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空の魔法陣  作者: こまっちゃん
序章 始まりの初まり
4/15

身を殺しても仁を成す

 

 気づくと俺たちは森の中にいた。


 体のあちこちが軋んで何処かにぶつけたのだろうと推測する


「いっつ…――ヒナ、無事か?」


 未だに先程体験した恐怖のせいか、若干自分の声が震えている。


「う、うん、なんとかね…」


 ヒナカは肩を抱え、震えている。

 それが愛しく思えてしまう俺は、サディスティックだったのかと、場違いなことを思ってしまう。


(あのバケモノは俺たちに何をしたんだ)


 確か意味のわからない言葉をいきなり喋りだして、俺たちは何処かわからないとこに飛ばされた……と思う。

 

 どうやら時間帯は昼真っ只中のようだ。

 見たことのない植物が彼方此方に生えていたり、奇妙な形の鳥が飛んでいたりして正直気味が悪い。

 

 早く家に帰らねばと思い、ポッケにしまっている携帯電話を取り出し電話しようとしたが、


(おいおい、嘘だろ……)


 携帯電話の斜め上に表示されたのは圏外の二文字。つまりここは、何処かの田舎の山の中である可能性が高いと推測をする。

 取り敢えず近くにある住宅に行けば精々黒電話の一本でもあるだろうと思い立ち上がろうとした。

 だが、体が鉛玉のように重く一気に立ち上がることはできず、さらに追い討ちにと体のいたる所が軋みだし俺は小さな悲鳴を上げた。それをヒナカが心配とばかりに見守る。自分の心配をしろよ、なんてキザなことは言えず二人で肩を支え合う状態で歩き出した。


 少し歩くと何処かで川でも流れているのか水の音が聞こえ、異常に喉が渇いてることに気付き音のする方へと向かった。


 水の音のするところまでは数分とかからず着くことができた。


 目の前にあるのは湧いて出ている泉だった。水が異常な程澄んでいて鏡みたくなっている。水を掬おうとしたところで手が止まった。水面に映る自分の姿に驚いて腰をついてしまう。

 自分の顔は以前とは違って痩せ衰えていて目にはほとんど正気が無く、よく見るとヒナカも同じような状態になっていた。ここに来るまでお互い気づかなかったらしい。

 そんな姿の自分に戦慄いたがそれより水が欲しいあまり水を掬って一気に口へと押し込んだ。


「おいしい…」


 今までに味わったことのない程美味しい水。どんどん喉を通って行き、体の芯から冷えていくような、それでいて優しさで包まれていくようなそんな感じだった。

 先程の痛みが消えていくことに安堵しつつ、腰を落ち着けられる場所、近くにあった大木へと移動した俺たちは一休みすることにした。

 熊が出てくる心配もあったがそれよりも体の気怠さや眠気に耐えられなかった。

 俺は最低限、ヒナカだけは何もないように俺が抱え込む状態で大木に寄り添う。


(ヒナは俺が絶対に守る……)


 そして微睡みに誘われ、眠りについた。



 最後に見たのは踊る羽の生えた小人たちだった。






――――――――――――――――――――――――――――




「ふぅ、少しばかし疲れたのぉ」


 森の中で茶色いローブを纏った老婆は、数日ぶりに森にある家へと帰ってる最中だった。

 さすがに何年も森で一人暮らししていると人恋しさに城下町へと下りることもあって数月に一度、城下町に下りて買い物をしたり町人に挨拶がてら森で採れる山菜などで物物交換をしたりしていた。

 それが数日続き、満足したとこで家へと帰路についてるとこだった。


 老婆は少し歩いて、近くに《精霊の泉》があることを思い出し、立ち寄ろうとする。


「精霊様にも久々に挨拶しなくてはのぉ」


 森で暮らしてる身として精霊は無くてはならない存在で、豊かな水や豊かな自然は精霊のお陰でといっても過言ではない。

 老婆はもう〝何百年〟と過ごしてきたが年を重ねれば重ねるほどに、精霊には頭が上がらなくなっていた。

 《精霊の泉》に着くと精霊たちが何か困ったように飛び回っていた。


「精霊様、何があったのでしょうか?」


 老婆はそれを聞いた途端、みるみる顔が青ざめるのがわかった。


 精霊が言うには二人の若者がとても衰弱していて《精霊の泉》の水を飲んでしまったことらしい。普通の人間が飲むという意識に囚われることは無い筈であって、水を飲める人間とすると伝承にある異界の人間、勇者ぐらいのものだ。

 《精霊の泉》の水は聖水と呼ばれ身を清めるために、もしくは呪いにかかったもの使うのが一般。それを飲むなどという行為をできるとすれば体に多大な呪いを浴びたか、先に述べた異界の者という推測が立つ。

 長年生きてきた老婆は昔仲間だったある男を思い出し、まさか。と思う。だが、《精霊の泉》の水を飲むなどという行為を見たこともない。聞いたことがあるとすれば伝承ぐらいのものだ。

《精霊の泉》にはこれを飲んではいけないと既視感を覚えるように精霊たちの〝魔術〟がかかっている。


──魔術。ユウやヒナカの住む世界で言う空気帯にある酸素、窒素、二酸化炭素に属さないが、それに近い一種である魔素(まそ)と呼ばれるものを凝縮し術式を組んだもの。

 それでも微々たるものでしかない。人間は常時、体に取り込んでいるが実際に使えるものは学び舎で覚え感覚を掴むしかないため少ない。

 一生魔術を使うことなく生きてきた人間は意外と多い。

 《精霊の泉》の近くにある神木、精霊が宿っている木の下で不思議な服装に身を包んだ少年が、少女を抱きかかえながら苦しそうに眠りについていた。この森には│斑点の暴れブロッスベディが出るというのによくここで眠れたものだ。

