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おや、エキシビションでしょうか。(対殺人鬼連合Ⅱ 其の零)

 空に暗雲が。

 大気は重く。

 死臭が撒き散らされ。


 踏んだ地面から花が腐っていくような。

それは全てを巻き込んで。



「・・・・・・どうしました? ドールコレクター」

 

 隣を歩くドールコレクターの様子が少しだけおかしい事に気づきます。

基本的にこの子はいつもニコニコしているので一瞬でも真顔を見せるとすぐわかります。


「う~ん。妹の一人と連絡がつかないの。彼女にはある役目を与えていたんだけど・・・・・・」


 妹。葵シスターズの事ですね。彼女は自分の手足となる駒を妹といって何人か囲ってるようです。私も実際何人いるのか把握してませんが、一人一人何かに特化していてそれを利用しています。


「最後の定時連絡が・・・・・・そうなると」


 ドールコレクターが呟き、急に別の方向に足を向けました。


「ん、帰らないのですか?」

「どうした、姉御、どこいく?」


「うん、ちょっといいかなぁ。ついてきて」


 私達は久しぶりに町に戻っており、いつもの見慣れた町並みが目に映ります。

 都市開発の真っ最中でまだ工事は続いて、あちこちに白い布が掛かっていました。


 ドールコレクターは裏路地に足を伸ばし、私と円さんはそれに黙ってついていきます。

 なんだか思い出しますね、そんなに時は経っていませんが私が殺人連合の殺人鬼に襲われたのもこんな感じの路地でした。


 人気が消え、ドールコレクターは区画整理の一角に入ります。長い間放置されていたビルも漸く買い手が見つかり、今は取り壊しも終わり空き地に変わっていました。


「さてと・・・・・・」


 ここに来てドールコレクターは積み上げられていた鉄筋に腰を下ろします。  


「んん~、どういう事です? ここになにかありますか?」


 いい加減理由を教えて貰いたかったのですが、ドールコレクターはニコニコするだけでなにも言いません。


「うふふ、すぐわかるよぉ」


 なにかを待っている、そんな感じでしょうか。

 連絡した様子はないですし、待ち合わせではない。個人的な約束なら私達を一緒に連れてくる必要もない。

 シストさん達がこの町に入れば、私にはすぐわかります。でもそれもない。

 ここに来るまで最初はあえて大通りを通ってましたね、まるで見つけてもらおうとしているかのように。

 知り合いではなく、殺人連合とも違う。

 では、一体。



 ぞわり。


 全身に寒気が走ります。

 後ろから得体の知れないモノが。

 どんどんどんどん。

 振り返りたくない。

 対面にいる、ドールコレクターの目がどんどん細く、私とは逆に喜んでいる。

 円さんは、私同様に緊張していますね、顔が強ばってます。


「な、なんだ、姉御。なんか、駄目だ、ここにいちゃ、帰ろう、な、行こう」

 

 自然と汗が流れ、円さんはドールコレクターの腕を掴みました。

 でも、彼女は動きません。

 じっと、待っている。

 目線は私を通り越え、入り口に。


「あ、いた、いた、いたわぁ~」


 声が。

 私の体をがっちり掴みました。

 これは。

 

 いつも眠そうな円さんの顔が、引きつり始め。

 それは明らかに怯えや恐怖の表情。


 ドールコレクターだけは微笑んでいます。

 腰を上げ、立ち上げると私を押しのけ前に。


「うふふ、初めましてだねぇ。一応名前を聞いておくよ~」


 私も首だけをゆっくり曲げ振り向きます。

 そこには。


「自己紹介ね、わかったわ。私、カリバ。主婦をしてるわぁ」


 カリバ。顔は何度も見たことがありますよ。写真や資料でですが。

 見た目はエプロンをした優しそうな普通の主婦。

 しかし、その実、数々の異名を持つ最悪の殺人鬼。

 血深泥食人鬼。ヴィセライーター。

 史上最高のレベルブレイカー。

 そしてシストさんとタシイさんのお母様じゃないですか。


「あ、あ、あ、なんだ、あれ、やばい、レンレン、早く、姉御を・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 子供の喧嘩に出張ってきたって事ですか。

 結婚なさってから表立って行動していなかったのですがね。

 ここで出てきましたか。

全く予想してなかったわけではないですが、この段階で顔を見せるのは少しばかり意表をつかれた形です。


「噂の三人。私に怯えているのが一人、警戒しているのが一人、そして、全く動揺してないのが一人。貴方がドールコレクターね。みんな顔は知っているのよ、貴方達有名人ですもの~」


