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なんか、この場で執行しなきゃ駄目みたい。

葵ちゃんは連続殺人犯。54件の殺人罪でレベル25の執行が確定。


 知能は高く、専門的知識を数多く持ち合わせている。ゆえに警察も中々葵ちゃんを逮捕する事ができなかった。


 葵ちゃんは死体から1パーツずつ抜き取っていき、組み合わせていた。

 なんでも自分好みの人形を作っていたみたい。それでついた異名がドールコレクター。


 事は一瞬で終わった。突然飛び出てきた葵ちゃんに、男の反応が遅れた。その隙に、葵ちゃんのナイフが男の太ももを突き刺す。堪らず崩れ落ちる男、その髪を掴むと、葵ちゃんはすかさず顔面に膝蹴りを入れた。


 男は鼻と前歯数本を折られ、そのまま倒れこんだ。葵ちゃんはさらに追い打ち、男に馬乗りになると、ナイフを掲げ、喉目掛けて・・・・・・。


「葵ちゃんっ!」


 僕の声に反応したのか、振り下ろされたナイフは軌道を変えて右肩へと突き刺さった。


 くそ、なんて事してくれたんだ。太ももは動脈まで達している。脈を打つように血が噴き出している。肩からも手を離したナイフの空洞部分から血が湧き出ている。


「どいてっ!」


 僕は乗ったままの葵ちゃんを押しどけて、急いで男の止血に入った。


「葵ちゃん、救急車呼んでっ!」


 僕はベルトや上着で腋や足の付け根をきつく縛っていく。応急的な処置に過ぎないけどやらないよりはましだ。でも呼吸がだんだん速くなる、血色もどんどん悪くなっていく。


「呼べないよ。さっき圏外だって言ったでしょ?」


 くそ、そうだった。今から入り口まで戻っていたら間に合わない。


「・・・・・・ちっ!」


 こいつは5人も殺しているのに、こんなあっさり死なれちゃ困る。でももう時間は限られてる。


「・・・・・・葵ちゃん、こいつをそこの岩の上に運ぶから。そっちもって」

「うんっ!」


 腕を足を2人で持ち上げて石のベッドに移動させた。


「現時刻から、緊急執行を開始する」


 僕は腕時計で時間を確認。バックから工作用の電動ドリルを取り出した。


「やるの? ねぇ、見てていい? 見ててもいいよね?」


 葵ちゃんがウキウキと問いかけてくるが僕は答えない。変わりに指示を送る。


「暴れないようにしっかり押さえといて」

「わかったっ!」


 とにかく出血が多い、いつものようにやってたらその前に死んでしまう。


 僕は即座に量より質をとった。男の荒い呼吸が吐き出されている口にペンチをつっこむ。葵ちゃんからの打撃ですでに数本の歯が折れている。それだけは好都合だった。


 健康な歯に穴を開けていく。男は朦朧としていたが、痛みはしっかり伝わっている、頭を激しく揺さぶり始めた。この時点で激痛を与えているが僕の執行はここからが本番だ。


「ぁ、すごい、うわっ、あ、、あ、あぁ・・・・・・ぁ」


 葵ちゃんが凝視して興奮している。顔は昂揚し体をもじもじさせていた。


「ちょっと、葵ちゃん。パンツに手を入れてないで、ちゃんと押さえててよ」

「あ、うん。ごめんね、無意識でしてたよ」

「ったく」


 歯の神経は人の痛覚の中でも格段に強い。僕はポケットから小瓶を取り出す。その中身の液体を歯が穴ボコになっている口へと少量垂らした。


「葵ちゃん、もう押さえなくていいから離れて」


 僕達はすぐにその場から離れた。途端、瀕死の男の体が飛び跳ね宙を舞った。陸に上げられた魚のようにのたうち回り暴れ出すと、その体はすぐに動かなくなった。


「うわ~、死んじゃったね。リョナ子ちゃんなにしたの?」

「神経剥き出しの歯に、HFをつけたの」

「HFってたしかフッ化水素酸だっけ? あぁ、それはやばいねっ!」


 つけたフッ酸は他の場所、頭蓋や顎の痛覚神経にまで浸透する。それらは最大強度の痛感を発信するようになる。その影響は神経系全体におよび自立系等が崩壊する。男はその想像を絶する痛みの中でショック死したのだ。


「痛みだけならレベルに見合ってる」


 けど、本来ならもっと長く苦しめてやらなきゃいけない程の罪を背負っていた。


「ふふふ、自分自身が最後の生け贄になっちゃったね。悪魔にも会えたんじゃないかな」


 葵ちゃんがくすくす笑っている。僕はその横で石を拾い始めた。できるだけゴツゴツしているのを選別していく。


「葵ちゃん、ちょっと前借りするね。これ口にいれて」


 僕はその拾った何個もの石を葵ちゃんに手渡す。


「え、汚いよ?」

「いいから」


 僕が強めにいうと、葵ちゃんは渋々とそれを口に含み始めた。たちまち葵ちゃんの口は食べ物をため込むハムスターのようになった。


「そしたら大地の声に耳を傾けようか。すましてみて」


 僕が下を指刺す。葵ちゃんは不思議そうな顔を見せながらも寝そべるように地面に耳を付けた。

 これでどうするの、と言わんばかりに目だけが上を向いた。


 その答えを実行する。僕は足を上げると葵ちゃんの横顔を思いっきり踏みつけた。一回では済まない、二回、三回、と足を踏み降ろしていく。


「ねぇ、葵ちゃん。君ならあの男を無傷で捕らえる事なんて容易だったはずだよ。なのにわざと傷を負わせたね。それは、なぜだろう。答えは簡単、僕の執行を間近で見たかったからだ。僕にこの場での執行を決断させるためにダメージを調整したよね。本当に困った子だよ」


 頭にきたので葵ちゃんにいづれ執行する分を少しだけ先払いしておいた。


「うふぶ、ごべんなざい」


 立ち上がった葵ちゃんは口からダラダラと血を吐き出しながらもすごく愉悦そうな顔をしていた。口から零れる赤い石。


「じゃあ、男の子を保護して戻ろか。入り口についたら警察に連絡するよ」

「どうぜ戻るんだじ、こごにいだ方がいいよ、連絡ずるね」


 葵ちゃんはそう言うと端末を取り出した。


「え、だってここ圏外なんでしょ?」


 僕がそう聞くと、葵ちゃんは首を振った。


「なんがね、今は入ってるみだい」

「・・・・・・・・・・・・」


 僕は後、数回踏んでおけば良かったと後悔した。



 後日、局長に聞いてみたらフェラーリーなんてここの給料で買えるわけないと一蹴された。免許の件は葵ちゃんの誕生日はまだ先だったのでまだ17歳のまま、当然持ってるはずはない。武器の携帯はたしかに認められてはいたがそれは警棒の類いのみで刃物は駄目だった。


 僕は普通の人の嘘は大抵見抜ける。嘘を作る時に目線が上に行ったり間があったりする。表情もわずかに変化するからね。でも葵ちゃんは息を吐くように嘘をつくから中々分からない。偽りの中に真実も混ぜてくる。


 一見普通の女の子に見えて、葵ちゃんは正真正銘の凶悪殺人鬼なんだって事をつねに意識しなければならない。

 近い将来、僕が全力で執行してあげるためにもね。

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