 だが老婆は二人にただならぬ術式が組み込まれているのを知り、先程青ざめていた顔が一層深まる。


「これは一大事じゃ、すぐに家に連れてかねば!」


 すると老婆はローブ中から出した先端が捻れている杖を取り出し、これ幸いにと精霊たちから魔力(マナ)をわけてもらい転移魔法を行使する。


――本当は()()()を唱えなければいけないのだが、誰もいないこの場所ならと、無詠唱で行使した。


 術式が完成し、薄い青や黄、緑の色が混じり合い空気が揺れ、三人の姿は突如として空間に飲まれるようにして消えていった。








──────





 家で家事をしていると〝師匠〟がただならぬ邪気を纏ってる二人の若者を連れ転移魔法で帰ってきた。

 師匠の顔は若干青ざめていて、私に魔結晶を持ってくるように催促した。

 いつも以上に師匠は真剣な眼差しをしていて私はそれに若干怯みながらも急いでこの木で出来た家を忙しなく走り師匠の部屋へと向かう。

 師匠の部屋は魔法書や書き置きなどが散らばっていてとても汚いが、私はそれに若干呆れつつも急いで魔結晶を探す。

 魔結晶は等級によって色が違い、種類は一等級から十二等級まである。

 私は何等級を持ってくるか聞いてなかったため、取り敢えず純度の高い最上級の十等級から十二等級を持っていくことにした。十等級は紫、十一等級は藍色、十二等級は黒である。低いものは色が明るく、高いものは色が濃くなっていく。

 私はそれを両手で抱えるようにして師匠の元へと走っていく。






―――――――――――――――――――――――――――――





 アタシが家に着くと赤髪の弟子兼孫娘のメイナに魔結晶を持ってくるように促した。私はその間に二人を床で寝かせ術式の準備に入った。

 すると数分とかからずメイナは戻ってきて、誰に言われたでもなく等級を当ててみせた。アタシは早速十等級の魔結晶に杖をかぶせ詠唱を始める。


「〈      〉」


 言葉にならないような術式を編み、最後に魔法名を口にする。

途端に空気は揺らぎ、一陣の風と光が少年と少女を包み込む。それでも術式は解かれない。ならばとばかりに先程の要領で十一等級の魔結晶を使用する。

 すると段々二人の顔は正気が戻っていき気持ちよさそうに寝息を立てている。


(一体この子達は何者なのかね……)


 実際にこの森、《キトラの森》に迷い込む者など少ないはず。旅人でさえ知っているこの森は複雑に術式を組んでいるためアタシかメイナ、もしくは特定の人物以外は、この家はおろか、《精霊の泉》にたどり着くことはできずに入ったところに逆戻りするはずである。


 そんな二人に不安と期待の両方の思いを胸に老婆はローブを脱ぐ。現れた髪は紫色で顔は人の良さそうな老婆の顔そのままだった。


 それにしても、と老婆は思う。


 黒髪の少年と少女。太陽がない(・・・・・)この世界アルケアースでは黒髪は珍しく、ここまで痩せ細っている若者も少ない。

 それにあの術式はアタシでも媒介を要さないと解けないほどに高度であった。 

 それに何かに守られていたような痕跡もあり、微かにその意識の残骸らしきものが漂っている。


 そんなことを考えているとメイナが心配そうにアタシの顔を覗き込む。


「師匠、大丈夫ですか……?」

「大丈夫じゃよ」


 アタシは可愛いメイナに心配をかけたと思いそのサラサラしている赤髪の頭を撫でてやる。

 メイナは若干照れくさそうに「子供じゃないんですから」と言ってアタシの手をどけた。もう16になるメイナはこの世界では大人として扱われるが数百年生きたアタシからすれば年端もいかないただの幼子にしか見えない。

 まぁそれを言ってしまうとメイナは頬を膨らまして一日話してはくれなくなる。それが可愛かったりするのだが、あまりいじめると今度は泣いてしまうため、いじりすぎはしない。


 「それにしても」とメイナが口を開く。


「この人たちはどうしたんですか……?なんかただならぬ邪気みたいなのを身に纏っていましたし、黒髪で不思議な服装をしてますし……」


 流石というべきか、呆れるべきか。見ただけで(よこしま)な力を感じ取ることができるのはアタシが教えた分野にはないが、たまにメイナはこうやって色々と視えてしまう。

 それが怖かったりするのだが、メイナはアタシの術式で守られているために怖いと感じたところでそれはそれで可笑しかったりするのだが。


「この人たちは《精霊の泉》の水を飲み、さらに呪いにかかっていたんじゃよ」

「……え?《精霊の泉》の水を飲んだ……?」


 やはりそこに食いつくか。と素直に感心し、彼らに出会った経路を伝えた。


「……とすると師匠に見せてもらった伝記に書かれている異界の者、という可能性もあるわけですね……」

「そこが謎のなのじゃ。この者たちからは魔力は感じぬし、伝記通りなら莫大な魔力をその身に宿しているはずなんじゃがのぉ」


 そう、この二人には全くと言っていいほど魔力がない。

 実際に普通に住んでいれば魔力は体に蓄積されるために皆誰もが魔力を持っているのである。使うことはできなんでも、魔力自体持ってないというのは珍しいどころではない。

 意識が戻ったら何があったのか聞かねばならない。もし異界の者だとしたら書物や文献を漁らねばなるまい。



 アタシは二人が意識を戻すまでメイナと一緒に傍に居ることにした。













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