おや、まさかのお客様です。(対殺人鬼連合Ⅱ 其の三)
こんにちは、蓮華です。
えっと、現在の状況はですね。
ドールコレクターと眼球アルバムが殺し合うのかと思ったら、ドールコレクターが蛇苺さんに丸投げしました。これには目黒さんもびっくりです。
殺人鬼の強みはなんといってもその異常さです。
もし、貴方が町を歩いていたとして前から普通にこちらに向かってくる人がいたとします。すれ違い様にナイフをいきなり突き立ててきたらどうでしょう? この平和な国でそれを想定してる人はあまりいないので為す術がないまま刺されてしまうのではないでしょうか。そう彼女達はそういう倫理や常識の外から攻撃してくるのです。だから危険なのです。
でもそれが通用しない人にはその強みも生かせません。
例えば同じ殺人鬼だったり。
そして殺し屋だったり。
「どれ、ちゃっちゃっと終わらせましょうかね。君、結構名が通った殺人鬼なんだって? でも私には勝てないよ。瞬殺さ」
蛇苺さんが首を左右にコキコキさせながら眼球アルバムに近づいていきます。
一歩踏み出す度に地面や大気が揺れていくかのような威圧感。
これには、流石の眼球アルバムもたじろぐしかありません。
「く、くそ、くそ、くそぉ。・・・・・・いいよ、やってやろうじゃないの・・・・・・やってやるわぁっ!」
覚悟を決めたのか、大声を出すと眼球アルバムが先に動きました。
大地を蹴り、距離を詰めると千枚通しを蛇苺さんの顔面目掛けて突く。
しかし。
「遅い」
蛇苺さんは顔だけを傾けそれを避けると。伸びきった眼球アルバムの腕を蹴り上げます。
「ぐかあぁっ・・・・・・っにゃろぉぉ」
それでも今度は反対の手に持つ千枚通しを今度はお腹目掛けて。
「だから遅いって」
それも体を少しだけずらし避けると、ピンと張った眼球アルバムの腕に肘を打ち下ろし膝を振り上げ挟み込みました。
「ぎゃああはああぁぁぁっ」
上下からプレスされ骨が大きく音を立てて壊れました。
「君、その武器やめた方がいいよぉ。だってそれ刺すだけじゃん? もう来る方向バレバレなんだよね。だから避けるのも簡単」
腕を押さえながら苦悶の表情を見せる眼球アルバム。
余裕たっぷりに説教を始める蛇苺さん。実力は目に見えてます。
「さて、君は眼球が好きなんだって? じゃあ、そのコレクションに自分のも加えなよ。私が取ってあげる。生憎、道具はないから、素手になっちゃうけどね~」
蛇苺さんがまずは相手の動きを封じようと次の行動に移った瞬間。
コンマ何秒かの膠着。
その後、テンポよく地面を蹴り出すとジグザグに移動、一気にその場から離れました。
私は唐突な蛇苺さんの動きに、彼女を目で追いました。
でも、その彼女が見ていたのは逆の方向で。
「おー、いるいる。うじゃうじゃうじゃうじゃ屑虫共がいっぱいだ」
私は蛇苺さんが凝視していたそちらに顔を向けます。
そして、流石に驚きましたね。
この場にまた数人の新たな人影が。
むむむ、これは参りました。ここで介入してきますか。
「よし、ここにいる全員、捕縛対象だ。全員生け捕りにしろ」
そう言ったのは、長い前髪が目元を覆う妙齢の女性。
元カリスマ拷問士でした。
私が驚愕したのはそのメンバー。
横にはいつも通り、最年少レベルブレイカーのレッドドット。
そして、その両端には。
「多少、痛めつけなきゃ無理ですよ。対象が多すぎる」
「ウヒヒ、どれデース? どいつが楠葉をやった奴デース?」
特級拷問士の銃花さん、そして金糸雀さん。何故彼女達が先輩さん達と一緒にいるのでしょうか。
「最優先が食人鬼カリバ、ドールコレクター。次に眼球アルバム、九相図、キラープリンス。深緑深層とあの学生は最後でいい」
リョナ子さんの先輩さんにとって犯罪者は全て敵。
ここには凶悪な殺人鬼が沢山いますからね。
一気に捕らえるつもりなのでしょう。
でも、ちょっと待って下さい。
なんで私も入ってるんですかね。
「あぁ~? なんすか、よく見たら元先輩達じゃないですか、なんか用なの、ちょっと関係ない人はどっか言ってくれないっすかぁ?」
顔見知りだった元拷問士の沙凶さんが彼女達に近づきます。
あ、それはやめた方がいいかと。
その二人はただの拷問士とは別物ですよ。
「ん? なんだ、こいつ。銃花知ってるか?」
「あぁ、天城さんが可愛がってた子ですかね。たしか元一級拷問士だったかと」
「なるほど、随分若いし。私を知らんのか」
「この子、どうします?」
粋がって睨み付けていく沙凶さん。
あぁ、それ以上近寄っては・・・・・・。
