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前代未聞な精霊使い   作者: 夜魔
第一章 新入生対抗戦編
9/11

07 明かされた秘密

 2対5で始まった戦い。は、速攻でコッペリアルがやられて1対5になりました。開始直後の精霊術による遠距離射撃追尾型とか何その無理ゲー。て言うかチートだ。

 当然真っ向からやっても勝てるわけないので……。

「ミッション、インポッシブル。もといインビジブル」

 こそこそ隠れて指揮官を不意討つ!これ以外に勝つ手段は無い。

「音を消せ、気配を殺せ、息をするな。さもなくば……死ぬ!」

「そこか!」

 しまった、大声出したらバレた。



 黒刃が隠れていた場所に雷が降り注ぐ。

「というか雷だと!?つまり、今襲撃している相手は……」

 間一髪の所で雷を避けた黒刃は襲撃者を見る。視界に入ったのは黒髪を逆立てている金の瞳の少年――神無月葉月と、その上に居る電気を纏う鳥の姿。

雷鳥サンダーバード……神鳴家秘蔵のAランク内上位の風精霊かよ」

「詳しいな。だったら分かるだろう。この精霊の前で貴様は無力だ!」

 葉月が手を振ると共に雷鳥サンダーバードが一鳴きし、小さな雷雲が作り出される。

 それを見た黒刃が横へ避けると直ぐに雷が落ち、それと同時に葉月が斬りかかって来たのを剣で受け止める。

「精霊騎士……その称号は伊達じゃないようだな」

 精霊騎士。それは精霊使いでありながら護衛騎士と同等の格闘能力を持つ者のルミナス神国での呼び名。

「そうだ!精霊騎士である俺に、ただの護衛騎士である貴様が勝てる訳……ない!」

 葉月が力任せに突き飛ばし、直後雷が落ちてくるのをすんでで回避する。

「危ない……が、それだけだ」

「何だと?」

雷鳥サンダーバードの雷撃は確かに強力だ。だけど、その分効果範囲が広く、お前を巻き添えにする可能性もある。つまり、雷に腰が引けてる貴様など、後三手で詰みだ」

 買い被り過ぎていたな。そう付け加えた黒刃の一言は、葉月の堪忍袋の緒を切るのには十分だった。

「舐めんじゃねえぞ、この三下が!」

 怒声と共に投げられた剣を黒刃が確保する間に、葉月は背よりもう一振りの剣を引き抜いた。

雷鳥サンダーバード!」

 再び雷鳥サンダーバードが鳴き、雷が落ちる。葉月が抜いた剣に。

「何っ!?」

 雷が落ちた剣は雷を纏い、持ち主である葉月にもダメージは無い様だ。

「喰らえぇぇぇ!」

 帯電した剣を振り下ろす葉月。それを黒刃は二本の剣で受けるが、剣は容易く切断され、剣から伝わった電流が手を焼き、振り下ろされた刃が肉を裂く。

「ふはは!どうだ、神鳴家に伝わる宝剣『三日月』の力は!」

「精霊の力を付与することができる宝剣『三日月』……それは……お前程度が……使っていい物じゃ……ない筈だぞ……」

 体を走った電気に痺れつつ、黒刃は何とか声を絞り出す。

「貴様、何故そんな事まで知っている?貴様は一体何者だ!」

「この試合が終わったら……皐月にでも聞いてみろ……。答えてくれるかは知らないがな……」

 苦笑しながら剣を杖代わりにして黒刃は立ち上がる。

「そうさせてもらう。だがその前に、貴様は死ね」

 雷が黒刃に落ちる。未だに足がふらついている黒刃に避ける手段は無く、これで終わりだと誰もが確信した。

 しかし、その予想は裏切られた。


「ノワール、防いでくれ」

「はいはい」

 突如現れた黒い少女が間に割り込み、軽くかざした手で雷を弾いたからだ。

 その少女の介入に会場が静まり返る。

「私に頼るなんて珍しいわね。それもこんなに大勢の目が有る所で」

「隠し事は嫌いなんだよ。後は宣戦布告かな?そして、それ以上にあいつに負けるのは耐え難い。負けたら自殺するレベル」

「それは大事ね。頑張らなくちゃ」

「お前が頑張る所なんて想像できないのだが?」

