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空の魔法陣  作者: こまっちゃん
序章 始まりの初まり
8/15

朔日はついとたつ 二日はふいとたつ 三日は見えぬ間にたつ

 時間とは早いものでリルと契約してから二ヶ月が経った。



 二ヶ月の間に何があったかといえば唯々剣を振っているか、シィムさんとリルに精霊魔術の行使の仕方を教わっていた。ただ、あまりにもグダグダしていて、物覚えだけはいい俺でも三日坊主状態である。

 

 それでも剣の練習だけは怠らず毎日素振りをしたりリルのお友達の精霊に剣の手ほどきをしてもらった。


――リルの友達の精霊が強いんすよ、それが。


 なんでも元剣に宿っていた精神体が微精霊と混合して生まれたそうで、実体化してもらって戦ってみたんだけど手も足も出なかった。

 本物は違う、と認識させられた。

 あれは視線だけで人なら倒せるんじゃないか?と思える程の気迫を戦いの最中に、その瞳に宿していた。

 実際気迫だけではなく、無駄のない切り方で攻めてきていた。俺は剣道の打ち方や袈裟斬りや逆袈裟斬りあたりしか知らないためほとんど受身状態だった。

 それより驚きだったのが、俺が銀剣で戦ってるのに対して精霊のヤビはただの棒っ切れで戦っている。それでも俺は歯が立たずに、こうして負けてる一方である。

 ヤビ曰く「ふっ。棒っ切れを鉄の剣だとおもって使ってるからさ」ということらしい。詳しくリルに聞くと、精霊魔術は想像性によって力が異なるらしい。

 精霊と契約した者は、お互いが意識共鳴(ハウリング)をすることでさらに力が増すそうだ。

 ただ、リルは普通に戦っても強いため俺と意識共鳴(ハウリング)した場合、シィムさん曰く「やめろ」とのこと。

 どうやら成功した場合は低級術で山の一つや二つが吹っ飛ぶらしい。

―――我ながら恐ろしいよ。よくそんな精霊と契約できたものだ。


 リルが使えるのは火と闇。あからさまに格好つけたい年頃の子が好みそうだよな。…いやまぁ好きだけども。

 そんなこと言ったら魔法とか異世界転生自体そういう部類に入るよな。でも実際体験してみたら案外呆気ないものだと認識せざるを得ない。

 

 手のひらから出る熱くもない火。

 腕を覆う暗黒色の闇。

 全て体験してみれば、なんてことはないただの事象(・・・・・)だ。


 そんなことを思い返してみると、二ヶ月で俺らも落ち着きを取り戻し馴染んできたという実感はある。だけども未だにこの森や森付近の村以外から出たことはなく、それでもいいかなと思っている自分がいる。

 変わったことがあるとすれば、俺とヒナカの心境だろうか。


 俺は元の世界に帰るのは諦めている。ヒナカは若干諦めきれないでいるが、以前のようなウジウジ感は無く、物事をハッキリと捉えるようになった。


 これもほとんどシィムさんやメイナ、リルやレンに精霊たちのおかげなんだよな。


 いつも以上に思い耽っていると、「おーい」とヒナカが呼んでいる。ということはそろそろ昼飯の時間らしい。

 ヒナカは手を振りながらこっちに走ってきていて、「転けるなよ」と俺は悪戯っぽく微笑んで彼女のもとへと向かった。













―――――――――――――――――――――――――――



















 ひと月が経ち、俺たちは遂に別れの時を迎え、俺は柄にもなく少し泣いていた。

 三ヶ月という月日はあっという間だった。

 ヒナカも泣いていて、メイナに至っては号泣だった。


 シィムさんも微笑んではいるが、その目は泣いていた。湿っぽいけど、命を救われ尚且つ寝床と食物を提供してくれたんだ、そんな人に別れで泣いてるというより今までの感謝が、言葉より先に零れたのが涙だっただけだ。


 誰かが言ってたな。

「一生の別れってわけじゃぁない、また会えるさ。その時まで笑顔でいてくれ」

 だったか。俺にはここまでかっこいいことを言える度胸がないけど、な。

 だから俺らしく泣いて、また会おう、と言うことにした。

 それでも流れるのは言葉じゃなくて涙だった。――いくつになっても俺はガキのまんまか。

そして一生懸命堪えて紡いだ言葉。


「シィムさん、今日までありがとう、ございましたッ」


 シィムさんも柄になく泣いている。「大丈夫、一生の別れじゃあない」って言ってるが説得力がない。

 俺はさらに言葉をつなげる。さながら卒業式に涙する生徒だなコリャ。と泣きながら自分に笑う。


「俺と、ヒナカを助けていただいたご恩は、絶対に、忘れません。また必ず戻ってきます、から。その時は、またよろしく、お願いします」


 俺ってこんなに涙腺弱かったっけ、感情脆かったっけ。

 思えばあのバケモノのせいで俺とヒナカの精神は異常をきたしていた。

 涙腺が弱くなったり感情がもろくなったのもそれが原因なのかもしれない。

 それでも感情があることに、俺はさらに涙する。泣いているのに、心では笑っている。……複雑な心境だよ。


「師匠……いや、おばあちゃん。私を育ててくれて、私をこんな素敵な友人に合わせてくれて、ありがどうごじゃいましゅ」


 メイナ、最後なにゆってっかわからんぞ。

 それを言い終えたメイナは号泣していた。女の子に似つかわしくないほど表情を崩してワンワンと泣いていた。

 それを見兼ねたのか、シィムさんは先ほどの涙が嘘のように、笑顔に努めていてメイナの頭にその長年生きてきた証の細い手を乗っける。

 そして軽く撫でたあとに抱きしめ。優しく言葉をかける。


「ああ、いつでも戻っておいで。アタシはユウ、ヒナカ、メイナをこの家で気長に待ってるからのぉ。

学園生活を楽しんでくるんだよ。……湿っぽいのは終わりにしてそろそろ送ろうかのぉ」


 少なくとも俺たちは三年間、シィムさんに会えない。

―――シィムさんは本職が忙しくなるであろうから、メイナを魔法学院に預けることにした。

 シィムさんの本職は聞かされていないが、危ない関係の仕事らしい。もしこれで死んでしまったらメイナをよろしく頼む。と俺一人にそっと囁いた。

 俺はそれを聞いて、涙を拭い笑顔で「任せてください」と、違和感の無いように同じく囁いた。

 それを聞いたシィムさんは「年寄りは情が脆くなってだめじゃのぉ、ふぉっふぉ」なんて言ってたが、情がもろいのは俺たちだって一緒だった。


 各自別れの挨拶が終わって、皆既に泣き止んで笑顔に変わっていた。



 そして俺、ヒナカ、メイナはシィムさんと精霊たちが作り出した緑や黄、青などの色が混ざった魔法陣の光に包まれシィムさんの前から消えた。



 最後に見せたシィムさんの顔は、とても寂しそうな泣き笑いだった。








メイナは剣の精霊ヤビ君と契約しています。


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