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なんか、雨が恋しいみたい。

 蛇が苦手な人は見ない方がいいかもです。

 今年の梅雨入りはいつ頃かな。

なんて、青く澄み渡る空を見上げながら出勤する。


 まさか、この時知り合いの殺人鬼達がワーワーやってるなんて梅雨、いや露にも思わず。


 何事もないまま普段通りに仕事場へついた。

 

 雨は嫌いではない。

 あのしとしとと降る雨。地面を叩く音、匂い、それらに包まれて本を読もう。

 そう考えると少し先が楽しみになる。


 さて、今日の罪人は。



 今回はいつもの仕事場ではない。

 拷問士達が共有で使用できる多目的執行室を使うの。

 ここは僕の仕事場の4倍ほども広い。

 職員に事前に申請する事で道具も用意してくれる。 


僕が移動を終え部屋に入ると、すでに罪人は運ばれていた。


 滑車のついた台に目と口、手足を拘束された女がいた。


 罪状・・・・・・傷害、殺人未遂。

 女は駅ホームにて見知らぬ男性を肘打ちで線路に突き落とした。

 男性は肩を脱臼したものの自力でホームへ上がり、すぐに気づいた駅員も非常停止ボタンを押し電車を止めるなどして大事にはいたらなかった。女は現場から逃走したが、後に解析した防犯カメラで特定され逮捕にいたる。

 当初、容疑を否認していた女だったが、防犯カメラや目撃証言などで故意に落としたと断定。 そして、判決はレベル4。


落とされた男性はパニックになったろうね。絶え間なくホームに入ってくる電車をいつも見てるんだもん。轢かれたら高い確率で死ぬかもしれない。まさに殺人未遂。


 レベル4だからね。肘から関節をねじ曲げてやればいいくらいだけど。

 女には余罪もあるみたいだし、こういう性根が腐ってるやつは精神的に追い詰めよう。

 今回は少し方向性を変えてみたの。



 数日前。

 僕はある特級拷問士の部屋を訪れていた。


「こんにちは、リョナ子です」


「ん、ああ、リョナ氏か。そういえば来るっていってたね。今日だったか」


 部屋にいたのは、モノクルをした髪の真ん中から半分金髪、半分黒髪の小さな女性。服も黄色と黒を基調に合わせていた。

 小柄な僕よりも背が小さい。拷問士の中でも一番低いのではなかろうか。

 歳も僕より結構上だと思ったけど、見た目はかなり若く見える。白頭巾ちゃんを隣に置けば同級生でも通用しそう。

 そんな彼女は蟲盛さん。特級拷問士であり、この人もまた少し変わった人であった。


「頼まれてたやつね、用意しておいたよ。持っていけばいいよ」 


 蟲盛さんはそういい、大きめの発泡スチロールの箱を指指した。


「ありがとうございます」


「別にいいが、なにに使うのか、そんなものを」


「ええ、ちょっと色々と・・・・・・」


 僕は蟲盛さんに頼んであるものを手配して貰ったの。

 なぜ彼女に頼んだかというと。


「しかし、相変わらずこの部屋凄いですね」


 室内には所狭しと透明なケースがいくつも積み上げられ並べられていた。

 中には沢山の虫や小動物などが飼育されている。


「ふっふふ、そうだろう、そうだろう。リョナ氏は知っているかね。最も人間を殺した動物はなんだと思う。一応同じ人間は除こうか」


「最も人を殺した生物ですか。なんでしょうね、毒蛇? 鰐とか?」


僕が思い悩んでいると、蟲盛さんはしたり顔をしながら口を開いた。


「違うねぇ。答えは蚊だよ。やつらが撒き散らす伝染病で多くの人間が死んだ。どうだい、実は虫という種はとても凄いのだよ。世界の様々な環境に適応し、種多様性が非常に高い。実際100万種以上いるとも言われている。目に見えない細菌やバクテリアなどを除けばこの地球上で最も繁栄している種なのだよ。もし地球外生命体がいたとして最初にコンタクトを取ろうをするのは虫かもしれないっ。もし蜜蜂が絶滅すればこの世の食物は・・・・・・」


