鬼に金棒、虎に翼
大変遅れてしまい、すみませんでした。
ストーリーテキストが吹っ飛び復元してました。
一章のテキストが一部データと共に消えたため、ペースが落ちつつ書く事になり文章がこれ以上に拙くなると思います。すみません。
「予めシィムさんに聞いていたとは言え、これは凄いな……」
「ほへ~」
「ですね……」
俺たちは今、学園の校門らしき場所で立ち止まっている。
その理由は至極簡単で、日本にある学校とは比べ物にならないほど大きさで悠然とそびえ立っている校舎と、その隣にある東京ドーム半分くらいの大きさのホールがあり、そこには多くの藍・青・黒・朱・白色のローブを纏った老若男女が長蛇の列を、もしくは、カルテを手に走り回っていたりしているからである。
「それよか、どこ行けばいいのだろうか……」
「あらあら、貴方がたも学園入学希望者かしらぁ?」
「……っ!?」
いきなり、紅を基調としたドレスを身にまとった年配らしき女性が俺たちの目の前に現れ、薄い赤の扇を口に添えて微笑んでいた。
ヒナカは呆然としているが、メイナと俺の対応は早かった。
神父服の腰の部分にある愛剣に手を置き、メイナは腰を低く拳を両膝まで落として我流の構えをとっていた。
ヒナカも慌てて臨戦態勢に入ろうとしたところでドレスの女性は扇で口を隠しつつ、くつくつと笑う。
「ふふふ、貴方達がシィムハットの言っていた入学希望者ね。流石というべきかしら?……ああ、そうですわね。私の名前はアーティ・フェニウム・リッセンハック。この学院の院長にして、シィムハットの同僚ですわ」
女性はそう言うと、俺、メイナ、ヒナカと順番に臨戦態勢を解く。
「これは失礼しました。俺の名前はユウです。シィムハットさんの推薦できました」
「私はヒナカです。ユウがご迷惑を……」
「わ、私はメイナですっ。先ほどの無礼申し訳ありませんっ!」
三者三様の言い方で俺たちは名前を告げ頭を下げる。
アーティさんはそれに対して「気にしないで結構ですのよ?」と言ってくれて内心ホッとする。
「さて自己紹介も済んだことですので、模擬戦闘会場で貴方たちをお連れいたしますわ」
そう言うとアーティさんは扇を閉じると、扇を持った左手で円を描きながら詠唱を始める。
「〈 〉」
相変わらず俺たちには聞き取れないが、聞いていると心が落ち着き、安心感に包まれる。
アーティさんが詠唱を終えると俺たち四人は薄い青色の光に包まれていった。
光が徐々に消えていき俺たちは校庭のグラウンドをドームで包んだような場所に移動していた。
多分、ここは体育館らしき建物の中なのであろう。
中はとても広く直線距離で数百メートルはあるだろうと予測できる。
真ん中には半径五十メートルくらいの円があり四方八方に黒く丸い石が置かれていた。
「貴方達にはここで、試験監督の教師と戦ってもらいますわ。まずは実力を測らなくてはいけませんの――まずはユウ殿から挑戦してくださるかしら?」
「あ、はい。えっとそれより戦うといってもどういった形式でしょうか?」
戦う形式によっては苦戦するぞ……。
というかあの円の部分はリングの代わりか。
「そうですわね、降参と言う、もしくはリングから出たものを負けとしますわ。それ以外では何をやっても構いませんわ」
「は、はぁ……」
つまり殺し合いとなんら変わりないと。
――あ、そうだ。
「あの、精霊魔術は使っていいですかね?」
これの返答しだいでは俺は剣一本で戦わないといけなくなるし、できればOKの路線で・・・。
「もちろんよろしいですわよ。こちらもお呼びした教師が精霊魔術を使いますので」
ほうほう、なるほど。
――あれ?なんかいやなよかんするんだけど。
「そろそろよろしくて?あ、ヒナカ殿とメイナ殿には茶菓子を用意してありますので観戦ついでにどうかしら?」
アーティさんはそう言うと扇を横一閃しテーブルとイスを瞬時に出した。
テーブルの上には湯気が出ているカップが四個とポットが二つ。白いバスケットから見えるお菓子に白い皿に置かれたショートケーキ。
(どこからだした!?)
