表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の魔法陣  作者: こまっちゃん
第一章 それは愛でした。
11/15

心機一転

タイトルの無理矢理感が否めなry

 早朝。


 俺は豪華な部屋の一角にある、窓から溢れ出る眩しいくらいの光で目を覚ました。

 昨日の疲れを感じない程度に体が軽い。

 起き上がって周りを見てみると、メイナはいつも通り起きていて眼鏡――この世界にも眼鏡があって最初は驚いた――をかけて読書をしている。

 メイナは起きた俺に気づいたのか、眼鏡を外し本を閉じて「おはようございますっ」と朝からテンション高めに挨拶してきた。

 俺はメイナに軽く挨拶を返して、ヒナカの眠るベッドに目を向ける。


 想像通り寝ていました。ええ、寝ていましたとも。……気持ちよさそうに。


 ヒナカは布団を深く被り、普段見るより大人びた顔をして気持ちよさそうに寝息を立てていた。こいつ寝るときはドキっとするような顔してんだよな。

 

 俺とメイナはその寝顔を見て二人で笑う。

 ヒナカのベッドに移動し腰をかけ、眠っているヒナカの柔らかい頬をつつく。


「んっ……うみゅー……」


 うみゅーってなんだよ。と思いながら俺は時間を確認するために自分のベッドへと戻り、横に放り投げたリュックからシィムさん作の時計盤(タイムボード)を取り出す。

 時計盤は、二十四の大きな数字と十二の小さな数字に二つの針がついている円錐状の時計で、魔力を一定量流すことによって時間を計ることができる。大きさも腕時計と大してかわりないため持ち運びも便利で使用魔力も少なく、とても便利である。──シィムさんには毎回驚かされたなぁ……。


 時計盤は大きな九と小さな八を示していることから朝の九時四十分ということがわかる。


 魔法学院の実技試験開始は十二時のため、集合時間は十一時である。

ついでに筒状になった地図も取り出して確認するが、宿から数十分歩くことを考えると朝食をとる余裕はありそうだ。


 ヒナカの肩を揺らし「朝だーおきろー」と棒読みで声をかける。

それを数回繰り返すとヒナカが「んっ……あひゃ?」と寝ぼけ気味で、さっきの大人びた顔はどこへやら。


「さて、今日は実技試験だ。さっさと着替えて食堂行くぞ」

「りょーふぁーい」

「ヒナカさん……」


メイナ…なんというか、ごめんな。


 俺は心でそっと謝りつつ、荷物を持って立ち上がり一人先に食堂へ行くと伝え、部屋を後にした。





 下に階に着くとカウンターにいる、昨日の青年に食堂で飯を食べるためにはどうすればいいか聞く。


「ああ、それなら食堂の方に行ったら親父に食べたいメニューを注文すればいいよ……オススメはヒエストの実で作ったお酒にクォックロの照り焼きだよ。代金は、この宿屋に止まってる人には割引で買えるからなおお得だよ」


 青年に礼を言うと、食堂の方へとつながる中央の扉へと向かう。

 扉を開けると、いくつもの細長の木のテーブルが並べられ、木で出来た丸椅子が綺麗にテーブルに沿うように一列で並んでいた。

 人数は意外と少なく、虚しく残されたテーブルが多い。

 そのテーブル群が並ぶ部屋の奥に、バーテンダーに取り付けられるようなカウンターがあり、そこには幾つかの長椅子が置いてある。

 俺は短くない食堂の距離を真っ直ぐ歩きカウンターにいる筋骨隆々の半目のおっさんに青年に言われた料理を頼む。(この世界でのお酒は12歳から飲めるらしく、食用の酒のアルコール度数はほとんどが5%以下だという。逆に料理に使われる酒はもはやアルコールそのまんまで臭いがキツイ)


「あいよ。そこらへんの空いてる席にテキトーに座って待ってな。」


 おっさんはそう言うと暖簾(のれん)を押しやって奥へと消えていった。

そのあとに入れ違いでメイナより年下であろう少女が出てきて体に合わないカウンターの向こうの大きな椅子に腰掛けて、手を顎の下で組んで鼻歌を歌い始めた。


 ──今更だが、この都市の茶髪率は異常すぎる。宿屋にいる人と食堂にいる人ほっとんど全員茶髪じゃねぇか!