「はいっ、大丈夫ですっ。言いたい事はよく分かりましたっ」


 ドク枝さんと同じタイプだね。自分の好きな事を喋り出すと止まらなくなる。

 僕は過去の経験から早々に話を切った。

ドク枝さんといえば。


「蟲盛さんは、この飼育や繁殖させてる虫や小動物達を執行に使うんでしたっけ?」


「うむ、主に毒虫や毒蛇などを飼育しておる。強い毒を持つのは水棲生物が多いのだがね。クラゲやイソギンチャクとか。ヤドクガエルなどはこっちで手に入るやつは無毒だから、結局蜂や蜘蛛、蛇なんかが手っ取り早いのさ」


 こんな感じで蟲盛さんは毒にもかなり精通している。なのでドク枝さんの唯一話が弾む同僚なの。


「ま、今度見学にくればいいさ。我のやり方は肉体と精神、同時に執行できる。一石二鳥なのさ」


「はい、今度ぜひお願いしますっ」


 別の特級拷問士の執行はとても興味がある。時間があったら見せて貰おうと思う。

 こうして、僕は目的の物を受け取り部屋を出た。

 

 漸く遮断された。

 プラスチックのケースから聞こえる不穏な音。

 その蠢きは、心を掻きむしるような。ちょっと慣れてないとここには長居はできないなぁ。


ちなみに、蟲盛さんが好む黄色と黒だけど。

 あれも生物界における危険色で、蟲盛さんが自分は危険だと他者に示してるとかなんとか。 警告色を身に纏うのは蜂や虎みたいな感じなのかな。やっぱり特級は変わった人が多いなぁとつくづく思うのでした。



 そして現在。

 

 僕は拘束されていた女の目隠しだけを取り払った。

 勿論、この時には僕は猫ニャンのお面をつけている。


「さ~て、君の執行だけどね。精神的ダメージを優先することにしたよ。だって被害者は相当恐怖を感じた事だろう。そこで、僕は君の事を事前に調べておいたの」


 この女はSNSに書き込みをよくしてた、そこや近しい人からのヒヤリングで情報を集め得る。


「君、蛇が見るのも嫌みたいだねー」


 言うなり、僕は彼女の前から少し身をずらした。

 奥のものが彼女によく見えるように。


 女の目がこれでもかと見開く。

 すぐに顔をしかめながら瞳を背けた。


 彼女が見たのは、透明な浴槽型の入れ物にこれでもかを詰め込んだ蛇の群れ。

 何百匹と中で蠢いている。うねうねうねうねうねうねうね、うじゃうじゃうじゃうじゃ。

 どこが頭でどこが尾か。冬眠から一斉に目覚めたかのように浴槽の中で折り重なって絡まり合う。


 通常の浴槽より深く広く設計されているから蛇が逃げ出すことはない。本来は熱湯や酸などをいれたりするからね。こんな使い方してるのは他の拷問士には内緒にしよう。文句いわれそう。


「どれ、じゃあそのまま入ろうか」


 僕は台車を動かし浴槽に女を運ぶ。

 罪人用の検査衣のような服をはぎ取り、台車を傾ける。

 全裸になった女は頭をブンブンと横に振っていたけど。

 僕は構わず、拘束具を外していく。

 

 手足の枷はそのままで。

 ゆっくりゆっくり。

 中の蛇が潰れないようにと。


 女は浴槽へ静かに落ちていった。


おびただしい数の蛇が女の体を這いずり回る。


「ううううううぅうぅうううううううううぅううぅううぅっっ!!!」


 その感触が、その身を擦る音が、動けない女の精神を侵食していく。

 太股を、腕を、顔を、腹を足を、耳を、顔を、絡まり、通り過ぎ、何匹も何十匹も繰り返される。

 女は涙を流し、動けない体で僅かに抵抗を見せる。

 その動きはまるで君も大きな蛇のよう。


「うん、思った以上に効果ありそうだね。これ2時間くらい入って貰おうね」


 僕は女にそう残し、近くのパイプ椅子に腰を下ろした。

 女の呻きと、蛇が出す雨にも似たなんなのかわからない音の中で。

 僕は読みかけの本を開き、ページを捲るのでした。


 2時間後。

 ぐったりとした女の体を引き上げる。

 もう身も心も衰弱しきった女の体には数匹の蛇が絡まったまま。

 

 僕はそれを掴んで元の場所に戻すと。

 今度はリョナ子棒を握る。 


「あぁ、疲れてるとこ悪いけど、これで仕上げだよ。一応被害者は肩を脱臼したらしいから・・・・・・」


 僕はこれでお終いと。

 まるでマネキンのように俯いたまま動かない女の肩に。

 リョナ子棒を。


 振り下ろした。

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