「私も知ってるよぉ。レベル32までいったレベルブレイカー。私達の先輩だね、ヴァセライーターのカリバさん」


 さすがにご存じですよね。

私の高鳴る鼓動がじょじょに収まっていきます。

 ドールコレクターは相手を知っている。

 それを考えた時、私はやっと冷静さを保てそうになりました。


「お互い顔見知りなら話は早いわ~。貴方達、うちの子達を虐めてるみたいね~、親としてそれはちょっと許せないわね~」


 カリバさんの両手に包丁が。

 そして、キュルキュル手の中で高速回転させ始めました。


「あああああああ、レンレン、やばい、やばいぞ、あれ、早く、逃げ、逃げるのだ」


「う~ん、でもドールコレクターはやる気みたいですよ。たしかカリバさんのレベルは32。ドールコレクターは25に認定されてましたよね」


「さ、32。あ、姉御より上っ、なら駄目だ、いくら姉御でもっ」


 円さんもかなりレベルは高いのですがね、同じレベルブレイカーでもここまで怯みますか。


「別に犯罪レベルは個人の性能レベルに当てはまりませんよ。あくまで犯した犯罪の質や量で決められるのですから。それにですね・・・・・・」


 ドールコレクターが前に出ます。

 カリバさんもどんどん足を進めます。

 二人は中央付近で顔を見合わせました。


「カリバさんは捕まった時成人してました。対してドールコレクターが捕まったのは15歳の時ですよ? その時点で破格の25。もし同じように成人してたら・・・・・・32じゃとても収まりません」


 顔を近づけるカリバさんとドールコレクターはどちらも笑顔です。

 

「あぁ、近くで見るととっても美味しそう。どこから食べようかしら~」


「うふふ、おば様も歳の割にはいいパーツしてるねぇ」


 片や獲物を貪り、人を食材として解体。検挙された時、彼女の当時の住まいからは大量の肉片が冷蔵庫に保存されていました。いくつもレシピを考案、それを書き記されたノート。切断された頭部、ビニールに入った肉と内臓、鍋には切断された何本もの腕や指、男性器などが。家宅捜査時には現場慣れしている刑事ですらあまりの凄惨ぶりに気分を害し嘔吐したとか。

 

 片や獲物を物色して、少女を人形の素材として解体。検挙された時、彼女の当時の住まいからは大量の肉片が加工され飾られていました。目玉、指、腕、足、内臓、いくつものパーツに分けられそれぞれ箱で区分けされておりました。選別されお気に入りの部分を集め、一つの人形を制作。本物の人の体で作られていた人形は目玉こそ入っていなかったこそのほぼ完成しており、不謹慎ですが初めて私がそれを見たときは美しいとさえ思ってしまった。


 あまりに異常な二人が今、お互い向き合っている。


「ああ、でも、あれは駄目だ、姉御は負けない、でもただではすまない、逃げよう、その方がいい」


 レベル差は関係ない。そう告げてもなお円さんは私に必死で提唱します。

 

「ふう、円さん、貴方はドールコレクターの近くで今まで何を見てきたのですか。彼女が自分からリスクを背負うわけないじゃないですか。彼女があそこにいるって事は、もう何もかも終わっているのですよ」


「ん、ん、どういう事だ、姉御は、どうするつもりだ、なのだっ」


 ドールコレクターが動く。それは勝率100%の時だけですよ。


「あ、おば様、ちょっと聞いていいかなぁ~?」


「ん~、何かしら~?」


 ニタ~と嫌な笑みを浮かべて。

 ドールコレクターは口を開きました。


「私の妹、美味しかったかな~?」


 その言動で私は一気に理解しました。

 妹と連絡がつかない。その時点でドールコレクターはそこからここまですでに見えていたのですね。

 カリバさんの様子が先ほどから僅かにおかしい。

 悟られないように必死に隠そうとしていますが。

 額に汗が滲んでいます。体も小さく震えているような。


「・・・・・・貴方、まさか・・・・・・」


 痙攣はじょじょに大きく、息もどんどん荒く。

 ついには膝をつくほどに。


「うふふ、妹はシスト君達の監視のためにあそこに置いたんじゃないんだよぉ。おば様の餌としてぶら下げておいたの。まんまと食いつくとは思わなかったけどねぇ」


「・・・・・・ふふ、ふふふっふ、この糞餓鬼がぁぁぁっぁぁぁぁあっ!」


 カリバさんが膝をつきながらも包丁をドールコレクターに振りかざします。

 ですが、全然力が入ってないみたいで、軽く避けられました。


「私とおば様は同じタイプなんだよぉ。素材にはとことん拘る。趣味嗜好が偏ってそれに外れると見向きもしない。おば様の好みは調べたよ。そして、ぴったりの子を探したの。我慢できないほど、食らいつきたくなるほど魅力的な、衝動を抑えられないほど美味しそうな」