 そんな地味な感想を抱いていると、ヒナカとメイナが着替えが終わったのか食堂へと入ってきた。


 食堂に入って二人は「ほへ~広いねぇ」「ですねー」とか言って呆けている。俺は二人に手を振り、二人が気づいて小走りで近づいてきたとこで、俺はカウンターテーブルの上に置いてあったメニュー標を二人に渡した。

 ここのメニューは豪華さに恥じないように、料理も充実していた。

 ヒナカとメイナが二人揃って悩んでいるのを俺は平和だなと感じていた。


(平和、か…)


 俺たちが暮らしていた世界はこっちよりも、とても平和で不満のない場所だった。思い出も沢山あったし、何よりあっちには家族と友人がいる。

 別れも告げずにいきなりこっちに来てしまって……心配性の母親のことだ、多分、行方届けを出しているかもしれない。

 静南さんもアレでとても心配性な人でとても泣き虫な人だ。

 ただ一人の家族、ヒナカがいなくなってしまってどうしているだろうか?静南さん、絶対泣いているだろうな……。


 そう思うと心がどんどんとそこへと沈んでいく。

 ――帰りたい。帰りたい。帰りたい。

 思いは深まっていく、それでも心のどこかで「絶対に帰れない」と思っている自分がいるのも確かで、もしあの時にシィムさんやメイナ、精霊姫のレンリルを始めとした精霊たちに助けてもらわなかったら俺たちは一体───。


「────い──ず。でき──────る?──おいッ坊主!どうした?顔色が悪いぞ!?」

「……え?あ、すみません」


 気づくとおっさんが俺の方を掴んで厳つい顔を不安げに俺に向けていた。

 ──あれ?俺は……。ああ、思い出した。また始まったのか……。


 レンリルと合うきっかけとなったあの衝動に今もまだ囚われることがある。

 レンリルが言うには、死に急ぐほど強力ではなくなったが完全に取り除くことは叶わなかったらしく、今もまだこういう状態になることがあり、ヒナカやメイナ、レンリルに起こしてもらうことが多い。


(今回は可愛い子じゃなくてむっさいおっさんだけどな)


 俺がそんなことを思っているのを知らないおっさんは、どうやら俺が頼んだ料理ができたらしく料理を持ってきたはいいが、俺が何かに魘されるようにどこか遠い目をしていて困り果てていたらしい。


 ヒナカとメイナは今のおっさんの言葉でそれに気づいたらしく二人揃ってメニューを置き俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫だよ、心配すんなって……主人、起こしてくれてありがとうございます。たまにある発作のようなものなんで大丈夫ですよ」