「それが淑女レディの嗜みという物よ」

「ふーん……俺は男だから分からんな。シュバルチェは分かるか?」

「わかんないよ」

 いつの間にか銀髪の幼女が現れていた。

「だよなー」

「ふふっ……シュバルチェにはまだ早かったかしら」

「……何だ一体……そいつらは何なんだよ!」

「そうだな。会場の皆様も気になっているだろうし……二人共、自己紹介してくれる?」

「ええ、構わないわよ」

「うん」

 そう言った二人は居住まいを正してから言葉を発する。

「初めまして皆様、私は闇属性のぜつ精霊、名前はノワールです。以後お見知りおきを」

「わたしは地属性、はがね精霊のシュバルチェです」

 二人の自己紹介に会場が騒然とする。

「精霊だと……人の姿をした精霊は皆Aランク以上のはず……精霊使いでもない貴様が何故そんな奴らと一緒にいる!?」

「だって、ねぇ?」

「うん。それは――」

「「黒刃は居心地いいから」」

「分からないと思うから補足するが、俺の体はどうやら精霊ととても相性が良いそうだ。ついでに言うと、その反面俺は精霊を構成する霊体を受け付けない。――なんで霊体を受け付けないのに精霊との相性が良いとか聞くなよ。俺も分からないんだから。そういった理由で俺は精霊との意思の疎通を会話以外では行えないので精霊使いにはなれなかった。全く、こんな『精霊憑き』の体質よりも普通の精霊使いの体質が欲しかったよ」

「あら、そのおかげでこんな素敵な精霊と出会えたのに?」

「それはそれ、これはこれだ。後、自分で素敵とか言うな」

「『精霊憑き』……精霊に好かれて取り憑かれた事で精神が犯され、精霊の手足になってしまった人間……」

「よくご存知で。ただ、霊体を受け付けないせいか精神がどうにかなりはしなかったがね」

「お前等はなんで精霊使いでも無いそいつの言う事を聞くんだ!?」

「そうね……近くに居させて貰っている対価という事にしましょうか」

「昔助けてもらったから」

「く……!そいつらお前なんかが使っていい精霊じゃない。俺に寄越せ!」

「俺は精霊使いでは無いと言ったが?それに使っているのではなくて『お願い』だ」

「私達は命令でも構わないのだけど……そこだけは譲らないのね。後、貴方は生理的に無理なのでお引き取り願うわ」

「クソクソクソクソクソ!何奴どいつ此奴こいつも馬鹿にしやがって!雷鳥サンダーバード!」

 葉月の命令によって雷が降り注ぐが、その全てがノワールの手で防がれる。

「無駄よ。私の前ではそんな単純な攻撃では100回やっても無意味よ」

「だったらこれでどうだァ!」

 葉月が再び雷を纏わせた三日月で斬りかかる。

「シュバルチェ」

「はいっ!」

 元気よく頷いたシュバルチェの口から黒い筒状の物体が現れる。黒刃は外に出ている部分ではなく、その少し奥を掴んで引き抜く。

「あっ……んっ」

 シュバルチェの声と共に引き抜かれたのはやや反っている1m以上ある黒一色の長い棒状の物。念のために言っておくが、口から出されたからと言って唾液で濡れてはいない。そもそも身長と同じ位の長さの物を物理的にしまっておける訳ない。シュバルチェは鋼精霊としての能力で金属をその身に蓄える事ができ、金属で出来ているこれを閉まっておけたのはそのためだ。

「ノワール」

「ええ、分かってるわ」

 左手で棒状の物を持った黒刃はノワールの前に出、ノワールはそんな彼が持つ物を少し持ち上げて軽く口づけする。

「どうぞ、存分に振るいなさい」

「ああ。――大太刀『神断』抜刀」

 黒い棒の中間の上程を左手で抑え、その少し上を右手で握り、右手を振り抜く。

 キン

 その動作により抜き放たれた刃は、今にも襲いかかろうとした三日月の刀身を軽い金属音と共に両断した。


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