 ついにカリバさんが倒れます。顔面蒼白。体は激しく痙攣しています。


「無味無臭、口にして初めて効力を得る毒。いくつか合わせて妹の体に塗っておいたの。作用が異なる毒と毒は混じると効果が変わる、そして時間調整も可能。って大丈夫?」


「あががぁぁっっっっっぁあああ」


 カリバさんが激しく嘔吐し地面をのたうちまわっています。


「うふふ、どうしたの、おば様、苦しそうだよぉ」


 その頭をドールコレクターが踏みつけました。


「ほらほら、妹のどこを食べたのかなぁ~? 耳? 鼻? 指? 乳房? ねぇねぇ、詳しく教えてよぉ~」


 グリグリと足で地面に頭を押しつけました。


「あ、姉御、すごいっ、戦わずして、勝ったっ!」

「ま、あんなのとまともに殺り合ってたら命がいくつあっても足りませんね」


 ドールコレクター対ヴァセライーター

 まずはドールコレクターの完全勝利ですね。


 エキシビションてとこでしょう。

 なにはともあれこれで火蓋は切られました。

 昆虫採集部と殺人鬼連合の衝突は本格的に始まったと。


「こ、殺すっ、殺してやるわぁああああ。絶対、絶対、絶対、食ってやるっ、殺す殺す殺す殺すぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい」


 頭を踏まれながらも、嘔吐しながらも、カリバさんは牙を剥きドールコレクターを睨み付けてます。

 あぁ、怖い怖い。


「は~い。その足を退いて下さい。ここからは僕達が引き継ぎます」


 言ってる先から当人達が現れましたか。

 さりげなく静かにこの場に介入してきた人達。

 殺人鬼連合の皆様のご登場です。

 

 先頭にシストさん、左右に眼球アルバムと九相図の殺人鬼タシイさん。そして後ろに目新しい二人。ふむ、どちらも職業側知ってます。キラープリンスと呼ばれたレベルブレイカー叶夜君と元一級拷問士の沙凶さんですね。中々の面子です。


「おらぁぁぁああああああ、なにてめぇ、うちのママに足置いてんだ、あぁ、早く退かせや」


 タシイさんがバールを持ってドールコレクターに怒声をあげます。


「ん? あぁ、これ、分かったよぉ」


 ドールコレクターは言われた通り、足を浮かしました。

 しかし、すぐにその足で再び頭部を激しく踏みつけます。


「ああがあぁぁあっ」


 鈍い音が周囲に響きます。


「てめぇぇぇぇぇぇぇぇええ、よくもママをぁぁぁぁ、殺す、殺す、殺してやるあっ」

 

 激昂するタシイさんが飛び出しそうに。

 ですが、その瞬間、ドールコレクターもナイフを取り出し一言言い放ちます。


「ねぇ、いいのかなぁ? 始まるよ。もう後戻りはできないよぉ。それでもいいなら・・・・・・かかってきなよぉ~」


 相手を敵と認識。殺人鬼連合全員に向かって威嚇します。


「元からそのつもりです。貴方達に時間を与えるとこうなるって今回よくわかりました」


 シストくんはまるで動じず。


「おらぁ、お前の相手は私だよっ、こい、顔グチャグチャにしてやる」


 タシイさんはさらに昂揚し。


「アタシもドールコレクターがいいなぁ。ま、あっちでもいいけど」


 眼球アルバムは千枚通しを取り出しニタリと笑い。


「あれが昆虫採集部、僕らの敵か。うん、いいね。お姉ちゃん達には負けるけど」

 

 叶夜くんが私達を誰かと比べ。


「あ、あれがドールコレクター。う、あの先輩、よ、よくあんなの執行できたな、むかつくけど、並のレベルブレイカーじゃないぞ、うう」


 沙凶さんは別の視点で怯えました。


 

 先方戦てとこですかね。

ドールコレクターはこのまま始めても良い感じです。


「うくく、いきなり姉御がやる事ないぞ、こいつらなら怖くない、私がやるっ、やってやるのだ」


 カリバさんがやられ一気に強気になった円さんが前に出ました。


「あぁ? 切り裂き円ぁぁ、なんだ、まずお前が先に顔潰して欲しいってかぁ」


 タシイさんの視線が円さんに移り。


「お前らじゃ姉御の相手は無理、私で充分っ」


 円さんもナイフを手に、向かっていきます。


 二人は一気に互いの陣営から飛び出しました。


 そして。


 バールが円さんの頭を激しく叩き。

 円さんのナイフがタシイさんの脇腹に突き刺さり。


 血が飛び散りながらも、唐突に私達はぶつかる事となったのです。

 リョナ子の執行を挟んで行きます。

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