「躾けてやれ。一応後輩だ」
先輩さんがそう指示した瞬間。銃花さんの蹴りが沙凶さんの鳩尾にめり込み、そして後方にすごい勢いで吹っ飛んでいきました。
「ぐはおああぁあぁっ」
沙凶さんは壁に激しく叩き付けられ白目を剥いてますね。
ああ、言わんこっちゃないです。
しかし、完全に想定外。
「あの~。すいません。その二人はなんでそこにおられるのでしょうか?」
大の拷問士ファンの私には、もうサインをもらいたい位なのですが。
とても不思議です。
金糸雀さんは殺人鬼兼拷問士なので、執行局外に出すのは相当大変でしょう。
「なにを今更。私がなにもせずに拷問士をやめたと思ってるのか。もう根回しは全部終わってるんだよ。特級の中にも私に賛同する奴が結構いるって事だ」
なるほど。リョナ子さんの先輩さんはとにかく他の拷問士達に心酔されてますからね。まさにカリスマ、彼女が声をかければ協力する人も多いって事ですか。
「さて、深緑深層。お前の中で最強は誰だ?」
唐突な質問ですね。そりゃ総合的に見れば考える必要もありません。
「う~ん、単純にみればそこにおられる蛇苺さんですかね」
「はっ、そうか。私とは違うな。私にとっての最強はこの銃花だ」
銃花さん。白と金を基調をした軍服ワンピースを着こなし、目に巻かれるのは同じ素材で中央に金の線が入った鉢巻き状の物。
彼女は特級拷問士の他に別の顔を持っています。
これは国家機密ですが。その正体は。
刑執行庁の特殊任務支隊ヘリオガバルス、その隊長さんなのです。
「さて、お喋りは終わりだ。お前ら行け」
「・・・・・・了解」
「かしこましデース」
「どれからいこうかなー」
三人が先輩さんの号令の元、一斉に動き出します。
私の判断は一瞬で終えます。
「ドールコレクター、逃げますよっ!」
撤退です。ここで二人を失うわけにはいきません。
「っていないっ!?」
私が振り向くとドールコレクターは円さんを背負ってすでに逃げだしていました。彼女の事ですから最初から退路は確保してるでしょう。しかし私は無視ですか、そうですか。
「僕らも引くよ。深緑深層、大将戦は後ほどだね。これを凌げたらすぐに連絡するよ」
シストさんも私と同じ考えを出しました。
でも、相手がそれを認めてくれるとは思えません。
「逃げられるとでも?」
「捕まえるデース」
「鬼ごっこだねっ」
先輩さん側が二手に分かれました。
銃花さんが私の方に。
レッドドットと金糸雀さんがシストさん側に。
「やれやれ、ここは私が抑えてあげるから、君は逃げな。あ、報酬は別ね、あれは本気ださなきゃ無理っぽい」
即時に捕まる、そう思った矢先、距離を取っていた蛇苺さんが私の前に出てきてくれました。
裏の最強が蛇苺さんなら。
表の最強が銃花さんです。
この二人がぶつかったらどうなるか見てはみたいのですが、今はそれどころじゃありません。なぜか私も捕縛対象なのですから。
「すいません、よろしくお願いしますっ!」
私は一目散にこの場から走り出します。
一方シストさんの方は。
「ちっ、しょうがない。シストくんを守るか。ここで逃げたらタシイに怒られるよね」
「お姉ちゃんは僕が助けるよ」
笑いながら迫ってくる金糸雀さんとレッドドット。
それを手負いの眼球アルバムとキラープリンスの叶夜くんが迎え撃つようです。
路地に車が数台急スピードで入ってきます。
あのナンバーは。そうですか、あれでは私がすでに張っていた包囲も無意味ですね。しかし外ナンバーをタクシー代わりですか。シスト君も大概ですね。
中から厳つい黒いスーツの男達が出てきてカリバさんとタシイさんを回収、すぐに車に乗り込みます。
「さ、叶夜、目黒さんも早くっ!」
シスト君が声をかけますが、それは状況が許してくれません。
「子供は子供同士、遊ぼうよっ!」
「楠葉の目玉を抉ったのお前デース? ただで死ねると思わない事デース!」
すでに交戦状態。目黒さんは片手で分が悪そうですね。
「お姉ちゃん、早く行ってっ! 後で絶対合流するよっ!」
「シストくん、頭さえ残ってれば仕切り直せる、先にっ!」
おっと、私もあっちに気を取られている余裕はなさそうです。
蛇苺さんと銃花さんがもう見えない動きで衝突してます。
今は逃げましょう。
思わぬ邪魔が入りました。
第三勢力を少々甘くみていたようです。
私とシストさんの最終決戦は少し伸びましたが。
すぐに再開できるでしょう。
今を無事乗り越えればですが。
大将戦はすぐやります。リョナ子を挟みますが。




