おや、乱入者でしょうか。(対殺人鬼連合Ⅱ 其の一)
宇宙空間では空気抵抗がないので燃料があればどんどん加速していきます。
とはいえ宇宙にも重力や摩擦はありますし、質量があれば光の速度を超えることはありません。
摩擦といえば大気圏に突入すると真っ赤に燃えますが、あれは摩擦で高温になってるわけではないのです。あれは断熱圧縮といいまして・・・・・・。
っと、話が逸れました。そんな事より連絡しなくては。
話を最初に戻しますと、今の二人はまさにこんな感じです。
私やドールコレクター、シストさんといった普段彼女達を抑えている重りが外れました。
そうなると、彼女達はどこまでも加速していく。
「ああぁっぁっぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁっ」
「シねぇエええええええええええええええええええヤぁあっっっっっっっ」
タシイさんのバールが。
円さんのナイフが。
頭部を割れんばかりに叩き。
横腹に穴が開くほど突き刺さり。
二人は衝撃を受けると一瞬だけ怯みます。
ですが、瞬時にまた攻撃に転じました。
またタシイさんのバールが打ち付けられ。
また円さんのナイフが体をつく。
振り子のように、お互い攻撃を受ける度。
反れればその身は再び相手に向かっていく。
牙を剥き出した獣のように。
二人の思考は相手を殺すことだけ。
円さんの頭から血が飛沫し。
タシイさんの制服がどんどん赤い染みを作りだす。
「いけぇー、円ちゃん負けるなぁー」
「おいおい、そいつはドールコレクターじゃないぞぉ。格下にやられるなー」
ドールコレクターと眼球アルバムが声援を送ります。
しかし、私を含めた残り全員は固唾を飲んで見守っていました。
「うくく、もっと来いっ! 全然きかんっ、きかんのだっ!」
「私もぉぉぉ、全然平気なんですけどぉぉぉぉ」
バールが円さんの腕にめり込みます。それと同時に鈍き音。
ナイフが二の腕に貫く。それと同時にタシイさんの顔が歪みました。
あれではもう二人とも片腕は使えませんね。
ですが、二人の動きは止まりません。
「うくくくく、こっからは串刺し、穴ボコにしてやる、やるのだぁぁぁ」
「あぁぁぁああ???? ミンチだ、お前の肉でママにハンバーグ作ってもらうからぁぁ」
片腕をぷらりと垂れ下げながらも、もう片方で武器を握りしめ。
二人の距離はまたゼロへと。
殺意。殺意。殺意。殺意。殺意。殺意。
これが今の二人の感情。
相手が動かなくなるまで、相手の心臓が止まるまで。
彼女達の殺意はどんどん膨らんでいく。
円さんはナイフを取り出すと、目のつく場所に構わず突き刺します。
そして、また服から新たなナイフを取り出し、またタシイさんの体に埋め込んでいく。
タシイさんもフェイントを交えながら頭、腕、足を狙ってバールを振り向きます。
「おにねぇええさまがぁぁぁ、見てんだよぉぉぉ、無様に負けられっかっぉぉぉっ!」
「私も姉御がっ、姉御が見てるっ、やられないっ、やられないのだっ!」
二人の身体からはどんどん血が飛び散り、染みこみ、垂れ流れ。
骨が一本、また一本、と。
円さんは頭部から血が流れ、顔の半分を赤く染めています。
タシイさんも、体にいくつものナイフが突き刺さったまま、それでもバールを振り上げます。
いつの間にか、二人の周囲には赤い血だまりが点々と。
脳内から出る様々な物質が、彼女達から痛みを麻痺させ、そして殺意が他の感覚をどこかに押しやっている。
タシイさんのバールが、今度は円さんの足に食い込みました。
それにより、ついに円さんが片膝をつきます。
それを好機と、タシイさんは続けざまに沈んだ円さんの後頭部にバールを振り下ろしました。
「うがあああああああああああああああ」
勝負あったかと思いましたが、円さんも倒れざまにナイフを一降り。
タシイさんの両足を切り裂きます。
「いだっっっぁああああああああああ」
タシイさんもまた倒れ込みます。
ですが、まだ二人の手が止まることはありませんでした。
転がりながら、二人は重なり合い、タシイさんの体に突き刺さったナイフを引き抜くと、また元に戻す。
タシイさんもバールを短く持ち直すと、先端を円さんの体に何度も突き立てます。
二つに結ばれたタシイさんのツインテールを掴み頭を起こすとそのまま地面に叩き付ける円さん。
そうかと思えば、タシイさんも円さんのサイドテールの髪に噛みつくと、顔を引き寄せバールを握った拳で頬を殴りつける。
醜くも決して顔を背けない。
お互い、決して譲らない。
それは、血だらけ、泥だらけになってもとても美しく。