「そうか……飯食いきれなくても文句は言わねぇ。だから無理すんなよ?」


 おっさんは厳つい顔を笑顔にし「ハッハッハ」と笑い、それに対して俺はできるだけ笑顔に努め礼を言う。

 俺のとこへと木製トレイにのかってる結構大きな肉と青い液体が入ったコップに頼んでいないパンをつけてくれた。

 おっさんは「オマケだ」といって俺の場所からヒナカとメイナの二人にメニューを聞いている。

 二人は未だに心配そうにしているが、俺は目で「早く選ばないと時間ないぞ」とメニューと時計盤(腕につけられる)を交互にみやりアイコンタクトする。


 二人はそれに渋々頷き、決まったメニューをおっさんに頼んでいた。


「じゃあ、コールロオの山菜炒めにコーツォの実のケーキ、飲み物はケドレーフッツをお願いします」


「私は……アーオリリエに、同じくコーツォの実のケーキ、飲み物はルシェッセラをお願いします」


 料理自体はシィムさん、メイナと一緒に城下町でヒナカとメイナの二人が頼んだのを食べたことがある。


 コールロオは鳥の魔物で見た目は黒い鶏。

 アーオリリエはドレッシングのかかったサラダを挟んだ言わばサンドイッチ。コーツォは砂糖をまぶしたイチゴの味がする実。

 ケドレーフッツはニニリックォの実というパイナップルと葡萄の味がする実を使ったジュース。

 ルシェッセラはアルコールの低いワイン。


 と、こんな感じの料理である。


 おっさんが注文を受け厨房の奥に戻ると、俺は自分の頼んだ料理を口にする。

――うまい、その一言に尽きる。

 噛むと柔らかく肉汁が口の中に溢れ出る。噛み続けようとすると口の中で肉が溶けていくようなそんな感じがした。

 俺は木のフォークとナイフを使ってパンに挟み咀嚼する。

 こちらの世界のパンは硬めだが、肉が柔らかいためその硬さが増す。それでもこれはこれでうまいため文句が言えない。

 朝からだというのに肉料理は俺の井の中へと綺麗に入っていく。

 俺は肉料理を数分で食べ終え、一緒にトレイの上に置いてあった紙で口元を拭き、コップに入った飲み物に口を付ける。

 アルコールの香りがッ、なんてことはなく普通のマスカットのような味のジュースだった。


(まぁこれから試験だと考えるとこの時間から酒はダメだよな)


 俺はカウンターテーブルにいる女の子に飲み物を注文した。

 女の子は「は、はい」とさっきの陽気さとはかけ離れた緊張した面持ちで厨房へと入っていった。


「ユウ、本当に大丈夫?」

「ん?…ああ、大丈夫だよ。気にすんな」


 ヒナカは未だに心配らしく聞いてくるが、適当に誤魔化しを入れて流しておく。ヒナカが心配し始めるとキリがなく、流しておかないと後々になって涙目になって詰め寄ってくることがある。

 数回ほど経験して、こっちが辛くなるためこういう風に流している。


 少しすると二人は男介入不可女性会話(ガールズトーク)を始め、俺はカウンターテーブルへと移動する。

 カウンターテーブルへと移動すると今度は女の子と一緒に年若いお姐さんが厨房から出てきた。

 手に持っているのはヒナカとメイナが頼んだケーキと飲み物が乗った木製トレイで、女の子の方は俺が頼んだ飲み物をトレイに乗っけて危なげに持ってきた。

 俺は女の子からそれを受け取り、笑顔で「ありがとう」というと女の子は「えへへ」と少女らしい笑顔で頬を染めていた。

 お姐さんが料理を運び終え、俺にウィンクをして厨房へと消えた。

 俺は「?」となっているところに女の子が話しかけてくる。


「あ、あの、名前なんていうんですか?」

「ん?ああ、俺はユウって言うんだ。君の名前は?」

「えっとね、ネイミスって言うの。ママがミシェスでパパがネイリックだから二人の名前を文字ってネイミスって言うの」

「へぇ、いい名前じゃないか」

「えへへ」


 その後も俺はネイミスと話をした。

 なんでもこの宿屋はネイミスの兄と四人ほど雇った女性が経営していて、食堂の方はネイミスと先ほどの女性(ははおや)とおっさんで経営してるらしい。

 ネイミスには兄が一人姉が二人いるらしいが、姉二人は魔法学院に通ってるらしく、ネイミスも3年後には通うことになっている。


 しばらくして最後の料理を持ってネイリックさんが厨房から出てきた。

 ネイリックさんは料理を男介入不可女性会話(ガールズトーク)中の二人のとこにそっと料理を置いて俺の横の席に座った。

 ネイリックさんは唐突に話しかけてくる。


「坊主、娘の話し相手になってくれてありがとな」

「いえいえ、こちらこそ。有意義な時間をありがとうございます」

「ガキのくせして言葉はいっちょまえか。オレの名前はネイリック・ファミナックだ。よろしくな坊主」

「俺の名前はユウ・シロサトです。よろしく、ネイリックさん」


 自己紹介を終え、俺はネイリックさんとしばらく他愛ない話を少しして、ガールズトーク中の二人が食事を終えるのを待った。


 二人が食事を終えたとこで俺は食事代をネイリックさんに渡して、挨拶をし食堂兼宿屋から外に出る。

 心地よい風が体を駆け巡り、少し眠たくなる。

 ほかの店は今開き始めたようで、時計盤を確認すると時刻は十時三十分。集合時間まであと三十分だ。

 俺たちは地図を見ながら真っ直ぐ中心にある学園へと歩き出す。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