カルテルは国家と対等に渡り合えるだけの勢力や武力を持ち合わせたんだよぉ」
「ほうほう、なるほど、政権交代、独裁、それによる主導権の移り変わり、ルートはそのまま、戦争による需要、大市場・・・・・・内戦、テロ、軍事政権の誕生、革命軍による参入・・・・・・なかなか根が深いのだ」
「うふふ、武力を持つと政治思想に関係なく麻薬密売組織になっちゃう所なんて皮肉だよね」
結構おおざっぱに説明したけど、円ちゃんはちゃんと理解してくれたみたいだね。
「じゃあ、さっきの死体はあれか、カクテルに逆らったかなんかしたんだな」
「カルテルね。うん、そうだねぇ。対象者の隣人ってだけで殺されちゃうからなんともいえないけど多分そうじゃないかなぁ」
たしか組織に対抗していた市長は、配偶者は殺され、その後子供が誘拐されて助けにいった自分も拷問されたあげく殺されたんだっけか。就任の翌日に殺された市長もいたねぇ。市長や対抗組織のボスと名字が同じってだけで殺されるからなぁ。
「ん~、姉御、姉御、これ、もしかして、私達が誰か殺してもあれじゃないか、そういう風になるんじゃないのか、なるのではないのか?!」
「・・・・・・・・・・・・ふむ」
さっきから死体を見まくってるからかな、自然と体が疼き出すの。
町外れに入ったの。
今まで誰一人見なかったけどやっと人影を確認。
男達が三人歩いていた。
ヘッドライトに警戒し始めた男達。
少し遠くに止めて、私達は車を降りた。
「ハイ、ペラペラペラヌーボ! ペラペラペラドーコ?」
にこやかに話しかける。道を聞く感じ。
相手は私達が女二人だと知ると、僅かに警戒を解いた。
近づいてくる。
そして私達の間合いに。
刹那、私達のナイフが闇夜に光る。
「ふう・・・・・・」
私達は再び車に乗り込む。
そして横たわる死体をタイヤで踏みつけまた走り出す。
「怪しそうな人はほぼ100%銃を所持してるからね、そこだけ気をつけて」
「ういうい、周りもだな、心得たのだっ」
折角来たんだし、もう少し楽しんでもいいよね。
ここに来てよく分かるよ。自分の国がどれだけ恵まれているか。
自分は不幸だと嘆く人はよくいるけれど。
衣食住もそれなりに確保できて。
麻薬も銃も規制されていて、自分から踏み込まない限り触れることはない。
生まれた国、地域によって生存難易度がまるで違うね。
麻薬だって、原料の生産も、流すのも、それをしなければ生活できない人達がいるのが問題なんだよ。それを取り上げたらもう死ぬしかない、だから関わる。
貧困、格差、それらが根本にある。
人間てやっぱり怖いねぇ、環境や立場、色々な要素で様々な顔を見せる。
手慣れ、エスカレートしていくとどんなに残虐に殺そうともなんとも思わなくなるんだね。
ま、私達が言える立場じゃないけれど。
さて、今夜は何人殺れるかな。
ここは治安こそ悪いけど。
見上げた星空はとても綺麗だね。
前後編で終わらせるつもりが。次回、ナチュラル・ボーン・シスターズ後編。