俺のそんな疑問は何処にアーティさんと俺は円の中に入ると藍色のローブを纏い眼鏡をかけた長身の金髪美青年がいつの間にかそこにいた。
「貴方が私の相手ですか。初めまして私の名はブレロ・レイリック・ザッケハルトと言います。一応S級魔法戦闘顧問官を務めさせて頂いております」
「あ、俺の名前はユウ・シロサトって言います。ブレロさんよろしくお願いします」
俺とブレロは所定の位置に着くとそれぞれの武器を取り出す。
俺は細型銀剣。シィムさんから貰った剣である。
対するブレロは、剣ではなく代わりに黒いハテナマークのような形をした杖を取り出し、杖に両手を載せている状態だ。
アーティさんは魔法で照明弾を高々と放ち瞬時にヒナカとメイナの場所へバックステップで移動する。
軽く十数メートル離れてるところまでバックステップだけで移動してることに驚いたが、すぐに視線をブレロへと戻す。
視線を戻した途端、ブレロの周りに黒々とした薄い霧状の何かが漂い始め、ただならぬ緊張感が体中を駆け巡った。
同時に、俺が反射的に行動していた。
ブレロは詠唱をせずに杖を新体操のバトンよろしく、くるくると回し始める。
黒い魔式陣を自分の周りに展開する。それが僅か数秒の出来事。
霧が晴れた時には、褐色の美女二人がブレロの横に出現していた。
「さぁ、踊りたまえ少年。そして私の魔法に酔いしれるが良い!」
(ブレロさんノリいいな。嫌いじゃないぜ、そういうの・・・んじゃま、やりますか)
剣を地面に突き刺し、手を前に翳す。
「―――おいで、リル」
刹那、淡い光が俺を包み込んだ。
――――――――――――――――――――――
「―――おいで、リル」
瞬間、風が舞い、淡い光が少年を包み込んだ。
光が徐々に消え、可憐な黒髪の少女が現れる。と同時に少年の髪と瞳は黒へと変色、いや、元に戻っていった。
「勇者……様……」
懐かしさに駆られつい言葉に出してしまった私。
黒髪の少年に、精霊の少女。
私は懐かしさと期待に心躍り戦いへとまた視線を変えた。
ブレロはあれでも実力は元S級冒険者と同等の存在、そして学園講師二番目の魔力を誇る。だが、彼は冒険者ではなく魔法学研究者。
冒険者に入れば、この大陸で〈23番目〉のS級冒険者として活躍できた、いやもしかしたらSS級になれたかもしれない。
ブレロはそれだけ強い。
それだけしてでも、シィムハットから届いた魔手紙に書かれていたことを確かめてみたいのだ。
『彼ら二人には古代魔法以外はまったくもって通用せん。・・・アタシの魔法でさえも』
そんな一文が目に入れば確かめてみたくなってしまうのは必然。
なぜなら――
不意に爆発音が響いた。
私たちの所へまでは衝撃は来ない。
結界魔石の加護により音は聞こえても衝撃や余波までは伝わらないようにしてある。
私は視線を爆発音が響いた場所へと向けると、濛々(もうもう)と砂塵が舞い上がっているのが映った。
砂塵が濛々としている中、私は歓喜に、体が、心が、震えていた。
数秒の後、少年が持つ細型銀剣によって砂塵は振り払われた。
そして現れたのは、黒髪の少年少女と、七種の武具をそれぞれ手にした黒ローブの七人の男性と金髪の褐色美女二名。
その異様な光景に試験生の少女達は若干驚きをあらわにしても、すぐに真剣な表情へと戻る。
(あれこそが我が学園に於いて、私の次に実力のある教師。ブレロの【夢幻闇七宝】。そして闇の上級精霊、〈混沌調和師のシーシャ〉と〈幻影の奏者アフェヌ〉ですわ。宮廷魔道士でも涙する実力を持った戦闘狂に貴方はどう対抗するのかしら?)
彼女は悪戯に微笑む。
少年が負けるということは考えず、ただ勝負を楽しむために、もしくは、この決定的戦力をどう覆すのか、そういう思いを乗せて微笑む。
それは、悪魔のような、それでいて何処か期待を含んだ笑みであった。
彼らの戦いは始まって数分。
自分でもわかるほどに頬がつり上がり期待に胸が高鳴る。
(さぁ、魅せなさい。〈赤紫の災害魔術師〉と謳われたシィムハットが認めるその力を―――)
戦いは始まったばかりだ。
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