じゃれ合うように殺し合う。
しかし、さすがに血を流しすぎましたか、加速し続けた体はゆっくりと減速していきます。
何でもありの寝技合戦を演じていた二人にもそろそろ限界が。
それでも。
気力は互角。
殺意も互角。
心酔している者への気持ちもまた。
どちらかが死ぬまで終わりません。
噛みつき、殴り、ひっかき、摘まみ、ルール無用のキャットファイト。
タシイさんのバールの釘抜き部分が。
円さんのナイフの切っ先が。
互いの喉に向かう時。
彼女が動いていました。
「は~い。選手交代だよぉ」
いつの間にか近づいていたドールコレクターがバールの行き先を蹴り上げました。
すると、今度はタシイさんの顔面目掛けて再び蹴りを放ちます。
「あがぁぁがあぁあああああああああああ」
鼻を折られ、血を撒き散らしながらタシイさんが吹き飛びます。
「あ、このっ、なんだ、乱入か、卑怯だぞっ!」
眼球アルバムがまず始めに声を上げました。
「いや、これでいい。ドールコレクターが母さんから離れた。沙凶ちゃん、叶夜、今のうちの母さんを回収してきてくれないかな」
シストさんはいたって冷静ですね。
しかし、私もドールコレクターが動くとは思っていませんでした。
私よりも先に止めるとは。
ドールコレクターが抑えていたカリバさんはまだ生きています、なので最終的に交渉材料になりえる。
それはドールコレクターも充分承知のはずなのに。
止めを刺す事もなく、それを無視して円さんの元へ駆けつけた。
これは彼女を知る人ならとても驚く事象です。
「おいおいおいおい、これはタシイと切り裂き円が死ぬ気でやってたんだ。なんで水を差した、あんたの相手はアタシだろう?」
眼球アルバムが手に千枚通りを握りながらドールコレクターに近づいていきます。
「ん? 誰も一対一なんて言ってないよぉ。これは試合じゃないんだよぉ」
ドールコレクターが倒れる円さんの前に立ち、眼球アルバムにナイフを向けました。
「あぁ、そうだね。そうだった」
眼球アルバム、目黒さんの真っ黒な目がドールコレクターの姿を取り込み。
ドールコレクターもそれに答えるように笑いながら。
「「これは」」
「殺し合いだよぉ」
「殺し合いだぁぁあ」
そもそもルールなんてありませんよね。
とはいえ、次のカードは決まってしまいましたか。
眼球アルバム対ドールコレクター。
「あんたの目は前から欲しかったんだぁ。やっと手にはいる」
「じゃあ私は特にいらないその両目を取り出して握り潰してあげるよぉ」
二人は準備万端のようです。
しかし、死にかけの円さんをどうにかしないと。
ドールコレクターと眼球アルバムがあの場所でぶつかってしまうと回収するのが困難です。
それはあちらも同じ考えのようで。
「あ~すいません、深緑深層。多分、貴方と僕は同じ事を思っているはずです。なので、ここで一つ休憩を挟みましょう」
シストさんはそういうと、影から新たな人物達が左右から出てきました。
「南米から呼びました。こちら側の殺し屋達。ヘルナンデス姉妹です」
褐色の双子、でしょうか。
海外の方ですが、私も職業柄よく耳にしますよ。
ヘルナンデス姉妹は殺し屋とは別に売春宿を経営しており、中には麻薬漬けになった数十人の女性を飼っております。自由を奪い売春を強要し、そして逃げようとしたもの、使い物にならなくなったものをガンガン殺しました。病気や老化で用済みになったものも同様に処分。妊娠すれば腹を蹴り上げ堕胎されたりと、鬼畜の塊のような方々です。
「ドイツ殺セバイイ? 全員カ?」
「持ッテカエッテイイカ? 客トレソウ」
眼光がやばいですね。まさに狩人です。
う~ん、あれは元より私達の相手ではないですね。
土台というか、もうクラスが違うので。
なので、こちらも同じジョーカーを出さなきゃなりません。
「あぁ、貴方達の相手はこちらになります」
円さんとタシイさんの殺し合いが始まると同時に連絡しておきました。
つねに私の近くで行動してもらっています。その間、ずっとお金が発生しているのですがね。 それでも安いくらいです。
本当は影から狙撃でもしてもらえれば楽なんでしょうけど。
「この人達にいいように使われて殺された人達がそれを許さないでしょう。だから、できるだけ苦しめて始末してください・・・・・・蛇苺さん」
後ろ盾があるので暗躍している彼女達ですが、もし母国で捕まっても懲役40年てとこでしょう。ここの法が適用されることはない。
ですが、この国で好き勝手されるわけにはいきません。
郷に入ったら郷に従え、です。
だから、グチャグチャにされてくださいね。
次は再びリョナ子へ。




